15 幕間一 使い魔イールの日記
■12月×日
面倒である。
■12月×日
面倒。
■12月×日
もう地面に生えているのも面倒。
■12月×日
動くのが面倒過ぎてもうずっと長いことここで暮らしている。もう何年になるかも分からぬ。
■12月×日
招かれざる客人が来た。同胞が逃げてきた。たまに訪れる節度ある者達と違い、やたらに掘り起こしては同胞達を根こそぎ刈り取っていくらしい。
■12月×日
招かれざる客人は去った。しかし同胞達は怯えてしばらくはこの辺りに留まるという。少々周辺が賑やかである。
■12月×日
再び招かれざる客人が来た模様。また洞穴内が騒がしい。かなりの大食らいのようだ。
■12月×日
静かになった。大食らいの客人に食われたか逃げたかしたようだ。
■12月×日
洞穴内が異様な緊張感に満ちている。あーもう面倒。
■12月×日
穴倉鳥が訪ねてきた。あの客人をなんとかしろという。長く生きているのなら解決法くらい知っているはずだというが、無理を言うと思った。
■12月×日
客人が来た。仕方がないので「洞穴の仲間を無闇やたらに食い散らかすくらいなら、栄養たっぷりの自分を食べろ」と言ってやった。そうしたら「自分は野菜は食わない主義だ」と言われた。解せぬ。
■12月×日
客人から命辛々逃げ出した者達がやってきた。怪我を治したいというので汁や葉を与えてやった。これで多少は治りが早くなるだろう。
穴倉鳥は欲を掻いて葉を食い過ぎ、泡を吹いてひっくり返ったが自業自得である。呆れた仲間が連れて帰ったが、どこの世界にも阿呆というものはいるものだ。
■12月×日
こうして地面に生えているのも面倒であるが、久しぶりに仕事をして気分は良い。
汁や葉を分け与えたお陰で少々目方が減ったが、これも古老の務めである。まぁ、ただ長い間生えていただけでそう呼ばれているだけであるが。
■1月×日
例の客人はまだ洞穴内に居座っているようだ。飯が美味いのでしばらく留まるつもりとのこと。面倒……違った、迷惑である。
■1月×日
また違う客人が来た。しかし今度は節度ある客人のようである。ついでになにやら良き友人になれそうな予感がする。久しぶりの感覚である。
■1月×日
良き友人らは大食らいの客人を始末してくれたようだ。誠に大儀である。礼をしたいがここまで来るかどうかは分からぬ。しかし良き友人の気配、逃がすのは惜しい。
そんなに会いたいなら自ら出向けば良いではないかと同胞に言われたが、動くの面倒……。実は過去に面倒が過ぎて二度ほど良き友人の気配を逃したと話したら、同胞にこれ以上はないほど呆れられた。ぐうの音も出ぬ。数十年ぶりの友人の訪い、絶対に逃すなと忠告された。滅多にあることではないゆえ当然である。
■1月×日
キタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
……興奮が過ぎて危うく叫びそうになったが、大ムカデにやめんか馬鹿者と言われてなんとか堪えた。
良き友人と遂に邂逅を果たした。上手い具合にスライム連れ、話を付けて地上に出してもらった。友人となるであろう者から薬草や同胞の香りがする。さらに濃い魔素の香りもする。濃い魔素を含んだ水をねだって飲ませてもらったが実に美味である。
なんとか連れていってはもらえぬかと交渉したら、連れていってもらえる上に一日一杯の魔素の水を分けてくれるという。おまけに同胞の種を蒔いてくれるというからいやはやなんとも、自分はもしやこの日のために生えてきたのではないかと思われるほどに良き日である。
旅立ちのときには皆が見送ってくれた。数十年ぶりの外出ゆえ、せっかくだから四、五十年は戻ってくるなと言われた。ひどい見送りもあったものだが、まぁ悪くはない。
■1月×日
友人の名はニルスという。薬を商う仕事をしているようだ。懐かしき薬草の香り漂う居心地の良い棲み処で、ニルスと共に暮らすことになった。ニルスが仕事場に特等席を作ってくれた。ついでに「イール」という素晴らしき名をくれた。好待遇過ぎてもうここから動きたくない。
……と言ったら、ルリィという名のスライムに「たまには運動しろ」と言われた。面倒ではあるがこれもニルスと恙無く暮らすため、一日一回の運動を自らに課した。ルリィが運動を教えてくれたが、奴の運動はこの身では些か無理があるのでは……。
仕方がないので、自己流で運動することにした。床の上で触手を動かすという至極簡単なものであるが、自分にしてみればなかなかの運動量である。
しかしニルスには「ど、どうしたんだい!?」とひどく驚かれてしまった。どうやら床の上でもがいているように見えたようだ。解せぬ。
■1月×日
ニルスは働き者である。朝早く起きて薬を調合し、店を訪れる客の相手をしたり診察をしたり。この良き友人は人々に好かれているようだ。さすがは我が友。
この友人は常に自分をそばに置いてくれる。夜寝るときは特等席ごとニルスの寝床に移動し、共に寝る。朝起きたら再び仕事場に特等席を移動してくれるのだ。
この特等席に転がっているだけで、様々な人間を見ることができる生活はなかなかに刺激的である。頑張って洞穴を出て良かったと思う今日この頃である。
しかし世話になりっ放しというのも、いくら面倒臭がりな自分でも些か外聞が悪い。ニルスのために働くときが来たら、一所懸命に務めさせてもらう所存である。
脳啜り「……」
イール「……」
ルリィ「あの二人どうしたの」
ペルゥ「見つけた隠しページが騙しページだったって」
騙しページに煮え湯を飲まされた人はどれくらいいるのだろうか……
あと、前回更新分で触れた「もう一つお知らせ」の件、もしかしたら一部の方に違うお知らせと誤解させてしまったかもしれないのですが(;´Д`)
2月25日にコミカライズ版家政魔導士の1巻が、コミックゼロサム様より発売予定です。
月刊コミックゼロサム様の公式サイトにも少し案内が出ていますが、詳細はまた後日ご案内しますね( *´艸`)
素敵なカバー絵……早くお見せしたい……




