第八話 mistake on purpose
今回、読者の考えて下さった軍団が初登場します。
ですが、展開的にどのような能力を持つのかの説明と、次への布石の為噛ませ犬的になってしまいました。YR-ティザードさん、スイマセン!!
これは、今よりおよそ10年前の出来事である。演劇の町、オペラニアにある一軒の劇場。後にグランドジェネラル【レティ】のホームグランドになる場所では、二人の少女がクインテッド・ソルジャーズのカードを眺めていた。幼い頃のレティとマチルダである。
「クインテッド・ソルジャーズは、兵士、戦術、軍略の三種類のカードを組み合わせて、自分だけの軍隊を作って闘うカードゲーム。どれか気に入ったカードはあったかい?」
二人の傍には一人の女性が居り、二人を温かく見守っている。彼女はレティとマチルダに踊りを教える先生であり、今日は踊りとは関係無いが、クインテッド・ソルジャーズに付いて教えているのである。
「うーん、どれが良いかな? これはちょっと……」
目の前に散らばる様々なカードを眺めながら、レティとマチルダはこう呟いた。だがやがて、二人はそれぞれ一枚のカードに目を付けた。レティは楽器を手にした天使のイラストが描かれたカードで、マチルダは腕が翼になっており、更にはその翼を剣のように改造している女性のイラストが描かれているカードである。
「レティはエンジェルマーチにするのかい?」
女性がレティにこう訊くと、レティはこう答えた。
「うん、だって皆可愛いんだもん。」
レティがこう言った後、女性はマチルダの選んだカードを見て、こう言った。
「それは、最近になって追加された………、本当にそれにするのかい? まだあまり有力なカードが出ていない軍団だけど。」
「何かビビッと来たの。」
女性の言葉に、マチルダはこう言った。女性はマチルダが一度言い出すと聞かない性格を知っていた為、説得は無理と考え、軍団の説明をした。
「良いかいマチルダ、その軍隊の兵士は皆非力だが、一つだけ誰にも負けない事があるんだ。それは、敵と戦わずに勝利する事。」
「敵と戦わない?」
「えー? それじゃあ勝てないよ。」
女性の言葉に、マチルダは疑問符を浮かべ、レティがこう言うと、女性はこう言った。
「もうちょっと大きくなれば、どういう事か分かるようにはなるさ。」
そして現在、レティはオペラニアから少し離れた町「スパシエール」で、昔の事を思い出していた。手元には一つのデッキが有り、体や翼を機械で強化した鳥人間のイラストが描かれた兵士のカードが組み込まれている。
「随分と懐かしい頃の思い出ね。」
デッキを眺めるレティはこう呟くと、自身の居る宿の部屋の中に目線をやった。そこには、先ほどの回想の頃は、生まれたばかりで物心も無かった妹達が居り、今は真夜中でありレティが寝かしつけた事もあり、スヤスヤと静かな寝息を立てている。
「さてと、時間ね。」
その後時計を見たレティはこう呟くと、今まで手に持っていたデッキを置き、自分のエンジェルマーチデッキを手に、部屋を後にしようとした。今夜は約束があるので、合流する必要があるからである。
部屋を出る直前、何か思う所があったのか、エンジェルマーチと一緒に違うデッキも持って、部屋を後にした。
レティが宿を出ると、そこには既に約束を交わした件の人物、ルカとサナが居た。約束の元はその日の昼間に遡る。
ルカとサナの報告を訊いたレティは、スパシエールで人気を取った昔馴染みのダンサー、マチルダを訪ねる事にした。その際、二人にこう頼んだのだ。
「自分一人ではもしもの時に対処が出来ないから、付いてきてほしいと。」
結果、二人は快く承諾したので、夜の九時半にこの場所で合流しようと約束を交わし、今に至るのである。
「レティさん、何でこんな真夜中なんですか?」
ルカは眠いのか、欠伸をしながらこう訊いた。サナの方も、表には出さないものの眠そうである。レティは二人に、こう言ってある物を取り出した。
「しょうがないでしょう、あの娘を訪ねるのに今以上に良い時間は無いんだから。これ上げるから勘弁して。」
渡したのは、カップに入ったコーヒーである、微糖なので苦みがあり、眠気を覚ますのには十分であった。黙々とコーヒーを飲むルカとサナを見たレティは、二人を連れてマチルダの居る劇場へと向かって行った。
