少女は、隊の中に姑(?)がいる
弓を引く音、的に矢がぶつかる音、矢がしっかりと突き刺さる音が飛び交う。
その場所は東城守護軍内の弓隊専用の武道場であり、約100人ほどの弓に特化した隊員が集まっている。
皆が鍛練を積み、早く引き更に的確に的に当てる正確さを求めて鍛練を積んでいる。弓隊は今いる隊員は、皆男であった。
「集合!」
野太い声、特にがっしりした筋肉のついた緑髪の大男が武道場の隅々まで声をかけていく。
この大男は、この東城守護軍弓隊の隊長リド・モルトスである。
その声に従って、朝練をしていた隊員たちは機敏に動いていき、5分もしないうちにリドの前には隊員たちが整列し揃っていた。
「三番隊、揃いました」
「二番隊、揃いました」
「一番隊、隊長以外揃いました」
列の前にいる人が揃っているという報告を出している。ただ、一番隊は隊長がまだ来ておらず、前にぽっかりと空間が開いていた。
「あぁ、一番隊隊長の件は聞いている。構わない」
リドはバインダーを手に持ちつつ、隊員たちを目視している。
「お言葉ですが、隊長」
少し声を張り上げて、隊員たちを見ていたリドに物申したのは二番隊の列前にいた番隊長の銀髪の青年である。
「……なんだ、ラベカ。また何かあったのか」
「いかなる理由があるにせよ一番隊の隊長である者が遅れるというのは、いかがなものでしょう?番隊長として、なってないと思いますが」
銀髪の青年、シェイン・ラべカは隣の一番隊隊長がいるはずの空間をフッと笑いつつも、見下した目をしつつもいう。彼から気に食わない、という表情が見えている。
「おい、シェイン……」
横で三番隊の列前にいた番隊長である赤髪の青年がシェインの言動を止めようと口を開く。
「ユウジは黙ってろ。これは、俺とあの女の問題だ」
シェインの言葉に対して、赤髪の青年ユウジ・アラザワが更に口を開く。
「シェイン、それでも彼女は優秀だ。それは実力は認めないと」
「ユウジは黙っておけ!お前に、俺の気持ちが分かるわけないだろ!認めない、あんな力なんぞ絶対に」
そう言ってため息を付いたユウジを黙らせると、シェインはリドを見る。
「どうしてもまだカリアを認めれないのか、ラベカ」
リドは腰に手を置くと、ユウジと同じくため息をつきつつシェインを見る。
「えぇ、どうしても彼女は認められません。彼女はこの東城守護軍の隊員としてふさわしくない、絶対に認められません」
「だが、カリアは実力はある。それも、俺以上にだ。弓での実力や魔法能力は総軍長もお認めになるほどのものだぞ」
「もし実力がどうであれ、経験では絶対にリド隊長が上に決まっています。いつも言わせていただきますが、俺は彼女がまだ十八歳という若い軟弱な身なのに!義務教育を受けずに!ここで日々頑張っていた俺たちを軽く飛ばして一番隊隊長をしているのが許せないんです!」
その言葉に、二番隊の隊員たちがそうだそうだ、と口にする。
「しかも、あいつは弓矢をまともに握って鍛錬している様子もない!弓隊なのに!」
シェインは怒って悔しそうに、リドへカリアに対しての嫌な思いを口にする。
「そうだ、俺たちが必死に練習しているのに」
「なんでなんだ」
そのシェインの言葉に、二番隊の隊員たちまで悔しそうにしている。
「お前らがそう思っているのは知っている、そして聞いてきているし、お前たちの意見も分かっている。だが、お前ら自惚れるなよ。お前たちが思っている以上に、彼女のほうがお前ら以上に鍛錬している」
リドの凄みが効いた言葉に、一瞬二番隊は留まるけれど止まらない。
「隊長、いつしているんですか!」
「俺ら、そんなの見たことないですよ」
二番隊が次々に声を出し始め、リドはこっそりため息をついてしまう。
いつもカリアがいないとこうなる。
そして、最終的には決まっているのだ。
「はぁ、これだから野蛮二番隊は」
そう、一番隊副隊長である彼が我慢を出来ずに口を割るのだ。
「なんだと、ジール。何か文句あるのか」
シェインが腹の底から出るような声で、ジールと呼ばれた一番隊副隊長をきつく睨む。
「ええ、大ありですね。カリア隊長の悪口を言うやつは、いくらなんでも神さまが許してしまっても、俺が許せるわけないでしょう」
「ジール。俺が二番隊隊長だと知っていても、そう口を割るよな」
シェインが一番隊副隊長に目標をすげ替えると、いがみ合う。
「えぇ、ラベカ隊長。あなたも本当のカリア隊長の実力を知っているくせに、それを認めず喚くだけでアホらしいとは思いませんか?」
睨まれてもおびえることなく、それに対抗するのはジールである。
「ジール、やめておけ」
冷静な判断思考が出来るはずのジールがいつもカリアのことになると、憤慨するのは何故か分からないが、止めるのはいつも弓隊長のリドだ。
はぁっとため息をついたリドは、ジールの元まで赴き、そして耳元で話す。
「いつも言っているが、ムキになるな。ジール」
「いつも言っていますが、リド隊長。ここで言わせてください。カリア隊長を侮辱するやつは、例え実力がちょっとしか上の二番隊長でも文句くらい」
ジールもリドに倣って、小声でしゃべっている。
「だとしても、カリアがいつも言っているだろう?相手にするな、と」
