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32†逃亡者(2/2)



「あの弓使いの証言とも一致しますね。アッシュ・グレイソンに借金を押し付けて殺害しようとしたという話に間違いはなさそうです」


 火竜の牙のすべての悪事が暴かれました。

 ブノワがすべて証言し、クランハウスの証拠品で全て確認が取れました。


「ディクシーとブノワの両名は病院で拘束済み。グラップは防具店で暴れているところを確保。メルティ、君は支払いが滞っているんだろう? ゲイリーの居場所を喋れば、借金取りにはもう少し待つように進言してやろう」


「……借金取り、やだ。私、あいつどこにいるか、知らない…」


 クランの支払いを任されていたメルティは、クランの金を使い込んで支払いを滞らせてしまっていたのです。

 強制労働送りは確実でしょう。


「ディクシーもグラップも捕まってるだと…」


 ゲイリーは焦りました。

 火竜の牙のメンバー全員に捕獲命令が出ていたのです。

 こうなるともうA級の肩書きも通用しません。

 もちろん金を払って黙らせることもできません。


「こんなクソみたいな街、こっちから出ていってやる」


 ゲイリーは冒険用品店に押し入って、テントや食料などの野営道具一式を奪って街を出ようと企みました。

 もはやただの盗賊に成り下がったのです。


「オラ! ありったけの上級ポーションも出せ。この店ぶっ壊されたくなかったらさっさとしろ!」


「そんな高級品はない。欲しいと言うなら、その棚の薬草や茸を持っていって自分で作ればいいじゃろう。お前さんとは関わり合いになりたくないんじゃ。さっさと出ていっておくれ」


「クソが、バカにしやがって」


 店主は嵐が過ぎ去るのを待つしかありません。

 威圧的に槍を振り回されては従う他ありません。


「性根まで腐ってるね…。さっさと捕まればいいのさ」


「うるせぇ、腐ってるのはお前らの脳みそだ。俺様が治安部なんかに捕まるかっての!」


 ヒールポーションなど手当たりしだいにポーチに詰め込んだ。

 罠やら照明弾やら使うか使わないかわからないものまで、手当たりしだいにぐちゃぐちゃとポーチに詰め込んでいく。


「支払いは弓野郎がやる! あいつのせいでこんなことになってんだからな!」


 ポーチにまだ空きがある感じたのか、ゲイリーはそのまま食料品店にも押し入ってボア肉を奪っていきました。


「やっぱりメシはボア肉じゃねぇとな!」


 ポーチの中でぐちゃぐちゃに水分が出ていることも知らずに上機嫌で城壁のほうへ向います。

 狙いは監視の薄い外郭城壁の抜け道。


「ここをまた使うことになるとはな…」


 彼らは何度かこの抜け道を使って探索エリアに無断侵入もしていたようです。

 アッシュ・グレイソンが失踪したときに自分たちは街の中にいたと言い張っていたそうですから、きっとこの道を使って密かに出入りしていたのでしょう。


「ん? 先客だと? このルートを知ってるやつなんてそうそういねぇはずだが…」


 ゲイリーが目を凝らしてみると、なんとそこには恋人だったディクシーと治安部隊の制服を着た男がいたのです。


「あれはディクシーじゃねぇか。ここで何してんだ? あいつは病院でギルドナイトに捕まってたんじゃねぇのか?」


 ゲイリーはピンチのヒロインを助けるヒーローにでもなったかのような気分でその場に飛び込みます。


「おいてめぇ、俺の女に何してくれてんだ? その薄汚い手を離してもらおうか」


「ハッ、誰かと思えば主犯の賞金首じゃないか。お前もここから逃亡するつもりか?」


「お前が賞金を受け取ることはねぇ。今ここで俺に飛ばされんだからなぁ!」


 ゲイリーの槍の一撃は盾に弾かれる。


「なかなかやるじゃねぇか。だが、背中がお留守だぜ。おい、ディクシー! 加勢しろ。二対一だ。一気にぶち倒すぞ!」


 ディクシーがハンマーを構えるが、ゲイリーは不思議に思わなかったのだろうか…?

