もう一匹
ブクマ、評価ありがとうございます。やっと激突までの目途が付き始めました。ご感想、ご意見ありがとうございます。書き手は毎日見させていただいてます!!大感謝!!
由香に断って崇に触れさせてもらった。
自分よりはるかに小さな体でここまで身体を張って好きな女を守ったのだ・・・
尊敬しかなかった。自分なんかよりはるかに大きく見えた。
崇は隆文の憧れになった。どれだけいる?ここまでできるやつがどれだけいるんだ・・・
俺は自分が死んでいた。だから自分の事など顧みないでやってきた。
・・・でも崇・・・お前は違う・・・お前は精いっぱい今を生きていた。そのうえでここまでできた。やった。俺とは違う。本当に他人のために生きたままここまでやった。
・・・カッコいいよ・・・崇・・・憧れるよ・・・
・・・崇・・・崇・・・頼む・・・もう一度俺と話してくれ・・・もう一度俺と仕事をしてくれ・・・一緒に人を助けて行こう・・・もう一度俺に夢を見させてくれ・・・頼むよ・・・一緒に生きてくれ・・・俺の・・・初めての・・・本当の友達・・・
何かがわいてきた・・・隆文の中から何かがわいてきた。
感情だった。もう死んでいたと思っていた感情だった。死人として生きてきた隆文に感情がわいてきた。それは暖かいものだった。変えようもないものだった。
目の前の友達を助けたい・・・そんな思いが沸き上がってきた。
イルムトでは魔力など全くなかった。隆文自身に魔力など一つもなかった。だから隆文ではなかった。熱い、暖かい、柔らかい、包み込まれる・・・そんな物が沸き上がってきた。
・・・そうか・・・これは・・・ヴァンプ・・・お前か・・・お前が助けてくれるのか・・・
そうか・・・俺は一人じゃなかったな・・・お前が俺の中に居たな・・・
馬鹿だな俺は・・・全部ひとりでやろうとしていた・・・
お前もいたのにな・・・なあ・・・力を貸してくれ・・・この素晴らしい男を助けるために俺に力を貸してくれ・・・
・・・やっと俺を頼ってくれたな・・・
そんな声が聞えた・・・
・・・流れてくる・・・流れていく・・・
俺の身体から暖かい物が崇に流れていく・・・崇・・・生きろ・・・また一緒に飯を食おう・・・一緒に土嚢を運ぼう・・・一緒に夢を見よう・・・
由香はそんな隆文を見続けていた。
隆文は泣き続けていた。その姿は神々しかった。全てを受け入れ、それでも進む聖者のようであった。本当に・・・本当に崇の事を思って涙している姿だった。
口を挟めなかった。奇跡の光景だったのだ・・・
どれだけの時間がたったのだろう・・・
「・・・う・・・あ・・・」
崇の口から声が出た。
「崇!!崇!!」「お兄ちゃん!!」
「・・・あ・・・隆文君?・・・由香?」
「そうだ!!隆文だ!!」
「お兄ちゃん!!身体は!!」
「なんかね・・・あったかいんだ・・・ぽかぽかしてすっげえ気持ちいいんだ・・・隆文君と由香がいてくれるからかな?」
「・・・馬鹿野郎・・・」
「俺ね・・・隆文君に言いたいことあるんだ・・・聞いてくれるかな?」
「なんだ?なんでも言ってみろ!!!」
「・・・俺守れたよ・・・警察来るまでだけど・・・好きな女の子守れたんだ・・・隆文君みたいに頑張ったんだよ・・・」
「・・・崇・・・」「お兄ちゃん・・・」
「隆文君は俺の憧れだからさ・・・だから隆文君みたいになろうって思えたんだ・・・へへへ・・・おれ頑張っちゃった・・・」
「・・・すげえよ・・・崇・・・お前はすげえよ・・・」
「もっと頑張って・・・隆文君と一緒にみんなを守るんだ・・・助けるんだ・・・」
「・・・ああ・・・そうだな・・・一緒に助けような・・・」
「・・・あと・・・隆文君・・・」
「・・・なんだ?なんでも言え・・・」
「・・・あいつ泣いてたよ・・・俺をやったあいつ泣いてた・・・」
「・・・お前をこんなにした奴か・・・」
