022.お前ら全員、水属性じゃないか
グレゴリーから教えてもらった衛兵たちの魔力属性は以下の通り。
ヒューマン族の衛兵長ヤムキンは水属性と火属性。エルフ族の衛兵バザロフは水属性と光属性。ドワーフ族の衛兵ジジェンコは水属性と闇属性。ヒューマン族の衛兵のユーギンは水属性と雷属性。同じくヒューマン族のグリドフは水属性と闇属性。
そしてジャイアント族のグレゴリーは水属性と風属性。グレゴリーは唯一、衛兵バッジを持たないため魔族エルフとの戦闘においては戦力外。
「みんな一つ目が水属性じゃないか」
おれは誰にともなく呟く。
「ぼくら六人の属性に偏りがあるのも、ダンジョンの攻略のため衛兵の多数が駆り出されて戻ってきてないからなんだ。だからといってマナの果実を追加で食べて他属性の魔力を強化しようだなんて誰一人言い出さないし。衛兵長なんか十年前から水属性と火属性のままなんだよ」
グレゴリーがそう答えた。おれの頭の中に響くやつの声。呟いたつもりがテレパシーでおれの言葉は筒抜けになっていたらしい。
そうだった。おれはつい数時間前に寿司屋のおやじから聞いたことを思い出す。あのまともな人間のままじゃ生きては帰れないダンジョンの話。
たしかグレゴリーの兄貴もダンジョンに潜ったまま戻ってきてないんだよな。駐屯地で衛兵長がやつを詰ってた際にこぼした言葉をおれは聞き逃さなかった。いつかやつの兄貴も救わなきゃならん。ますますこんなところで立ち止まってなんかいられない。そう、おれは英雄になる男だ。
「みんなの属性を使ってどう攻撃したら、いいかな」
グレゴリーは頼りなくおれに聞く。
衛兵たちは魔族エルフの竜巻防壁魔法に向かって思い思いの攻撃をこれでもかと続けてた。今やってる魔法攻撃がやつらのとっておきに違いない。そう考えると魔法を学んで数時間のおれに出せる指示なんてなかった。
「みんなでありったけの攻撃を加えるんだ」
グレゴリーは向こうの建物の影で頷く。四メートルの巨体をもつ男だが小心者なところと遠近法とで、この距離で見ると普通の金髪の兄ちゃんにしか見えなかった。
またこれはグループ通話状態のテレパシーなので他の五人にも伝わってるはずだ。やつらは一向に竜巻状の防壁魔法から姿を見せない魔族エルフへと剣を振り回し町を守ろうと奮戦している。
「テレパシーはこのままにしておいてくれ」
「ぼくに他にできることはないかな?」
「そこいらの瓦礫や建物に火を…なるべく大きな火をつけてくれ。あの向こうにある酒屋の全壊した建物周辺にたくさんの酒がある。それをこの辺一帯にふりかけて火をつけるんだ」
おれはもう一度、蝋燭の火を操る練習をしてみようと思う。無理ならば別の手を打たねばならない。




