12 厳しい現実
加護無し、その内容は。
「神の祝福を受けずに生まれた者の事だ。その証拠にお前の毛、瞳は黒い。」
あまりにも鈍い、気付くのが遅い。
今言われて初めてその事実を知る俺。
そんなの仕方ないじゃないか。だって鏡なんて家にはない。
そこでやっと髪の毛を一本抜いて目の前に持ってくる。
(・・・うわぁ、ホントに黒いわ・・・)
水鏡?そんなの気にしていられる余裕などなかった。それだけ俺は焦っていたのだろう。
冷静になってしまえば、それに気付く要素はいくらでもあったが、極力それを身の回りから排除されていた。
髪を切るともなれば、「目に入るから」と目隠しをされて片付けが終わるまで外させようとしない。
そこまでの徹底ぶりだった。
それに俺自身は言葉を学ぶのにそれどころではない精神状態。
この世界に生まれ、自分の目に入るのは少ない情報しかなかった。
父母は金髪、碧眼。老婆にしたら銀髪「白髪」なのだろう。そして碧眼。
畑で見かけた青年も金髪碧眼。子供四人組も金髪碧眼。
当然、俺もそれと同じく、だと思うのは当たり前ではないのか?
「加護無しは忌み嫌われる存在だ。」
鈍感な自分の弁護に思考が逃げていた所に父は続けざまに告げてくる。
「いくつもあるが、その中身は、・・・やれ神に「見放された」だの「罰を与えられた」だの、しまいには「呪い子」「魔人の子」だの、とな。」
その重苦しく悔しそうな言葉に、説得の場でさぞ罵詈雑言を言われているのだろう事を、ありありと感じさせる。
それを聞いた俺も悔しさに身体全体が怒りで硬直する。
が、母の優しい言葉でその力は抜けていった。
「今はこんなにも明るく元気に育ってくれているんですもの。そんな訳あるはずないわ。」
それは父に対しての励ましなのか、慰めなのか。
ただそのセリフに俺の怒りも溶けて消えていく。
「神が加護を我らに与えてくれているからこそ「言葉」が話せると言われている。他にも細かい事に加護は影響していると言われている。」
改めて俺がこの世界で生きていくには厳しい、そう、こんなハンデがあれば余計に。
考えがもっと柔軟にできるようにならなければ、この先の人生詰むだろう。
だがまだ追い打ちをかける事実を伝えられる。それは。
「加護が無い、それにより付随するのがマナだ。」
よく聞くファンタジー設定ではそれは魔法を使うための「燃料」のはずだ。
だがどうも空気が怪しい。この流れだと続く言葉に期待は持てない。
その予想は当たっていた。
「お前の身体には魔力が無い。一切無い。」
それでピンとくる。
「魔」が「無」い。単純だ。
マナ。
ただそれだけの事だ。
俺は別に魔法使いになりたかった訳じゃないから、この事実は別に悲観するものじゃなかった。
ずっと田舎暮らしのスローライフを送ると思っていたから。
今この時まで魔法の「魔」の字すら頭を掠めなかった。
だがそう気楽な話ではないみたいで。
「今まで料理する所を見せていなかったわよね。それは・・・」
母がそう口にすると人差し指を立てて・・・
「火よ」
その一言にジッポライターくらいの火が指先から立ち上がった。




