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XO  作者: 舞空エコル
7/7

7 終章

 ついにこの日がやってまいりました…… 最終回です!

 いよいよ、全ての謎が明らかになります(おそらく)

 衝撃に備えよ(笑撃ではないぞ)あとみんな、大人

 なんだから読み終わってどんな感想を抱いても石を

 投げたりしないようにねっ。じゃー読んでみそ♪


 挿絵(By みてみん)

     ニャカラ塚音楽学校時代のエコルン

 高まる虫の鳴き声。月明かり。


「ぼくは…… 」「私は…… 」

「そう、あなたは…… 」


「…… 私、祥子だったの? でも、どうして……? 」

「保護観察期間を、猫を被ってやり過ごしたあなたは、

 ご両親が借りた実家近くのマンションに引っ越した。

 その部屋で、自分を裏切り警察に通報した黒部さん

 への恨みから、彼の思い出を捻じ曲げた悪意全開の

 架空の物語を、毎日コツコツと書き綴っていた…… 」

「そう…… 今度は小冊子なんて手間は掛けず、SNS

 で広めてやろうと思っていた。名前は伏せたけれど、

 事情を知っている人間には、すぐに良一君のことだ

 と分かる形で…… 小学校・中学校・高校と書き進め、

 いよいよ私自身も登場する、大学時代の物語に……

 これで良一君のことを、とことん追い詰めてやる!

 そう夢想しながら、執筆に明け暮れていたら…… 」

「黒部さんから、もう一度会いたいと連絡があった。

 緊張していたが、懐かしい声だった」

「そうなの。びっくりした…… 絶対にありえないけど、

 もしかしたら良一君の酷い話を書いてるのがばれた

 のかと思って、ちょっと焦っちゃった」

「しかしあなたは、もう二度と会えないと思っていた

 黒部さんと再会できることが、何よりも嬉しかった。

 歓迎の準備を整え、黒部さんを誹謗中傷する物語の

 データもすっかり消去して、黒部さんを待った 」

「良一君は、お酒にも料理にも手を付けず、これ以上

 ないくらい真剣な面持ちで、話を切り出してきた。

 思っていたよりずっと冷静だった。だけど、目の光

 が違っていた。静かな口調が、かえって怖かった…… 」

「そしてあなたは、黒部さんの話を聞きながら、自分

 が責められ、(なじ)られていると、感じたのですね? 

 あなたが思っていた話とは、まるで違ったから…… 」

「違う! 本当に言われたの、良一君から酷いことを。

 酷い言葉を…… 」

「それは、どのようなものでしたか?」

「それは…… それは…… 」

「よく思い出してください。あと少しです」


 虫の声が止む。

 祥子の息遣いが聞こえる。


「祥子、一緒に行こう。ぼくが責任をもって君の面倒

 を見る。ここではダメだ、東京に行こう。この辺り

 には、ご両親の息がかかった医者しかいない」

「何よ…… パパとママを侮辱するの?」

「違う。しかし君の両親は、警察署長と市議会議員だ。

 この地域の医者は、地元の実力者が聞きたい無難な

 所見を並べるだけで、ろくに君の診察もしていない。

 根本的な治療はまず望めない。いつ再発するか…… 」

「でも私、治ったんだよ? 保護観察も終わったし」

「そう…… その診断も、ご両親の意向通りだ」

「ちょっと、どういう意味?」

「とにかく、東京のクリニックで、じっくりと時間を

 かけて診てもらおう。絶対にそうした方がいいって、

 奥只見さんも…… 」

「待って、奥只見? もしかしてあの、奥只見和美?」

「そうだ。彼女は数年前に海外から帰ってきて、今は

 東京のメンタルクリニックで医師として働いている」

「よりによって奥只見に、私の病気をばらしたの?」

「違う! 相談したんだ、プライベートで…… 」

「ほら、やっぱり…… プライベートで会ってるんだ?

