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帰ってきたその後で・・・  作者: ヒラゾウ
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竹原=狂犬

今さらですが、竹原君です。どんどん危ない人が増えてますねえ・・・どうしてこうなった・・・

・・・竹原は気が付いた。


頭に強い衝撃を受けたせいで直前の記憶があいまいだった。

隆文と試合を始めた事は覚えている。

その後自分がどうしたのか良く解らない。

股間が冷たい・・・なんだ・・・


ゆっくりと身体を起こした。

ずきりと頭が痛んだがほかに痛むところはなかった。


「・・・俺は・・・」


「おい」


声がかけられた。佐々木が傍に来ていた。

眼が違った。佐々木の自分を見る目が違った。

今までのような自分を擁護するような眼ではない、

まるでゴミを見るような眼で見られた。


・・・なんだ?・・・なんでこいつ、俺をこんな目で見るんだ?


「起きたのならさっさと着替えて掃除をしろ。お前の小便で畳が汚れた。」


小便?俺は小便を漏らしたのか?どうして?


「・・・ふん・・・頭を打ったせいで忘れているようだな・・・いいか、お前は負けたんだよ、勝負にもならなかった。相手にもされないでバーベルで殴りかかって勝手に自分でバーベルに頭をぶつけたんだ。」


・・・負けた?俺が隆文に?馬鹿な・・・だって俺は強いはずだ・・・隆文なんてただ身体がでかいだけの間抜けじゃないか・・・


「それでみっともなく気絶して小便を漏らしたんだよ。思い出してきたか?」


そんな・・・馬鹿な・・・そんなみっともない事、この俺が・・・

そんな役目は隆文の役目じゃないか・・・俺が・・・俺がそんな・・・


その時気が付いた・・・空気が冷え切っている。

周りの部員たちを見たらみんな同じ目をして俺を見ていた。


・・・ゴミを見る目だ・・・俺たちが隆文を見ていた目だ・・・

・・・いや、違う、隆文を見る目は侮蔑の目だった。

今のあいつらはその上に怒りを乗せて俺を見ている。


それを見て背筋が冷えた。

氷をいきなりあてられたように身体が固まった。


・・・本当なのか?・・・俺は隆文にそんな無様に負けたのか?


身体が動かない、思い出せ、思い出せ、

どうやった・・・俺はどうやったんだ・・・


「お前ら、今日は帰れ。畳が汚れて使い物にならん。掃除はそこの間抜けにやらせる。」


間抜け。俺の事か?俺に向かって間抜けと言ったか?

この野郎!!ぶち殺してやる!!!


ずきり・・・


動こうと思ったら頭が痛んだ。・・・そして思い出してきた・・・

・・・ああ・・・隆文の体つき、対面した時の隆文の異様さ・・・何も通じなかった・・・通じる以前のレベルの違い・・・そして、俺を怪我させないように優しく手を抜いていた事・・・


嘘だ・・・嘘だ・・・俺がそんなとんまなことをするはずがない・・・

隆文にされるはずがない・・・だから・・・嘘だ・・・


「おい、竹原お前は明日から小松原に教えてもらえ。馬鹿で間抜けなお前でも小松原の練習台くらいにはなれるだろう。お前にはそれがお似合いだ。」


佐々木はそう言って出て行った。

部員たちも冷たい目で俺を見ながら出て行った。

誰も俺に声をかけなかった。


身体が動かない・・・動く気力がない・・・


雑巾を持ってこないと、着替えないと、掃除しないと・・・糞、隆文が居ればあいつに掃除させるのに、なんで俺が・・・


畳に染みになってしまう。動かない。


俺は道着を脱ぎ始めて何とか膝をついて小便を拭き始めた。

パンツもぐしゃぐしゃだったから全部脱いだ。

道場で一人素っ裸になった。


小便にまみれた道着で自分の小便を拭き始めた。

日も暮れ始めた道場で素っ裸で何も考えずに臭いものを拭き続けた。


・・・俺は強い・・・だから間違いだ・・・これは間違いだ・・・隆文が何か卑怯な亊をしたんだ・・・だから俺はこんな目に合ってるんだ・・・隆文のせいだ・・・俺は強いんだ・・・隆文が悪いんだ・・・臭いのも、間抜けな恰好なのも隆文が悪いんだ・・・


