87.『魔神』
おっさんの名はゲイツというらしい。
どこぞの大富豪ような名前をした彼についていき、到着した先は学校のグラウンドみたいな場所だった。
「訓練場ってところか?」
「ああ。……まあ、見ての通り人は居ないんだがな」
「寂れているなあ……港町も酷かったけど」
施設内には冒険者や職員を含めてそれほど人が居なかったなと改めて思う。
町ではなく、国全体が寂れているといって差し支えない状況だが――
「国はなにやってんだろう。冒険者が居なかったら、魔物やら盗賊なんかが蔓延して貴族の暮らしどころじゃないだろうに」
「ほう、言うな坊主。それは俺もそう思うが、貴族たちは痛い目を見るまで平民が色々やっていることなど分からんのさ。他の国はそんなこと無いだろうが、この国はいつからか腐っちまったよ」
続けて『お前みたいな子供が冒険者をやるのも珍しくない』と付け加えた。
こんな風に適性を見るのは、おっさんの気遣いなのかもな。
「なるほどね。ま、生きていければそれはそれで……んで、なにからやればいい?」
「坊主は剣での戦いが得意なのか? 戦ったことはあるか?」
「一応。この前、剣で野犬の魔物と戦ったかな? 魔法も使えるよ。両方得意ってことにしておこうか。剣のランクは二十三で、魔法はミドルクラスまで使える」
「なに!? そうなのか?」
驚きの声をあげたのはグラディス。
俺の背後に立っていた彼が横に回り込んで尋ねてきた。
「その歳でランク二十三は高いな。魔法もミドルクラスなら相当凄いぞ……」
「はは、兄ちゃん、担がれているんじゃないか? 十歳でそこまで――」
「ん」
笑うゲイツの前で、俺はファイヤーボールを撃ち出して的に命中させる。
なんかイラっとしたから無詠唱のちょっと大きめのやつを出すと、ゲイツは目を丸くして的と俺を見比べていた。
「で、なにをするって?」
「詠唱してたか、今……? くく、おもしれえ。もう一発、得意な魔法を撃て。で、その後は剣の腕がランク二十三に届いているか見てやる。嘘はすぐに分かるからな?」
などと意味不明な……ってことはないか。
俺はゲイツに言われるまま、ミドルクラスのアイシクルダガーで三つの的を射抜き、アクアフォームを一分ほどそのまま待機させてやる。
「なんと」
「むう……」
途中、感嘆の声をグラディスが上げていたが、とりあえず後で話すとして剣技へと移る。
◆ ◇ ◆
「ハッ!」
剣技の相手はゲイツ。
俺はバレることを恐れて型を使わずに剣を振る。
魔法は無しなので足を使って武器を持たない方向へ回り込みながら一撃を狙うスタイルだ。
「おっと、やるな。いい剣筋だ。なるほど、冒険者になりたいってのは口だけじゃないようだな」
「まあね! 俺はもっと強くならないといけないんだ、そのためには冒険者は最適なんだ……よっと!!」
「へへ、俺のランクは四十六だ、それくらいなら見切れるぜ」
ゲイツがそういった次の瞬間、俺が手にしていた木剣は宙を舞い乾いた音を立てて地面に落ちた。
「ちぇ、体格差もあるし手足の長さも不利か。後、五年くらいは誰と打ち合っても不利だと思って戦った方がいいな」
「はは、自分のことを理解することはいいことだ。それが生存に繋がるからな。坊主には魔法もあるし、立ち回りは幅広いだろ」
「ああ。剣のランクは成人するまで難しいが戦うだけなら無詠唱魔法を使うアルフェンなら絶対的な有利を取れるぞ」
俺が木剣を拾いながら口を尖らせていると、グラディスが俺の頭に手を置いてそんなことを言ってくれ、ちょっと嬉しくなった俺の頬が緩む。
「そ、そう? じゃあ俺は合格ってことでいいのかな?」
「だな。ギルドカードを作ってやる」
「オッケー! あ、そういえばグラディスって剣のランクはあるのか?」
「俺か? そうだな、最後に受けたのはランク八十四だったかな。まだまだ『魔神』には遠い」
……強い。
ゼルガイド父さんクラスとは思わなかった……
というかまた『マジン』か。
多分『魔神』だろうなと聞いてみたところそうであるとのこと。
「『魔神』ってのはなんなんだ?」
「この世界で数人しかいない実力者だな。剣や魔法に精通しているが、さらに修行の末に特殊な技を持っている。エルフや人間、魔人と種族に関わらず、本当の強者の総称だな」
「へえ、人間の英雄ってのもそうだったのかな」
そういえば人間にもえらく強いのが居たことを思い出して口にすると、前を歩くゲイツが首だけこちらに向けて言う。
「ラヴィーネ・アレルタか。伝説の英雄……侵略戦争を一人で終わらせたとかいう人物だ、確かに『魔神』といってもいいかもしれんな」
「そこまでなんだな……まあ、ウチの爺さんも――あ、いやなんでもない」
危ねえ。
ライクベルンのことは迂闊に口にできないのですぐに口を押さえておく。
爺さんのことはグラディスにも言ってないし。
二人は不思議そうな顔をしていたが、ギルドカード作成に入ったため特に追及されることは無かった。
程なくしてギルドカードの作製は終わり、『アルフェン』の名を刻んだカードが首から下げられた。
「……久しぶりだな、この名前も」
「助かった、ゲイツ。礼を言う」
「いいってことよ。ああ、そうだ! 先日、冒険者が殺される事件も起こっているらしいし気を付けてな」
「あ、うん……」
俺が生返事をしてグラディスを見ると、表情も変えず、冷や汗ひとつかいていなかった。正当な行為だということだろう。
「それじゃ、なにか適当に依頼でもやるか? 見ての通り人が少なくてな、魔物退治でもしてくれると助かる」
「いや、先を――アルフェン、なにをしている? 本?」
「……ふむふむ。よし、依頼を受けようグラディス。そうだな……これとかいいんじゃないか?」
俺は壁に貼ってある依頼票の一つを取って笑う。
そこには『ジャイアントタスクの排除』が書かれていた。
どうやら、ここでこの依頼を受けておくといいらしいみたいなことが『ブック・オブ・アカシック』に書かれていた。
損はしないらしいので、受けておくべきだろう。
「ふむ、金は必要か。ゲイツ、これで行く」
「おお、助かる。どこから侵入してくるのかわからんが近隣の村の畑を荒らしているらしくてな、頼むぜ」
ま、害虫駆除ってところかね? さて、初依頼といきますか。