それから数十分後、三人は劇場へとたどり着き、中に入る事に成功した。その日は何も公演が無いため、事実上劇場は閉じていたが、入り込むための隙間はちゃんとあったので、そこから入ったのである。
「へえ、舞台の裏側ってこうなっているんだ?」
以前入った観客席からは、絶対に見る事の出来ない意外に簡素な造りの舞台裏を見て、ルカがこう言うと、
「あまりキョロキョロしないで、田舎者丸出し。」
以前同じことを言われた事への意趣返しなのか、サナがルカにこう言った。
「折り紙と同じよ。表に色があるからって、裏にも色が無いと行けない訳じゃ無いでしょう。」
そんな二人に、レティはこう言うと、更にこう続けた。
「でも、無駄話はもう出来そうにないわ。着いたもの。」
三人の目の前には、マチルダと書かれたプレートの付いた扉があった。ここがマチルダの楽屋なのだろう。レティが扉をノックすると、中からは、
「どうぞ。」
と、響いてきた。なので、最初にレティが部屋の中へと入り、ルカとサナはその後ろに隠れて部屋の中へと入った。
楽屋の中は思っていたより物が少なく、鏡の前の机には、舞台に出る時の化粧を落としたマチルダが居た。
「あら、誰かと思えばレティじゃない。こんな時間にどうしたの?」
マチルダはレティの姿を見てこう言い、レティはどこか引き攣った笑顔でこう返した。
「最近になって売れるようになったって聞いたから、様子を見に来たのよ。」
「暇なのね、グランドジェネラルって。」
レティの表情の変化に気が付いていないのか、気が付いたうえで気を使っているのか、マチルダはこう返した。その後、
「所で、一緒に来てる二人は何者?」
と、レティにルカ達の事を訊いた。
「私の友達よ。」
彼女には何か考えがあるのか、あえて二人の名前を明かさずに、ただ自分の友達だとだけ言っておいた。それと同時に、物珍しさに彼方此方回ったりしてると思うが、気にしないで欲しいと告げると、マチルダに訊いた。
「所で、最近になって人気になった秘訣だけど、何かコツでもあるの?」
(まあ、話してくれるとは思えないけど)
訊くと同時にレティがこう思うと、マチルダはこう言った。
「何よりもまずは努力ね。後は、どうでも良いと思えるところに気を使う事かしら。」
「どうでも良い事って、例えば?」
マチルダの言葉に、レティは更に訊いた。
一方その頃、楽屋の中を珍しそうに眺めて回るルカとサナはと言うと、
(何か無いかな?)
マチルダの影に、何者かが居ると言う証拠を探していた。レティの方はマチルダの気を引きつつ、何か情報を引き出そうとしてくれては居るが、手っ取り早く済ます為にも、それぞれで動いた方が良いと考えたからである。
「どうだルカ?」
カードの状態になって、デッキケースの中に収まっているブライトクール・ドラゴンは、精神感応でルカに問いかけた。だが、ルカは全くダメと答えた。椅子の下をのぞいたり、引出を開ける等の派手な動きが取れない以上、探す場所は自ずと限られてしまうからである。
「ひょっとしたら、事前に立てた作戦を実行する事になると思うぞ。」
ルカに対しブライトクール・ドラゴンは、こう告げた。事前に立てた作戦と言うのは、つい先ほどブライトクール・ドラゴンが自分の世界に戻った折、シゲハルに相談したのである。このような状況で、下手人を引っ張り出す方法は無いのか、と。
その際、シゲハルはこう提案した。
(恐らくその下手人は、任務執行に置いて何より“目立たない事”を優先している。それなら、相手にとって最も不都合な状態を作れば良い。例えば、ヴィクトルの仮説の中に出た香水を、衆目に晒すとか。まあ、それで出てきても彼女のマネージャーを名乗るだけだ。そこは………)
「上手く行ってよ。」
ルカは誰にも聞こえないようにこう呟くと、マチルダのカバンに手を掛け、わざと転ぶことでその中身を辺りにぶちまけた。中に入っていたのはハンカチや財布と言った日用品と、水筒に使っていると思われる瓶、不思議な形の小さな小瓶であった。
「あわわわわ。」
転んだルカがこう言うと、
「ちょ、何してるの?」
マチルダがルカの元に近寄り、カバンの中身をカバンの中に戻し始めた。レティも同じようにマチルダのカバンの中身を拾ってあげると、最後に小瓶を手に取り、こう言った。