「カリア隊長は、全く気にしてないんです。だから、相手はさらにつけあがるんです。火に油をかけてしまっているんですよ」
その言葉に、リドもたしかにな、と思ってしまった。
カリアはいつも二番隊隊長であるシェインにまるで姑みたいに、小さな嫌がらせや嫌味を言われている。
だが、それをカリアは綺麗に乗り越えて、さらに無視をする。
まるで、めんどくさい、自分には関係がない、というように扱うのだ。
それにさらに見て、本当に火に油を注ぐように、シェインのカリアへの嫌がらせは活発化する。
最近では、シェインはカリアをまるで親の仇のように見ているくらいである。シェインの親なんぞ、誰も死んでもいないのに。
きっと、これでカリアが何か一つでも反応してくれたらいいのだが、それがないから余計につけあがってしまう。
「おい、ジール。さっきまでの口答えはどうした。もういいのか!」
イライラしているシェインは、ジールとリドの耳打ちが気に入らないようである。
「はぁ、こんなすぐに怒るラベカ隊長なんて相手にもしたくないですね」
「なんだと、貴様!」
シェインは怒りで、魔法を繰り出そうと魔方陣を展開し、光の高速球を発射させた。
「待て。落ち着け、シェイン!」
ジールの前に出たリドがその高速球を止めようと、防御の魔方陣を展開するが。
「あれれ、なんだかまた喧嘩しているっぽいね?」
突然リドの後ろに転移して現れた紫髪の少女エリナレ副総軍長によって、リドの意識がそっちに向いてしまったために防御の魔法陣は霧散してしまう。
「エリー副総軍長!?」
「あ、リド。危ないよ!」
慌ててエリナレ副総軍長が次に魔方陣で攻撃を止める防御の魔法を出そうとしたが、間に合わない。
「た、隊長!」
皆が慌てて隊長の身を案じたのだが、リドは不思議だが心配していなかった。
ヒュン ボフン!
ヒュン ボン‼
ヒュン バァン‼
空気を切り裂き、鋭く先のとがった氷柱がシェインの出した光球の数だけ飛んでは当たり、爆発させていく。
「遅いぞ、カリア。もっと早く来ないと、俺が殺される」
「……失礼しました。総軍長と少し、お喋りをしていたので」
氷柱を放ったのは、どうやらカリアだったようだ。右手には、いつも氷を出すときに使われる水玉が浮遊しており、不愛想ながら礼をする。
「おはようございます、リド隊長……」
「あぁ、おはよう。そのクライシス……、そうか。それで、総軍長からの呼び出しだったのか。今日だったんだな」
リドは一早くカリアの肩で輝いている星が一つ増えたクライシスを見つけ、そっと笑みを浮かべる。そして、カリアの頭をゆっくりと優しく撫でる。
カリアはそのがっしりした手に優しく撫でられ、少しだけ笑う。
「もう、全く!ラベカ、いつも言っているけれど魔法は禁止だと言っているよね!」
そんなほんわかした雰囲気を出しているカリアとリドをよそに、エリナレ副総軍長はシェインに怒っている。
今回の魔法は、エリナレ副総軍長の目に余る行為だったのであろう。
「今回のは、審議にあげさせてもらうわ。減給か奉仕、もしくはその両方を覚悟しときなさいよ」
「え、エリー副総軍長!?すいませんでした!頭に血が上ってしまい、つい!」
シェインは、攻撃したことではっと我に返って何度も謝っている。
「私に謝るんじゃない!全然、謝る先が違うわ!」
「はい、後にリド隊長にも謝罪します!」
「ラベカ、あのね。あなたは入ってきたときから、頭に血が上ると攻撃するのは怒られていたはず。なのに、まだ直せないの?」
エリナレ副総軍長の普段聞けない恐ろしいほど低い声に、怖さを感じたのかブンブンと首を振り続けるシェイン。
「……いい?カリアのことが気に入らないのは噂では聞いているわ。総軍長に聞こえるまで、あまり時間はかからないとは思うわよ。
でもあなた、そんなに学歴を気にする人だったかしら?違うわよね?
それともそれを理由としておいて、もしかして10も年下の、それも女の人に、弓の技術力を、魔法能力も、簡単に自分を超えられたのが嫌だったのかしら?」
エリナレ副総軍長の問いに、ぐっと苦虫を噛んだような顔をしたシェインは口を開いた。
「……全部です」
「全部ね……。気に入らない、と言って仲間内で敵視していても何も得るものはないわ。ただ、損するだけよ、そしていつかその仲により破滅を迎えてしまうわ。私たちはチームなの、分かっているよね?敵は、魔族や反王制の集団よ」
チームでいがみ合うのは、損でしかないのだ。エリナレ副総軍長はゆっくりと諭す。
「分かっています、ですが……」
しかしシェインには、やはり心の奥底にカリアを気に入らないという表情がある。
「ですが、じゃない。味方同士を敵のように見て、どうするの。そうすると、連携をとるときにせっかくの弓の腕が落ちるわ」
エリナレ副総軍長は、シェインのような実力者には最悪命を落とすことになる大惨事を巻き起こすことはしてほしくないのだ。
「はい……、それは分かってますが」
シェインのぐっと力を込めた拳を見たカリアは小さく息を吐く。
「納得はしてないみたいだけれど、このくらいにしとくわ。ラベカ、あなたの件はまたあとで、お話ししましょう」
エリナレ副総軍長もシェインの拳を見ていたので納得してはいなかったが、埒が明かないと思い、話を切り上げた。




