限界サバイバル生活①
それは、たった一人の少女を救うための、世界一優しい『嘘』と『わがまま』
控え室のドアを抜けた先は、ドーム型の広い会場に個性多彩なキャラメイクを施した数多くの利用者が埋め尽くしている。
そしてその会場の中心には、裾丈や素材が左右で違ったりする継ぎ接ぎなセーラー服を身に纏う女性プレイヤーが凛として佇んでいた。
前日に過去の配信を見ていた叶と悠真と理恵人の三人には分かる。
間違いなく彼女こそが、叶の言う超ちょうチョー人気配信者らしい"シオン"という名の本企画の主催者だ。
悠真たちと同じく会場の中心に向かって歩き出していた企画の参加者らしき人物たちが見え始める。総勢二三名といったところか。
あまり地上波メディアに関心のない悠真たちですら噂を耳にするほど著名なタレントや、インフルエンサー、サッカーの現役プロ選手。中には、売り出しアイドルグループや軍服を着た人まで参加している。
職業柄顔も資本になる方が多いためか、会場の利用者とうって変わってキャラメイクは程々に正装姿やイメージ衣装を選んでいる参加者しかいない。
現に、悠真たちもキャラメイクなしでありのままの姿で参加してきている。
全参加者がシオンを囲って立ち並ぶと、彼女は優しく微笑んで全員に目線を配り両手をいっぱい広げて挨拶した。
「本日はお集まりいただき、誠にまことーーに、ありがとうございます。私こそが本企画の主催者、シオンよ!」
ライブ配信開始までの三分間。シオンによる挨拶と参加者たちの顔合わせタイムというわけなのだろう。
素人枠の目線からすればとんでもない光景が広がっている! ……とは、悠真たちはならず。
特段、応援してる人がいるわけでも推してる人がいるわけでもないため、知ってる人がいるなぁ〜くらいの感覚でしかなかった。
「君たちが素人枠で参加されてるのかな? はじめまして、俳優の秋栗旬です。よろしく」
「わあ〜、だれd——」
「ええ!? あの巷でうわさの秋栗旬さんですかっ。お会いできてすっごい嬉しいですよ!」
「お、ありがとうねー」
紛うことなき嘘である。
しかし、危うく失言しかけた理恵人の声を遮って嘘をつき出した悠真の判断は正解であった。
秋栗旬率いるチーム月九は、今回の参加者の中で一番人気だと言われており、彼の後ろに控えるは業界の売れっ子俳優たちで企画への影響力も相当あるとのことだ。
悠真自信も彼らのことを詳しく知らず名前も怪しいところだが、常套句にあの巷でうわさの〇〇さん作戦でゴリ押したら上手くいっただけである。
今回叶の勝手な行動で急な参加ということもあり、三人ともフルネームで登録されているのだ。変な真似はしないが吉。
挨拶回りは基本悠真が先行して、叶と理恵人は操られたように用意された定型文のみを使うよう固く縛られた。
「——皆々様方、初対面のご挨拶はお済みかしら? もう間もなく配信の開始時刻だから、ここで横一列に並んでもらうわね」
シオンの指示通り参加者たちが速やかに並ぶと、彼女は全員の顔をゆっくり見渡してこう告げる。
「エンタメだから、面白ければ何をしてもいいわ」
その言葉の意味を一同どう捉えたか定かではないが、その場の空気間が若干冷えたのは言うまでもない
まるでデスゲームの主催者よろしくな発言をしだした継ぎ接ぎセーラー服の女性プレイヤーは、ニタリと不気味な笑みを浮かべ指を弾き鳴らした。
途端にそれまで参加者とシオンしかいなかった静かな会場が、色とりどりなスポットライトやら花火やら人の声やらで盛況に包まれる。
この配信を利用者として観に来た数多くの視聴者が、会場の中心を囲うように出現していた。
『一年ぶりの企画ね、アナタたちーーっ! 元気のある奴から叫べっ、狂えー! 第五回、限界無人島サバイバル生活を、開催するわぁああーー!!』
シオンの高らかな宣言に、会場は音声認識の許容を超えんと爆発的な歓声が揚がった。
大半は騒音判定か音割れで言語化されていなかったが、そこはゲームの世界。
各ユーザーの頭上には喋ったことが精密に映し出され、メッセージの役割をしている。
会場の状況は生配信されており、画面の奥の視聴者により次々とコメントが流れる。
その盛況のままに、シオンは素人枠で参加する悠真たちを一番手に指名しカメラを誘導。
急に向けられたプレッシャーに、悠真は咄嗟に顔を隠してしまい、叶は謎のファイティングポーズ、理恵人は中指を立て……。
「おいこら端っこのイケメン! 中指しまえ?!」
「すみません。人差し指、立てるの、忘れてました」
「その忘れが放送事故なんだわ。生配信中なんだから、一般人でもどんなにイケメンでも許さいわよそういうこと!」
大衆慣れしていない一般人相手でも食ってかかるシオンの司会進行は、配信界隈でもかなり有名であり人気を集めている特徴の一つだ。
