14、【最終話】私はメイドです!
───時は遡る。
「ここがマロン王国。綺麗な国ね」
「緑が多いですね、お嬢様」
ローズとリーナは、マロン王国の国境付近に到着していた。
「しかし2ヶ月もかかるとは、遠かった」
「私は良かったですよ、マロン語、やっと覚えましたから」
「私はローズ、こちらはリーナ。エルクラド王国より参りました」
国境警備兵に身分を伝えると...
「あ、貴女が...はっ!ようこそマロン王国へ。......おい!誰か王女殿下に伝えろ、ローズ様とリーナ様が到着したと!」
国境警備兵は慌てて走って行った。
「それではローズ様、リーナ様、馬車を用意しましたので、それで王宮までお願いします」
「ありがとう」
馬車に揺られながらマロン王国の町並みを見ていた。
そして、王宮に到着した。
「ローズ!」
「ユミコ王女殿下、お久しぶりです。受け入れて頂きありがとうございます」
「何を言ってるの、ローズなら大歓迎よ、取り合えす私の部屋に来て、色々報告もあるし」
「分かったわ」
「到着早々悪いけど、現在の状況を説明するわね。まず貴女が開発したハンドクリームと化粧水と乳液。早速私の商会を通じて化粧品メーカーに調べてもらったら「何だこれは!画期的だ」なんて大興奮しちゃって大変だったのよ」
「そうなの?」
「それで、試作品を作ってリサーチということで何人かに試してもらったら、効果抜群で大好評だったの、早速量産体制に入って最近販売を初めたわ」
「やっぱりマロン王国の技術力は凄いわねぇ」
「私もはじめはちょっと儲けて、ローズにプレゼントでも買おうかな〜なんて思っていたけど「殿下、この商品はそんな程度の物ではありませんぞ」ということで商会を立ち上げちゃった。
「商会?」
「そう、今のところユミコ商会って事になってるけど、この商会はローズに引き継いでもらおうと思っているわ、ライセンス契約もしたし、あ、そうそうあの商品の権利はローズにしておいたから」
「ええええっ」
「私はこれでも王族よ。お小遣い程度ならいいけど、商会なんて経営したら問題になるわ。義理で他の商会のお客さんまで取ってしまうのよ」
「だから、引き継いで、ローズ商会とでもしてね」
「分かったわ」
「えっと」と言いながら...
「それでローズには子爵位、リーナには男爵位を賜ることになったの」
「ええええ」
「その方が都合がいいのよ、侯爵令嬢だったローズには悪いけど、こっちでも力関係はあってね、下位貴族なら問題ないし、リーナも元々貴族だったそうだし、平民にする方がよほど大変なのよ、ローズ商会の収入もあるしね」
「え、そんな、私が男爵?」
「なるほど、分かったわ」
「リーナ、ありがたくもらっておきなさい。要するに籍が必要なのよ」
「籍?」
「私達はもうエルクラド王国の人間じゃないわ、籍を抹消したからね、それでどこのだれかも分からない人が商会を経営したり、王宮に入ったり色々とマロン王国にご迷惑なの」
「なるほどです。分かりました」
「そこでユミコ王女殿下にお願いがあるのだけど」
「何?出きることならするわ」
「私とリーナを王宮のメイドとして働かせて。もちろん商会の方もするから」
「え?」
◆
その後、エルクラド王国を除いた3国でオルレア王国にて再度国際会議が開かれ、ローズも招待された。
この非常事態の時に下らない理由で内戦を起こしそうな国とは同盟することは出来ない、とのことで、エルクラド王国は同盟から外された。
そして、オルレア王国とアクレシア帝国の国境近くに軍事拠点を建設して、3国の軍を集結。アクレシア帝国がエルクラド王国に侵攻してきたら、頃合いを見て攻撃をする、ということになった。
エルクラド王国の王妃陛下が居たのはびっくりしたけど、エルクラド王国での軍事会議の時に、オルレア王国の王妃陛下と一緒に国に帰ったそうだ。執務を王妃陛下にさせて、国王は何もしてなかったらしい。国王もエリック王太子と同じように王太子教育を受けず、遊んでいたそうだ。「国王は玉座に座っているだけでいい」と本気で思っていたらしい。
恐らくエルクラド王国は滅びる事になるだろう。自業自得であるが。
◆
「お父様、エスクリダ様、ミランダお久しぶりです、そしてマロン王国へようこそ」
久しぶりの再会に喜びあった。
「元気だったか?さっきこちらの陛下とお会いしてきた。それでな...」
シュナイダー元侯爵、侯爵夫人、姉、エスクリダ元侯爵夫妻、ミランダも子爵位を賜ったそうだ。
そして使用人たちも男爵や準男爵位を。
姉は、婚約者とは別れたそうだ。「侯爵だから婚約したのに」というあわよくば自分が当主になるつもりだったらしい。侯爵は別としても、そんな甘い考え方でシュナイダー商会の商会長が務まるわけがない。
