昔世話になっていた隠れ里の姫様が逃げてきて再会してなんやかんやな感じのファンタジー ④
お互い無言のまま、コノリは寝室に戻り昨夜の疲れがまだ残っていたため身体を休めることにし、俺は朝食の後片付けや溜まっていた洗濯物を干したりして過ごしていた。
コノリの話を聞いて、俺はどうしたらいいのかを取り込んだ洗濯物を畳みながらずっと考えていた。
1年前の解雇の真実を知ってすっきりしたがその分真実の背景が重たかった。
コノリの親父さんは殺され、ルディもまた…。コノリはどんな想いでここまで来たのだろう。きっと苦しかっただろう、俺もそれを考えると苦しくなった。
もう、コノリを守る人はいないのだ。
(俺にコノリが守れるのか…?)
以前はコノリの騎士を務めていたといっても、実戦で剣を交えたのは数えるほどしかなかった。
シェリオスを出てからは全く剣を握っていないし、鍛錬もしていない。身体は訛りに訛ってしまっている。
まだコノリから直接頼まれたわけではないが、きっと一緒に来て欲しいだろう。だから俺を頼って来たのだ、それは分かっている。
だか、正直自信がなかった。
気づけばもうすぐ仕事に行かなければいけない時間が近づいていた。
(コノリ…晩飯どうするんだ?たぶん作れねぇだろうし…)
何か作ってから仕事に行くべきだろうか。しかし作ろうにもちょっと時間が足りない。
(仕方ねぇな…)
畳んでいた洗濯物を持ち立ち上がると、俺はコノリがいる寝室へと入っていった。
***
考えた挙句、一人にするものなんだか…ということで仕事に連れて行くことにした。大将たちには事情を話せば分かってもらえるだろうということで。
というわけで俺は今酒場までの道をコノリと一緒に歩いている。
「…」
「…」
まだ気まずいのか、お互い無言なままなのが少し痛いが。
「…ねぇ」
「ん?」
家から10分ほど歩いたところでコノリが話しかけてきた。
「大将夫婦さんって…どんな人?」
「どんな人…んー、乙女な大将と男前な女将ってところだな」
「何それ」
「見た目と性格が逆なんだよ、会えば分かるさ」
「えー…なんか緊張しちゃうなぁ」
それに…とコノリは今着ている服を気にしている。
コノリの着ていた服は一応洗濯したのだがボロボロになっていてとても再び着れたものではなかったので、サイズは少し大きいがタイトな作りのシャツとジーンズを貸したのでコノリは今それを着ている。靴はどうしようもなくて一応サンダルを貸したがぶかぶかな為歩きにくそうにしている。
「悪いな、そんな服しかなくて」
「あっ…ううん、仕方ないよ…着替えなんて用意して出る余裕もなかったし…」
命の危険が迫っていたのだから仕方ない事だが、昼にでも家事をほったらかして着替えでも買いに連れてってやればよかったなと俺は少し後悔した。
初対面の人間に会うのにだらっとした格好は女的に気にするところだろうに。
「ほら、あれが"酒場の大将"だ」
「へぇー!結構大きいんだねぇ!」
「まあ町の中心にあるからな、この町は港町だけあって人の出入りも多いからこの時間からすげぇ賑わうんだぜ」
イーステルでは夕方になると町の中心の至る所で屋台が出る。
一日の仕事を終え疲れを癒そうと一杯やる人や、今日の宿は今日の飯はと船に乗ってやってきた商人や観光客たちで賑わうのだ。
屋台の中には賭事をやっているものもあるのでそれ目当てに出かける人も少なくない。おかげで賭事関連のトラブルもまた少なくないので町の警備隊も巡回している。
俺達は徐々に人混みの多くなってきた道を進み店の前に着くと、裏に回り裏口から店に入る。
中に入ると何故か真っ暗だった。
「真っ暗だね…」
「…今日は貸切の予約があるって言ってた筈なんだけどな」
その割りには準備をしているような声も音もしない。
俺は不審に思いながらも、居住スペースへ上がる為の階段の前を通り店内へつづくドアに手をかける。
ドアを開けるとパッと電気が付いてそして…。
パーーーーーーンッ!
