襲撃者
異形の声はまるで早朝に鳴く鶏のようだった。
大きい声で、辺り一面に響く。
だが音色は最低のものだ。
声の底から出てくるダミ声、人間が無理して出そうとする恐ろしい声の真似よりも酷く、聞いているものすべてを不快にさせるものだ。
そして何よりも恐ろしいのはその異形。
体は黒い球体状、その体とおもしきところから無数の手と足が生え、球体の真ん中に当たるところには100は超える目と大きな顎門、ヨダレを垂れ流しながら吠えるように声を上げる。
『ア"……ア"ア"ア"ア"ア"ーーーーーー!!!!モクテキ!達成スル!!!ホムンクルス食ベル!!』
キョロキョロと小さな目は左右上下に視線を動かし何かを探す。
異形が探しているもの、その正体をセイレンは知っていた。
もう昔になるが、シエラがホムンクルスだという事実は聞かされていた。
それでも造られた像のセイレンは驚きもせずに、今まで通り彼女に尽くしてきた。
だからこそ、セイレンは戸の裏から飛び出た。
異形もそれに気づいたのか、体を回転させてセイレンの方を向く。
『ア"?ナンダオマエハ?』
「それはこちらのセリフです。まずは貴方から名前と目的を申すべきです」
セイレンの物言いに、異形は少し考えるように解答に間をかけた。
そして大きな口を上下に開閉して言った。
『ワレワレハ……『一』ダ、200人ノ敬虔ナ信徒ガ神ノ愛デ進化シタ姿ダ!!』
「…進化?神?色々とよくわかりませんが、なぜホムンクルスを探しているのですか?」
『ホムンクルス、アレハ次ノ人間ダカラダ! アレサエイレバ『神話』ガ再来スル!!!!』
「…そうですか、ですがこの城にはそのホムンクルスはいませんのでお帰り下さい」
セイレンはそう言って穴に向かって指をさして元の場所に戻れと言った。
異形、『一』もふむとしばらく考えたあとに動き出すと、そのまま穴に戻ろうとし始める。
(知能が低くて助かりました…)
ホッと安堵するセイレンだったが突然穴から人影が飛び出し、その人影は『一』の体に剣を刺し始めた。
『ギャァァァァァァァァァーーー!!』
「馬鹿かお前、こんな見えついた嘘に引っかかってんじゃねーよ。この城にはホムンクルスがいるに決まってんだろ」
その人はそう言って何度も剣を指す。
異形は叫び声を上げて苦しむが、それでもその人には逆らおうとしない。
セイレンは声が出せなかった。
その人は、自分が仕える女性と同じくらいの美貌と容姿だった。
セイレンはその人が生まれた時から仕えていた。
セイレンは記憶が間違ってないことを確認した。
綺麗な声が酷い言葉とともに出るのも知らない。
何よりも、こんな凶悪な顔を浮かべる子ではなかった。
「…な、なんで、なんでお嬢様が…」
お嬢様と呼ばれた何かは、セイレンに顔を向けてニイッと笑うと見慣れた剣で彼に襲いかかる。