第七話
もともとは結末を意外な形に出来たらな、というコンセプトで書きました。
これで何度目になるか、ロイは盛大な欠伸をする。
案の定、授業は厳しいものとなった。
身体を動かす授業も動きが鈍く、講義に至っては内容が頭に入ることは皆無で、寝ないようにノートを取ることだけで精一杯だった。
カルラはぐっすりと睡眠し、ロイがあれから二時間程度しか寝なかったにもかかわらず、彼女は穏やかな寝息を立てていた。明らかに睡眠不足の彼が起こそうとしたのだが、カルラは低血圧らしく、不機嫌だった。
大声で文句を言われ、声を聞いて勘違いしたアシドに殴りかかられたが、リシータが仲裁に入って事なきを得た。
ロイは、最初カルラに抱いていた好感が、自分の中から綺麗さっぱり失せていることに気づいた。もう、彼女を邪魔者のように感じ始めている。しかも、特選ということで教室に知り合いがいないカルラは、ロイの隣で机に突っ伏し、熟睡している。
叩き起こしてやりたかった。
うとうとしつつも、黒板に書かれた説明だけはノートに確保し、ロイは何とか授業を乗り切った。バタバタと生徒たちが教室を後にし、ロイがカルラの肩を叩いて起こすと、寝ぼけ眼を擦って、カルラは周辺を見渡す。
「授業、終わっちゃった?」
「終わった」
「あー、どうしよう。ノート取ってない」
呟くような声だったが、ロイはその言葉に隠された意味を汲み取った。つまり、写させろと言っているのだ。
「……よかったら写す?」
「わあ、ありがとう!」
可愛い笑顔で言われたので、ロイも少し嬉しかった。だが、頭の中にクレイヴの嘲笑的な笑みが浮かぶ。
(俺、アシド先輩と同じじゃん……)
二人が並んで教室を出ると、そこにはクレイヴを除いたチームのメンバーがいた。
「あら、揃って退室?」
ノルが静かなからかい口調で尋ねた。
「うーん、愛が芽生えるのが早いねえ」
リシータもそれに続いたが、アシドだけは別だった。
「二人とも、カルラさんが困ってる」
(あんたの場合、カルラさん云々じゃなくて、そういう状況が気に入らないだけだろ)
曖昧な笑みを浮かべつつ、ロイはそんなことを考えていた。
談笑が終わると、ノルが真剣な表情を見せ、二人に告げる。
「任務取ってきたわ。特選らしく戦いの中で己を磨きましょう」
「え!」
驚きの声を漏らしたのは、チーム最弱であろうカルラだった。
「私、自信ないんですが」
「安心して。私たちがサポートするから」
「そうそう」
ノルの言葉に、アシドが頷く。
そのとき、遅れてやってきたクレイヴが合流した。彼は離れた校舎での講義だったのだが、歩いてきたらしく、息一つ乱れていない。
アシドがそれに気づいた。
「遅かったじゃないか。とっくに全員集まってたぞ」
「約束の時間には遅れていない」
「少しでも早く来ようとか思わないのか? その分迷惑かかってるんだぞ」
「別に。間に合えばいいとしか思っていない」
一年生二人以外は、任務があることを知っていたようだ。知らなかったから合流地点をロイとカルラの教室の外にしたのだろう。
「そういう考えしてるから協調性がないんだ」
「…………」
クレイヴは反論しなかった。蔑んだような眼をむけ、やがて視線をそらす。
ロイは自然にクレイヴを目で追うようになっていた。やはり強いし、頼れる存在だ。何よりチームで一番尊敬できる人物だと、彼は感じていた。そのせいか、付き合いの長いアシドに比べて、この短期間だけで、クレイヴの仕草で考えていることが大雑把に読めるようになっていた。
アシドは、反論『できない』と思っているのだろう。口元に笑みが浮かんでいることで、想像がつく。だがロイの考えは違った。クレイヴは反論できないのではなく、反論しなかったのだ。
会話を切り上げて、ノルに視線を移していたことから、話を進めようとしているのだと。そして、アシドを相手にするのは疲れるだけだと、頭の中で考えている。
やや強引だが、ロイはそう解釈していた。
「明後日から、Dチームは任務に出るわ」
ノルは一同の視線が自分に集まってから、言葉を発す。
「一年生の実力を知るためのものだから、そんなに難しいものじゃないわ。ここから少し離れた小さな村に、ゴブリンが現れたらしいの」
ゴブリンは、度々退治されるモンスターだ。ソルジャーでなくても退治することは可能だといわれている。並の人間と同等の力しか持たない上、知能が低いため、そこまで脅威ではない。しかし、たまに出現するゴブリンの中には、人語を解し、魔法まで使う種類も確認されている。
クレイヴが欠伸を噛み殺し、腕をぐっと伸ばした。
「ノルさん」
「何?」
「僕、抜けてもいい?」
「そうね……。構わないわ」
少し思案し、ノルはクレイヴの不参加を認めた。
ロイはすぐにアシドが文句を言うと思ったが、彼は何も言わず、カルラに話しかけていた。
「ゴブリンは雑魚だから、カルラさんなら簡単に勝てると思うよ」
その雑魚とカルラは同等だと、ロイは見ていた。それはクレイヴも同じらしく、肩を竦めていた。
「じゃあクレイヴ、私たちが帰ってきてから、別の仕事をやってみたいから適当に候補を見つけておいて」
「了解」
悪者が浮かべるような微笑で、クレイヴはカルラを見た。それを察してノルが耳打ちすると、途端につまらなそうな表情になる。どうやら、釘を刺されたらしい。クレイヴは、カルラでは耐え切れないような任務を選ぼうとしたに違いない。
「じゃー、解散にしよっか。もうすぐ次の授業始まるよ」
手を叩いて注目を集め、真っ先に群れから抜け出したリシータは、角を曲がってすぐに見えなくなる。
やがてぞろぞろと解散すると、アシドとカルラが一緒の教室に入っていくのを、ロイは見た。