勝手に口からぶつぶつ出ていた。

小便にまみれた道着を洗濯機で洗って干して部室を出た。

もう真っ暗だった。

どこをどう歩いているのか解らないまま家へ帰った。


次の日。体が動かず学校を休んだ。頭の中は空っぽだった。


その次の日学校へ行った。周りの目が違っていた。

冷たいゴミを見るような眼で見られた。

今まで俺にへこへこしてたやつらも手のひらを返したように無視された。


俺は強い、だから好き放題できる。

誰もが俺の言いなりになる。そうだったはずだ。

なんで俺がこんな態度をとられなくては行けない。

クラスに入ろうとしたら声が聞こえた。


「・・・今日来るのかな、あいつ。」


「いっそ、死んでくれれば良かったのにね。本当に」


「でもそれだけ大恥かいたんだからもう来れないんじゃない?私だったら自殺ものだもん。」


「解んないよ、あいつ凶暴なうえに底抜けの大馬鹿だから。」


「空気読むことのできる頭なんてないからねえ。なんで高校に来れたのかなあ。」


「自分が嫌われてるなんて感じてないんでしょ。空気読めないってすごいよね。」


「大恥かいたうえでしれっと登校してきたら本当に〇〇〇だよね。」


「竹原って書いて〇〇〇、その通りだね、あはははは・・・」


クラス中が笑い声に包まれた。

頭が真っ赤になった。

今すぐ飛び込んで目茶苦茶にしてやろうと思った。


「竹原、校長室へ行け。」(学長は大学、経営者であれば理事長、以下同じ)


後ろから声をかけられた。担任の教師だった。

いつもはどこかおどおどと俺の事を怯えた目で見ていたが、周りと同じゴミを見るような眼で俺を見ていた。


・・・こいつもか・・・


クラスの連中はまだ外に俺がいることに気づいていないのか笑い続けていた。

無性に癇に障った。

・・・お前ら、帰ってきたら地獄を見せてやる・・・


担任を睨みつけて俺は学長室へ向かった。

俺の事など忘れたように担任は教室へ入って行った。

こいつも地獄を見せてやる。


学長室へ入ると柔道部の奴らと佐々木がいた。

佐々木は真っ青な顔をしていた。部員も下を向いていた・・・

何だ?・・・何があったんだ。


「・・・来たか・・・」


苦虫をかみつぶしたような顔で学長がそういった。

俺は佐々木の隣に立つように言われた。

佐々木は俺が隣に立つと俺を睨みつけてきた。

ゴミを見るような眼ではない、心底憎いものを見る目で見てきた。

後ろの部員たちからも同じような視線を感じた。

なんだ・・・何があった・・・


学長はパソコンを操作してある音声を再生し始めた。


・・・一昨日の柔道場での出来事がすべて入っていた。

高性能なボイスレコーダーは小さな音まですべて拾い上げていた。

音だけでそこで何があったのか手に取るように解った。


・・・思い出した・・・音声とともに思い出した。本当だった。

俺はこれ以上ないほどに間抜けだった。


自分で喧嘩を売り、自分の好き放題に出来る所に呼んで、多数で囲み、試合だと言って自信満々で挑み、何もできず気を使われて、ただあやされて、それに我慢できずに駄々っ子のように殴りかかって、最後には凶器を使った挙句その凶器に頭をぶつけて小便を漏らして気絶した・・・


本当だった。これ以上ないほど間抜けな男が音声の中に居た。


やがてたっぷりと時間をとり、音声が終わった。


「・・・何か言いたいことはあるかね。」


誰も何も言えなかった。

佐々木は顔色を無くし身体を震わせていた。

部員は下を向きながら真っ青な顔をしていた。

竹原は吐物が喉までこみあげてきていた。


「・・・これはコピーしたものだ。元の音声は先方がもっている。しかるべき処分が下されないときはマスコミに伝え、ネットで音声を流すそうだ。・・・そうなったらどうなるか、頭の悪い君達でも解るだろう。・・・佐々木君。」