「あら、これって香水? にしては銘柄は書いてないし、瓶の形もこの辺りに香水出している企業の物じゃ無いね。」
「え? ああ、珍しい物なの、この間知り合いがくれてね。」
レティの言葉に、マチルダは動揺が隠しきれないのか、慌てるようなそぶりを見せて言った。その様子を見逃さなかったルカは、その話題でもっと引っ張って、とレティに合図した。
なので、
「そうなんだ、これ珍しいんだ。」
レティはこう言って、マチルダにこう頼み込んだ、
「私に少し貸してくれない? すぐに返すから。」
「え、でも、これ貴重品で、これしか無いから………」
レティの頼みに、マチルダがこう返すと、
「それじゃあ、それくれた貴方の知り合い、私にも紹介して。」
レティは更にこう言って、マチルダに迫った。
そんな両者のやり取りを眺めていたサナは、ルカと合流してこう言った。
「この方法で尻尾を出すかな?」
「白龍隊軍師を信じよう。」
サナの言葉にルカがこう返す頃、レティとマチルダの争いはエスカレートしていた。
「だったら今ここで貸して!!」
レティがこう言うと、
「無理!!」
マチルダはこう言い返した。この一言を聞き、レティは貰ったと考えると、追い打ちを掛けるためにこう言った。
「それもそうよね、これが貴女の人気の秘密なんだから。」
「え、何でそれを?」
レティの言葉に、マチルダがこう言い返すと、レティはこう言った。
「だって、今まで人気の無かった貴女がいきなり人気何て、怪しい以外の何物でも無いもの。でも、これではっきりしたわ。」
この一言で、マチルダは拳を握って黙り込むと、こう言った。
「何も分からない癖に、常に目立って誰かの影に隠れると言う事を知らない貴女に、何が分かると言うのよ。」
彼女はこれまで、レティを超えたい一心で必死の努力を積み重ねてきた。その努力を、超えたいと思っていた人物に否定されたとなれば、彼女の怒りは尋常では無いのだろう。
だが、この時予想だにしない事態が巻き起こった、
「いいや、それは違うな。」
突如部屋の中に声が響くと、レティの手に持っていた小瓶が宙を舞い、蓋が取れると同時にマチルダの口の中に入り込み、中身を全て彼女の口の奥へと流し込んだ。
「え? あぁ……」
全てを飲み込むと、マチルダは力の無い声を上げ、その場で倒れると同時にそのまま眠りについた。
「な、何が起こったの? と言うか、マチルダ大丈夫なの?」
レティが驚いてこう言うと、ルカは多分眠っているだけだから大丈夫、と答えると、部屋の中全体目がけて大声で叫んだ。
「出て来い下手人!!」
すると、
「下手人とは失礼な。」
このような声が響き、マチルダがカバンの中にしまったデッキケースの中より、一枚のカードが現れて実体化した。赤と白のボーダー柄の服を着た男で、手にはステッキ、頭には帽子を被っている。
「こいつは、悪辣手品師マギリです。」
現れた男の特徴から、相手がクインテッド・ソルジャーズ【グリモワ・サーカス】の兵士の一人である【悪辣手品師マギリ】だと断定したサナが、ルカとレティにこう言うと、
「その通り、革命結社タブー・ワールドが誇る構成員が一人………」
と、自分の名前を名乗ろうとした。だが、それより前に、
「構成員、つまりは下っ端って事か。」
と、ルカが言い、
「下っ端風情がかっこよく名乗ってもねぇ。」
レティがそれに続き、
「下っ端って何でもしないと行けないのかな?」
最後にサナがこう言った。
「下っ端、下っ端連呼しおって。」
マギリは三人の反応に対しこう言うと、
「ばれてしまっては仕方ないな。我らの崇高なる野望を邪魔すると言うなら、貴様らもその贄となるが良い。」
こう宣言して、呪文のような言葉を呟いてカードに変化すると、倒れて眠っているプリムラの持っているデッキケースの中に入って行った。次の瞬間、糸に轢かれた操り人形のように、ぎこちない動作でプリムラは立ち上がった。
「催眠術に掛かって、あいつに操られているんですね。」
ルカはこう言うと、ドラゴンフォースのデッキを構えた。彼自身、相手の兵士に固有の意思を持ってこの場に居る者が居る以上、バトルで勝てば大人しくさせられると考えたからだ。
だが、レティはそれを征して、こう言った。
「その役目、私がやるわ。」
