少女は、龍衣を与えられる
「さて、カリア!こっちに来てくれる?まだ、渡し物があるのよ」
カリアはひっそりと、自分の位置である一番隊隊長の場所に戻っていたがしぶしぶエリナレ副総軍長の目の前に来た。
「もう、そんな顔しないのよ。すぐ、終わるわ」
バッとマントを翻し、エリナレは天に向かって持ってきた紙を使い、物理転移魔方陣を形成、展開させる。
「今から、龍衣作成の儀式を行います。
名を、カリア。
弓隊副隊長に任命し、銘は凍矢とここに宣告する。
『我らに新たな仲間見たり 許されたかの者へ
祝福を与えたまえ 栄誉を与えたまえ 命を守りたまえ
出現せよ 龍衣 』」
空に魔法陣の書いた紙が消え、その代わりに出てきた魔方陣が大きく広がっていく。
そのまま魔法陣は糸を形成し、布を作るように糸が交差していき、すぐさま布は変わり、綺麗な薄浅葱色のマントになって下りてきた。
その繊細かつ圧巻な魔法の様子に、弓隊のものはおぉ!と驚いた声を上げる。
この龍衣の出現魔法は、最初の銘を受け取る際にしか使われないものなので、見るのは大変貴重である。
「あらあら。天が色を選ぶとは言うけれど、なんてカリアらしい色なのかしら」
下りてきたマントをエリナレ副総軍長が受け取ると、すぐにカリアに渡す。
いくらエリナレ副総軍長の唱えた魔法が作ったといえども、このマントは宣告された銘のあるカリア所有のものへと変わったのだ。
たとえ、彼女がこの軍を抜けてもこのマントは彼女の物であり誰も着ることはできない。
「色の証は、“白水”だわ。さぁ、カリア。そのマントを着てくれるかしら?」
「……はい」
カリアは少し重みのあるマントを見て、動きにくそうだなと思っていた。が、エリナレ副総軍長に促されるままマントを羽織る。
羽織ったそのマントは、彼女の身体にピッタリに作られていた。
「軽い……」
先ほどまでのマントの重さが嘘のように、軽やかであることにカリアは驚く。
「それは、あらゆる魔法の威力を半減できる魔法陣による糸で作られているの。そして、形成した糸には魔方陣が組み込まれて、所有者には軽さを、違う所有者には重みを与える。
まぁ、防犯の役割も持っているわね」
エリナレ副総軍長は自分の紫のマントを右手で触りつつ、うふっと笑った。
「カリア、この軍でさらなる昇進を願っているわ」
「……昇進はもういいです」
普通この場面では、『精進いたします』や『王国のために力を尽くします』などいうのだが、彼女はもう精進するのを願っていないし、力を尽くそうなどと思っていないのだ。
素直なカリアは、そのまま思ったことを小さく呟いてしまう。
「実力はかなりあるのに、謙虚すぎるのがカリアらしいところなんだけれどね」
エリナレ副総軍長はうーんっと苦笑いを浮かべつつ、カリアを見る。
「……自分は、上に立つなんて考えてもないですから」
「あなたの実力は、東城におられる帝王も西城主である女王も認めてらっしゃるのよ?」
「……そうですけれど」
あまり言いたくないのか、口を濁し言葉をあまり出さないようにするカリア。
「ま、エリー副総軍長。彼女はこの軍には向いてないということですよ」
そんな渋っているカリアを見て、鼻で笑って言うのはシェイン。
「ラベカは黙りなさい」
「お言葉ですが、エリー副隊長。彼女をどうしてそのように上は見ているのですか?それに、まるでロバン総軍長を筆頭に、彼女を保護しているように見えます」
「入隊したときに説明したでしょう?その言った通り、彼女はロバン総軍長が連れてきた隊員よ。推薦で入隊したのよ。それは帝王も女王もお許ししてくださったのよ」
それもあるが、もう一つの大きな要因は別のところにあるがシェインたちには関係はないのだ。
