第七話 マチルダを追え
演劇の町「オペラニア」より少し離れた場所にある、娯楽の町「スパシエール」 その町を訪れたルカとサナは、適当な所にあった安い宿の部屋を取ると、その夜町に繰り出していた、目的は一つ、昼間にレティに頼まれた事、
「マチルダの様子を観客として見に行って欲しい。」
を、実行する為である。ちなみに服装こそ、特に拘らずに普通の服である。
「と言うか、こんな場所に?」
劇場へとやってきて、チケットを見せたルカとサナ、そしてプラスαが通された場所は、普通の客席では無く、その上に設けられた特設席である。レティが奮発したのか、それとも彼女は招待されており、その招待主が奮発したのかは不明だが、彼らにとっては好都合であった。なぜなら、彼らの元に居るプラスαは、色々な意味で人間では無い上に、一般人の中に放り込めば、何をしだすのか分からないのだから。
「開演までまだ30分近く、それで有りながら、もう既に満員近い客が入るなんて。随分と人気のようね。」
自分の居る場所から客席を見下ろす人物【ヴィクトル・フランケンシュタイン】は、こう言った。
「確かに三人席、でも、一人は人と言っても良いのかな?」
その背を見るサナがこう言うと、ヴィクトルはこう返した、
「それは、私が化け物と言う意味で?」
「貴方はカードで、しかもこの世界の住人じゃ無いと言う意味で。」
ヴィクトルの言葉に、サナは更にこう言い返した。一方その頃、ルカは彼方此方を見て回りながら、こう考えていた。
(様子を見るくらい自分で行けばいいし、ましてや俺たちの席は見晴らしが良いと同時に目立たない特別席。それなのに、何でレティさんは俺たちに行かせたんだ? ここに何かがあると思えるんだけど? あの様子からして単なる喧嘩別れとは思えないし)
その後、偶然持っていたドラゴンフォースデッキ、その中に一枚だけ入って居るカード【白騎龍ブライトクール・ドラゴン】のカードを見て、こう思った。
(ブライトクール・ドラゴン? お前だったらこの状況、どういう風に考える?)
一方その頃、ヴィクトル率いる【サイコ・ファクトリー】や、ルカも使う【ドラゴンフォース】 その他数多くの軍隊と兵士達がしのぎを削る、ルカ達の世界とは違う世界では、ルカの思念をブライトクール・ドラゴンが感じ取っていた。
(ブライトクール・ドラゴン? お前だったらこの状況、どういう風に考える)
ルカのこの思考に対し、ブライトクール・ドラゴンは、当人に聞こえては居ないが、こう答えた。
「事実が無い以上、私は考えたりはしない。まずは情報を集める。」
「だったら、直接彼に言ってあげたらどうですか?」
すると、ブライトクール・ドラゴンに話しかける人物が居た。手に本を持った、エルフの男である。
「シゲハルか?」
エルフの男こと【白龍隊軍師シゲハル】に、ブライトクール・ドラゴンが声をかけると、シゲハルはこう言った。
「本当に指揮官の成長と、正しい動きを望むと言うのなら、ただ従うだけじゃ無くて時々こちらから意見もする物だ。甘やかしては、逆に相手の為にならない。」
「甘やかしてるつもりは無いんだが?」
シゲハルの言葉に、ブライトクール・ドラゴンはこう答えると、自分の考えを吐露した。彼がルカ達への干渉を控えているのは、他でも無い【ヴィクトル・フランケンシュタイン】の存在があるからである。ブライトクール・ドラゴンと彼女に直接的な因縁は無いが、サイコ・ファクトリーと戦った際には、他の隊は勿論自分の隊からも犠牲者が出て、次に戦った時はその犠牲者たちが、敵として自分達の目の前に立っていた。勇敢に戦い、志半ば死んだ兵士に対する彼女の行いに、多少ながらも憤りを感じているからである。