 死んだ親友の彼女と…… 呆れた。信じられない!」

「何を言ってるんだ、奥只見さんはベスが生んだ子犬

 の里親の一人だよ。ヤスとは何の関係もない」

「でも…… でも、良一君の、初恋の人なんでしょ?」

「それは…… 確かにそうだが、初めて会ったときぼく

 は小学生で奥只見さんは大学生だった。子犬の成長

 報告や季節の挨拶でずっと文通を続けていただけだ。

 この話は、もう何度も何度も君に聞かせていないか?」

「でもでもでも! ヤス…… さんが、自殺したとき…… 」

「ヤスは自殺なんかしていない。これも話しただろう? 

 通学途中、トラックにはねられたんだよ。事故死だ。

 でも、奥只見さんが、親友の死でPTSDになった

 ぼくの心の支えになってくれたのは事実だ。彼女は

 心理学を専攻していたから、冷静で専門的な親身の

 アプローチでぼくを救ってくれた…… ぼくの恩人だ」

「だからって、なんで私のことを話すのよ!」

「それは…… 君の振る舞いや言動が、明らかに…… 」

「何? 何よ? 明らかに何!?」

「何でもない…… 悪かった。確かにお節介だった」

「どっちが好き?」

「え?」

「私と奥只見と、どっちが好きなの?」

「そんなの…… 祥子に決まってるじゃないか」

「だったら、なんで警察に通報したのよ?」

「他になす術がなかった。あの頃の君は…… 」

「頭がおかしかったから? あなたの部屋で見つけた

 奥只見からの手紙に怒って、火をつけてボヤ騒ぎを

 起こすくらい、正気を失っていたから?」

「よさないか。もう過ぎたことだ。君は自分で自分の

 言葉に苛立ち、興奮している…… 良くないよ」

「…… ねえ、本当に私の方が好き? 愛してる?」

「もちろんだ」

「良かった。だったら、これ飲もうよ…… 乾杯しよ?」

「いや、今は飲めない」

「どうして…… お酒、好きだったじゃない?」

「車で来ているんだよ。泊まっていく訳にもいかない。

 それより、ご両親が気づく前に、荷物をまとめて……」

「ねえ、これだよ…… 覚えてないの?」

「ああ、すまないが思い出せない…… 」

「本当に?」

「後でゆっくり話そう。それより早く…… 」

「あはは…… もうやだ……!」

「どうした? なぜ泣くんだ、祥子…… 祥子?」

「この裏切り者!」

「祥子?」

「やっぱりあんたって、そういう人だったのよおっ!」


 テーブルが揺れて、料理の皿が音を立てる。


「ボトルで殴られた黒部さんは、割れた額から鮮血を

 噴き出し、テーブルの上に突っ伏しました。そして、     

 血(まみ)れの顔を上げ、震える両腕をあなたに伸ばして」


「祥子…… 祥子…… どうして? どうして……」


「返り血を浴びて気が動転したあなたは、伸ばされた

 黒部さんの腕から逃れようと必死で後退(ずさ)り、空気を

 入れ替えようと開け放していた5階の窓から転落、

 マンション前の駐車スペースに停めてあった、黒部

 さんの車の上に、背中から…… 」


 鈍い衝撃音。車のフロントガラスがひび割れる。


「やめて! どうしてあなたに、そんなことが分かる

 のよ? まるで、すぐそばで見ていたみたいに!」

「見ていたんですよ、すぐそばで」

「えっ?」

「あなたは、宙を舞ってここに落ちてくる短い刹那に、

 押し寄せてくる怒りと悲しみ、罪悪感と自己嫌悪、

 恥辱と後悔から何とか逃れようとして、思い出の中

 の、いわば理想の黒部良一さんと同化しました……

 しかしその理想も、保護観察期間にあなたが憎悪を

 こめて書いた、黒部さんに対する悪意全開の架空の

 物語に侵食され、綻び、歪んでいた…… 」

「本当の良一君は、今も私の部屋に、血塗れで…… 」