「結婚する前に、本性が分かってよかった」とシュナイダー侯爵も安心したようだ。
その後、その元婚約者は次男なので貴族でいるためには婿養子しかない。しかし、爵位を狙っているだけの厚かましい男、というレッテルを貼られ、どの縁談もことごとく断られているらしい。
まぁ、自業自得だ。
シュナイダー商会はエルクラド王国から完全撤退して、ここマロン王国に本店を構え、いままで外務省が慣れない商人をしていて、その業務を引き継いだのでとても喜ばれたそうだ。現在まで結構安い値段で取引していたらしい。まぁルシランド王国に丸投げ状態だったそうだから、仕方ないけどね。
ルシランド王国はマロン王国にシュナイダー商会の本店が出来たことでかなり警戒しているそうだ。
シュナイダー子爵はアクレシア帝国の件が終わって軍事同盟が解散したら、本気で進出するらしい。
「ルシランド王国大丈夫かしら」
シュナイダー子爵に言わせると「それはそれ、これはこれ」だそうです。
もうマロン王国の人間なんだからたっぷり税金をおさめないと、ということらしい。
でも、ローズ商会もかなりの売上だ。
あのあと、髪に優しい洗髪剤や石鹸、洗剤、清掃用、化粧品など次々と新しいものを開発して、またこれが大ヒット。ルシランド王国にも輸出を開始した。
ローズはその後のエルクラド王国の話も聞いた。
ドリアドア公爵とバーグ公爵でエルクラド王国を離れドリアドア公国を建国。ヴァイス公爵ら中立派も引き取った。
ドリアドア公爵とバーグ公爵は、共通の敵が現れ、利害が一致して手を組んだそうだ。
家格はドリアドア公爵の方が上なので、代表となった、との事。
シュナイダー侯爵領、エルクラド侯爵領の領民はヴァイス公爵にお願いしているので大丈夫であろう。
ドリアドア公爵令嬢は王命での婚約破棄に大喜びで、思い人と婚約。幸せだそうだ。
なんと王太子妃教育だけでなく、王太子教育もさせられていたとの事だ。
侵攻してきたアクレシア帝国軍を同盟軍が撃退、降伏させた。
もう二度と愚かな事をしないように、アクレシア帝国とは不可侵条約を締結。多額の賠償金を請求。防衛以上の軍備は認めない。などのことが決まった。
ドリアドア公国も含め、4ヶ国軍事同盟は解散したが、友好条約を新たに締結した。
たった一つの王命から事態は動き、エルクラド王国は崩壊した。
何もしない、というか何も出来ない国王と王太子は、民衆によって処刑され、歴史上最も愚かな国王、王太子として語り継がれる事となった。
◆
「他に何か問題はありますか?」
集まったメイド達の前で、ローズが聞いた。
「ランドリーメイドの人員が足りません」
嘘です!みんながローズは凄い、と言っているのにランドリー(洗濯場)には来たことがなく、どうしてもローズの技術が見たいのである。
「分かりました。私がヘルプにはいります」
そんな事はローズも分かっているが、それくらいの事でメイド達のやる気が出るのなら安いものだ。
「それでは皆さん始めて下さい」
王宮でメイドとして働きだしたローズは、あまりの優秀さで、現在メイド長となっている。
リーナも優秀でみんなを驚かせている。
ローズの働きによって、大陸の中で一番美しく、末端の使用人に至るまで洗練された「完璧な王宮」と絶賛されるようになるのだが、それは、もう少し後の話である。
ローズはその後、商会も含め、数々の功績によって侯爵位を賜る事になるのだが、生涯メイドである事を貫いた。
そして、伝説のスーパーメイド侯爵として歴史に名を刻み、後世まで人々に語り継がれる事になるのであった。
◆
今日は、マロン王国の建国記念舞踏会。
ローズ達シュナイダー子爵家、ミランダのエスクリダ子爵家も当然参加している。
活躍しているシュナイダー商会もローズ商会も大人気だ。
様々な人が挨拶に来る。
ローズもドレスを着て完璧な令嬢の姿である。
「ローズ嬢この間は助かりました。ありがとうございました」
「ミゲル伯爵様、お久しぶりです」
ミゲル伯爵はローズ商会で販売している化粧品の一部の製造を担当していたが、以前、工場の問題で納期遅延が発生しそうになった。
ローズが奔走し、急遽別の工場に依頼し何とか納期に間に合わせたのである。
ローズは伯爵のボタンが取れかかっているのを見つけ「ちょっと失礼しますね」と取り出したソーイングセットでパパっとつけなおした。
くどいようだが、現在は舞踏会で、ローズはどこからどう見てもドレス姿の美しいご令嬢である。
「悪いね、ご令嬢にこんなことさせて」
「いえ、私はメイドですから」
おわり。
これにて完結しました。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。