なので、ルカは一度後ろに下がり、レティにその場を譲った。結果、周囲の景色は以前ルカが、ヴィクトルとバトルと言う形で対話した時のような空間になった。
「これは?」
レティは突然の変化に驚いたが、気にすることなく目の前に現れたフィールドにデッキをセットした。その際、彼女は迷わず【最上級舞姫セラフィー】の入ったエンジェルマーチデッキをセットしようとしたが、何か思う所でもあるのか、一緒に持ってきた違うデッキをセットした。
互いに手札を五枚引いた所で、バトルは始まった。
1ターン目、ここでは名義的にマチルダと表記する。彼女は手札五枚、コスト1、ダメージ0でスタート。
「コストを1支払い、前座芸熊を中央に呼び出す。」
【前座芸熊】
コスト【1】
【グリモワ・サーカス】
【待機状態】
【AT:2000】
【LP:2000】
マチルダの場には、サングラスをかけブルマのような物を穿いた、クマのような生き物が現れた。彼はグリモワ・サーカスの「ある意味名物」と言える動物で、ショーが始まる前の会場でお客を楽しませるため、鼻で風船を膨らませてその空気でピアニカを演奏すると言う芸や、口の中でクラッカーを鳴らしたらお尻から火が噴きだす手品等、傍から見たら意味不明なネタを披露している。ちなみに意外と大人気である。
「ターンエンド。」
コストも使い切り、兵士も待機状態なので、ターンエンドを宣言した。
2ターン目、レティは手札五枚、コスト1、ダメージ0でスタート。彼女は手札を眺めた後、一体の兵士を呼び出した。
「マチルダ、良く見なさい! 昔の貴方の仲間よ!!」
レティが呼び出したのは、右腕がごついガントレットのようになり、背中に機械の翼が生えた男の姿の兵士である。
【力天使ソルジャー】
コスト【1】
【スカイレギオン】
【行動可能】
【AT:1000】
【LP:1000】
【速攻】この兵士は呼び出した時、待機状態にならない
「スカイレギオン?」
体の一部として翼を持つも、エンジェルマーチとは似ても似つかない姿をした兵士と、訊いた事の無い軍団名を見て、ルカがこう言うと、
「あら、あの軍団を使うなんて珍しいわね。」
カードとなってカードケースの中に収まっている、ヴィクトルがこう言った。その言葉を受け、サナがルカにスカイレギオンの説明を行った。
「スカイレギオンは、体の一部、もしくは全体を機械で強化した兵士で構成されている軍隊なの。兵士自体は皆非力なんだけど、機動力でそれを補っているわ。」
その後、機械で強化と言う言葉で有る事に気が付き、こう言った。
「まさか、貴女の仕業じゃ無いですよね?」
彼女はヴィクトルに、スカイレギオンの兵士達をあんなふうにしたのは、彼女の仕業なのかと訊いたのだ。この言葉に、ヴィクトルはこう返した。
「その通りよ。」
そして、自分の世界での過去の出来事を思い出し、スカイレギオン誕生の秘話を語り始めた。
元々スカイレギオンと言う軍隊を結成した部族は、戦う事をしない非力な種族であった。背中に大きな翼を持つ者、腕が翼になっている者、様々な者が居り、翼はまるで猛禽のように逞しいのだが、彼らの持つ力は猛禽と言うより小鳥であり、人の寄り付かない高所に住むことで外敵を避けていた。
ある日の事である、ヴィクトル率いるサイコ・ファクトリーの面々が、材料となる死体と兵器集め兼怪我した無関係者への施しを、勝手に行っていた時の事である。
「は? 自分達一族を機械で強化改造して欲しい?」
部族の代表としてやって来た人物の依頼に、ヴィクトルは驚いた。
「はい、我々部族は人の寄り付かない高所を住処にしているのですが、戦争の激化と共に資源開発の煽りを受け、我々の住む場所も安全では無くなりまして。」
「要するに、地元を防衛するための力が欲しいと言う事ね?」
依頼者の言葉に、ヴィクトルはこう言った。そして、彼にこう言った。
「悪いけど、私には無理そうな案件ね。」
「どういう事で?」
依頼者にこう訊かれると、ヴィクトルはこう答えた、
「私が相手をするのは、あくまでけが人と死体だけよ。元気いっぱいな相手に機械改造を施したりしたら、どんな事になる事か………今後の為に試すのも良さそうね。」
「要するに、交換条件を寄越せと言う事ですね。」
依頼者はヴィクトルにこう言うと、彼女にこう宣言した。