おそらく、ヴィクトル自身はその事を分かっては居ないだろう。外に出ているのも、単なる遊興の一部と思われる。
「そういう事ですか。」
ブライトクール・ドラゴンの言葉に、シゲハルは一言こう言うと、彼にこう告げた。
「実は先方より報告がありまして、各地で不穏な動きが多発していると言う事です。古参の戦術分析官によると、動き方は高確率で“奴ら”の物だと言う事です。」
「もはや、多少の憤りは水に流せと言う事か?」
シゲハルの言葉に、ブライトクール・ドラゴンは少し昔の事を思い出した。かつてドラゴンフォースの中で起こった大きな戦い、理由は既に失われているが、防衛の為に組織されたこの【ドラゴンフォース】に、自ら攻めてくる者が居たのである。それは、世界の覇権を求める英雄の軍隊でも、正義を示さんとする義勇軍でも、ましてや侵略者でも無く………
(指揮官の言う、赤い龍、それは間違えなく奴の事だ。)
一方その頃、ルカは自分たちの特別席へと戻ってきていた。
「ただいま。」
ルカがこう言うと、
「お帰り。」
サナがこう声をかけ、続いてヴィクトルが、
「随分長かったですね。」
と、言った。
「道に迷ったの。」
ルカがヴィクトルにこう言うと、会場内にアナウンスが響き渡った。もうすぐ開演との事である。なので、その場にいた三人は席に付き、これから現れる舞姫の舞に注目する事にした。
やがて三分ほどの時が立ち、演目は開始された。と言っても、一人の舞姫が長い踊りで表現される物語を紡ぐだけなので、演目と呼べる演目も存在しないが。
ステージ上には、たった一人の主役である舞姫「マチルダ」が姿を現した。彼女はドレスのようであるが、動きやすい衣装に身を包んでおり、恐らくは一国の姫を表しているのだろう。彼女は最初穏やかな音楽に合わせて動きまわり、やがて曲調が上がっていくと同時に、どんどん動きを激しくしていった。
「うわぁ、凄いな。繊細かつ無駄が無いのに大胆で、しかも全然汗かいてない。」
サナはマチルダの舞に見とれているようであるが、ルカの方は反応がイマイチであった。
「確かに、レティさんの方が評価された理由が分かるかも。」
(全然面白くないし、あっちも楽しそうじゃない)
自分の感想を素直に言うと同時に、心の中でこう思った。動きの評価こそサナと同じであるが、マチルダの動きにはどこか自分本位な印象が持たされ、客を楽しませようと言うレティ特有の雰囲気が感じられないのである。
また、ヴィクトルもルカと同様に、マチルダの舞には余り良い評価を示さなかった。だが、それは彼と同じ理由では無く、もっと別な理由で、
「あら、この匂い? ひょっとして香水付けてる?」
人間の嗅覚では感じ取る事が出来ないが、機械による強化で感度が上がっている彼女の鼻は感じ取ったのだ、マチルダの体から独特の匂いが漂ってくるのを。
(香水何てつけても意味ないでしょう。どうせ誰も気が付かない………ちょっと待って、この匂いはひょっとして)
ヴィクトルは匂いを感じ取りながらこう思っていたが、やがて思い出した、数回だけではあるが似た匂いを嗅いだ事があると言う事を。そしてその匂いは、毒性こそ無いがとても危険であると言う事を。
「あの、一旦外に………」
ヴィクトルは危険を察知し、ルカとサナをその場より引き離そうとした。だが、それより前に、ルカは席より立ちあがり、サナとヴィクトルに言った。
「一旦外に出ましょう。」
「え?」
彼の申し出に、サナは驚き、
「え、ええ、そうしましょう。」
自分の言い出そうとした事を、先に言い出した事に驚きを見せつつも、ヴィクトルはそれに賛成した。
なので、三人は揃ってその場を後にしていった。その際、ヴィクトルはどこからか袋を取り出すと、その場に漂う空気をその中に保存して行った。
