第2話:情熱の赤
『なるおたち』から追放されてから数日。
俺は新しいパーティを探してギルドに通い詰めていたものの、結果は散々だった。
掲示板の前でいくら突っ立っていても、誰も声をかけてこない。
それどころか、俺が視界に入ると「あ、あの『お荷物』だ」と露骨に目を逸らすか、「ダメダメ冒険者の見本」としてクスクスと指をさして笑いやがる。
「……ちくしょー。世界はいつからこんなに冷たくなったんだ?」
結局、俺が受けることができたのは、冒険者とは名ばかりの日雇い"ドブさらい"の依頼だけだった。
魔物と戦う華やかさなど微塵もない。スコップを手に、異臭を放つ泥をかき出すだけの、プライドもクソもない最低ランクの仕事。
「受付のネーちゃんよお……。これ、実質的にいじめだろ。俺が困る顔を見て、笑っていやがるな?」
ぶつくさと文句を吐きながら、俺は膝下まであるドブの中に浸かり、泥をさらっていく。
「うわっ、とと……!?」
その時、ぬるぬるした腐敗物の塊に足を取られ、俺は見事に滑って転んだ。
「へブぅ!!」
全身を襲う、形容しがたい感触と異臭。
顔面からドブに突っ込み、口の中にまでドブ水が入り込んでくる。
「うげっ! ぺぺっ! ちくしょー、やってらんねえ! 呪われてんのか、俺は!」
泥の中で這いつくばりながら空に向かって絶叫する俺。
その悲鳴に応えるように、頭上から高飛車な声が降り注いだ。
「あら? アンタ……何してんの、そんなところで。ドブネズミごっこ?」
聞き覚えのある、小生意気な声。
そこに立っていたのは、元パーティメンバーの魔術師リリアだった。
顔だけはモデル並みに整っているが、中身はドブ水より汚い、性格最悪の過激な女だ。
今の俺は転んだせいでドブの底で這いつくばっている。
対するリリアは、キラキラとした装備と高級そうな杖を手に、少し高い位置から俺を見下ろしている。
俺は必然的に、リリアを見上げるような形になっていた。
「ぷっ……。なさけないわね、ドブさらいなんて(笑)。まあ、雀の涙ほどのバフしかかけられない役立たずのアンタには、お似合いの『泥臭い』仕事じゃない?」
リリアは扇子でも持っていそうな仕草で口元を手で隠し、俺のことを鼻で笑った。
「やっぱりパーティから追放しておいて正解だったわ。じゃあね、負け組さん。せいぜい泥にまみれて頑張ることね」
そう言うとリリアは短いスカートをひらつかせ、勝ち誇ったような顔で去っていった。
俺はしばらくの間、静かに泥の中で放心していたが……やがて、ポツリと呟いた。
「…………あいつ、赤かよ。なかなか攻めてんな」
そう、リリアは気づいていなかった。
俺がドブに這いつくばっていたおかげで……角度的に、彼女の短いスカートの中身が、ガッツリばっちり、パノラマビューで丸見えだったことに!
「情熱的な赤色。しかもレース付き……。あんな偉そうなこと言いながら、街中でパンツさらしてたのかよ」
……ふむ。
俺は泥まみれの中、しばし考え込む。
なるほど、わかったぞ。
アイツは俺を見下して勝った気になっているが、実際には公衆の面前でパンツを俺に献上していたわけだ。
仕事を頑張って泥にまみれた俺と、ただただ調子に乗って無防備にパンツを晒していたリリア。
客観的に判定して、恥ずかしいのはアイツだ。
それに、あのプライドの高いリリアのことだ。
無意識のうちに、俺に対して最大のサービスを行ってしまっていたことに気付いたのなら悔しくて夜も眠れまい。
だからこれは……そう、俺の完全勝利。
相手にも気づかせぬほどの巧妙さで、ステルス勝利していたのだ。
「くくく……。まさか気づかぬうちに、俺に完全敗北していたとは夢にも思うまい。リリアの負け!俺の勝ち!ざまあ!」
おかげで、泥の冷たさも、口の中の泥の味も、どうでもよくなった。
俺の心は今、赤色の情熱で燃え上がっている!
「さーて! さっさと仕事終わらせて、今日はアイツの『赤』で一発いきますか!」
俺は夜のお楽しみに胸を躍らせて、さっきまでの絶望が嘘のように、ドブさらいを再開するのだった。
~おまけ~
次の日、冒険者ギルドでは、ある噂が流れていた。
『なあ、知ってるか。あの可憐のリリア、履いてる下着はレースの赤らしい』
『ああ、その情報なら俺も買ったぜ。とんでもなく情熱的だってな』
『流石は元パーティメンバーだな。ザコンのくせに、いい情報持ってやがる』
「……まさか、あの時。……あいつ、マジで殺す!!」
暴走したリリアの攻撃魔法で、建物の一部が損壊し『なるおたち』で弁償するハメになったとか。
ざまぁ!
次回、スライム狩り!
※この作品はAIちゃんとの共同執筆となります。




