第五話
投稿が遅れた理由はあとがきで。
一年前――。
「ナサリー、入るわよ」
ノルは、ずっと『CLOSED』の札が下がっている店の扉を開けた。鍵は開いているのはわかっていた。なぜなら、今日行くことを前もって言っていたからだ。
店の中は薄暗く、雑貨屋は掃除されていないらしく、品物には埃が被さり、カーテンは全部引かれていて、かなり暗かった。
扉にくっついている鈴の音が、やけに大きく響き渡る。
後から入ってきたクレイヴも、居心地が悪そうだった。ノルはずんずんと店内に入って行き、レジの奥にある扉をさらに開けた。少し早足でついていくクレイヴだが、初めて来る場所でしかも薄暗いので、まだ目が慣れていなかった。そんな中で狭い通路を歩いていたので、肩がぶつかり、品物を一つだけ棚から落としてしまった。軽く舌打ちし、棚に戻そうと手を伸ばすと、落ちた品物が口を開けた。箱に寄生したミミックかと思い、咄嗟に身構えた。
ミミックは、箱や壷などの入れ物に寄生し、それを開けたり覗いたりする生き物を捕食するモンスターだ。……だが、音楽を奏でたりはしない。
落としたものは、箱にバネが仕込んであった、ただのオルゴールだった。
(……驚いた)
柄に伸ばした手をゆっくりオルゴールに近づけ、箱を閉じて棚に戻す。
「クレイヴ、何やってるの? 早く来なさい」
ノルに呼ばれ、クレイヴは会計の奥へと入っていった。
扉を開けると、中は住居になっていた。店の奥にそのまま家がある感じだ。二階建てで、一階部分は半分以上が店になっているので狭いが、居間と台所、そして風呂とトイレはある。
ノルは二階へ上がっていく。クレイヴは、ここがノルの家でないことは知っていたので、心配になって尋ねてみる。
「勝手に入っていいの?」
「勝手じゃないわ。ちゃんと声かけたもの」
「返事がなかったら、勝手に入ったことになるんじゃないかな」
「前もって行くって言ったわよ。あなた、意外と心配性なのね」
それ以上、クレイヴは言わなかった。彼女が自分の正しさを信じていることが、口調で理解できたからだ。
二階部分に上がると、ノルは迷うことなく廊下を進み、部屋をノックする。だが、中から返事はなかった。中にいる気配はするが、何か様子がおかしい。
「入るわよ」
と言うが早いか、ノルは室内に一歩踏み込み、ベッドの上で丸くなっているものから布団を剥ぎ取ろうとした。だが、中で団子になっている人物は、必死になって抵抗している。時々力を入れるときに漏れる声からして、女性のようだ。
しかも、嗚咽を堪えている。
「クレイヴ、ぼーっとしてないで手伝いなさい」
「え……?」
「いいから!」
あまり声を荒げないノルが、大声で指示することは珍しい。自然にクレイヴはベッドに近寄り、二人で布団を剥ぎ取った。
「やあああああああああ!」
窓ガラスが振動し、今まで静かだった空間が破壊されたようだった。クレイヴは超音波のような悲鳴を聞き、呆気に取られていたが、ノルは彼女にそっと手を伸ばす。
手を差し伸べられた少女は涙で濡れた顔を覆い、ベッドの隅に逃げ出した。やがて振り返ると、身を守るようにして両腕で自分を抱く。
汗と涙で濡れた髪が顔に引っ付いている。外に跳ねたショートヘアーもぼさぼさで、服もべっとりと湿っていた。ずっと布団に入っていたのだろう。
だが、寝ていたわけではないようだ。目の下には、真っ黒な隈ができていた。
「ナサリー、私がわかる?」
少女……ナサリーはノルの手を見て、次に顔を見た。荒げた息が次第に落ち着いたものに変わっていき、やがてその手を両手でぎゅっと握り締める。
「前に話したでしょう? 今日は友達を連れてきたから」
「っ!」
その言葉に驚いたクレイヴは、ほんの一歩だけ、出口に向けて後退していた。ノルの期待を裏切りたくはなかったが、自分が人付き合いのできない人間だということはわかっていた。
背後に引いた足が、床に転がっていた木の模型に当たる。その物音に反応したのか、ナサリーがクレイヴのほうに眼をやった。
クレイヴとナサリーの目が合う。ナサリーは弱々しく微笑んだが、すぐに瞳から涙が溢れ出し、俯いてしまった。
「クレイヴ、スクールに入って最初の仕事よ。依頼主は私。任務のためなら方法は問わないわ」
ノルがナサリーを優しく抱きしめながら、背後のクレイヴに向けて言った。
「彼女を……ナサリーを救いなさい」
新しいバイト…月に27万稼げるほど入れられました。前からいる人は僕の半額くらいなのにwhy?