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珠景色の春風鈴  作者: 美珠夏/Mishuka
第1章 十四歳の春、日常の景色
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長姫制度と侍女

 姫奥島(ひめおくしま)には、長姫制度(おさひめせいど)という独自の文化が存在する。


 神島家(かみしま け)彩美家(あやみ け)侍屋敷家(さむらいやしき け)

 御三家の中で一番最初に産まれた長女は『姫』の入った名前を授かり、産まれた瞬間からその世代の『姫』として育てられる。

 

 成人後は『長姫(おさひめ)』に昇格し、先代に代わって島の統治を行うのだ、

 二番目以降に産まれた女子は、姫の侍女として仕える。

 世代交代の時期以外に産まれた子供は、該当しない。

 これが、長姫制度(おさひめせいど)だ。


 次の姫が大人になるまでは、先代が政権を握り続ける。

 その運命の道を、珠景姫(みかげひめ)も歩むはずだった。

 運命の歯車が狂い出す。

 十歳で迎えた初夏のある日。

 先代の長姫(おさひめ)である母が、病で命を落としてしまう。

 長姫(おさひめ)が不在となり、空白の期間が生まれた。


 それに伴い、珠景姫(みかげひめ)長姫(おさひめ)になる為の準備を早くから強いられてきた。

 宮殿から出る事を禁じられ、必要な知識や作法を叩き込まれる毎日。


 そんな日々が、姉さんを変えてしまった。

 だから、私は長姫制度(おさひめせいど)が嫌いだ。

 大好きな姉さんが辛そうに生きる姿は、見ているだけでも心が苦しくなる。

 こんな文化、無くなってしまえば良いのに――


「……って考えても無駄ですね」

 自室でため息をこぼした色歌(いろか)は、立ち上がって部屋を出た。

 中心にある珠景姫(みかげひめ)の部屋から見て、左にある廊下を進むと宮殿の厨房がある。

 厨房から数えて二番目の部屋を使っているので、御飯時になると料理の良い香りが流れ込んでくるのだ。その香りを感じて、早速厨房へと向かう。


「皆さんお待ちかね、色歌(いろか)ちゃんですよー。夕食を受け取りに来ました」

 暖簾を潜ると、出来立ての料理と厨房で働く男性が出迎えてくれた。

「お、色歌(いろか)ちゃん。今日は春野菜の天丼だぞ」

「特盛でお願いします」

「だと思って、もう用意してる。持って行きな」

 明らかに他とは大きさの違う丼鉢を受け取り、色歌(いろか)は笑顔を弾けさせる。

「ありがとうございます!」

 天ぷらが大好きな色歌(いろか)にとって、天丼は夢のような料理だ。

 甘いタレの羽衣を身に纏った天ぷらは、四季を旅して育った白米の上で輝いている。

 天丼を乗せたお盆を持ち、色歌(いろか)珠景姫(みかげひめ)の部屋へと向かった。


 部屋の前で一度お盆を置き、珠景姫(みかげひめ)の様子を覗いてみる。

 すると、無に近い表情で、重たいため息を漏らす姉の姿が見えた。

「美味しいご飯の前に、なんて顔しているんですか」

 思わず、素直な思いを声に出してしまった。


「……色歌(いろか)

「綺麗な顔が台無しですよ?」

 近くに置いていたお盆を手に取り、色歌(いろか)珠景姫(みかげひめ)の部屋へと入る。

 向き合うようにして色歌(いろか)が座ると、廊下から侍女が珠景姫(みかげひめ)に声をかけた。

「失礼します。お食事をお持ちしました」

 侍女は珠景姫(みかげひめ)の前に夕食を置くと、軽く頭を下げてすぐに部屋を後にした。

 その姿が見えなくなってから、色歌(いろか)は困ったように呟く。

「いくら年上とはいえ、侍女である以上、あの態度は良くないですね」


 珠景姫(みかげひめ)には、色歌(いろか)を含め五人の侍女がいる。

 現在、身の回りの世話を担当しているのは、侍屋敷家(さむらいやしき け)の姉妹だ。

 どちらも珠景姫(みかげひめ)より年上であり、長姫制度(おさひめせいど)上は侍女になる必要がない。しかし、侍屋敷家(さむらいやしき け)の当主の指示により、侍女として宮殿で働いている。

 本来の役目ではない上に、年下の姫の世話をしなければならない立場に置かれた事で、珠景姫(みかげひめ)に対する印象はあまり良くないのだろう。

 今日の夕食の準備をしてくれたのも、この二人だ。


「……ほら、冷めないうちに食べよ?」

 話題を変えるように、珠景姫(みかげひめ)は料理の前で手を合わせた。

 色歌(いろか)も同じように手を合わせ、声を揃えて食に感謝を告げる。

「「いただきます」」

 特盛の天丼に向き合い、色歌(いろか)は早速食事を楽しむ。

 ゆっくりと食べる珠景姫(みかげひめ)の前で、色歌(いろか)の天丼は異様な速さで姿を消していく。

 会話もなく、二人の時間は過ぎていった。


「……侍女の制度さ、廃止にしない?」

 丼鉢の底が見えてきた頃、珠景姫(みかげひめ)が話を切り出した。

「どうしてです?」

侍屋敷家(さむらいやしき け)の姉妹を見ていると、申し訳ないなって思うし、夕食とかの準備くらい自分で出来るじゃん? 侍女って立場だけで、あの二人を苦しめたくないというかさ……」

「なるほど。姉さんらしい考えですね」

 色歌(いろか)は箸を置いて考え始める。

 今思い浮かぶ解決策は三つ。


 ・侍女の制度を廃止にする。

 ・身の回りの世話を、侍屋敷家(さむらいやしき け)の姉妹以外の侍女が担当する。

 ・長姫制度(おさひめせいど)を廃止にする。


 侍女の制度を廃止にする事は、珠景姫(みかげひめ)の時代のみ特例を適応するという形で実現する事は可能なはずだ。しかし、侍女の役割を解かれた者の処遇など問題も生じてしまう。

 長姫制度(おさひめせいど)を廃止にする事が出来れば全てが解決するが、千年以上続く文化を終わらせるには相応の転換期を迎える必要がある。現状に満足していれば、人の心は変革を求めない。

 それに対して、侍女の配置転換は簡単に行える。

 掃除や食事の準備、来客の対応など、宮殿に置ける仕事に専念する形であれば、年上の二人も働きやすいはずだ。


「明日から侍屋敷家(さむらいやしき け)の二人には、宮殿の業務に専念してもらいます。代わりに、彩美家(あやみ け)の双子姉妹を、姉さんの主たる侍女に昇格させますね」


 残りの侍女である彩美家(あやみ け)の双子姉妹。

 まだ幼いが、色歌(いろか)と一緒に仕事を覚えていけば良い。

 何より、姫の成長と共に、侍女も成長していくものだ。

 千年の間、その循環を繰り返して来たのだから、きっと上手くいくだろう。

 珠景姫(みかげひめ)を取り巻く環境が少しだけ良い方向に変わる気がして、少し嬉しかった。

 笑みが溢れたのは、きっとそのせいだ。



このエピソードを、

珠景姫 視点で楽しみたい方はこちら↓

『 珠景姫 Mikage hime 』:珠景姫と五人の侍女

https://ncode.syosetu.com/n2627jv/24


珠景姫Mikagehime ⇔ 珠景色の春風鈴

✼••┈┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈┈••✼

どちらから読んでも楽しめる物語


❀ 春風鈴→珠景姫(時系列順)

❀ 珠景姫→春風鈴(神島家の姉妹を深く知る)


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