前線模様
イールガルの執務室では、身代わりとなったメイドが、エンリエッサの部下である治癒術師達に取り囲まれ、青い顔をしていた。
「あれほどリーゼ様を外に出してはならんと言われていただろうに、療養する大事な時なのを理解しているのか?リーゼ様のお側にいながらなんたる失態か、過去にもお前はイシュガル様にお叱りを受けただろうに、まったく反省していないのだな!」
「いっ…いや、それはリーゼ様が無理矢理私になさったことでして」
「はぁ…、御使い様に責任をなすりつけるなんて、なんて嘆かわしいのかしら貴方、言い訳は他にある?」
「いえ、ですから私は…」
「沙汰があるまで貴方を拘束するよ、いいわね?御使い様の熱烈な信奉者なのはわかるが。姿を真似るのは感心しないな、大人しくしててね?」
「うう、リーゼ様恨んでやる…」
メイドがイールガルで恨み言を呟く中、リーゼとバンネッタもまた、ローガルド要塞にある転移魔方陣の前で窮地に陥っていた。目の前には業魔将小言のイシュガルが、仁王立ちで二人を出迎えていた。不機嫌極まりない顔つきで。
「リーゼ様、今はイールガルで療養中のはずては?はてさて、貴方様がここにいるのはなぜなんでしょうか?それにだバンネッタ、お前はリーゼ様のお目付け役のはずだろう?お前にしろリーゼ様にしろ自由過ぎる、こちらにも段取りがあります。それを無視されては、規律が乱れる原因となります!自重してもらいませんと、だいたいリーゼ様は…」
「イシュガルよ、お前の言い分もわかるが、私は先日の闇の神の交信の儀にて、南の前線にて不穏な影ありという御告げを受け、バンネッタと共にこの地に来たのだ。イシュガルの忠臣振りには、こちらも常々感謝している。だがなイシュガル、予定外の事というのも起こるものだ。わかってくれるな?」
したり顔で諭すように語りかけるリーゼに、改めて畏敬の念を持ち居住まいを正し、姿勢を直すイシュガル。
「左様でございましたか…⁉︎知らぬ事とはいえご無礼をお許し下さい。闇の神の勅命とあらば、私の口出しは無用でございますな。リーゼ様の御言葉に従います、思うままに行動なさって下さい」
「うむ、ありがとうイシュガル!」
〔リーゼ様、お見事でございますな!あのイシュガルを言いくるめるとは、このバンネッタ感服いたしました〕
〔バンネッタ、事実と嘘を織り交ぜることが大事なのだ。やり過ぎると看破されるが、今回は上手くいったな。だいたい一箇所に長く引籠るのは、どーも性に合わなくてね〕
企み事が上手くいき、上機嫌のリーゼにバンネッタ。リーゼ自身ここまでとんとん拍子なのに驚きであった。
「まずは、前線の兵達に話を聞きたい。敵である連合軍のことや、新兵器の使い具合など現状を理解すれば、良い策も浮かぶだろうよ」
「ははっ!」
前線や要塞にいる兵士達の間では、リーゼ来訪の件が、たちまち噂となった。
「リーゼ様は何しに前線に来られたのか?御使い様は不甲斐ない我々を粛清しにきたのか?」
「俺が聞いた話では、長引く戦闘を憂いた御使い様が、イシュガル様に知恵を授けに来たと聞いたぞ!」
「なんと⁉︎事態はそこまで進んでいるのか、流石は我らがリーゼ様だ。きっと我らでは考えつかない奇抜で、敵を一網打尽にする策に違いない。」
「酒だー、酒持ってこい!糧食もいいやつを食うぞ士官用だ!リーゼ様の来訪にー、乾杯!」
「「乾杯ー!」」
どこまでも賑やかに、前線兵士達はがやがやと酒盛りを開始する。兵士達はただ、騒げる話があれば馬鹿騒ぎしたいというだけでもあったのだが。