「ではこうしましょう、我々は今後必要となれば、無条件で貴女に、と言うより、サイコ・ファクトリーに協力すると。」
彼の言葉を訊いたヴィクトルは、
「例え非力でも、尻尾を巻いて逃げたり、ただでやられるのは性に合わないと言う事ね。」
こう呟くと、依頼者にこう告げた、
「まあ、今後の為にも貴方たちを実験体として使わせて貰うわ。ただし、どんな結果になっても知らないわよ。」
その後、詳しい診察による調査と、機械と同化させる手術を経て、スカイレギオンと呼ばれる軍隊は誕生したのだ。
「とまあ、こんな感じね。」
ヴィクトルが一息ついてこう言うと、ルカがこう言った。
「それにしては、対して強そうに見えませんよ、速攻持ちとはいえ、ATもLPも最低値の1000じゃん。」
この一言に、ヴィクトルはこう説明した。
「彼らは確かに運動出来るんだけど、喧嘩は苦手なの。だからこそ、私は彼らを戦う前提で改造していないもの。」
「?」
ルカが疑問符を浮かべると、レティは能力を発動した。
「力天使ソルジャーの能力発動!!」
【力天使ソルジャー】
この兵士を呼び出した時、相手兵士一体を選択する。選択された兵士は、手札に戻りこのターン中戦場に呼び出されない。
力天使ソルジャーは、背中の翼の出力を高めると、そこから強風を巻き起こして、相手の場に居た前座芸熊を戦場より追放してしまった。
「非力で結構、敵と戦わなくたって勝つことは出来る。」
レティはこう言うと、がら空きになったマチルダの元に攻撃を仕掛けた。力天使ソルジャーの攻撃を受けた事で、マチルダは手札の兵士カードを一枚ダメージエリアに置いた。
この時、レティは昔の事を思い出していた。自分とマチルダが幼い頃に、バトルした時の事である。
「ハーピーの能力で、光綿舞姫を追い出して攻撃!!」
「1ダメージ。」
マチルダはスカイレギオン、レティはエンジェルマーチのデッキでバトルをしている。現在、マチルダが先制の1ダメージを入れた所である。ちなみにハーピーと言うのは、スカイレギオンに置いて「腕が翼となっている女性兵士」の総称である。
「戦場から追い出すなんてズルいよ!!」
まだまだクインテッド・ソルジャーズについて良く知らず、ましてやグランドジェネラルになるなど夢のまた夢な時代のレティがこう言うと、マチルダはこう返した。
「それがスカイレギオンの戦い方だもん。」
レティはその言葉に、頬を膨らませて不満を見せたが、
「いいもん、次のターンでもう一回呼び出せば良いから。」
続く自身のターン、レティは先ほど追い出された光綿舞姫を再び呼び出し、攻撃を仕掛けた。
「これでお相子だよ。」
「負けないもん!!」
レティの言葉にマチルダはこう返すと、自身のターンを始めた。
(ここまで、あの時と同じか。)
回想を終えたレティは、手札を眺めながらこう呟くと、ターンを終了した。その後はマチルダのターンとなり、その次にレティがターンを行った。何ターンも繰り返す中、レティが思い出すのは、自身とマチルダが分かれた時の事であった。
それは今からおよそ5年前の事である。オペラニアの町にて、レティとマチルダは踊り子としてデビューする事になった。二人は前日より会場入りして練習していたのだが、彼女たちに踊りを教えていた女性は、違う仕事があると言う事で遅れて会場入りする事になっていた。だが、前日は勿論、当日の開演直前になっても、女性は姿を現さなかった。二人はその事を疑問に思うも、ステージに出ない訳には行かなかったので、二人は演目を完璧にやり終えた。
事の真相が明らかになったのは、彼女たちが控室で着替えていた時である。突然オペラニアの町にある病院に勤める者が現れると、彼は彼女たちにこう伝えた。
「恩師の女性が、昨日事故にあって病院に担ぎ込まれた。一時は持ち直したと思った瞬間、原因は分からないが帰らぬ人になった。」
この瞬間、レティは自身の全てが凍りつくような感覚に捕われ、マチルダに至ってはその場に崩れ落ちた。
それ以来、彼女たちの元には活気が殆ど無くなり、マチルダは殆ど何も手に付かない状態にあった。そんな中レティは、彼女にこう声を掛けたのだ。
「練習をしよう。」
と。
マチルダはこの一言を、レティが恩師の死を何とも思っていないと考えたのか、彼女はレティを言葉が続く限り非難し続けると、そのまま彼女の元を去って行った。
