80.絶体絶命
いやいやいや、そりゃないだろ。
荷台を覗き込んでいる男は明らかに強者だと目を見るだけで分かる。このままではとんでもない目に合うことは必死。
さてどうするかと冷や汗をかきながら考えを巡らせる。
「……」
「デルバ?」
「……?」
「デルバ?」
「なんて?」
「……」
なにか言っていたがわからずに尋ね返すと押し黙って俺を見つめてきた。本当にわからん。
今まで出会った人は同じ言語で通じていたのだが、この眼光が鋭い男は知らない言葉だった。
そういえばカーネリア母さんの授業で他種族は独自の言語を持っていると言っていた。もしかしたらこの地域に住む部族とかなんじゃないだろうか?
「アル兄ちゃん、俺達どうなるんだろう……」
「わからない。だけど、最後まであがくぞ俺は」
「う、うん、私も死にたくない……」
ディアンドとニーナが俺に乗っかった状態でそう言ってくれる。
だが――
「うあああああん!」
「あああああん!」
ケントとハクはこの緊張に耐え切れず大泣きを始めた。
こりゃダメかも……
「うわ!?」
「きゃあ」
そんなことを思っていると荷台が元の位置に戻り、俺達は床に投げ出された。
さらに次の瞬間、先ほどの男が乗り込んできたのだからたまらない。
「く、来るなよ……!」
「デルバ? チラミア?」
「う、うーん……心配してくれているのかなあ」
「さっぱりだな。ディアンド、ツィアル国の言語だったりしないのか?」
「わかんねえよ、初めて聞いた。だけど、大人なら知っているかも」
学がねえからなと口を尖らせたディアンドをよそに、男はため息を吐く。
そのまま泣き叫ぶハクを抱き上げて荷台から降りた。
「ダベラ、モイロット」
「あ、ちょっと待てよ!? ……うわあ!?」
ハクが危ないと俺は立ち上がって後を追おうとしたが、そこで別の二人が荷台へ乗って来た。
すぐに俺とニーナ、ディアンドとケントがそれぞれ両脇に抱えられて外に連れ出された。
「う……」
暗くて見えないがそこは血の臭いで充満していて、俺は眉をしかめてしまう。
それはニーナも同じようで、泣きそうな顔になっている。
「怖いよう……」
「くそ、放せよ!」
「ティエラ。ソレイナ、グラディス?」
「チコリ……ツレイギ」
よく分からない言葉で話を進めて……いるのか?
とりあえず視界に入っているのは三人。彼等が時折俺達の方を見るに、処遇を話しているってところか……?
そこへ、暗がりからもう一人姿を現す。
「フトンマ! ヤラマイテ!」
「チコタ」
次に来たのは女性のようで、腰まで伸ばしている水色の髪を揺らしながらなにやら憤慨している様子。
その人の言葉を聞いた男は俺達を降ろし、手の拘束を外してくれた。
「おお、助かった!」
「た、助けてくれたの?」
「……?」
俺は手の感触を確かめながら四人の襲撃者を観察する。
ふむ、ニーナの上目遣い質問に反応を示さないところを見ると、向こうも俺達の言葉がわからないようだ。
しかし、これからどうすべきか。
言葉は通じないが拘束を解いてくれたところを見ると助けてくれたと見ていい。
となればこのまま頭を下げて立ち去ってもいい気がする。
だけど、どっちに行っていいかも分からないので明るくなるまで一緒に居た方が――
「オマイタ!」
「シュリョシ?」
「チコリ」
おっと、まさかの五人目だ。
そこでディアンドがケントを連れて俺に近づいてきて話しかけてくる。
「とりあえず助かったな。なんか嬉しそうだし、このまま町まで連れて行ってくれねえかな?」
「言葉が通じないのがなあ」
とりあえずなんとかコミュニケーションが取れないかと考えていると、ニーナがガタガタと震え出し、指をある場所へ向ける。
そこには――
「うわあああああああ!?」
「ぎゃああああああ!?」
「……マジか!?」
――そこには、嬉しそうな声を上げた男が立っていたのだが、手には逃げた大将を除く三人の生首が、あった。
「いやぁぁぁぁ!?」
「?」
当然の如くニーナはパニックに。相手はなんで叫んでいるのかが分かっていない様子だ。
……さて、と。
このまま一緒に動くのは却下だ……! こいつら、やばすぎる!?
「ディアンド、ニーナとケントを連れてここから離れろ。少しずつ」
「あ、アル兄ちゃんはどうすんだよ……」
「……ハクがあの男に捕まったままだ、取り戻してから追う。それにそっちの方が俺に集中していいだろ」
「し、死んじゃうよ!?」
「うああああああん!」
「泣くなケント、このままお父さん達に会えなくなっていいのか?」
俺が諭すと嗚咽は止まらないがとりあえず大声で叫ぶのは止めてくれた。
問題はどのタイミングで出るかだが、もう一度こいつらに抱えられたらアウトと考えれば……今でしょ!?
「俺は行く、できるだけ遠くへ行けよ」
「あ、ま、待って――ひゃあん!?」
「……!」
言うが早いか、俺は最初に見た男へ攻撃を仕掛ける。
相手もすぐに気づき身構えた。身長は百八十を越えているので拳は届かない。
やるなら魔法かとまず左手で風魔法を使いってニーナたちを吹き飛ばす。続けて右手でファイヤーボールを生み出した。
「ファイム!?」
驚いた表情を見せるが、これは見せ技で脅しのようなものだ。
ハクに当たると危ないからな。
「ハクを返してもらうぞ!」
「ゼラド!?」
顔を掠めるように炎を飛ばすと、顔を庇った拍子にハクを持つ手が緩んだので俺は即座に引っ張り抱きかかえた。
「チガオタ!」
「だからわかんないっての!」
女性が俺を掴まえようと手を伸ばすが、屈んですり抜けることに成功。
このままディアンド達に追いつけば――
さらに二人の脇を抜け、脱出を確信。
「<アースフィギュア>!」
「ゼラド!?」
追って来ようとしたやつらの前に土壁を作成し邪魔をする。
これで少しは時間を稼げるとほくそ笑んだ瞬間、背中に寒気を感じて横に飛ぶ。
「……ヤーナ!」
「嘘!? <ストーンバレット>!」
「オウ!?」
俺の作った土壁は一瞬で粉々にされていた!? 気づけなかったら捕まっていただろう。なんて奴だ!
「どうする……!? 魔法で足を止めるか!」
俺が手をかざした瞬間、前方で悲鳴が聞こえた――




