044.勇者は演じるもの。そうだろ?
「発動条件は不明だが、ゴブリンに見える幻覚はこの魔草が原因だ。間違いない」
当事者になったおれは目玉の飛び出た薄紅色の気味の悪い花を指さす。幻覚が発動する前に間違いなくやつらの笑い声を聞いた。
「なんだって」
衛兵たちがざわめく。
まだ幻覚はとけていない。皆が恐ろしいゴブリンに見えてしまう。衛兵たちはもちろん、あの可憐なアデルもクレアも緑の肌と黄色い目玉の化け物に見えている。
「ハッピー草の亜種、ということですね。花粉が作用していると考えていいでしょう」
アデルに似たゴブリン、じゃなくてゴブリンじみたアデルが言う。声は相変わらず可憐な少女のまま。
「なるほど、それなら私たちが幻覚にハマったタイミングも納得いくわ」
クレアもアニニスも頷く。一同の意見が揃う。
「各々の魔法で手当たり次第、この魔草を燃やそう。途中幻覚にかかった冒険者に出くわしたら仮死薬をぶちこむ。また自分自身が危なくなったら仮死薬を飲み込みダンジョンの外へ脱出してほしい」
おれは皆に指示を出す。散り散りになって戦おうという合図だった。
「創司」
衛兵長ヤムキンが心配そうに尋ねてきた。
「少しでも多くの魔草を燃やしてくれ。そして一人でも多くの冒険者に仮死薬をぶち込んでくれ。各々、百粒は持参してるだろう。中でさまよってる皆に使っても余る量だから問題ない」
「そういう意味じゃない。お前はどうするつもりだ」
「状況にもよるが、おれは最後まで残る」
「ならオレも」
「お前は衛兵の長だ。グレゴリーの風魔法テレパシーを通して皆が安全に脱出できるよう指令を出してほしい」
「だがよ」
「皆が各所で暴れてくれれば、やつの方から姿を現すだろう」
やつーー、それは「核」を保持する悪魔。元凶。ダンジョンのラスボス的存在。怒り狂って襲いかかってくれれば、こちらのもの。
やつを倒せばーー「核」をぶっつぶせば、ダンジョンは悪魔の手を離れ、すべての冒険者が洞窟の外にある森へと解放される。
おそらくは、中をさまようゴブリンや悪魔憑きが核を失った後も、洞窟の外へとおれらを追っかけてくるだろうが、外で返り討ちにしてやればいい。
「力の限り魔草を絶やし、冒険者たちを救ってくれ」
「創司。お前もやばくなったら仮死薬でいったん引き上げろ。生きてりゃまたダンジョンに挑める」
衛兵長ヤムキンが、こぶしをおれにぶつけてきた。
「分かってる」
おれの号令で皆が散っていった。暗い洞窟の方々へと。
クレアはグレゴリー、アニニス兄弟と共に行動することになった。やつらに任せれば、おれがエルフのおっさんとの約束を違えることはないだろう。
「さて。おれは死なないで出れるかな」
「当たり前です。私が全力でサポートしますので」
全力で守ります、ではなくサポートと表現してくれたのはアデルの優しさだろう。それともおれに勇者の資質があると見込んでくれているのか。
あと、一晩か二晩、魔女ふたりから特訓を受けていれば心持ちも違かっただろう。しかし泣き言を漏らしてる暇ない。
せいぜいおれは昨夜の特訓内容を反芻し、ゴブリンや悪魔との戦いに備えねばならなかった。
「アデル。お前はおれが守る」
強がりでも言わなきゃやってられない。勇者は演じるものだ。おれの傍から離れたがらない魔法少女ひとり守れなきゃ、おれは死んだ方がマシだろう。
アデルは赤面しながら頷く。




