13 幕間5 使い魔ソルネの日記
第6.5章「ホレヴァ家の兄弟」で、ザックのところに来る予定だったが騎士様の使い魔になった夕日色のスライム君の日記です_(┐「ε:)_
■十月×日
北方騎士隊の騎士ケヴィン・ミュルダールと運命の出会いを果たし、ソルネという素敵な名前を賜ってからはや数ヶ月。
あの頃はまだ雪深かったと記憶しておりますが、季節は巡って既に秋! 間もなくまた冬がやってくる時期であります! 月日が経つのは早いものでありますね!
本日もケヴィンは元気、奥方も元気、子供達も元気なのであります。
勿論自分もいつも通りに食欲旺盛、元気いっぱい職務に励むであります!
■十月×日
本日は快晴。雲一つないいい天気であります。お洗濯日和でありますね!
「量があるから洗濯屋で洗ってこようかしら。干すのは家でいいわ」
なるほど、最近導入された最新式大型手回し洗濯機を試してみたいのでありますね! あれをくるくる回すのが楽しいので子供たちも大張り切りであります!
そういうわけでケヴィンが出勤するついでに、洗濯物を一緒に運んだのであります。奥方と洗濯屋の前で別れたあと、西門の哨所に向かったのであります。
その日は大きな問題もなく、平穏な一日だったのであります。
そして洗い立てのシーツはふわふわほっこり、太陽の匂いがして幸せだったのであります!
■十月×日
本日は土砂降り。
西門の出入りは普段よりずっと少なく、ケヴィンに「今日はそれほど人手を割かなくても良さそうだ。良かったら散歩でもしておいで」と言われたので、ありがたく余暇を楽しむことにしたのであります。
こういう日は外壁の上を散歩するのが習慣。
外壁の上部には見張り塔や歩廊があり、外敵を見張ったり攻撃したりできるような造りになっているのであります。そこを散歩しながら雨のしっとりした街の景色を眺めるのが楽しいのでありますよ。
さらにこういう日は岩や石壁の隙間に……むむっ! いました! いましたですよ!
アルファンホシゾラオオアブ!!
濃紺色に金色のまだら模様の星空みたいに綺麗な羽が特徴のアブで、かくれんぼが上手なので普段はとても見つけにくいのですが、雨降りの日には雨を避けて岩や石壁の隙間に避難する習性があるのです! 雨の日の岩場にしか生えないアメフリヒカリゼニゴケを食べに来ているのですよ!
ちょっとだけじっとしててねー、綺麗な羽見せてねー!
うわああやっぱり綺麗だなぁ星みたいにキラキラしてる! 君は天の川みたいな筋が入ってるタイプなんだね! このシューッと蛇行してる感じの模様が凄いイケてる!
「……あの、食事中なんで手短にお願いできます?」
あっごめんね、もう降ろしてあげるね! 見せてくれてありがとー……ややっ、あの櫓の屋根の裏側に張り付いているのはトウホウルリシジミ!
世界最小種とも言われている外来種の蝶で、東方の貨物船にこっそり乗り込んでやってきて、そのままここで繁殖してしまったちゃっかりさんなのであります。アルファンディックサーモンの鱗くらいの大きさのとても小さな蝶で、幼虫から成虫まで生涯にわたって花の蜜しか食べず、沢山いるわりには見つけにくいというちょっと珍しい種類なのであります!
しかしこういう雨の日には高いところ――例えば高木の葉の裏や高さがある建物の軒下で雨宿りする習性があるので、雨の日の高所こそ狙い目なのでありますよ!
ひゃーちっちゃい! かわいい! ルリィみたいな色に光ってる!
「ルリィとは何者」
ルリィは同胞のスライムなのでありますよ! トウホウルリシジミ殿のような色の愉快で気の良いスライムなのであります! 今度紹介するでありますよ!
「うむ、どうせならば可愛い蝶の女子の方が好みでござる。同族であればなお好し」
なるほどそれは失礼! しかし好みの女の子なら自分で探したほうが間違いないでありますよ。
――とまぁこのように、珍しい虫を観察できる穴場スポットなのであります! 雨の日にお勧めしたい隠れた名所なのでありますよ!
「それにしてもよく喋るでござるな」
好きなことはいくらでも語れるでありますよ!
■十月×日
本日は曇り。
今日も今日とてお仕事であります。一見地味なようでありますが、危険人物や違法な荷物の侵入を防ぐ重要なお仕事なのであります。
自分は若輩の身、大好きな昆虫ならまだしも人間の不審者の見極めはまだまだといったところでありますが、相棒のケヴィンはこの道十年の熟練、相手の仕草や馬車の様子などから不審者を見抜く手練れなのであります。
今日も被害届が出ていた盗品を外部に持ち出そうとしていた男を見事お縄にし、その手腕に惚れ惚れしたのであります。
自分もいつかケヴィンのような立派な騎士になるべく、精進する所存であります!
「いんやぁー、俺もまだまだだよ」
うーん、ケヴィンがまだまだなら自分はまだまだまだまだまだまだであります……!
■十月×日
本日は曇り時々雨。
なんともすっきりしない天気で、西門を訪れた人々も空模様を気にしながら通過していくような日でありました。
今は少し日が出ておりますが向こうの空に真っ黒な雨雲が見えていて、一時間もしないうちにまた降り始めそうな気配が濃厚なのであります。そんなわけで早く入市手続きを終えて、家に帰るなり宿を取るなりしたい人々がそわそわしているのであります。
そうはいっても確認の手を緩めるわけにはいかないのでありますよ……あれ?
ちょっとちょっと、ちょっと待ってください、その馬車に積んでる小鳥の餌用の幼虫、保護対象になっている「雪の女王」が混ざってないですか!?
「えっなになに、どうしたんだいソルネ」
国が保護対象に指定している蝶の幼虫でありますよ! 捕ったら罰金刑に処すでありますよ!
ケヴィンの子供達と作った虫さん特集スクラップブックを見せたら、ケヴィンはビックリしたようであります。
「よく気付いたなぁ……! ほとんど見分け付かんぞこりゃあ……」
それはまぁ、自他ともに認める虫好きでありますからね! お顔のところのチャーミングな斑点が見分けるポイントでありますよ!
「斑点……いやぁ……その二つの塩粒くらいの斑点しか見分けるポイントないじゃん……分からんわこれは……」
業者さんも気付かなかったようですが、餌用のとは棲息地が近いので混入する危険性は十分に認識できたはずであります。それに気付かなかったで言い逃れされる場合もありますので、大人しく罰金刑を受けてもらうことになったのでありますよ。
「よくやった。凄いぞソルネ。大した観察眼だ」
ケヴィンや同僚の騎士様たちにも褒められたであります!
ちょっと照れるでありますね。
その晩はご褒美にエナンデル商会のちょっとお高い使い魔用焼菓子をもらったのであります。うふふ、大事に食べるであります。ありがとうケヴィン!
■十月×日
本日は雪交じりの雨。こうして少しずつ冬に近付いていくのでありますね。
しかし雪国のスライムも人間もいつも通りに元気なのであります!
今日も一日職務に励むでありますよ!
それでは失礼!
ソルネ「最近の趣味は冒険者ギルドにお邪魔して昆虫図鑑を眺めることであります! いつか南国のアルカイオスオオカブトを見るのが夢であります!」
ブロゥ「あれの幼虫ってユル蛇の半分くらいの大きさらしいよー」
ザック「ゑ?」
※巨大
幕間、あともう少しお付き合いください_(:3 」∠)_