それを知ってか知らずか、理恵人は初対面にも関わらず強気なボケをかました。
普段ツッコミ役の悠真も目立つチャンスと思ったのか、ここぞとばかりに慣れないボケに挑む。……が、
「クッソぉー、じゃあこの俺でさえも簡単には許してもらえないのかークッソぉお〜〜! チラッ」
「では、ルール説明の続きをさせていただくわね」
「おい。ツッコミ待ちの一般人ナルシストが放送事故起こしてんぞ、それでいいのか」
「構わないわ」
「カマって?」
打ち合わせでもしたのかと見間違うほどテンポの良いやりとり。その堂々たる言動が、一般人なのにという潜在意識を加速させ会場の笑いを誘っていた。
スクリーン画面越しに配信を視聴する人からも、その様子に悠真たちへの期待の声がちらほら上がっている。
第一印象は良好といった具合だ。
「……とまあ、そんな感じで。素人枠にはこの三人に来てもらったわ。言っておきますが、完全抽選で選ばれてるから。そこんところよろしく頼むわよ〜?」
「本当に、よく当て、た」
「えへへ〜。豪運なんすよぉ」
「叶ちゃんバカ可愛い。もう撮れ高」
「絶対に顔採用だろ」
悠真の的確で冷めたツッコミは軽く流し、彼女の進行は続く。
さすが有名人たちである。各々が自己紹介する度に一定数のファンらしき視聴者たちが応援コメントを送っている。
しかし、やはり一番黄色い声が多いのはチーム月九。
待ってましたとばかりにアンカーの責務として爽やかな挨拶を始める。
「ども、秋栗旬です。そんでチーム月九です! 新月曜ドラマの宣伝に来ただけと思われてるところ悪いんですけど、本気で勝ちにいきますよ! ……まあ、目的は宣伝ですけどね」
たとえあざとい発言でも笑いを誘うということは、一定以上の好感度が全員の中にあるから。
その証明をするのには十分すぎたコメントの流れ方に、もはやシオンも引き気味ですらあった。
全ての参加者の紹介が終わり、シオンが定点カメラの画面を大胆に引くとテニスコートサイズほどの大きなスクリーンが現れた。
そしてそこに移し出されたのが本企画の概要とルール説明だということはすぐにわかる。
可愛らしいデフォルメイラストと、ほのぼのとした選曲でコミカルに描かれており、全員がそれに釘付けだ。
概ね参加者に配られた資料と同じ内容。普段チュートリアルはすっ飛ばす派だが、珍しく目を通してきた悠真たちには頷ける余裕があった。
「とまぁ。一分くらいで簡単に説明終わらせちゃったから覚えきらねぇ〜って方のために、表示のオンオフ可能な形式ファイル画像を画面に取り付けてるわ。参加者のみんなにも配ってるものと一緒のやつね」
はい説明おわり! と手を合わせ、始める合図だと言わんばかりに参加者へ目配せする。
その時、悠真の中にはもう一度あの言葉を反芻させにきている気がして思わず身構えてしまう。
考えさせる猶予も与えさせてくれないのか、シオンは大仰に腕を広げ叫びだす。
「早く始めたくてソワソワしてんじゃないのぉ? この小さな離島の極限サバイバル、必ず生きて戻ってこいやぁぁああー!!」
会場も配信画面に流れるコメントも、誰より負けじと誰もが声を張り上げた。
と同時に、参加者たちの足元が青白く光りだす。
彼らがその場から姿を消すと、再び大きなスクリーンにカメラが引かれる。各チームごと視点が均一分割して映し出され、それらがバラけて宙を漂い始めた。
サバイバル中のプレイヤーを除く視聴者は観たい配信画面を自由に選択でき、またプレイヤー視点や観測ドローンで追体験も可能。
これも仮想世界だからこその実用性なのだろう。
――掛け声の余韻も冷めぬまま、参加プレイヤーたちは見渡す限りの海と森に挟まれた砂浜に立っていた。
ホワイトアウトした視覚が順応してくる頃、悠真たちは口を開く。
「……ねぇ二人とも。掛け声の時なんて言ったの? 私は"どりゃぁぁあああーーっ!!" だったよ」
「ん、"えぇ〜てぃ〜えぇぇ〜〜む"って」
「"貢げやぁぁあああーーっ!!"" だろそこは」
「もうっ! 二人とも素直に楽しもうって気はないの!?」
かくして始まる、仮想世界での十五日間無人島サバイバル生活。悠真たちが目標とする投げ銭総額、"五〇万円"。
企画上のエンタメとはいえ、彼らのことなど誰も知らないし求めてもいないことだろう。好きな配信者が参加しているので観に来てるに過ぎないのだから。
それどころか、奇しくも抽選に落ちてしまった一般人からは妬まれているのかもしれない。
そんなアウェーを背負って立つ彼らに訪れるのは、チャンスの女神様か。
視界が開けて鮮明になる頃、同時に草木と潮風の匂いや動物たちの鳴き声。人口的な騒音のない環境が一定に刻むさざ波の音を心地よく聴かせてくれる。
初期位置は浜辺と視界の悪そうな森の入口との間。
限られた時間内で限られた持ち物しかなく、ゼロから始めなくてはいけない初日だ。間違えられない大事な第一歩目を、今――――
