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ひと夏限りの怪奇劇 ~交差する彼等の物語~  作者: 月詠学園文芸部
第一戦 蜘蛛
12/49

3-2 胎動スル妖ノ影

さーて、今週の怪奇劇は♪

 さて、時は少し遡る。午後三時頃、本格的に仕事に向き合わなければならない時間帯になってきた。だが、行きたくない。何としてでも(れい)を止める!


「今度こそ寺に行きますよ」

「あいや待たれぃ。このキャンプには民間人がいるんだよな? そこら辺を考慮して、全員寝静まったくらいの夜になってから行った方がいいと思うぞ」

「む……確かに……」

「昼なら辺りを散策したりする奴もいるかもしれんが、夜に山を散策する馬鹿はいないだろ」


 心当たりはある――というか居るんだがな。まぁ、あの事はまだ黎に話す必要はないだろう。黎が関わると魚が逃げてしまう可能性が高い……。


「じゃあ何しましょうか……」

「トランプやろ」

「え~……」





 ★☆★☆★☆





 そして時は経ち、日がかなり落ちてきた。フフフ……俺の計画通り、しばらくブラックジャックをしていたら黎はうとうとし始め、そして寝た。

 黎が蕎麦を食べて腹が膨れていることは見切っていた。さらにトランプの中でも冗長なブラックジャックをやらせる事で、結果黎は眠りに落ちた。

 願わくばもう、このまま眠っていて欲しいんだがな……。だがそうは問屋が卸さないようで、黎はいきなりハッと目を開けた。


「……はっ!? わ、私、どの、どのくらい寝てました!?」

「三時間くらい」

「ああああ……もう、行きましょう! 寺! 下準備はしましたし!」

「えっ、いや、しかし」

「うるさい! 行くの!」


 タメ語の黎かわいい……しかし、ついに仕事に行く羽目になるか……。だが、この時間ならだいたい計画通りだな。

 重い腰を上げ、立ち上がる。急ぎ足で歩いていく黎を後ろから眺めながら、ニヤつきながら追従していく。

 森をしばらく歩くと、辺りに青白い杭が打たれまくっていた。これは黎が、寺の妖気を外に逃がさないため龍脈に打ち込んだものだろう。

 仕事熱心で実に結構。これなら問題なさそうだな。


 さらに暫くして、寺が見えた。古びているがそれ故に、趣のある外観だ。侘び錆という奴だ、実に素晴らしい。

 境内は本殿が真正面にある他は特に何もない。打ち捨てられているように人の気配がないが、整理された綺麗な石畳が敷かれ、灯籠がほぼ等間隔に並べられている。

 絵馬が幾らか掛かっている所を見ると、正月は多少賑わいがあるのだろう。


 中に入ると、空気が変わった。ふむ、封印が緩んで剣の妖気が抑えきれていないんだな。剣の封印が緩んだのは自然現象――――ではない。

 明らかに作為的な力が加わって封印が緩んでいる……。まぁ、所詮どいつもこいつも大した力じゃないんだがな。


「さて、じゃあササッと済ませちゃいましょう!」


 黎は張り切っているが、肝心の剣が辺りにはない。正面には仏像に仏具しかない……左右には廊下があり、奥にまだ部屋があるのだろう。木の床が軋んで喧しく鳴る。


「えーっと……剣はどこに……? これ、触らない方が良いでしょうかね……?」

「まぁ、常識ある奴は仏具に触ったりはしないわな」

「む~……あっ、神主さんに聞けば分かりますね! ちょっと聞いてきます!」

「教えてくれるかねぇ……?」

「聞き出します」


 最後にちょっと不吉な言葉を残し、黎は寺の奥に入っていった。黎かわいい。まぁ、正直言って剣の場所は大体解っているんだがな……。

 仏像と広間の仕切りを乗り越える。常識ある奴はこんな事はできないだろう。タブーという名の最強の金庫……宗教ではよく使われる手段だ。

 ふむ、仏の裏には壁しかないか。だが仏像の死角となっているこの壁だけ木の材質が若干違う……。

 触れてみればよりはっきりと解る。温度が違う、裏に何かがあるようだ。仏具の中から木魚を叩く為の棒を取り――思いきり壁を殴った。


「ビンゴだ」


 倶利伽羅剣(くりからけん)、見っけた。腐食しつつある紅白の紐が張り巡らされ、中央に鞘に納められた刀がある。

 邪魔な紐を短剣で切り裂いて、刀を手に取る。成る程、確かにかなりの力を感じる。有名な妖怪がいくつか宿っているのだろう。

 再び仕切りを乗り越える。さて……。


 スラッ


「これでよしっと……」


 おっと、来たな……。入り口に、一人の中肉中背の少年が立っていた。


「まさか、倶利伽羅剣……!?」


 動揺した様子で呟く少年の後ろから、さらに計八名の少年少女が現れた。うちの一人は先程会ったポニーテールの女子高生、黄泉零奈。


「あれって、零奈(れいな)先輩の言ってた……」

「倶利伽羅剣~!?」


 セミロングの髪とアホ毛の目立つ長身のモデル体型の少女と、ブラウンの髪の小さな少女が声を漏らす。そう、お察しの通りだ。

 彼らは気付いているのだろう、これが妖怪を封じているということを。そして、それが鞘から抜けているということの意味を。


「いや~、すいません……神主さん見つからな――――」


 寺の奥から帰ってきた黎がこちらを見て固まる。


「ちょ……ちょっとーーーー!? な、ななな何してんですかーーーー! そ、それっ、倶利伽羅剣、ちょっ、ふ、封印が……!」

「えっ……ええーーーー!? これ倶利伽羅剣!? 嘘やん、抜いちゃったよ!?」

「いいから早く! 戻して! 鞘に!」


 黎は大慌てで俺に指示を出してくる。だがモタモタとしていると、ついに剣に動きが出た。月の光の反射で鈍く光っていた刀身は、激しく自ら発光し始めた……!