「気の毒な話です…… あなたを救い出そうと、勇気を

 奮ってやってきたばかりに、こんなことに…… 」

「良一君、私と刺し違えるどころか、本当は私のこと

 をすごく心配して、来てくれたの…… ?」

「そうです。あなたが保護観察になって、大学を退学

 する前後に、黒部さんは、あなたのご両親と何度も

 会って話をしていたんでしょうね。そして、あなた

 を治療することよりも、どこまでも自分たちの地位

 と世間体に固執するこの人たちに、あなたを任せて

 はおけないと危機感を持った。黒部さんは、若さ故

 の勇み足はあったにせよ、誰よりも真剣にあなたを

 愛し、大切に思っていた…… しかし、思わぬ再会に

 不安定な精神状態になっているあなたに向かって、

 一番言ってはいけない名前を言ってしまった」

「奥只見…… 奥只見和美」

「あなたの心の均衡が最初に崩れたのは、初めて黒部

 さんの部屋で一夜を共にした翌朝、奥只見さんから

 の手紙の束を見つけたときでしたね?」

「大切そうに、引き出しの奥に仕舞ってあったの……」

「多分に誤解があるとはいえ、嫉妬を掻き立て理性を

 崩壊させるのに十分な、言ってはいけない名前……

 最悪のNGワード。それが “ 奥只見和美 ” だった」

「分かっていたのよ、良一君はそんな人じゃないって。

 奥只見さんだって、手紙の文面から真面目で優しい

 人だとは思っていた…… でも、ダメだった」

「あなたは奥只見さんの名前が出るといつもほんのり

 頬を赤らめる黒部さんに、常に心がざわついていた。

 文通を続けているだけ、すでに相手は結婚していて

 子供が二人いると聞かされて、頭では理解している

 つもりでも、心の奥底では、嫉妬と葛藤が渦巻いて、

 全く納得も受容も、できていなかった…… 」

「あの名前を聞いた瞬間にスイッチが入って、理性が

 吹き飛んだの。前後の記憶も曖昧。お酒をめぐって

 押し問答をしたことさえ忘れていた。自分がどこに

 いるのかも分からなかったけど、今、あなたの話を

 聞いて、ようやく…… 」

「今、ようやく…… 何もかも、思い出しましたね?」

「ええ、思い出したわ。私、何てことを…… ごめんね、

 良一君…… 本当にごめんなさい…… ごめんなさい!」

「黒部さんはあなたが初めて会ったときに抱いた印象

 そのままに優しくて誠実で、あなたのことをずっと

 心配していた。あなたも、そんな黒部さんを心から

 愛した…… 愛し過ぎました。不幸な偶然と、多くの

 行き違いから、残念な結末になってしまいましたが、

 あなたと黒部さんが、互いを思い、深く愛し合って

 いたことは事実です。それでよいではありませんか」

「良一君……!」


 祥子の慟哭。


「さて、これで私の役割も終わりです…… では…… 」

「待って…… あとひとつだけ…… あなたは、誰なの?

 ずっとすぐそばで見ていたって…… それに私の言葉

 や振る舞いだけでなく、心の中まで深く知っている

 って、どういうこと…… あなたは、誰?」

「最初から申し上げています。 私は“X”。ほんの少し

 目を動かすと、あなたの腕の中にいて、脇腹に深く

 食い込んでいる、私の姿が見えると思いますが……」

「本当だ…… 高かったのよ…… レミーの…… 」


 ラベルの乾いた血の汚れを、祥子の指が(こす)りとる。


「X……O……」

「あなたがしっかり抱え込んで守ってくれたおかげで、

 この高さを落ちてきても、ボトルが砕け散ることは

 ありませんでした…… まあ肝心の中身は、ほとんど

 (こぼ)れてしまいましたがね」

「…… 私、ブランデーの妖精と、お話をしているの? 

