93.ツィアル国の事情
「またお立ち寄りください」
「ありがとうザーイさん、村のみんなにもよろしく!」
「村の防御柵はもう少し強固にした方がいいと思う。人を派遣するから、その際は受け入れてくれると助かるよ」
「あ、ありがとうございます!」
「ふふ、君みたいなチャーミングな娘さんになにかあったら悲しいからね」
「ふ、ふぁい……」
オリィの目が明らかにハートマークになっているのを見て苦笑する。
そんな俺達は早朝に村を発つ。イケメンはモテる……俺も大きくなれば可愛いからかっこいいに変わるはずだ。
いや、決してモテたいわけじゃないけどな? 黒い剣士を殺すまでは考えられない。うん。
「荷車も引いてくれるんだ」
「なにも載ってないから楽なものだよ。それじゃ町へ行くよ」
「ありがとう。……あいつ、大人しいな」
「まあ、脅しておいたから、あのままだろう」
ルイグラスが裏切り者の護衛に視線を向け、肩を竦めて笑う。
そうしたやり取りの中で、馬車はゆっくり進み始めた。
グラディスは腕組みをして目を瞑ったまま無言で御者台に座り、テルスはチラチラとこちらを見ながら落ち着かないといった感じだ。
減った護衛の内二人は御者台でもう一人は後方の監視についている。
この三人……いや、元々四人はバラバラに雇用された使用人らしい。
この国だと冒険者仕事だけじゃやっていけないと仕事をさせてもらっているとのこと。
だから裏切るなんて馬鹿なことはできないと、捕まえた男を鼻息を荒くして一蹴していた。やっぱりギルドの金回りは良くないのかと思ったものだ。
「戻ったよゲイツ」
「おお、アルフェンに魔人の兄ちゃんか! ……確かに三頭分だな、ほら報酬の六万ぺリアだ。肉や素材はどうしたんだ?」
「立ち寄った村で村長さんが売ってくれって言うから捌いた。重たいしいいかなって」
「ああ、そうか。ちょっと残念だったが、仕方ないな……また依頼を受けてくれると助かる」
町のギルドに戻ってゲイツに牙を見せると、いそいそと金を渡してくれた。
ちなみに六万ぺリアは贅沢をしなければ宿に泊まりつつ朝晩の食事を毎日食べてひと月近くは生活できる金額だ。グラディスとの話で聞いた。
素材を合わせると一回の報酬で結構な金額になるが、あくまでも贅沢をしなければというレベルだし、冒険者は飲み食いだけじゃなく装備で金を使うからいつでもカツカツらしい。
「そういや支払いはできるんだな」
「逆だ、引き受けてくれる冒険者が少ないから金は余ってんだよ」
「なるほど、ギルドもこんな状況なのか」
俺が金を確認しながら質問をしているとルイグラスが顎に手を当ててゲイツの前に現れた。
「……あなたは?」
「僕はルイグラス。この辺りを取り仕切っているヘープ家と言えば早いかな?」
「なんと……!? ジャイコブ様のご子息でしたか、これはとんだご無礼を……」
「気にしなくていい。冒険者の数は減っているのかい?」
「ええっと――」
ゲイツは自身が知る限りの情報をルイグラスへ伝え、俺は横でそれを耳にしていた。
目新しい情報は特に無かった。そして貴族相手に愚痴るわけにもいかないためか、かなりオブラートに包んだ物言いだったのがちょっと面白かった。
俺達に依頼をこなして欲しそうだったが、他に冒険者が来たのでそっちの相手に回ったので俺達はルイグラスを連れてギルドを後にした。
なにかを考えているような仕草をするルイグラスはそこからあまり会話をすることなく、静かだった。
陽が落ちかけて夕暮れ時くらいの時間に小高い丘の上にある屋敷に辿り着いた。
ゲームとかでもそうだけどなぜ貴族の家はこういう場所に建てているんだろうな?
ライクベルンの俺の家は町中だったけど、奇襲を受けた。人里離れたら危険度は高い気がするんだけどな。
「テルス、この男を牢へ。僕は二人をおもてなししないといけないからね」
「ハッ! キリキリ歩け!」
「ふぐー!」
猿轡を噛まされているので何を言っているのか分からないが、焦っているのは間違いない。
左腕を折られているので熱も高く、まず休ませてやった方がいいと思うが、まあ自業自得か。
「それじゃアルフェンとグラディスさんはこっちへ。母上を呼んでくるから待っててくれ」
「お構いなく」
「ははは、さすがに構うよ」
俺がびしっと手を上げて放った言葉をさらりと受け流し、母親を呼びに行くとルイグラスが部屋を出て行った。
「護衛を残さないで出て行くとは、不用心じゃないか?」
「冒険者は信用が命だから、そうそう襲われないと思ったんじゃないか? ……それに護衛連中も近くに戻ってきているぞ」
「……!」
グラディスに言われて気配を探ると確かに部屋の外に二人、戻ってきているようだった。とりあえず魔人語でグラディスへと話しかける。
「なるほどね、飄々としているようで頭は働くタイプか」
「そのようだな。誘拐を企む貴族とは思えないが、それもフェイクかもしれん。注意しろよアルフェン。宮廷魔術師とやらがお前を諦めているとは思えん」
「そうだな。引き入れて俺だけどこかへ……あり得る話か」
<うう……アル様、双子ちゃんの下へ帰りたいですねえ……>
――戻れるのだろうか?
リグレットの言葉に俺は違和感を覚える。
そういやまだマイヤのことを調べられていないなと考えているとルイグラスが戻って来た。
◆ ◇ ◆
「気を付けなよ兄ちゃん、冒険者が減ってしまって魔物が多く危険だ。依頼は慎重にな」
「ありがとうよ。ま、適当にやるわ」
くそったれと思いながら、出国で立往生を食らった俺は表情に出さず港町へ降りる。
「……さて、とアルはどこに行ったのかねえ」
俺ことシェリシンダ国の騎士グシルスは冒険者らしい恰好で町へと入っていく。
もちろん、エリベール様の【呪い】を見破り、旦那候補で気前もいい隣国イークンベルの子供であるアルを捜索するためだ。
仲間はおらず、俺一人。
まあ、無茶をしなければランク六十六の俺ならそうそう妙なことにはならないだろう。
【呪い】の首謀者は判明しているし、このまま断罪できりゃ楽なんだがなあ。
「ことはそう上手く行かねえってか。あと四年あるし、今年いっぱいは戦力増強って言ってたからまだ時間はある、か。とりあえずアルを探す方が先だな」
とはいえ、宮廷魔術師に攫われているなら城を攻めないといけないため、一度撤退するつもりだが。
「さて、目撃者が居ないかギルドと町の人間に聞き込みだな――」