 すると、コンポを大音量で鳴らしたような重低音が辺りに鳴り響き、空気が振動する。


「何だ、この音……!?」

「ああああ……もう……仕事が増える……」


 音が少しずつ弱まっていくと、今度は剣から巨大な何かが飛び出していった。それは物凄いスピードで、入り口付近にいた最初に現れた少年を弾き飛ばして外に出ていった。


「うわっ!」

「だ、大丈夫ですか戒都(かいと)さん?」

「痛てて……うん、一応はね」


 弾かれはしたが、ギリギリで正面衝突は避けスリップしたようだ。問題ないな。


「もう、バカーー! 封印だって言ってるのに余計なことしないで下さいよー!」

「すいません! ホンットすんません!」

「えっと……君達は一体?」


 藍色の髪の、爽やかなイケメンの少年が痺れを切らして聞いてきた。イケメンだな。俺と同じくらい。ふむ、教えても良いんだが……


「な、何あれー!?」


 先程の小さい子が境内の方を指差しながら驚愕の声を漏らした。全員がそちらを振り返る。石畳を砕きながらドスドスと外に向かって歩いていく巨大な――蜘蛛。

 蜘蛛と言っても、本来足が生えているところは長く巨大な腕が生えている。

 妖怪・土蜘蛛(つちぐも)――――。なるほど、やはり強力だな。


「あんなのどうしろと!?」

「外に出るつもりか……!?」


 土蜘蛛は大きくジャンプした。一気に移動しようとしたのだろうか……どちらにせよそれは失敗に終わる事になるだろう。

 空中の土蜘蛛は、バチッという音と青白い火花に阻まれ、結局撃墜された。杭による結界に触れたためだ……境内の灯籠や石畳を破壊しながら、巨大な蜘蛛が落ちてきた。

 すぐに起き上がり、人面の顔がこちらを睨んできた。バサバサの黒髪に、目付きの悪い目の下には隈がある。


「邪魔 すんなよ 結界 解け」


 恐ろしく低く響く声でこちらに話しかけてきた。へぇ、コミュニケーションはできるのか。

 この八人……こうした事に一定の理解を持っているようだが、さすがにこの巨躯を前にしては萎縮してしまっているようだ。

 黎は臆す事なく前に出ていき、冷静な声色で土蜘蛛に話し掛けた。


「あなたの住む場所はこの世界ではありません……速やかに剣の中に戻りなさい」

「知るか オレはフドウを捜さなきゃならねぇんだ

 もう一度だけ言うぞ 結界 解け」


 八人はまだ、状況を頭の中で整理している状態だろう。二人ほど、ずっと爽やかな顔した奴と無表情の奴がいるが……。

 とにかく、目の前で起きていることに追い付いていないといった様子だ。


「ですから――それはできません」


 黎がそう言うや否や、土蜘蛛は距離を詰めて黎を殴り潰そうとした。しかし、それは黎の障壁に阻まれて届かない。

 土蜘蛛は構わず、二本の足で立ちながら四本の腕で黎の障壁に打撃を加え続ける。立ち上がった土蜘蛛は寺の大きさをも上回り、だいたいビルの二階分くらいだろうか。


「と、とりあえず――皆、一回中に入れ!」


 少年が全員を誘導し、寺の中に避難する。ふむ、なかなかにナイス判断だ。状況を整理し、作戦を立てなくては行動もできんからな。