マチルダこそレティの事を冷たい女と考えたが、レティ自身恩師の死を何とも思っていなかった訳ではない。むしろ、悲しみで心が押しつぶされそうであったのを、何かをする事でそれを隠していたのだ。
それ以来、レティはずっと考えていた、次に会ったらこの事を何て謝ろうか、と。
それはともかく、互いのダメージが6となった所で、レティのターンが回ってきた。彼女の手札は全て兵士カードで、今あるコストを全て使って彼らを呼び出せば、相手の戦場はがら空きとなり、一気に10ダメージを与える事が出来るだろう。
ちなみにマチルダの場には、中央に【悪辣手品師マギリ】が居るだけで、兵士は他に一体も居ない。何を考えているのかは不明だが、先ほどのターンでマチルダは兵士の呼び出しも、戦術や軍略の発動も一切行わず、あろうことか攻撃も行わなかったのだ。
(何があると言うの? でも、今は!!)
レティは相手に不気味さを感じて居た。グリモワ・サーカスは手品師や調教師、獣で構成されるサーカス団、特に手品師に至っては、何をしてくるか分からない。それでも攻めるべきと考え、レティは兵士を一気に呼び出した。
「能力発動!! マギリ、手札に失せなさい!!」
レティがこう宣言すると、呼び出された兵士達は強風を巻き起こして、マギリを戦場より追放しようとした。
だが、マギリは、
「俺の能力発動。」
と、宣言した。
【悪辣手品師マギリ】
この兵士は相手兵士の能力の対象となった時、相手の場に居る兵士全員のスキルを封じる。ただし、陣形スキルとたった今受けている能力は適応されない。
「それでも、貴方が手札に戻る事は変わらない!!」
レティは勝利を確信したのか、こう宣言した。
クインテッド・ソルジャーズにおいて、戦術カードの発動は攻撃宣言後を除き、基本的には防御側が優先される。
その為、マギリはこの場を変えてしまう戦術を発動した。
【故意の大失敗】
コスト【6】
【戦術】
この戦術カードは、貴方の場に居る「手品師」の名前を持つグリモワ・サーカスの兵士が、能力を発動した時のみ発動できる。
手品師の名前を持つ兵士の能力の影響を受けている相手兵士を全て破壊する。
「これって、この間オペラニアのカードショップで見たカード!!」
ルカは場を見ながら、かつてを思い出しこう言った。ヴィクトルのカードを手に入れた際、物凄い高額でこのカードは売られていたのだ。サナが言うには、貴重なカードであり効果も強いと聞いていたが、その強さはルカの想像のはるか上を言っていた。
「殆どマギリの為にあるカードじゃないか。でも………」
ルカはこう呟くと、こう思った。踊り子にしても手品師にしても、舞台と呼ばれる場所が無いと彼らはただの人である。そんな彼らにとって尊い場所を、マギリは自らの為に穢したのだ。
マギリが持っていたステッキを一振りすると、レティの場に居る兵士全員に垂れ幕のような物が掛かった。その直後、垂れ幕の中より断末魔と血しぶきが飛び散り、垂れ幕が消えるとそこには無残な姿になったスカイレギオンの兵士達が居た。
「そ、そんな……」
レティは信じられないと言う表情で立ち尽くした、今まさに自分が勝とうとした瞬間、自分は敗北したのだ。これまでにも何度も彼女はバトルで負けたが、その大体は初心者に自身を持ってもらうため、ルカのような強者と全力で戦った上での負けであった。
だが今回は、
「あんなやり方、許されるはずが。」
レティがこう呟くと、マチルダを操っているマギリは、彼女にこう言った。
「誰もお前の許し何て求めてないんだよ!!」
その後、無残な姿になって倒れているスカイレギオンの兵士を眺めながら、マチルダの口でこう言った。
「大体、そんなダッサイ改造してようやく戦場に立てるようになったゴミで俺に戦いを挑むなんて可笑しいだろ!! まあ、ゴミは所詮どうあがいてもゴミと言う事だな。」
(やめて、マチルダはそんな下卑た事は言わない。)
レティは心の中で、何も出来ない悔しさで震えていた。
一方、ルカとサナは、何とも言えない表情で様子を見ていた、
「ねえルカ、私が今考えている事分かる?」
「勿論、全く同じことを考えてる。」
二人が共通して考えている事、それは………
(こいつ今すぐ殴りたい!!)
