041.兄弟の絆
アニニスは洞窟の中で反響する叫びを耳にした。
特徴的な声ーー、ゾウ鼻と耳をもつネイチャー族の衛兵仲間、ノーゼ・ガネーシャのものに違いない。洞窟に潜ってすぐに怖じ気づいた小心者の男だった。
「あなたの仲間ね」
クレアがレイピアを構えるのが伝わった。
「ああ。だがどうすべきか」
これまで「仮説」を証明できず、幻覚に踊らされた仲間たちとの接触は避けてきた。しかしクレアと言葉で分かりあえた今となっては、やるべきことは一つだった。
「君のおかげだ。クレア」
アニニスはバトルアクスを収め、歩みを進める。ノーゼほどではないが耳に自信があった。声の方向へと、細かい迷路を縫うように前進。逃げ回っていた十日間でここいらの構造は知っていた。
やがてノーゼ以外の者の声も聞こえてきた。仲間の誰のものでもない、少年のような声。
そしてはるか数十メートル先に輝くものを見て、ノーゼのもとへたどり着いた頃には彼はすでに消滅していた。
消滅ーー、すなわちそれはダンジョン内での死亡を意味する。
ノーゼを殺めた連中がアニニスとクレアの足音に気づき振り返った。
「冒険者か、ノーゼを殺したのか」
アニニスは声を荒げる。ゴブリンじみた気色の悪い顔は幻術だとしても彼らが成り行き上、自分らの敵にならぬとは言い切れない。
「おれは大黒創司」
少年が叫ぶ。背後に甲冑を着込んだ衛兵らしき連中もいたが、一緒に潜った仲間たちではないのが一目瞭然だった。
「領主のドナルドに頼まれて、あんたらを救いにきた。死ねばダンジョンから解放される。だが偽装の死でも解放される。ノーゼとやらには仮死薬をぶち込んだ。今ごろ森の中で息を吹き返しているだろう」
少年ーー、創司が言い終えると同時に
「兄さん」
彼の背後にいた巨人族の特徴をもつゴブリン(幻覚とは分かっているものの、風貌は例に漏れずゴブリンだった)が、アニニスの元へ駆け寄る。
声で分かった。弟だ。
「グレゴリー、お前まで」
アニニスは自分とそう変わらないほど背の伸びた弟を抱きしめる。甲冑同士がぶつかる金属音とゴブリン化した弟の濁った目に涙が浮かび上がるのを見て、アニニスも落涙した。