ちなみにあの時、ルカが何故ヴィクトルの言葉を先に言う事が出来たかと言うと、それには理由が存在する。当然ルカはヴィクトルの感じた匂いを微塵も感じて居なかった。
(あー、早く帰って寝たい。)
ルカがこう思っていると、突如頭の中に声が響いたのである。
「主、その場に居る面々を連れて、今すぐその場を離れよ。」
普通であれば、頭の中に声が響いても驚く程度であり、気にすることはあれどその言葉に従う事はあり得ない。だが、ルカは迷わずこの声に従う事にした。
なぜなら、
「お前、ひょっとしてブライトクール・ドラゴンか?」
彼はその声に聞き覚えがあったからだ、
「ああ、そうだ。詳しい説明をしたい所だが、今は一刻の時も惜しい時だ。早くしろ!!」
ルカの問いに、ブライトクール・ドラゴンはこう伝えると、こう考えた、
(ヴィクトル、仮にも一軍を率いる者なら、気が付いているだろう)
その直後、ルカはその場で立ち上がり、サナを連れてその場を後して行った。
劇場を後にしたルカとサナは、町に存在する大きな公園へとやって来た。時間が時間である故に、人は一人も居ない。
「ルカ、どうしたの?」
サナがこう訊くと、ルカは公園の真ん中へと行き、デッキケースから一枚のカードを取り出した。そのカードは周囲に冷たい風を巻き起こすと、白い光と共にその姿を劇的に変化させた。白銀に輝く翼と体を持ち、全身は装甲のような堅い皮膚に覆われ、両手両足には鋭い爪、口には鋭い牙を持ったドラゴンとなったのである。
特に驚いたのはその大きさで、一般人の暮らす一軒家と同じくらいの規模に及んだ。
「ここが指揮官殿の世界か、初めて来たが何とも。」
カードから実体化したドラゴンは、周りを見まわしてこう呟いた。一方、ドラゴンの姿を見たサナは、ルカにこう訊いた。
「ひょっとして、白騎龍ブライトクール・ドラゴン?」
「そうみたい。」
サナの問いに、ルカがこう答えると、その場に遅れてきたヴィクトルも現れた。
「あら、貴方もようやく実体化するつもりになったのね? 白騎龍ブライトクール・ドラゴン?」
ヴィクトルは、ブライトクール・ドラゴンの姿を見るや否や、彼に対しこう言い放った。対するブライトクール・ドラゴンは彼女に、
「ヴィクトル・フランケンシュタイン、貴様も相変わらず悪戯に戦場を荒らし、多くの者を恐怖のどん底に叩き落としているようだな。」
と、言い返した。すると、ヴィクトルは更に、
「あ、そうだ。認識番号W-1134の兵士は元気にしてる? それと、あの時の傷は治ったかしら?」
と、ブライトクール・ドラゴンに訊いた。
「その番号の兵士は、他でも無い貴様が殺した我が部隊の兵士だろう。傷はあえて治さないで置いてあるよ、貴様に傷をつけられたと言う屈辱を忘れないためにな。」
彼女の問いに、ブライトクール・ドラゴンはこう答えると、自身の体にエネルギーを収束させ始めた。対するヴィクトルも、自らの武器である赤い大剣を構えているので、戦う気が満々で有る事は明らかだ。
クインテッド・ソルジャーズの世界はともかく、ルカ達の世界で戦われると困るので、ルカとサナは、
「ストップ!!」
間に割って入り、彼らの戦いを制止した。
「貴方程の兵士がこんな場所で暴れないで!!」
「手に負えなくなります!!」
まずはサナはブライトクール・ドラゴンの前に立ちふさがり、続けてルカがヴィクトルの目の前に立って動きを止めた。
そんな二人に、ブライトクール・ドラゴンとヴィクトルは説明した。自分たちが相対した時、喧嘩するのはいつもの事であり、場所は弁えた上で実行しているので、気にしないで欲しいと。