クラッカーが弾ける音が鳴り響いた。
紙吹雪とテープがひらひら舞う中、俺は突然の出来事に驚いて呆然としていると、とんがり帽子を被りニコニコ笑う大将とクラッカーを持ってニヤニヤ笑う女将が影から出てきた。
大将は何故かケーキを持っている。
「ペング!今日はお祝いだ!」
「ペンちゃん、今日でうちに来てちょうど一年なのよぉ!覚えてる?」
「え?は?あ、一年…?」
「よくよく考えたらお前の歓迎会をやってなかったからな!ちょうど一年って事で今日やることにしたんだ!」
「しかもサプライズよぉ~驚いた?」
うふふと笑う大将。確かに思い返してみればそんな感じのことをした覚えがないような気がする。
そうか、今日でちょうど一年になるのか…。
「え、えと…ペング…」
コノリが気まずそうに俺の背後から出てくる。
そういえば仕事に連れて来たんだった。いや、この状況だと仕事は無いだろう。
「おや?この娘は?」
「あらっ、可愛いわねぇ~ペンちゃんだぁれ?」
誰と聞かれてなんと答えようかと思っていたらコノリが一歩前に出て頭を下げた。
「突然お邪魔してごめんなさい、私ペングの幼なじみでコノリと言います」
「まあコノリちゃんって言うのぉ♪よろしくねぇ」
「幼なじみイコール彼女だろ、なぁペング?」
「なっ…ちが…!」
顔が赤くなるのが自分でもわかった。コノリも顔を赤くして手をヒラヒラ振りながら否定している。
それを見て女将はまたニヤニヤ笑っている。くそっ、女将め。
「今日はね、ペンちゃんの為にたくさんご馳走を用意したの。あなたも是非食べてって~ペンちゃんのガールフレンドなら歓迎よぉ!」
「だから彼女じゃねぇって…」
「まあまあペング!さぁ座れよ、彼女も。な?」
俺達は女将にグイグイ背を押され席まで案内された。
案内されたテーブルには大将の手作りであろうたくさんのパンや大きなチキン、春巻や大きな魚(見たことのない魚だ)の塩焼きなど…料理がいっぱい並んでいた。
隣のコノリに目をやると、目の前に並んだご馳走に目を輝かせている。そういえばコノリは色気より食い気だった。
「コノリは何歳なんだ?」
「あ…もうすぐ18歳です」
「おや、残念。お酒はまだお預けな。ペングはとりあえずビールでいいだろう」
この世界では18歳からが成人とされているのでまだ誕生日の来ていないコノリは未成年だ。今更だが、俺は19歳で既に成人している事になるのでお酒は遠慮なくいただく。
女将がビールの入ったジョッキを置き、大将が持っていたケーキも目の前に置かれた。
ケーキにはたくさんのフルーツが盛り付けられ、真ん中のチョコレートのプレートには"一年お疲れ様&これからもよろしくね"の文字が書かれている。
「(ペング…いい人たちだね)」
コノリがこそっと話しかけて来た。俺は笑顔で頷く。
「さあ、遠慮なく食えよ!お前らグラスを持って!」
女将がビールのジョッキを掲げる。
俺も後に続いて女将と同じくジョッキを。
コノリはジュースの入ったグラスを。
大将はカクテルの入ったグラスを。
「乾杯!」
女将の一声に合わせ、グラスとグラスがぶつかる音が響いた。
俺はビールを一気に飲み干した。
***
しばらく飲み食いしていたら、大将があることに気付いた。それはコノリの服装だった。
「ねぇ…その服はコノリちゃんの?」
「あ、これは…ペングので。事情が合って慌てて出てきたので着替えがなくて…」
「あらそうだったの。でも女の子がそんなだらしない格好してちゃ勿体無いわ!着替えが無いならアタシに任せなさい」
「え?」
大将がコノリの腕をひっぱり立ち上がらせる。
コノリは戸惑っている。
「おい、どうするんだ?」
「西の洋服店のアッちゃんのとこに連れて行くわ」
「え?え?」
西の洋服店というとここから5分くらいで行けるところだが、この時間はもう閉店の時間じゃ…と俺が思ってると女将も同じ事を思ったらしい。
コノリは戸惑っている。
「あそこはもう閉める時間じゃないのか?」
「アッちゃんはアタシに借りがあるのよ…ふふふ。さっ行くわよ、コノリちゃん!」
「え?え?え~?」
コノリは戸惑ったまま大将に引っ張られたまま店を出て行った。
店内には俺と女将の二人きりになった。
「まったく…はしゃぎやがって」
二人が出て行ったドアを見つめて女将が楽しそうに呟いた。