 ディクシーが武装したまま治安部の男と一緒にいたことに…。


「そいつの頭をかち割ってやれ!」


 ディクシーは治安部の横を通り過ぎてゲイリーの目の前まで駆け寄ってきた。


「おい、どうしたんだ? チャンスだったろ!?」


「そうさね、ダーリン。今が絶好のチャンスってやつだね」


 ディクシーの振り下ろした一撃はゲイリーの足元のレンガを叩き割り城壁の一部を崩れさせた。


「なっ、お前! 何やってやがんだよディクシー!! お前まさか…」


「ごめんね、ダーリン」


 ディクシーはうつむいて口ごもった。


「実はあいつが…アッシュが生きてたんだよ。ブノワも全部喋っちまって…ギルドと治安部が合同で捜査することになったんだ。こうなったら火竜の牙はもうオシマイさ」


「おい…今、なんて言った? アッシュが生きてただと? そんなわけあるか! あいつは…」


「お前が飛竜の巣に投げ込んだろう? 皆、そう証言している」


 治安部の男はニヤニヤと挑発的に笑う。


「お前はこの事件の主犯としてギルドと治安部の合同の賞金首になったんだよ。ディクシーも脅されて仕方なくやったと証言している。お前もさっさと捕まるか、無様に逃げ出すかしたほうがいいんじゃないか?」


「何言ってやがる!? 最高の計画だって持ちかけてきたのは全部ディクシーだぞ。この抜け道だってディクシーから聞いて…。おいコラ、ディクシー!! 俺のことハメる気か!?」


「もしものときに備えるのが最高の計画ってもんさ。そのもしもの生贄がダーリンだったってわけ。あたしはこの人の協力で逃してもらうのサ。ほとぼりが冷めるまで隠れておくから、そっちも達者でやりなよ!」


「主犯の男が逃走してくれれば、俺たちの計画も進めやすいからな。このまま逃げてくれてもいいぞ? アッシュと違って、お前の場合は冤罪ではないがな!」


「てめぇクソビッチが!! キザ弓野郎とデキてたと思ったら、治安部の雑魚とも繋がってやがるとか、クソが!!!」


 そうして、ディクシーと治安部の男は城壁の外側へと消えていきました。

 残されたのは哀れな男一人。


「あの女、許さねぇ。俺がどれだけ金かけてやったと思ってるんだ。裏切りやがって!!」


 ゲイリーの叫びは二人に届くことはなかった。

 やがて瓦礫の崩れる音で監視がやってきてしまった。


「誰かいるぞ! 貴様!! ゲイリー・バッカスだな!! 止まれ!!」


 ゲイリーも必死で瓦礫の山を登りました。

 驚異的な身体能力で外郭城壁を乗り越えていきます。

 しかし、顔を見られてしまいました。

 すぐに手配の範囲が広がってしまうでしょう。


「ついてねぇ。ギルドの支部がある街にゃ逃げられねぇな。下手したらマジで野宿するハメになりそうだ…」


 野営するにしても探索エリアの奥は危険です。

 しかし、彼も冒険者の端くれ。

 体力の続く限り走り続けます。

 大きな街から離れるように、それでいて魔獣のエリアには入り込まないように。

 東西に伸びる大街道は避けて王国の北部へと向います。


「クソッ、今どこら辺だ? 交易都市の北側には農村しかねぇって話だったような気がするんだが、全然見えてこねぇぞ…」


 地図も持たずに飛び出したせいで、どれくらいの距離に村があるのかすら検討もつきません。

 精神的にも肉体的にも疲弊していきます。

 しかし、日が暮れるころになって集落らしきものが見つけることができました。


「あれなんてちょうどいいな。家畜小屋か? あれなら紛れ込めそうだな」


 ゲイリーは家畜小屋の柵を飛び越えて侵入しました。

 中には羊が何匹かいるようです。


「チッ、臭せぇ。だが、ここで夜を明かすしかねぇか…」


 ゲイリーはやっと落ち着くことができました。

 そこで腹を満たそうとしてポーチを開いて絶句します。


「なんだこりゃ…」


 彼のアイテムポーチの中身はボア肉から出た水分でびちゃびちゃになり。羊小屋以上の獣臭さを放っていた。

 怒る気力もなくなっていました。


「クソが…。ゴミを売りつけやがって…」


 干し肉とパンを一口ずつワインで流し込み、そのまま眠ってしまいました。

 翌朝、家畜小屋の主人がゲイリーを見つけて、大層驚いたのは言うまでもありません。


「お前さん、大丈夫かい? ひどく汚れとるが野盗にでも襲われたのかね?」


「んだよ! ビビらせんじゃねぇよ。飛ばされてぇのか!?」


 憔悴しきっていたゲイリーは心配してくれた家主を掴み上げ脅しを掛けてしまったのです。


「ちょうどいい。メシと馬を用意しろ。それで勘弁してやるよ」


 謝ることなどできないゲイリーは、ここでも悪事を重ねてしまうのでした。



お読みいただきありがとうございました。

次回更新は未定です。

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