「要するに、子犬とか子猫がじゃれてる程度の認識で良いの?」
説明を聞いたルカとサナが、両者にこう言うと、
「子猫と子犬と言う認識はどうかと思うけど、まあ、そんな感じ。」
両者はこう言い、あの場を後にした一番の目的をルカとサナに説明した。
「これなのよ、匂いは感じないと思うけど、実はイチゴによく似た匂いが漂っているのよ。」
ヴィクトルは手に持った袋を開くと、その中身をルカとサナに嗅がせた。当然ルカとサナは何も感じなかったが、ヴィクトルは勿論、ブライトクール・ドラゴンまでも真剣にあの場から離れたがったので、その通りなのだろう。
「あの時漂っていたのは、眠り薬の成分を含んだ香料の匂いだ。あのマチルダは、それを付けて踊っているんだ。」
ブライトクール・ドラゴンがこう言うと、ルカはこう訊いた。
「でも、何で香料の匂い程度で逃げるの?」
「これ自体には特に毒性は無いの。ただ悪い点があると言えば、全く匂いがしない上に嗅いだ人を眠らせ、更にはその状態の人間は催眠術に掛かりやすくなってしまうと言う事ね。」
ルカの問いに、ヴィクトルはこう答えると、こう言った。
「そして何より、一番の問題は……」
「これが、我らの世界にしか存在しない原料でないと、作れないと言う点か。」
ヴィクトルの言葉を、ブライトクール・ドラゴンが引き取りこう言うと、ルカが疑問符を浮かべた。
「それが一体どういう問題になるの? 訊いた感じ、特に悪い面があるとも思えないのだけど。」
この言葉に、より詳しく分かりやすい説明が出来ると言う事で、ヴィクトルが解説をした。
「通常の催眠術と言うのは、対象者の理性を誤魔化す事で対象者を好きにする事なの。でもね、あの成分を摂取して眠った人に催眠術を掛けると、その人の理性を通り越して、深層意識にまで干渉する事ができるの。それがどういう意味か分かる?」
「?」
ルカとサナが、分からないと疑問符を浮かべると、ヴィクトルはこう言った。
「深層意識に干渉出来ると言うのはね、行ってしまえばその人を好きなように出来ると言う事なの。人格を変える事も、その人のエネルギー全てを奪い取る事も、思いのままになってしまうの。もっとも、その技術が無いと行けないのだけどね。」
「そういう物なんですか? あぁ!!」
ヴィクトルの説明を聞き、暫く考えたルカとサナは、同時に声を上げた。レティに様子見を頼まれた時、彼女はこう言っていた、
「今になっていきなりこの町で大人気になった。」
「要するに、それによってここの人たちは、昔からマチルダのファンだと思い込まされていると言う事?」
サナがこう言うと、ヴィクトルとブライトクール・ドラゴンはそれを肯定し、こう言った。
「おそらくは、我らと同じく実体化出来る兵士が、マチルダを唆したのだろうな。人気を不動の物にするから、何か別の目的に協力しろみたいな。」
「そしてその兵士の所属は、恐らくグリモワ・サーカス、こんな芸当が出来るのは奴らしかありえないもの。」
「確かに、何かとんでもない事が起こっているのなら、止めないと。でも……」
両者の言葉に肯定の意思を示したルカではあるが、なぜか黙り込んでしまった。なぜかと言うと、
「会ったら会ったらで喧嘩する割には、二人とも仲良いですね。息がぴったりです。」
長年一緒に公演をしている芸人コンビのように、話を交わす息が合っていたからである。
「仲良いかしら?」
「こんな友達、こっちから願い下げだが。」
ルカの言葉に、ヴィクトルとブライトクール・ドラゴンは同時にこう言った。
ちなみにこの後、サナは劇場の様子を見に戻ろうと提案したが、あの劇場は一度退場すると再入場できなくなる規則が有った為、一旦宿に戻る事となった。