「じゃあココ拠点で」
「ん」
「そだねぇ〜」
踏み出さない選択であった。
読みにきてくださって、ありがとうございますね〆
長くなりますが、実際に悠真たちが参加する企画の資料を下記に置きました。
時間に余裕がある時にでも、ぜひご確認くださいね。
↓
無人島サバイバル配信の概要とルール
二一三〇年 九月一日現在。
無人島サバイバル"二一三〇"配信企画の概要とルールについて。
――第一に、本企画の舞台なるのは全て仮想世界内であるが世界内で起きる事象並びに"モノ"にあたる存在は、全て現実世界の定義に則って創られた『ノンフィクション』である。――
「概要」
○参加プレイヤーは、無人島生活をゲーム内にて体験してもらう。
○ゲーム内時間では一日の経過時間が十二分固定であり、参加プレイヤーは最大で十五日間の配信活動を進めて頂く。(推定所要時間:〜四時間)
○一日の経過が常に十二分と決められているが、参加プレイヤーはゲーム内で活動する限り、現実空間との体感時間に大きく差が出ないようになっている。これにより、配信を視聴する側は参加プレイヤーの送る生活をダイジェスト配信として流す。
○五感に関しても現実空間との体感に大きく差が出ないようになっている。また、各感覚のパラメーターを個人でいつでも調整可能。
○予め結成した各チーム毎に下記の無人島が用意されている。
○舞台となる無人島を参考にしたのは、二一一〇年八月二日―二十六日の期間内にあった伊豆鳥島である。
○仮想世界内のモノ含め、参加プレイヤーの活動と干渉が可能なのは、現在の伊豆鳥島にある硫黄山の最高地点を中心に八百ヘクタールの円を描いた範囲内である。(範囲内の端には赤い半透明色の結界がある)
○天候については、今現在より二〇日前の記録から十五日間の伊豆鳥島を模したものである。
○本企画の配信中にのみ、視聴者は各チームに向けて仮想通貨を送金可能。本企画の終了後に、総金額の九〇パーセントを即時受け取り可能。(残りの一〇パーセントは本運営側に渡ります。ご了承くださいませ)
「ルール」
○指定されている範囲内でサバイバル生活を送る。範囲外へは進入不可。
○参加プレイヤーは、予め指定した道具を一人につき一品持参可能。大小重さ等問わないが、現在までにインターネット上で売り出されている正規品のみを選択してもらう。
○参加プレイヤーは、予め結成したチームのメンバーが全て脱落の場合、チャレンジ失敗となる。
○各チームは、ゲームがスタートしてから三日目の午前一〇時までに拠点を報告しなければならない。報告が遅れた場合、チャレンジ失敗となる。
○参加プレイヤーは、生存の判断を各数値化されており、【体力】が0になれば脱落となる。各数値は下記の通りだ。
▪️【体力】上限:二〇、初期値:一五
▪️【正気度(ストレス値)】上限:一〇、初期値:五
▪️【水分量】上限:一〇、初期値:八
▪️【満腹度】上限:一〇、初期値:八
▪️【肺活量】上限:一〇、初期値:一〇
▪️【心拍数】状況に応じて
▪️【体温】一律平温:三六.五度
※参加プレイヤーは、体力が0になる寸前に仮想世界での活動を強制停止する。現実との感覚に差異が生じるのを避けるための措置である。
「勝敗条件」
ゲームマスターが全体に提示したミッションから得られるポイント制で競う。
ポイントの確認と詳細は、日付が変わり次第随時更新する。
本年度のミッションは以下の通りである。
【一】無人島サバイバル生活を十五日間生き延びたプレイヤー数。
(一人につき二〇点。全員生還でさらに五〇点増し)
【二】必要最低限度の、【衣食住】のある生活が送れているか。
(視聴者投票により、肯定派が五〇パーセントを超えて十五点。八〇パーセント以上からは小数点切りで一点ずつ加点される。最大二〇点増し)
【三】予め持参した道具を使って豊かな生活を送れているか。
(視聴者投票により、肯定派が五〇パーセントを超えて十五点。八〇パーセント以上からは小数点切りで一点ずつ加点される。最大に〇点増し)
【四】各領域のレア食材を手に入れ調理し、生存メンバー全員が食したか。
(領地食材:十点。領海食材:十点。領空食材:二十点。一食完了する度にそれぞれ加点される。最大五〇点増し)
【五】それをフィクションとしたか
(無条件で勝利)
※最終結果発表時、登録したチームの総メンバー数に応じて、素点から追加で得られることがあります。
※仮想世界内では、予想だにしない干渉により不具合を引き起こす可能性があります。また、それにより現実世界でもやむを得ない事象が起こる事もあります。
その際は全プレイヤーの安全と保証が取れ次第、急遽皆さまの仮想世界内での活動を強制停止させる場合があります。ご了承くださいませ。
※質問等の受付は公式サイトの問い合わせホームから。