「それほどまでの実力は、この部隊では見せてくれないじゃないですか。来たら、指導のみ。一番隊にしか指導をしていません」
「それは、一番隊隊長だからよ。……ラベカ、カリアを嫌っているのはよく分かるわ。
これは命令よ、ラベカ。カリアに突っかかるのはやめなさい。まるで、七つも上のあなたのほうがカリアより子供のように見えるわ」
一番幼い容姿のエリナレ副総軍長に命令されたシェインは悔しそうに顔を歪ませる。そして、恨みのこもった目でカリアを見据える。
「……」
だが、それをカリアは興味のないというふうに受け流していった。
「じゃ、カリアの龍衣授与はこれでおしまい。リド、場所貸してくれてありがとう」
「いえ、お見苦しいところをいつも見せてしまって申し訳ない。うちのシェインが」
うふ、と笑っているエリナレ副総軍長だがリドは申し訳なさそうに呟く。
「いいよ。まぁ、シェインくんはいつもそうだもんね。昔は、あんなにユウジくんといがみ合っていたのにね」
落ち着けシェイン、とシェインを宥めているユウジを見て、エリナレ副総軍長は懐かしむ。
同時期に入った二人は、ライバル心剥き出しで弓隊の中ではいつも競っていた仲だ。
だから、副総軍長としての立場ではなくにそう呟いた。
「いつか、カリアとも普通に接してもらえる日が来たらいいんですが」
―—―まぁユウジのように仲良くとはいかなくていいが、背中を預けてくれるようになればいいのに。
そう、リドは思っている。
「んー、ショック療法で一か八かやるっていう手もあるよ?」
「シェインとカリアを一緒のグループにするとか言ったら、怒りますよ」
きっとカリアは背中を預けていても、シェインがカリアを背後から襲う可能性がある。
それをカリアはきっと、無感情で撃退しそうである。
「冗談、冗談。だけど、これは士気に影響するわね」
「二番隊や三番隊は多少差はありますが、カリアに対して不満はあるでしょうね」
エリナレ副総軍長はうーんと唸りつつ、二番隊と三番隊を見ている。
シェインと同じような目で見ているのが、二番隊中心でいるのが目につく。
「指導してもらっている一番隊は、カリアを尊敬しているけれどね」
反対に一番隊は朗らかな笑みを浮かべて、カリアを見ている。彼らの表情は昇進したのが、とても嬉しいという風に見える。
「どうしたもんですかね」
リドは弓隊の士気を上げるにはどうしたらいいものかと悩み考えるが、全くいい案が思い浮かばない。
「なるようになるしかないんじゃないかしら?」
「……天任せですね」
エリナレ副総軍長の天任せの声に、リドはため息を付きつつ目を細める。
「仕方ないじゃない。シェイン・ラべカは、シャイレイン国の八大貴族の御曹司。クビとか左遷とか、別の隊に異動ってわけにもいかないしね」
まぁ、本人が辞めるというまではそのまま。ということにしておくとカリアとシェインの現状はこのまま、それか更に恨みの感情が上を行くかもしれない。
「カリアは左遷させませんよ。別部隊にも行かせませんから」
だが、リドはカリアの実力は買っているのだ。
そして、行かせはしないと言う。なんせ、全ての隊長同士のくじ引きでカリアを勝ち取ったのだから。
あの苦労が無駄になるのは、ごめんである。それに、あの遺言も関係している。
「分かってるわよ。あの子の遺言だってことも」
せっかくずっと空席であった弓隊副隊長の枠が優秀なカリアで収まったのだ、早々に空席になんてさせられない。
「とりあえず、ラベカ隊長の件だけロバン総軍長へ上げておくわね。『転移』」
エリナレ副総軍長は、リドにだけ少しだけ悲しい表情を出しつつ言うと、さっと魔方陣を展開したのち転移をした。