そして次の日、ルカとサナはレティに合流し、ヴィクトルとブライトクール・ドラゴンの見立てを説明した。
「うーん、嘘は言っていない事は分かるけど、信じろと言う方が無理だと思うな。」
ルカの説明に、レティはこう返した。マチルダが眠気を増幅させる効果のある香料を使っている事も、それによって不動の人気を得ていると言う仮説はまだしも、カードが実体化すると言う言葉が信じられないようである。
「ですよね。」
レティの言うとおり、と分かっているルカがこう言うと、
「それなら証明するべきね。」
どこからか声が響くと同時に、サナのポケットの中からカードが飛び出し、レティの目の前でカードに書かれたイラストの兵士【ヴィクトル・フランケンシュタイン】が現れた。
「これって、ヴィクトル・フランケンシュタイン?」
レティが目の前で起こった事に驚くと、ヴィクトルは無駄のない動きで彼女に迫り、彼女の持つデッキケースの中から一枚のカードを取り出し、
「貴女も出てきて。」
こう言って、そのカードのイラストの部分を指ではじいた。その結果、
「キャン!!」
こう言う可愛らしい声が響いたと同時に、彼女の手に持っていたカードが光り輝くと、そのカードはイラストに描かれた、背中に大きな翼を持つ美しい女性天使【最上級舞姫セラフィー】となった。セラフィーは実体化すると同時に、物凄い勢いで飛んでいき、近くに生えていた大樹へと激突した。この時、近くに人は居なかった為、騒ぎになる事は無かった。
「セラフィーまで?」
レティが驚くと、ルカは説明した。
「何と言うか、コスト5以上の力の強い兵士になれば、ああして実体化が出来るようなんです。」
一方、激突したセラフィーは、木の幹より体を離すと、自分を指ぱっちんで弾き飛ばしたヴィクトルに、こう言った。
「呼ぶのは良いですけど、何と事をするんですか? 私たちは体が資本ですが顔だって大事なんです。」
セラフィーのこの一言に、ヴィクトルはこう返した。
「傷が出来たなら私が治してあげる。ホッケーのマスクを付けとけば良いかしら?」
「そんな真似したら今年の6月13日に貴女を真っ先に襲うわよ。」
「どこぞのスプラッター演劇ですか?」
ヴィクトルの言葉に、半ば冗談、半ば本気でセラフィーがこう答え、サナが突っ込みを入れると、ルカはレティにこう言った。
「これで、信じて貰えますよね。あの話。」
「そ、それはまあ。」
ルカの言葉に、レティは渋々こう言った。本当の所信じたくないのだが、目の前には今まで数多くの戦いを戦い抜いた戦友である【最上級舞姫セラフィー】が居る。事実となってしまった以上、どんな非常識も常識の一つとなってしまう。それ以上、ルカの話した事は事実であると信じないと行けないだろう。
「とはいえ、確かめる必要はありそうね。昨日もあの公演が終わった後、観客の何人かが行方不明になっているみたいだし。」
レティはこう言うと、今夜あたりにルカ達を伴い、マチルダを訪ねてみようと考えた。
その頃、件のマチルダはどうしていたかと言うと、劇場に設けられた広い部屋で、踊りの練習をしていた。鏡を前に、自分の動きを確認する。
「ここの角度はもう少し高めに、この間はロボット見たいって言われたから気を付けないと。」
マチルダは以前の事を思い出し、こう呟きながら動きを確認する。以前からずっとレティと踊りの練習をしてきたが、目立つのは常に彼女では無くレティであった。だからこそ彼女は努力を続けているのである、いつの日かレティを踊りで超えるために。
「クインテッド・ソルジャーズはともかく、こっちは努力次第で何とでもなるからね。」
マチルダはこう言っているが、カードゲームと言うのは運で左右されるのでは無く、いわば企業経営と同じ、先を見通してリスク管理をする事に肝がある。リスク管理をしない事には、如何なる勝負であっても勝つことは出来ない。
