悪友たちの予感
俺の名前は柏木陽斗
篠原と久我とは高校入学以来なんとなくノリが同じ的な感じで、つるんでるんだけど…
朝の教室。
いつもと同じ机、同じ音、同じ景色。
……のはずなんだけど。
篠原 湊、様子おかしい。
いや、正確に言うと——
おかしいのは「顔」だ。
表情がな?いつもより2ミリ柔らかい。
あの氷点下みたいな無機質フェイスが、ほんのり常温。
怖い。
いや感動?いや怖い。
俺「なぁ久我、今日の篠原……なんか……春?」
久我「は?11月に何言ってんの。脳みそ休憩入ってる?」
俺「いやだって見ろよ。あいつの口角、0.5度上がってる。」
久我「………………(ガチで比較し始める)」
久我「……上がってるわ。」
ほらな。
篠原は席につき、ノートを開いている。
……が。
視線が一定の間隔で斜め前に流れてる。
その先には——佐伯 由奈。
地味だけど、空気綺麗なタイプ。
喋り方も静かで、雰囲気優しい。
……で、今。
その佐伯が、ほんのり耳まで赤い。
俺(……これセットだろ。)
篠原→たまに見る。
佐伯→見られて気づく。
篠原→目逸らすくせに口元だけ小さく動く。
佐伯→息止まる。
これ恋愛漫画の3ページ目の空気だぞ?????
二限の休み時間。
俺は自然を装いながら近くに行く。
(装う時点で自然じゃないけど気にしない)
俺「篠原〜プリント回すぞ〜?」
篠原「……あぁ、そこ置いといて。」
声が柔らかい。
いつもなら “置いとけ” の一択なのに。
久我が横でボソッ。
久我「シンプルに気味悪い。」
俺「だろ?恋してる人間の声の出し方してるよな?」
篠原「聞こえてるぞ。」
俺「聞こえさせてんの。」
篠原「殺す。」
あ、いつもの篠原戻った。安心。
昼休み。
パンをかじりながら、再び観察。
篠原→無表情で食べてる。
でも視線は一定のリズムで佐伯へ。
佐伯→気づくたび、髪触る癖が発動。
(※女の子の「髪触り」は緊張・意識してる時の反応説、俺知ってる。)
久我「おまえさ、観察しすぎじゃね?」
俺「違う。これは生物の研究。」
久我「恋バレ研究だろ。」
俺「そうとも言う。」
久我「で、結論は?」
俺「——あいつ、付き合ってる。」
久我「証拠出せや。」
俺「証拠?ある。」
久我「どこに。」
俺「目。」
久我「あぁ…………それはもう確定。」
放課後。
篠原が佐伯さんの席の前を通る。
その瞬間、ほんの少し声のトーン下がる。
湊「……帰り、あとで。」
佐伯「……うん。」
短い会話なのに空気の密度だけデート前。
俺と久我はその横を通りながら、小声で囁く。
俺「(なぁ)」
久我「(あぁ)」
俺「(確定でいいよな)」
久我「(むしろ昨日からだった気がする)」
俺「(いや先週だな)」
久我「(いやもっと前だろ)」
俺「(歴史感じるな)」
篠原「全部聞こえてる。」
俺・久我「解散。」
帰り道。
靴箱で篠原に声かける。
俺「なぁ篠原」
篠原「あ?」
俺「べつに言わんでいいけど。」
篠原「……何。」
俺「大事にしろよ。噛み合ってるの、珍しいんだから。」
数秒の沈黙。
篠原「……言われなくても。」
返事、速い。迷いなし。
その声が、妙に優しくて。
そして悔しい。
俺「……はいはい、惚気先行型男子〜」
篠原「殴るぞ」
俺「それはやめろ、鼻曲がる。」
久我「もう曲がってる。」
俺「おい。」
歩きながら、ふと思う。
(恋って、バレるもんだな。)
本人たちは隠してるつもりでも、
空気が全部答え持ってる。
そして、その空気がどこか眩しくて。
俺は少しだけ笑った。
(……まぁ、見守ってやるか。)
篠原、佐伯。
バレてないと思ってるだろうけど——
青春なんて、
バレて、茶化されて、
それでも好きが崩れないやつだけが残るんだから。




