表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
珠景色の春風鈴  作者: 美珠夏/Mishuka
第8章 珠景姫を想う夏
PR
63/64

色歌の手紙

 

 眩しい光と濃い影が、彩度の高い世界で戯れる。

 帰宅した色歌(いろか)は、自室で黙々と万年筆を走らせていた。


 娘である弥栄(やえ)史深(ふみ)。孫の明日香(あすか)。曾孫の(つむぎ)


 大切な家族達へ、感謝と遺言を伝える手紙を書いていく。

 そして、最後に。

 いつか帰って来ると信じて、珠景姫(みかげひめ)にも手紙を書き始めた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 姉さんへ。

 おかえりなさい。

 この手紙を読む頃には、私はもう生きていないですね。


 あの夏、十四歳だった私も、九十七歳のお婆ちゃんなりました。

 歳を取り過ぎたせいで、長姫制度(おさひめせいど)があった時代が前世の記憶のように感じます。


 約束通り、長姫制度(おさひめせいど)の撤廃は実現しましたよ。

 未来の子供に自由を与えたいという、姉さんの願いは叶っていますか? 今の世の中は素敵ですか?


 もし、今の時代を少しでも良いと思えたのなら、私ではなく、姉さん自身に感謝してください。今の子供達が楽しそうに暮らしているのは、姉さんのおかげですから。


 少しだけ、あの日の事を書きますね。あ、嫌なら読まなくて良いですよ。



 八月八日。

 姉さんが大穴に飛び込んだ後、栄一(えいいち)さんと島民の人々は膝から崩れ落ちました。


 何も知らない人からしたら衝撃的な一幕だったので、当然の反応かもしれません。

 それから間も無くして、侍女達が姉さんを探しに来てしまいました。


 こればっかりは、流石に私も想定外でしたね。

 夜に手紙を通して姉さんの死が伝わる手筈だったのに、事件後の現場に全員が立ち会ってしまったのですから。色々と問題は生じるわけです。


 一番良くなかったのは、私の態度でしょうか。

 みんな泣き崩れているのに、私だけトンネル横の壁に背を預けて、御神体を見つめていましたから。姉さんの死を重く捉えていないように見えたのでしょうね。


 風瑚(ふうこ)さんには頬を叩かれました。

 小春(こはる)には、「何でそんな顔でいられるの」と涙ながらに言われたものです。正直、私だって泣きたかったですよ。


 でも、既に涙は枯れていましたし、笑顔でお別れをすると決めた以上、泣いたら姉さんに怒られるじゃないですか。

 なので、最後まで我慢しましたよ。偉いですか?


 最後に、あの父親にも怒鳴られました。

「お前は何の為に、生まれてきたんだ。姫を見張る為だろっ!」

 この一言には、流石に怒りましたよ。初めて毒に満ちた言葉を浴びせたと思います。

 そして、日付が変わる頃。姉さんから貰った手紙を読み始めました。


 ようやく一人になって、姉さんの死を実感したんです。

 急に涙が溢れてきて、手紙の文字がぼやけて見えませんでした。


 多分、八月九日になっていた頃だと思います。だから、この涙は許してください。

 八月八日は約束通り、笑顔でお別れして、最後まで泣きませんでしたから。


 伝えたい事は山程ありますが、侍女の未来と、私の想いを書いて終わろうと思います。 

 長姫制度(おさひめせいど)の撤廃後、私達侍女はそれぞれの人生を歩みました。


 風瑚(ふうこ)さんは東京の洋食屋で料理の腕を磨いて、晩年には料理の本も出したんですよ。諸事情によって離婚されたんですけど、最期まで縛りの無い人生を楽しんでいました。


 島の反対側にある夢岬(ゆめみさき)の土地に移住した舞風(まいかぜ)さんは、旦那さんと共に農業を始めたんです。毎年、美味しいお米や野菜を送ってくれて、手紙のやり取りも頻繁にしていました。

 ちなみに、私の次女は侍屋敷家(さむらいやしき け)に嫁いだんですよ。

 御三家同士での結婚は、この島の歴史上初めての事です。


 あの頃、まだ子供だった双子姉妹も、ちゃんと大人になりました。

 綺麗な顔立ちの美しい女性に育った小春(こはる)は、二十歳でお嫁に行きました。授かった娘には『珠春(みはる)』と名付けたそうですよ。


 可愛らしい大人の女性に育った小鈴(こすず)は、生涯独身を貫きました。「珠景姫(みかげひめ)は結婚せずに生涯を終えたから」という理由で、結婚しない人生を選んだみたいです。泣きました。

 それと、小鈴(こすず)は有名な画家になったんですよ。


 二人とも、大人になっても姉さんの事が大好きでした。

 私が一番好きですけどね。姉さんへの愛は、誰にも負けません。


 一緒に過ごした時間より、姉さんを想い続けた時間の方が長いですから。

 あの夏よりも、愛は深まるばかりです。

 珠景姫(みかげひめ)は、私の人生ですからね。


 長くなりましたが、最後に本音を語ろうと思います。



 本当はね。


 長姫制度(おさひめせいど)が無い世界で、姉さんと一緒に生きてみたかった。


 私も姉さんと一緒に旅したかったよ。いろんな景色を見てまわって、美味しい物を沢山食べたかった。温泉を楽しんだり、夜空を見上げて夢を語り合ったり。

 普通の姉妹として、思い出を沢山作りたかった。


 もし、違う時代に、違う場所に生まれていたら。

 姫と侍女の立場じゃなかったら。

 そんな素敵な未来に進めていたのかな。


 ねぇ、何でもっと早く帰って来てくれなかったの?

 私ずっと待っていたんだよ。

 いつか帰って来てくれると信じていたから、姉さんが幸せに生きられる環境を作って待っていたのに、どうして私が生きている間に帰ってきてくれないのさ。


 もう一度、直接会って話したかった。

 姉さんに抱きしめて欲しかった。

 今日を一緒に生きたかった。


 わがままでごめんね。

 ずっと頑張って来たんだもん。

 最後くらい、ただの妹で居ても良いでしょ?



 大好きな姉さんへ。

 手紙を読んでくれてありがとう。

 私の宝物も一緒に入れておくね。


 姉さんの妹に産まれて、本当に幸せだった。

 私の人生を支えてくれてありがとう。

 いつまでも大好きな姉さんのことを想い続けるよ。 


  神島 色歌(いろか)     

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