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14  生きるために、カルチャーショック

 あれから随分と時が経ち、俺は10才になる。

 今は生きる上での基本はそつなくこなせるまでになっている。


 畑はもとより山菜取りに薪割り、裁縫、洗濯、料理、掃除に果てはちょっとした日曜大工まで。

 排泄物の処理もだ。糞尿は森の汚物捨て場の穴に持って行き、溜まったら定期的に熱処理をする。ただ火をかけるだけだが。可燃ガスが出ているらしくその火柱は壮観だ、くさいが。

 森に延焼しないようにその場はかなりの広さを確保している。匂いも中和するように香りの強い草花も植えてある徹底様。


 江戸時代では厠のそばに金木犀を植えて匂い消しにしてたんだっけ?

 汚物処理業者もいて定期的に回収して肥溜めに。それを畑の肥料にしてたとか。


 だがこちらの世界ではそれはせず、畑に家畜の糞を使っている。

 その肥料への処理は「前世」のと同じやり方のようだ。



 しかしその家畜が奇妙で、いや、俺の中身は「地球人」なわけだからこの感覚は当たり前か。

 慣れるまで時間が掛かった。こちらでは当たり前が俺にはカルチャーショックなわけだから。



 体は馬ほどの大きさ、羊の様な全身白い毛むくじゃら。

 牛の様に乳を搾れて、その肉の味は豚に似ている。そして鳴き声は・・・

 低く唸るように「ガオー」

 その性格はおとなしく穏やかで忍耐強い。顔付はキリン・・・と。



「詰め込み過ぎぃ!」

 初めてそれを知った時には思わず突っ込んでしまった程に。カオス、キメラだ。



 だがしかし、この詰め込み過ぎハイブリット動物、一匹で家畜としての用途がほぼ満たされるので都合がいい。

 良過ぎる、デメリットも無い。何こいつ怖っ!と恐れおののくくらい完全無欠。餌も草食で、刈った雑草を与えるだけでもOKと隙が無い。


 そんな生物はこの世界では「当たり前」。その名は「マホン」。



 そんな当たり前の生活の合間にも、やはり筋トレと型稽古は欠かしませんでした。


 だってさ、「強さ」もないとトラブルに巻き込まれたりしたら、自分の身は自分で守れないと。

 降りかってくる火の粉は打ち払わないと。今まで散々絡まれてますから。あの四人組に。


 まあそれは理由の半分もないんだけども。

 前世で日課だったからというのが主な原因。

 空いた時間にする事が無いとね・・・・それしかする事が無い。


「格ゲーがこの世界にあったら即やってるから」


 未だに未練は捨てきれないばかりか増々強くなってるとかね。

 それを打ち払うために身体を動かすともなれば・・・なぁ・・・。



 ここへきてまた新たに身に付けなければならない技能を父から教わる事になっている。


 それは森での狩りだ。この歳になり弓を持ち、森での狩りを許可された。



「もう少し早くできたはずなんだがな・・・」


「また議題に上がってたの?仕方ないよ父さん。俺は気にしないよ。」


 今までこの村に「不幸」は起きてはいない。平和そのもの。

 だが俺への不信感は今でも一部に根付いて払拭できていない。

 村の代表の中にそいつらはいる。

 まぁ、そいつら、ってのがあの四人組の親なんですけどね。



「説明はこれくらいで、細かい事は実地でやりながらにしよう。」


「緊張するなー。頑張らなくちゃ。」


「気負わなくていい。父さんの初めては、一週間毎日駆けずり回ってやっと1匹だった。しかも小物だ。へたくそにも程がある。」



 父は自虐してそう言い、背中を軽く叩いてきた。

 強張っていた身体の力が抜けていく。


「そうだよね。まだまだ時間は残ってる。」


 成人するまで、まだ余裕はある。じっくり腰を据えていられる。慌てなくていい。

 そう自らに言い聞かせて森へと分け入る。



 山菜採りで森の入り口には今まで入った事はあったが、これから行くのはもっと奥だ。

 この村の周囲の森の中は明るい、が、深い。かなりの面積が広がっている。



 何故マホンがいるのに狩りをするのか。答えは単純。

 家畜の数が肉に落とせる程いない。肉にするには寿命がきたものだけだから。



 そして教育だ。森の動物の知識とその狩り方。

 凶暴な獣に遭遇したりすればこちらの命が危うい。それを回避するための工夫や技術。

 森での行動、その警戒心を学ぶ。


 弱肉強食、命のやり取りの場。その怖さを身に沁みさせるため。


 とは言えこの村での狩りで危険な事が起きた事例は今まで無いそうだが。


「止まれ。ゆっくりと、音を立てないように」


 辺りを警戒しながら進んでいた時、父は獲物を見つけたようで小さく声を掛けてきた。


「ここから狙って撃ってみなさい。」


 そう言われ父の指さす方向に獲物がいる事を確認する。

 俺は少しもたつきながらも音を立てないよう慎重に弓を構えた。

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