で、ある。この考えは、ドラゴンフォースデッキの中で大人しくしているブライトクール・ドラゴンや、彼の友であるシゲハル、干渉する力の無い兵士達や、補欠に回ってしまった者たちも同様であった。
(義を見てせざるは雄無きなり!! 怒りに燃えぬは人形当然です!!)
(非力ながらも戦場に立って必死に戦った者を愚弄するとは、生かす価値も無い外道め!!)
(今すぐ誅を下しましょう!!)
白龍隊の兵士たちは、口々にこう言って闘志を昂ぶらせていた。
だが、それを征する者が居た。
「あ~、何か、凄いムカつく!!」
ヴィクトル・フランケンシュタインである。彼女はカードの状態から実体化すると、今まで見せたことない表情で、こう言った。
「あの城のババア達も凄いムカついたけど、アイツもアイツね。指揮官様~? 私が戦いますけど、良いですよね~?」
変に間延びした語尾が、ヴィクトルの内で燃える怒りを感じさせた。この申し出に、ルカはともかくサナは、こう言った。
「でも、サイコ・ファクトリーのデッキはまだ完成していない!!」
まだ作ったことのない軍団のデッキで有った為、どのように戦うのかが決まっておらずデッキは完成していない。
すると、ヴィクトルはこう言った。
「それについては大丈夫~。」
この言葉と共に彼女が指を鳴らすと、サナの持ってきたカードケースが開き、中に収まっていたサイコ・ファクトリーのカードが一斉に飛び出し、ヴィクトルのカードを入れた状態でデッキとなった。
「よろしくお願いしますね指揮官様~、サイコ・ファクトリーの戦い方を思い出して下さいね~。」
デッキの中のヴィクトルがこう言うと、ルカはデッキを手に取り、マチルダを操るマギリにこう言った。
「勝負だ!! お前をぶっ飛ばす!!」
この宣言に、マギリはこう返した。
「ほう、出来るものならやってみな!!」
新軍団紹介
(話を作るに当たり、新たに付加した設定もあります。ご了承下さい)
軍団名【スカイレギオン】
モチーフ【機械鳥人】【航空部隊】
キャッチコピー【大空を舞い、敵を吹き飛ばす天空の覇者】
【設定】
┗身体の一部または全体を機械化することで強化した鳥人達によって構成されている。背中から翼が生えている者(主に力天使)、腕自体が翼の者(主にハーピー)など、様々なタイプの鳥人がいる。
改造元はサイコ・ファクトリーだが、そこのトップが事実上支配に興味を示さないため、彼らの暮らす高所地帯は自治が認められている。
性格はあまり好戦的ではなく基本的には温厚ではあるが、一度牙を剥けられれば、ただちに臨戦態勢となる。
その温厚な性格と華奢な肉体のためか敵と戦う事を想定しておらず、攻撃力・防御力・体力は他の軍団に比べると見劣りするが、その分、高い機動力による【速攻】などのスキルを軍団員全員が持ってたり、相手フィールド上の兵士カードを相手の手札に戻す強力なバウンス能力を持っている。
現段階において、彼らが強く出れる軍団
【サイコ・ファクトリー】
この軍団の兵士は、コスト支払いで呼び出されることを前提としていないので、手札に戻されると事実上無力となる。
現段階において、彼らが苦手とする軍団
【グリモワ・サーカス】
特殊な能力を持つ兵士が多いため、今作で描写した通り、能力対象となった時に能力を発動する兵士には弱い。
今回は大した見せ場はありませんでしたが、後に重要な登場人物の一人と共に再登場する予定です。
次回予告
サイコ・ファクトリーVSグリモワ・サーカスの決戦!!
手品師の不思議な術に、サイコ・ファクトリーの兵士は以下に立ち向かう?
そしてとうとう、奴が戦場へと躍り出る!!
次回「angry queen and comes out dragon」