 やっぱり、頭がおかしくなっちゃったのかな?」

「そんなことはありません。あなたは、黒部さんから

 電話を貰い、再会が嬉しくて、奮発して私を買った

 ときの、最高に幸せだったあなた自身と、こうして

 お話をしているんですよ……」

「一度飲んでみたいって言ってたから、用意したのに。

 二人で乾杯したかったのに…… 良一君、そんなこと

 すっかり忘れてるんだもの…… 」


 祥子が咽び泣く。


「私に少し口をつけてもらえれば、その程度の悲しみ

 など、すぐに消し飛ぶんですがね…… 今となっては

 同じことです。では、そろそろ、行きましょうか?」

「行くって…… どこへ?」

「ここよりはもう少し、ましなところへですよ…… 」


 虫の声を圧しながら近づいてくるサイレン。

 澄んで冷たさを帯びている、秋の夜の空気。

 月を掠め空を流れていく、幾筋かの薄い雲。

 5階の窓に人影。


         


          おわり




 いかがでしたか? 「ジェイコブス・ラダー」とか

「未来世紀ブラジル」或いはアンブローズ・ビアズの

「アウルクリーク橋の出来事」等の走馬灯系の幻想譚

 ちゅうか、何ちゅうか、本中華…… はっぱふみふみ。

 本当はもっと救いのない真相だったけど、リライト

 するうちに、祥子ちゃんも良一君も可哀想になって

 きてしまって、ラストをちょっとだけ修正しました

(まあ可哀想なまんまなんだけどな。南無阿弥陀仏)

 それと、大好きな映画の大好きな役者さんの大好き

 な台詞を、微妙にアレンジして織り込んであります。

 探してみて分かったらお便りで答えてくだちいねん。

 正解者にはエコルさん未発表イラストをプレゼント♪

                   (要らんか)


 これは元々CDドラマの脚本でした。発注先からの

「とにかく生きてるのが嫌になるくらい暗くて救いの

 ない話を書いてくれ。どんなに酷くてもかまわない」

 との要望を受けて、よっしゃと頑張って書きました。

 読んだ制作プロデューサーからすぐに電話があって

「要望通り、生きてるのが嫌になるくらい暗くて救い

 もないし酷い。ドンデン返しも利いている」と絶賛?

 先方も満足してくれるでしょうと発注元に送ったら

 なぜか大激怒され、ふざけるなとボツにされました。

 プロデューサーは面食らって要望通りの内容ですが

 どこがダメなのでしょうかと反論してくれましたが

 ただもうこんな酷い話はダメだと具体的な問題点の

 指摘もなく感情的な全否定のみ。その話を聞かされ

 さすがに頭にきた私はちゃんと説明がないなら裁判

 沙汰にしませうよとプロデューサーに言いましたが、

 発注元はけっこうな大御所だから揉めたら業界から

 プロデューサーもその制作会社も私も干されるかも

 しれない、ここは我慢してくださいと掻き口説かれ

 仕方なく涙をのみました(血涙)業界ではありがち

 な話かもです。確か三部作構成の一作目であと二作

 予定もあったから美味しい仕事だなと思ってたのに

 美味しいどころか苦みとエグみしか残らなかったわ。

 しかしこのプロデューサーが本当にいい人でボツに

 はなったけどこのままではあんまりだということで

(業務委託の契約が成立しなかったから結局制作費は

 貰ってないのに)会社経費いわば自腹で、脚本代を

 払うてくれました。それと私も、まあ確かにテーマ

 は(言われた通り)酷いものにしたけど、出来自体

 は悪くないと思うし愛着もあるから機会があったら

 どこかで発表していいかとそのプロデューサーから

 発注元に問い合わせていただいて、その儀はOKと

 承諾してもらいました。嗚呼、あれからもう何年が

 経つのだろう、HDの奥に眠っていた不遇のお話が

 こうしてこんな形で陽の目を見る日が来るなんて、

 感無量池部良。祥子ちゃんも良一君もこれで成仏が

 かないます。南無観世音菩薩。ありがとうオリゴ糖。

  

 挿絵(By みてみん)

 月を見て 涙に咽ぶ エコルさん

 なぜかミニスカ サービスサービスゥ♪

 <エコルさん心の短歌>

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