それはともかく、彼女が練習する部屋の外では、二人の人物が話をしていた。
「それで、進捗の方はどうなんだ?」
一人は黒づくめの服を着た、いかにもスパイや何かと思われる人物で、もう一人はピエロのような服を着た人物であり、彼はこう言った。
「順調で御座いますよ、貴方に貰った香料を衣装に仕込んだ事で、マチルダに惑わされた民衆たちから生命力を搾り取り、既定の量に達するまであと少しです。マチルダの方は、自分の力で民衆を魅了していると思い込んで、こちらの動きには全く気が付いていません。」
「そうか、だがしくじるなよ。我らの動きに薄々ながらも感ずいている者もいる。それに……」
道化の言葉に、男はこう言ったが、
「分かってますよ、全ては“あの方々”の為ですよね。」
道化はこう言って話を切った。なので、男は失敗は許されないと釘をさすと、その場を後にしていった。
道化の姿が見えなくなってから、男はこう呟いた。
「自らの平凡を受け入れず、自らの出世と名誉の為、味方を裏切ってこちらに付いた小物か。胸糞悪い。」
ヴィクトル先生の、クインテッド・ソルジャーズ講座。
ここはどこかの世界のどこかの教室、そこに居るのはなぜかレディース服姿のヴィクトル、今日も授業は始まる。
さ、ヴィクトル先生のクインテッド・ソルジャーズ講座を始めるわよ。このコーナーは、私【ヴィクトル・フランケンシュタイン】が、クインテッド・ソルジャーズに登場するカードを紹介してあげるコーナーよ。テストには出ないけど覚えなさい、分かった?
それじゃあ始めるわよ、今日のテーマは【白騎龍ブライトクール・ドラゴン】 彼の所属はドラゴンフォース、AT:7000、LP:5000、6コストで呼び出す事が出来る兵士よ。一番の特徴は陣形スキル、中央に呼び出して一回目に攻撃すれば、相手の行動不能の兵士の数だけ攻撃が行えるわ。ちなみに相手の場の兵士が全員行動できる場合は、ただの一回攻撃よ、覚えておきなさい。ただこの能力、相手に依存しているから使い勝手が悪いわ。
彼を生かすために使うのはこの三枚【白龍隊軍師シゲハル】【ワルプルギスの夜】【援軍要請】 使い方としては、こうね。
予めセットした軍略カード【ワルプルギスの夜】の効果を発動、援軍要請のコストを0に、
戦術カード【援軍要請】の効果で一枚オープン、ここが運命の決め所だから気を付けて。ブライトクール・ドラゴンかシゲハルをここで中央に呼び出す。
ブライトクール・ドラゴンを呼んだなら、シゲハルを好きな場所に呼び出し、逆の場合はそのままシゲハルの能力を発動、相手の場に居る兵士を全員行動終了に
前のステップが後者だった場合、シゲハルの居た場所にブライトクール・ドラゴンを呼び出し、連続攻撃で一気に相手を突き放す。
分かったかしら? 他には最初にブライトクール・ドラゴンを呼び出し、相手の攻撃を戦術カード【ベクトル変換】でやり過ごすと言う方法もあるわ。その場合は、その分のコストと攻撃を数発受ける兵士を残しておく事、兵士が一体しか居ない状態でその戦術を使うと、攻撃は自分で受ける事になりますから。
今日はここまでよ、次回も楽しみに待っていなさい。
次回予告
レティとルカ、サナは遂にマチルダの元を訪ねる。そこに現れたのは、自らの器の小ささを理解しない一人の道化の兵士。レティがバトルを挑むも、とある戦術の力で敗北を喫してしまう。
自らを貶めてでも這い上がろうとするマチルダ、彼女の心意気を愚弄した傲慢な道化の所業に、ついに“彼女”の怒りが爆発する。
次回「mistake on purpose」