ビクンと佐々木は身体を縮こませた。


「君はいい大人なんだから、もう自分がどうすればいいのか解るよね。この話は教育委員会まで行く。君は懲戒解雇になるだろう。」


「・・・そんな・・・せめて他の・・・」


「あると思うのかねそんなところ。これが外に出たら君は逮捕だ。好き放題やってたんだろう?全部話さなければいけなくなるぞ。その結果どうなるか・・・解るね、いい大人なんだから、懲戒解雇で済ませるだけありがたいと思いなさい。」


佐々木は気を失ったようにへたり込んだ。

股間に黒い染みが浮かんできた。


「柔道部は廃部とする。そして君たちは一週間の停学だ。自宅謹慎をして外に出るな。家族にはもう伝えてある。しっかり反省しなさい。」


「廃部・・・そんな・・・」


「先方は処分を求めたが具体的にはどうしてほしいかなど言ってなかった。だから先方が納得できること以上の事をせねばならない。場合によっては弁護士を間に挟むと言ってきた。そうなったときは君たちももうこの学校にはいられないだろう。だから廃部だ。そうすれば卒業はできる。・・・いいか、君たちに選択権などない。それだけの事をやったんだ。」


部員たちは膝が笑いだした。

立っているのも辛そうだった。

竹原は口を押えて吐物を我慢していた。

もう何も考えられなかった。


学長は話は終わったと退室を命じた。


佐々木を部員たちが両脇から抱えて連れ出した。

竹原も部員に引っ張られて外に連れ出された。


外に出た瞬間、どんと背中を蹴られた。

竹原がいきなり何をすると振り返ると、部員全員28の憎悪のこもった視線が竹原を睨みつけていた。


・・・お前のせいで・・・死ね・・・ゴミが・・・


そう言っていた。竹原は動けなくなった。

唾を吐きかけられて部員たちは去って行った。

竹原はすぐにトイレに駆け込んで盛大に嘔吐した。


柔道部が廃部・・・それは竹原の終わりを意味していた。

強さだけが頼りだった。強いから何でもできた。

好き放題できたのだ。

それを全部無くした。隆文に全部ぼっきりと折られた。

自分がこれからどうなっていくのか、もう竹原は解らなかった。


トイレからうげえええ・・・おえええええ・・・・という声だけが聞こえた。


そして停学が開けた日、自分より下だと思っていた奴に一撃で負けた。

無様にのたうち回った。また吐いた。


もう居場所など学校にはなかった。


王様から奴隷に落ちた。みんな竹原を無視した。いない者として扱った。


竹原は退学になった。自分では何もできず退学になった。

縋る物はこの期に及んでも強さだけだった。

だから自分の強さを確認したかった。

そうしないと竹原は生きていけなくなっていた。


竹原は狂犬となった。毎晩街を徘徊した。


そして・・・また負けた。ただの負けではない。

何をしてもきかなかった。全部無駄であった。

そして十分に手加減されたただの一発で沈んだ。


気が付いた時は誰もいなかった。また相手にもされなかった。

動かない身体で壁に思い切り頭をぶつけた。

何度も何度もぶつけた。

顔中血まみれになった。俺は・・・強い?


・・・どこが・・・


竹原は泣きながら頭をぶつけ続けた。


そしてさらに狂った。手当たり次第に喧嘩を売った。

もう一度あの大男に会いたかった。

今度はどんな事をしてでも殺してやる。

俺が甘かった。武器でもなんでも使えばよかった。


見つけたら後ろから思い切りえぐってやる。

いきなり股間を蹴り上げて潰してやる。


殺す殺す殺す殺す殺す殺す・・・・・

俺には殺す覚悟が足りなかった・・・

だから負けたんだ。どんな事をしてもぶっ殺す覚悟だ。

それがあれば・・・


あいつは隆文と似ていた。だから隆文だ。

全部、俺がこうなったのも隆文のせいだ。

だからあいつを殺せばいいんだ。

そうすれば全部上手くいくんだ。


ひひひひひひひひ・・・・


竹原は狂った。狂犬から害獣へとなった。


害獣は今日も街を徘徊していた。


竹原君はどこまで行くんでしょう・・・

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