「・・・子供だったよ・・・泣いててもうどうしてもいいか解らない子供だった・・・」
「・・・そうか・・・」
「・・・会ってあげてよ・・・」
「・・・解った・・・任せておけ・・・」
「・・・良かった・・・」
「・・・今はゆっくり休め・・・な?お前は頑張りすぎるくらい頑張ったんだ・・・後は・・・任せろ・・・」
「・・・へへ・・・やっぱり・・・隆文君はかっこいいなあ・・・」
崇は眠りについた。先ほどよりも安らかな寝顔だった。
「・・・会いに行くんですか・・・」
由香が恐る恐る言った。話では人間とは思えないほどの力を持っているらしい。喧嘩慣れした崇をここまでに出来るのだ。想像もつかなかった。
「・・・会う・・・俺もどうやらまだまだらしい・・・抑えきれん・・・崇をこんな目に合わせた奴をこのままにしておけない・・・死人ではない・・・今まで生きてきた小松原隆文としてそいつに・・・都築義明に会う・・・」
隆文は初めてと言っていいほどの怒りを持っていた。子供だと言っていた。だからどうした。子供だろうが何だろうが・・・やった事への責任は取らせなければいけない。友達をここまでにされて・・・黙って居られるわけがない。
朋子など関係ない。朋子と義明に何があったのかなど関係ない。崇が傷つけられた。それだけで十分だ。よくもやってくれた。我慢が効かない・・・
初めてだった。ここまでどうにもならない感情は初めてだった。
隆文は生まれて初めて怒りに支配されていた。
由香の目の前で隆文の身体が大きくなった気がした。
筋肉の一本一本が見える程パンプアップしていた。
身体から蒸気が出そうなほど熱くなっていた。
眼の奥がちかちかした。頭は沸騰したようにグラグラと煮えたぎっていた。
自然と口から出てきた・・・
ふううーーーーー・・・がふうううううーーー・・・・
ここにもう一匹の狂獣が生まれた・・・
隆文は猛る身体を押し殺して街に消えて行った・・・
少し後・・・崇は再び目を覚ました。
「・・・あれ・・・隆文君は?」
「・・・行っちゃった・・・」
「・・・そうか・・・行ってくれたのか・・・さすが隆文君だ。」
「・・・でも、隆文さん・・・凄い怒ってたよ・・・」
「大丈夫・・・心配するな、隆文君は解るよ・・・あいつに会えば解るさ・・・」
「・・・でも」
「あいつもね・・・同じ匂いがしたんだ・・・」
「え?」
「俺たちと・・・隆文君と同じ匂いがした・・・だから隆文君じゃなきゃダメなんだ・・・あいつは隆文君に会わなきゃいけないんだ・・・俺みたいに。」
「お兄ちゃん。」
「隆文君なら大丈夫、なんせ俺の憧れの人だからな。」
そう言って崇は満足そうに笑った。
「・・・お兄ちゃん・・・聞いてほしいことがあるの・・・」
「・・・なんだ?」
「小松原朋子。」
「そういえば、朋子はどうした?無事か?何か怪我とかしてないか?」
「・・・お兄ちゃん・・・お兄ちゃんが誰と付き合おうがかまわないの・・・でも・・・あいつだけはやめて・・・あいつだけはだめ・・・絶対にダメ・・・」
「?どういうことだ?」
「小松原朋子はお兄ちゃんが付き合っちゃいけない・・・そんな奴じゃないの・・・」
「・・・話してくれるか・・・」
「お兄ちゃんが・・・そんな怪我をしたのも、あいつのせいなの・・・」
そして由香は話し始めた・・・朋子がやってきた事を・・・
周りめぐってそれぞれの考えが渦巻いていく。果たしてどこまでがおかしくてどこまでが正常なのか解らないままに・・・それぞれがそれぞれの考えにおかしく、壊れていった。
誰が悪いのか、何が悪かったのか、どうしてこうなったのか。
ただ、そこに残った物は壊れてしまった者たちばかり。
隆文も朋子も義明も・・・もう誰が悪かったのか解らない。
すいません、力尽きました・・・短くてごめんなさい