「よっぽど嬉しかったみたいだな」
「何が?」
「お前が女を連れて来た事がだよ」
「いや、だからコノリはただの幼なじみで…」
「でも満更でもないんだろう?」
「…」
俺はぐっと言葉に詰まった。確かに満更でもないが。
(1年前にいい雰囲気になったはなったんだけどねぇ…)
解雇の一件もあって曖昧になっており、今コノリが俺に対してどう感じているのかは分からないのだ。
「お前が前の仕事をクビにされたってやつ…あの子もそれに関わっているんだろう?」
「…女の勘ってヤツ?」
「まあな」
女将、さすがです。
「お前達の間に何があったかは知らんが…まあ、お前も男だ。決めるなら一発で決めろよ?」
「…決めるって何を」
女将はグイッとジョッキのビールを飲み干すと、酔いで少し赤くなった顔でニヤニヤしながら俺を見つめる。今日は結構ニヤニヤ笑っている顔ばかり見ている気がするんだが。
「避妊はしっかりな」
俺は飲んでいたビールをブーッと盛大に噴き出してしまった。一体何を言うんだこの人は。
そんな女将は俺の反応を見てゲラゲラ笑っている。この人、酔っ払っていやがる。
「お前、その反応…ククク、さてはどうて…」
「女将、酒没収な」
「あー!まだ飲んでるのに!」
女将が最後まで言い終えるのを待たずに、俺は女将の持っていたジョッキを没収した。
「女将は飲み過ぎなんだよいつも!」
「えー」
「えー、じゃない!」
女将は口を尖らせてぶーぶー文句を垂れている。
女将は背も高くふわふわのロングヘアー栗毛が可愛らしい雰囲気を出していて美人は美人なのだがこの性格が残念である。誠に残念である。
「なぁペングー」
女将のジョッキを持って代わりに水を持って来ようと厨房に向かっていた俺を女将が呼び止める。
「一年って早いな、ペング」
振り向くと、女将はテーブルに突っ伏していた。俺は様子を見にテーブルまで戻る。
「女将…?寝てんの?」
「寝てねぇよ…」
女将は腕を枕にして顔を横に向けてテーブルに伏せていた。目が少しトロンとしている。
「ボロ雑巾みたいにウチの前で転がってやがって」
「…ボロ雑巾って、ひでぇな」
「挙句に熱まで出して寝込みやがって」
「…ほんとスンマセン」
俺は苦笑する。寝込んでいた間の事は朧げにしか記憶が無いが、何から何まで本当に世話になった。思い返すと恥ずかし過ぎて顔から火が出そうだ。
俺は女将の隣の席に腰掛けた。
「お前に出会った頃は…ウチも色々あったからな…。でもお前が来てからウチも賑やかになって…家族が1人増えたみたいで」
「俺は大将達の息子ってことか」
「こんなデケェ子供がいる歳に見えるのかよ」
「見えないですスンマセン」
「ふふっ」
女将は小さく笑った。先ほどからずっと目を閉じたままだ。
「ペング~」
「ん?」
「ウチに来てくれてありがとうな」
「…」
俺こそありがとうと言いたかったのだが照れ臭くて言えずにいると、スースーと寝息が聞こえてくる。
女将はどうやら寝てしまったようだった。
「言い逃げかよ…」
俺はまた苦笑し、店の倉庫からひざ掛けを取って来て女将の背中に掛けてやる。
「…お礼を言うのはこっちだっていうのに」
俺は空いた食器やグラスを持って厨房へ向かった。
女将も寝てしまったし、コノリ達もきっとしばらく戻らないのでテーブルの上を片付けながら待つ事にした。
コノリ達が両手いっぱいに紙袋を抱えて帰ってきたのは一時間後のことで、その時にはあらかた片付けは済んでおり、コーヒーを淹れて一息つこうとしていたところだった。
女将は起きなかったので大将に抱えられ居住スペースへと連れて行かれた。
コノリは店で買ったらしい新しい服に身を包んでいた。
我が家には当然というか女性用のヘアメイク用品もなく髪も手で梳かしただけのボサボサだった髪も整えてもらったのか、あのモヒカンのような前髪にしてくるくるの天然パーマの髪を二つに束ねていた。ちなみにコノリ曰く、前髪は"姫モヒカン"というらしい。
なろうに初めて投稿したこちらの作品のプロトタイプでした。
https://ncode.syosetu.com/n6409cn/
コノリという名前はお気に入りで、今別作品のヒロインの名前として使っています。
この話の構想自体は、中学生くらいからありました。なかなか形にするのは難しいものですね。




