第4話:接触
今日も今日とて、俺はドブをさらい、余った時間でスライムを狩るルーチンワークをこなしていた。
一日が終わり、冒険者ギルドへ向かう。依頼の達成報告と、素材の換金だ。
「……忠告しておきますが。そんな生活を続けていたら、この先冒険者としてやっていけませんよ」
カウンターの向こう側。
クールでいけすかない受付嬢のアイリスが、冷たい視線を向けてきた。
彼女は『氷の受付嬢』として、冒険者たちから密かに人気があることで有名だ。
ただその整った容姿とは裏腹に、誰に対しても事務的で冷淡。まさに鉄の乙女。
もちろん、俺に対してもいつも死ぬほど冷たい。
「はっ、何言ってんだ。稼ぎは独り占め、余計な人間関係に気をもむこともない。これこそ冒険者の理想、さいこーの状態だぜ?」
俺は鼻で笑って答える。
するとアイリスは、呆れるように深いため息をついた。
「……まあ、あなたがそれでいいならいいんでしょうけど。はい、こちら依頼の報酬と素材分のお金です。確認してください」
いつものように事務的なトーンで渡される報酬の入った革袋。
俺がそれを受け取ろうとした、その時だった。
――さわっ。
「……!」
間違いなく、触れた。
受け取る瞬間に、俺の指先と彼女の絹のように滑らかな指先が、ほんの一瞬だけ重なったのだ。
それは彼女自身も気づかない程の、刹那の接触。
だが、一流冒険者たる俺は見逃さなかった。
「あと、ここは公共の場です。あまり薄汚れた格好でうろつかないでください。不衛生です」
俺は追加の小言を一流の余裕で受け流すと、さっそうとギルドを後にした。
夕暮れの街を歩きながら、俺は自分の指先をじっと見つめる。
「……さっき、確実に触れたよな? 物理的に」
そう、触れた。間違いなく。
思い返せば、さっきの忠告もおかしい。
どうでもいい相手に対して、わざわざ「やっていけませんよ」なんて案じるようなアドバイスをするだろうか? いや、しない。
……なるほど。
つまり、……そうか。
「ぬふふ……。まさかアヤツ、この俺にホの字では!?」
そう思うと、パズルのピースがパチパチと組み合わさっていく。
あの冷たい目は、俺への想いを隠すための照れ隠しだ。
冒険者を寄せ付けない氷の態度は、俺以外の男に興味がないという意思表示だ。
そしてさっきの忠告は……「危ないことはしないで、ずっと私のそばにいて」という、不器用な愛のメッセージだったわけだ!
「まさか俺を心配して……!? ほかの冒険者に冷たいのも、全部俺への一途さゆえだったのか! フ、罪な男だぜ、俺も。こいつは他の冒険者たちに、悪いことしちまったな!」
知らず知らずのうちに、ギルド中の男が憧れる『氷の受付嬢』を、この俺の熱で溶かし攻略してしまっていたわけだ。
「勝利! 圧倒的勝利! ざまあ!」
思わずスキップしそうになるのをこらえ、去り際の彼女の言葉を思い出す。
きっとあれも、愛する男には常に清潔で格好よくいてほしいという乙女心に違いない。
「……よし。次に会うとき、こんなドロだらけの格好じゃアイリスに示しがつかないからな。今日は装備一式、ピカピカに磨いておくか!」
俺は次の「換金」に胸を躍らせ、夕焼けに染まる川へと洗濯に赴くのだった。
【幕間:氷の受付嬢】
「……はぁ」
アイリスは、ドブの残り香が微かに漂うカウンターで、ため息をついた。
同僚の受付嬢が、苦笑いしながら話しかけてくる。
「またあのアホな冒険者? よく毎回まともに相手してあげられるわね。あんな底辺冒険者、適当にあしらえばいいのに」
アイリスは無表情のまま、彼と触れ合った指先をそっと、もう片方の手で包み込んだ。
「……別に。あんなに楽しそうに冒険者してる人、他にいないから」
かつて仲間であったはずのパーティから切り捨てられ、誰からも相手にされずたった一人。
そんな絶望するしかない状況で。
ボロボロのなりで「自由最高! 俺の勝利!」と笑い飛ばしながら、今も楽しそうに活動している。
その底抜けの明るさに、彼女がほんの少しだけ惹かれていたのは事実だった。
「……もし、服を綺麗にしてきたら。少しだけ、褒めてあげようかな」
ポツリと呟く彼女の頬がほんのりと赤く染まったことに、鈍感な冒険者たちは誰一人として気づかなかった。
えっ……?
次回、相棒登場!?
※この作品はAIちゃんとの共同執筆となります。