 しかし君らが引っ込むと、俺が働かなくちゃいけなくなる。俺は走って中に入っていく黄泉とアイコンタクトを取る。此方の意図が伝わったかは解らんが、黄泉はニヤッと笑った。


「く……」


 そうこうしているうちにこっちは大変だ。土蜘蛛のオラオララッシュによって黎の簡易障壁が破れそうになっている。

 簡易障壁なんか張らないでもうちょい堅い奴張ればいいのに……黎ならそんなもの一瞬で張れるのだから。すぐに舐めプするのはやめような……。


 パキィィィン


「あっ!?」


 障壁が砕けた。土蜘蛛の拳が黎に迫る。しょうがない、助けるか……。瞬時に黎の目の前に移動し、振り下ろされた拳を左腕で受ける。

 骨が軋む音がした。て事は500kgくらいだろうか……なかなか良いパンチだ。俺が潰れないことに、土蜘蛛は驚愕の表情を浮かべている。


「……!?」

「なかなか効いたぜ」


 敬意を表し、空気抵抗を操る我が最強の拳法『神域流闘術』を見せてやる。右手に空気抵抗を凝縮し、それをジャブと共に射出する……!

 激しい空気の一撃を顔面に喰らった土蜘蛛は、空中に吹き飛ばされた。さらに、落ちると同時に追撃を加えるとしよう。

 神域流闘術奥義……嘉生豪縛陣。強烈な空気抵抗を常時全方位から押し付けることで相手を拘束する。こいつの力なら振り払えるが、五分は掛かるな。

 今のうちに、俺たちも寺の中に入るとしよう。最低限の事情説明は必要だ。





 ★☆★☆★☆





「れ、零奈さん! 何なんですかアレ!?」

「あー、倶利伽羅剣の中身だね」

「それに、彼らは? 零奈先輩の知り合いですか?」

「その通りだ」


 寺の外……俺の背後では、土蜘蛛が全力でもがいている。さて、きちんと……話してやらなくちゃなぁ……フフフ。


「今の状況は解っているかね?」

「えっと……倶利伽羅剣の封印が解けた?」

「あんたが解いた」

「ごめんなさい」


 それが真実。そして、ここからが「事実」だ……。


「君らは、七不思議の怪異……ということで間違いないか?」

「何でそれを……ていうか、あなた達は誰なんですか?」


 中肉中背の少年が問い掛ける。尤もだ。今のところ俺は、封印を解いた悪人でしかない。だが。


「俺は小泉空也(こいずみくうや)。そしてこっちは妹の黎。我々はある組織より、倶利伽羅剣の封印を引き受けた陰陽師だ」

(? 空也さん、何言って……)

(今はそういう事にしておいた方が良いんだよ)

「でもあんたが封印解いた」

「ごめんなさい」


 くっ、さっきからうるさいな、モデルっぽい小娘。だがこんな状況でも冷静なのは良い事だ。……そして、さっきから含み笑いを浮かべている黄泉さん、やめてくんないかな。

次回もまた見てくださいね!

ジャンケン、ポン!

うふふふふふふふふふふ


はい、前書き後書きが雑なことに定評のある久露埜陽影です

次回からようやくうちの子達も物語に絡んでいきます


豆知識:私と蒼峰さんは腹が下りやすいらしいですよ

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