92.夜間のできごと
集会所に到着した俺達は適当な部屋を選んで荷物を置いた。一息ついたところで時間はすでに夕食時となっていた。
「うーん……腹は減ったけど、なにかあったかな……」
「村の商店で買うのもいいが、今日のところは肉と狩りの時に取った果実で腹を満たそう。話をするならたくさん口にするのも難しいだろう」
確かにそれはあるか。
とりあえず肉を食おう。グラディスと一緒に集会所の外にある焚火ができる場所へと向かう。
分かりやすく言うならコテージのあるキャンプ場で集団炊飯ができるような場所だと思ってくれると想像しやすいだろう。
「もうちょっと熟成したいけどっと」
「新鮮な肉も悪くない。調理は俺がやるから、あっちの相手を頼むぞ」
売りに出さなかった肉を弄んでいるとグラディスが親指で示唆する。俺が前を見るとルイグラスが手を上げてさわやかに笑っていた。
「やあ、アルフェン君こっちだよ」
「アルフェンでいいですよ。そちらは貴族なんですし」
「堅苦しいのは嫌いでね、敬語はなしでいいよ……そちらの魔人族の方は喋れない、かな?」
「ああ、通訳するから大丈夫だ。それで聞きたいことってのは?」
グラディスは耳をこちらに傾けながら肉を切り分け始めた。俺は小さく頷いた後、木で出来た椅子に座る。
その間、俺は四人の護衛達に目を向けていた。
「……」
「どうした?」
「いや、それでどうしようか」
焚火を挟んでルイグラスとテルスが座り、別の焚火に四人の護衛も火を囲んでいる。俺が着席したのを見てルイグラスが口を開く。
「まずは君の誘拐からだ。それは港町で?」
「だな。俺の他に四人居たけど、身寄りが無い子ばっかりだったからケントってやつ以外は魔人の町へ行ったよ。そこで暮らすみたいだ」
「ふむ……では次だ、さらった相手は?」
「冒険者だった。名前は知らないけど、一人は‟大将”と呼ばれていたかな」
「……ほほう」
テルスが目を細めて呟く。本によるとここは包み隠さず話すのがいいらしい。
「ちなみにその大将以外はみんな死んだ。大将だけが逃げ切ったけど、どこに行ったか分からない」
「そっちの魔人が殺したのですかな」
テルスが青い顔をして肉を切るグラディスに目を向ける。するとグラディスはこちらを見ずにナイフを見ながらフッと笑う。
「ひぃ!? ルイグラス様、関りにならない方がよろしいかと……!」
「そういうわけにはいかない。魔人……いや、グラディスさんは誘拐だと知っていて襲ったのかい?」
「らしいよ。正直、助けてもらわなかったら一緒にいた女の子は乱暴されていただろうし、どこに売られるか分かったもんじゃない。死んで当然のクズだったと思う」
「そうか。他には――」
誘拐事件以外に港町のこと、最近立ち寄った町、魔人達のことを聞かれ、グラディスに許可を取って話せる部分だけ伝える。
ルイグラスが細い目を少しだけ開けて表情を険しくしてから考え始めた。
「……どうやら、父はダメだったようだねえ」
「う、むう……しかし、この国では仕方がないかと……」
俺の話を聞き終えたルイグラスがため息交じりに首を振るとテルスが汗を拭きながら小声で反論する。
「魔人が人を殺したことは気にしないの?」
「目で見たわけではないから絶対に信用できるとはいえないけど、アルフェンが一緒にいる。それで悪がどちらだったかの証明としているよ」
ほう、割と融通が利く男のようだ。
ディアンドが言うほど酷い考え方をしているわけではなさそうだ。
「実は僕が当主となったのは実に最近の話でね、それまでは父が運営を行っていたんだ」
「先代は?」
「亡くなったよ。一か月くらい前に登城し、戻ってから程なくしてね。せめてウチの管轄だけでも問題提起を解決しようと助成しに行った途端の話さ」
「……ふうん」
口元は笑っているが目は笑っていない。
間違いなく『城でなにかあった』と勘ぐっている目だ。俺は探りを入れてみることにした。
「俺はこの国の貴族は腐っていると聞いていたけど、そのあたりはどうなんだろう?」
「貴様! 子供とはいえ無礼であるぞ! ルイグラス様、懲らしめねば!」
「いいんだ。実際そういう貴族が多いのは事実だろう? そういうところが嫌でテルスはウチに来たんじゃないか」
立ち上がって憤慨するテルスをルイグラスがやんわり窘めると、テルスは難しい顔で立ち尽くす。そこでグラディスが串に刺した肉を差し出した。
『タロエ』
「む、むう?」
「食べろってさ。俺も腹が減ったし、ちょっとつまみながら話をしない?」
「いいね、お金は払うよ」
俺が袋から果実を出すと、ルイグラスがウインクをしながらこちらへ指を向けた。
「で、アルフェンは家に帰らないのかい? いいとこの坊ちゃんって感じの身なりだけど」
結構薄汚れたと思ったけど、流石にこの服はバレるか。俺はルイグラスにだけ聞こえるように耳打ちをする。
「……ちょっと訳アリでね。ルイグラスだけなら話してもいいけど、他はちょっと――」
「そうかい? ならまた後で聞かせてもらおうかな。家に来てくれると助かる」
「オッケー」
俺は拳を突き出すとルイグラスも応じてくれた。とりあえずここまでは順調。
素性の怪しい冒険者を家に招くあたりお坊ちゃん育ちだなと思うが、これはクソエルフに近づくために必要なことなので言わないでおく。
そのまま俺達は後から紛れ込んできた村人達と酒を酌み交わし(俺は果実のジュースだけどな!)少し増えた食事に舌鼓を打ちながら過ごして就寝となった。
そして――
「……」
「よう。部屋を間違えてないか、あんた? <ライティング>!」
「……な!?」
――深夜、それも夜遅く。
部屋に気配がしたので俺が声をかけると、侵入者は呻くような声を出した。
瞬間、俺は布団をはぎ取りライトクラスの魔法で目くらましを決める。
「小僧が何故……!? ぐあああ!?」
剣を抜く音が聞こえるが、すぐに場は静かになった。陰にいたグラディスが背後から蹴り倒したからだ。
「まさか裏切者がいるとはな。お前が護衛に目を向けていたのはこのためか。それにしてもよく部屋を変えられたな」
「さっき、ルイグラスだけに耳打ちした時、拳を合わせたろ? あの時、手紙を指に挟んでたんだよ」
「やるな、さすがだ。ふん……!」
「ぐお……!?」
ご丁寧に相手の腕の骨を折るグラディスに少し引いていると、ルイグラスが中へ入って来た。
「本当に裏切者がいるとはね……」
「なんと……」
「ということで、こいつも連れてルイグラスの家へ帰ろう。こいつが【呪い】をかけられている可能性はあるけど、尋問しないと」
「アルフェン、君は一体……?」
「それも含めて、後でな」
俺は不敵に笑って部屋へ戻りとりあえず眠ることに。
もちろん、あいつが裏切り者だというのは『ブック・オブ・アカシック』が教えてくれたからだ。
……今回は役に立った。
しかし、なにか法則みたいなものはないものか? もし本に従わなかったらどうなっていたのか?
謎は増えるばかりだな――




