光の神の僕達
魔族達と連合軍が睨み合い、対峙する北の前線の遥か後方に位置するネルト帝国帝都フェルテブヌール。
帝都の街並みは格式高い建築美を誇り、建築物のそのどれもが高さがあり、周りの景色を一望できるように配慮がなされていた。螺旋状に設計された街並みと、帝城を中心に整備された街道は、帝国の国力の高さをうかがわせた。
また階級毎に当然住み分けがなされ、階級の高くなるにつれ、帝都の中心に居住を許されていた。
治安を担当する衛兵が街を闊歩し、奴隷達を売買する市が頻繁に開催されるなど、帝都ならではの賑わいをみせていた。臣民の表情も皆一様に明るく、日々の暮らしの水準は高かった。
そんな中、ルクセニア・フェルテ・ネルト帝王は憂鬱であった。中央教会の象徴たる光の神の代理人たる、聖女の御言葉を頂戴する大事な式典なのだが、その聖女と会うと必ず、帝王とその周辺の側近達、またその身内までもが、何日間か記憶が混濁し記憶が曖昧となるからだ。
月に一度の定例行事であり、帝国側としても中央教会との繋がりも深く、今更諍いを起こすつもりはない。清廉潔白で民からの人気も高い聖女。ただあの聖女とは別に、時々別のなにかが聖女から顔をだしている錯覚を覚えるからだ。
側近達も、毎度のこととはいえ気分は優れない。指示した覚えのない命令がだされるのは日常茶飯事で、いつ命令をだしたかさえ不明瞭だからだ。
「陛下、私はあまりあの式典が好きではありません。あのイズマイル聖女殿下は、もしかしたら人ならざるものではないでしょうか?式典参加者のほぼ全員が、数日間の記憶を失くすなど尋常なことではありませんよ!」
「参謀長貴君の言い分もわかるが、ではなぜその聖女殿下の側に、いつも誰かしらの天使様が傍らに控えているのか?今は信じるのだ参謀長よ、我ら光の信徒が信じるべき聖女殿下を疑うなどあってはならないのだ」
やがて厳かな雰囲気に支配された教会の大広間に、奥の間から噂のイズマイル聖女は現れた。帝国の首脳部や儀仗兵、さらには親衛隊や血縁者達など、豪華な顔触れが並んでいた。
微笑みを浮かべながら手を振るイズマイル、そして壇上に上がり演説をする。
「此度の遠征誠に大義である。我らが光の神は、この行いに必ずや祝福の光を与えて下さるだろう、だが諸君、これはまだまだ始まりの一歩にすぎない。大陸を無作為に荒らす魔族達は、いまだに根絶されず、いまなおこの地を支配せんとその獰猛な牙をむけてきている。諸君、戦い続けるのだ。この大陸から、邪悪な魔族を一掃し、我らが光の神の大陸ヴァスティーユとして歴史に名を刻もうではないか!貴方達にどうか光の神の加護があらんことを…」
演説が終わるやいなや、聴衆達の目は虚ろとなり、皆が聖女を見ているがどこか覇気がない。そんな中、聖女に向けて熱心に拍手を送る天使がいた。
ナナイとシルベスタに並ぶ熾天使の一人、クロスフィアであった。
「いやはや大天使サマエル様見事な演説に御座いました!これだけの人を瞬時に精神支配するなど、サマエル様だけではありませんか?」
「相変わらずよく動く口だなクロスフィア?毎度のことながら人の振りなんて疲れるだけだよ、この宿主ちゃんはなかなかに居心地がいいが、君達と同じ肉体が欲しいところだよ。仮住まいみたいでなんだか落ち着かなくてさ」
聖女イズマイルをサマエルと呼んだクロスフィア、彼女こそが聖女であり、大天使サマエルでもあった。
天使側の指導者であり、人類の守護者を自称する超越者であった。




