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白いダンデライオン  作者: わがはい
無人島サバイバル生活
3/3

無人島で生活して荒稼ぎします

それは、たった一人の少女を救うための、世界一優しい『嘘』と『わがまま』

 喜々(きき)(かなえ)のわがままにより、まさかの素人集団だけでゲーム開発と運営を始めることになった、怒井(どい)悠真(ゆうま)(らく)理恵人(りえと)

 彼らがまず手に入れるべきと声を揃えたのが"資金"だ。一先ずの目標金額は、五〇万円。

 具体的な予算なしでは、最初と中長期的な計画を立てずらいという判断からである。

 

「事業所の賃貸費、設備費、人件費、開発費、資材費、維持費、研究費、広告費、その他諸々。俺ら学生の身分で全部を揃えようなんて末恐ろしいことは、資金源が確立してからにしよう。会社の立ち上げからせずにサークルくらいのノリから始める」


 忘れてはいけないのが、彼らは観光学科という点だ。

 ざっくりと五〇万円を目標にしているのには、なんとなくそれくらい掛かりそうという偏見からくる素人計算である。

 今後襲いかかってくる桁違いの額に発狂するとも露知らず。

 

「そだねー。場所は三人のうちの家で人件費も最低限生活できてたらいいよね?」

「ん。最初のうちは、下積み」

「アルバイトして何ヶ月後だ? もうすでに考えたくねぇよ。手っ取り早く手に入れる案がある者は挙手を」


 はい! と、間髪入れず元気よく両腕を上げる叶に、また無謀な提案をしてくるのではないかと悠真は恐る恐る訊ねる。


「超ちょうチョーっ人気配信者の"シオン"さんが開催する企画、『無人島サバイバル生活』の素人枠に参加するのはどーですか!」

「知りません誰ですか。素人枠が設けられてるってことは、他の参加者はアスリートとか有名人だったりする?」

「ん。仰る通り」


 空気の読める理恵人は、叶の話を聞いた途端に検索を掛けてしまえる男である。

 彼が見せた液晶画面に映るのは、ある生配信のアーカイブ。

 自然豊かな木々が青く生い茂げ、そよ風に揺れる多種多様な草花が人の手は加えられていない環境だと告げる。

 とんでもないポリゴン数を使って描画されているのであろう波打ち際は、本物の無人島さながらの景色と言えるだろう。


「これ本気で無人島行くとか言わないよな……?」

「もちろん仮想世界(バーチャルリアリティ)だよ。個人事業者が無人島貸し切って毎年サバイバル生活企画するなんて、そんなお金の使い方石油王でもしないよ」

「まあでも。相当な額が、動いてそう」


 素人目線からでも分かる。何かめっちゃぬるぬる動いてて逆に気持ち悪い、と。

 企画の参加者と思しきいくつかのグループが、火起こしやら家づくりやらを懸命に頑張っている姿が映る。

 どうやら、スワイプして各グループ視点のダイジェストを選び観れるようだ。編集マークの付いていないアーカイブ映像となると、配信中も各ダイジェストを集中的にも視聴可能ということになる。


「名前だけでも知ってるような人たちが結構参加してるから、素人枠に興味ない視聴者さんはみんなそっちに目が行っちゃうかもね。あはは!」

「あははっ、提案しといて余計なこと抜かしちゃうんだね叶さん? ただ面白そうだから参加してみたいってわけじゃないよな」

「そ、それは! 違わな、いけど……。でもでも、去年の素人枠参加の人たちが()()()()()も稼げたんだよ!?」


 事例がある、と叶は理恵人の電子タブレットを奪い取り両手の人差し指で荒々しく検索を掛け始めた。

 そして強引に顔に押し付けてきた液晶画面には、企画の総合ランキング順に並べられた参加グループの名簿と、"獲得賞金総額"の欄がある。

 着地した順位に応じて獲得できる賞金ではないのか、悠真はタブレットを引き剥がして金額が不規則にばらついていることについて言及する。


「それで噂の素人枠さんは、——最下位なのか」

「からくりは、何?」

「ふっふーん。知りたい知りたい? えへへへへへー実はねぇ——」

「嗚呼、投げ銭か」

「なんで言うねん」


 空気の読めない悠真は、叶のドヤ顔を見た途端に正解を言えてしまえる男である。

 配信における投げ銭機能とは。配信活動を行う制作者やそれに準ずるクリエイターに、そのウェブ配信サービスの利用者——視聴者が任意で好意的に金銭などを寄付する機能である。

 つまりは、素人枠でもバズれば値千金のチャンスだと叶は鼻息荒く訴えかける。


「バズればいいだけなんて、そんな簡単な話じゃないだろうけども」

「ん。時間と労力をかければ、誘導できなくも、ない。開催日、いつ?」

()()だよぉ」

「……」

「……」


 それはもう、どう足掻こうが参加せざるを得ない案件なのでは?

 あまりに急な宣告に重くなった(まぶた)を辛うじて開き、虚無の表情でそう訴えかける悠真と理恵人であった。



 ——無人島サバイバル生活企画の開催日。

 全てを諦め、運命に身を委ねることにした悠真は大きな欠伸(あくび)をし、素人枠に設けられた控え室でその時を待つ。

 理恵人は(おもむろ)にせんべいを頬張るが、拍子抜けしたのか鼻で嗤う。


「ここじゃまだ味しないんだな。さっきから叶にデコピンされてるけど全然痛くない」

「私もー。指先痛くないよ」

 

 控え室といっても、ここもすでに()()()()()だ。

 机に用意されたお茶やうけ菓子、ロケ弁なんかも無味無臭。味覚と聴覚のみが機能しているので、他の完全没入型VRイマーシブ・バーチャルリアリティ作品となんら変わらない感覚である。

 企画の概要書には、人間の持つ五感をも仮装世界内で機能していると記載があり、彼らにとっては初めての体験で楽しみにしていたことだった。


『喜々叶様。怒井悠真様。楽理恵人様。これより——』

 ライブ配信開始まで残り三分。機械的に無機質なアナウンスが掛かるとともに、控え室ドアが開かれる。

 ここを通り抜ければ、いよいよ仮想世界における無人島サバイバル生活が体験できる。

 そのワクワク感が三人の期待を膨らませ、またあの儀式を行う。


「それじゃあせーのっで行くよ! ——せーのっ」

「せ、せーーぇの」

「……せの」


 いつも通り。合った試しがない儀式を。

読みにきてくださって、ありがとうございますね〆

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