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24†牙折れる



《火竜の牙》の調査報告について(盾子視点)



「私の脱退申請は、無事に受理されたわよね?」


 冒険者ギルドのVIPルームに通された私は担当の受付嬢(マネージャー)と密談していた。

 《火竜の牙》の素行調査が始まり、私にも声がかかったときはこんな大事に巻き込まれるとは思ってもみなかったわ。


「A級冒険者ともなると契約の条件が厳しいですもんね。でも、大丈夫ですよ。《火竜の牙》側の契約不履行が確定しましたから」


 A級クランをクビになったとかA級資格を剥奪されたなんて噂が立ったら、野良パーティーに参加するのも難しくなっちゃうからギリギリ助かったわ。

 これからは甘い募集内容に騙されないようにしなくちゃ…。


「それにしても結果が出るのが早かったわね。私に調査が入ったときにはもう《火竜の牙》のA級資格剥奪の証拠は集まってた感じなの?」


「証言などはあったのですが、明確な証拠は聖騎士様の協力のおかげで初めて手に入れることができたんです」


「聖騎士様なんてやめてよ。盾子でいいわよ。どうせみんなそう呼んでいるんだし…」


「本当にご協力ありがとうございました。盾子さんのおかげで罪なき冒険者の冤罪を晴らすことができました」


 受付嬢が自分のことのように喜んでいる。

 《火竜の牙》の担当していて気づくことも多かったんだろうな。


「冤罪で治安部に訴え出るなんて本当勇気あるわよね。蛮勇だけど…」


「借金や悪評をなかったことにするために罪をかぶせて、転送石を奪って飛竜の巣に突き落としたそうですから…。当人が出てこなければ追求されないだろうと思っていたんでしょうね」


「そこまでしたの!?」


 そんなやつらのクランに入っていたなんて、ゾッとするわ。


「中心メンバーだった彼が不当な理由で訴えられたようなので、早い段階から《火竜の牙》を再調査をすべきだ、という流れになっていたんです。彼がいて初めてA級クランを名乗れるレベルのパーティーでしたから…」


「例のアイテムボックス持ちの人ね。それで、その穴を埋めるために雇ったのが私だったってわけね」


 でも順番がおかしいわね…?

 私はアイテムボックス持ちがいるって聞いて契約したんだから、私が入るときにはまだ追放されていなかったはず。


「もしかして、私が入ることが決まったから、いらなくなって追い出された…?」


「回復役、盾役を中心にメンバーの募集をしていたのでご紹介したのですが、こんなことになってしまって申し訳ありませんでした」


「ギルド側は悪くないわよ。全部あの口先だけのやつらが悪いせいでしょ。私はあんたの受付業務に不備があったなんて、これっぽっちも思ってないわ」


「そう言っていただけると幸いです」


 受付嬢は複雑そうな表情だ。

 私も似たような顔をしていたかもしれない。

 私が加入したせいで追い出されたんだとしたら謝らないといけないわね…。


「それよりさ、調査報告書持ってきてくれたんでしょ? 見せてくれない? ちょっと気になってたのよ。あいつらが何をやらかしたのかって」


「そんな面白がって見るようなものじゃないと思いますよ? 私もまだ《火竜の牙》全員がA級の資格なしと判断されたことしか聞かされていないんですが…」


 そう言いながらテーブルに資料を置く。

 ざっと目を通すが、書かれていることは大体予想通りだ。

 要するに今回の件はすべてあいつらの自業自得。


「こんなC級以下のバカが寄り集まってA級を名乗ってたなんて」


「どのメンバーも個々の攻撃力は高かったんですよ。ただ、火力役ばかり集まってしまったのが、不幸の始まりだったのかもしれません」


「バラバラでもきっと何かやらかしてたわよ。どいつもこいつも人の話聞かないんだもの。それぞれがパーティーを持ったとしても、どこも上手く行かなかったと思うわ」


「…酷評ですね」


 実際に戦ってみて、そう思ったのだからしょうがない。

 火力があっても立ち回りが最低じゃ、ソロB級にだって上がれるはずがないもの。


「抜けた一人っていうのが超A級の凄腕だったんでしょうよ。私でもあんなやつらまとめるの無理だもの」


「そうですね。彼がクランを支えていたからA級まで来れたことは誰もがわかっていました。それを追い出すなんて…」


 抜けた一人の話になると受付嬢は懐かしそうな、悲しそうな目をする。

 今日の彼女はとても表情豊かだ。

 いつもは真面目が服を着て歩いてる感じなのに…。


「やけに肩を持つじゃない? その人のこと好きだったの?」


「えっ…と、気になる人、でしたね。アッシュさんのことをずっと応援していたんです。《火竜の牙》がA級に上がれるように頑張ってきたのをずっと見てきましたから…。それが冤罪で指名手配になってしまって、非常に歯がゆい思いをしていました」


 運がなかったり世渡りが下手なだけで、悪いやつではなさそうなのよね。

 やっぱり私を助けてくれた人と同一人物なのかな…?


「その凄腕のアッシュっていうアイテムボックス持ちの冒険者、やっぱり私の恩人の可能性が高いからぜひとも探し出したいところね」


「居場所はわかってるんですよ。今は帝国の商人のもとで暮らしてるそうです。冒険者業もすでに再開されているとか…。やっとこちらからも良い報告を届けられます」


「へぇ、帝国に…? 私も行ってみようかしら。王国でも帝国でもA級冒険者になるっていうのも悪くないわね」


「盾子さんならすぐにでもA級認定されると思いますよ」


「ふふっ、ありがと。本気で狙ってみようかな。私はどっかのC級まがいのやつらとは違うから、帝国でもやっていけると思うのよね」


「本当に彼らのことがお嫌いなんですね…」


「これだけのことをやらかした相手のことを冷静に見られるあんたが特殊すぎるのよ」


「私は信じていたんです。彼らがこの街一番の…いえ、王国一番の冒険者になるって。今はもう失望して何の感情もわかないだけですよ…」


 担当してた冒険者が冤罪で追放されたら、気持ちが折れてもしょうがないわよね。


「泣きたいときは泣いて、怒りたいときはちゃと怒ったほうがいいと思うわよ。見てみなさいよ、この報告書。《火竜の牙》の悪行の数々が事細かに書かれていて笑えるわよ」


 調査報告書によると、真っ先に罪状が確定したのは《火竜の牙》リーダーの槍男、ゲイリーによる器物損壊の犯行の一部。

 店の商品や壁に残った傷の形状と、彼の持っている槍や靴の形状が一致して目撃証言に間違いがないことが証明された。


 現在は治安部が手配を掛けて捜索中。

 クランハウスの資材は押さえられているので逃亡資金はそんなにないだろう。


「この槍男の事件なんて判明して当然でしょ。普段から所構わず蹴飛ばしてんだもん。いつか高いものを壊して弁償させられるってわかるじゃない、普通なら」


 弁償しろと迫られてもA級の圧で黙らせることができるって慢心してたんでしょうね。


「探索が上手く行っているときはとても優しかったんです。皆さんにお酒を振舞ったり、釣りはいらないと豪快に買い物をして、喜ばれていましたから…」


「そういうのは気分の浮き沈みが激しい浪費家って言うのよ」


 しかも、気分が乗らないときはとことん乱暴になる。

 血気盛んなのは火力職に必要な素質だとは思うけど、さすがに度が過ぎるわ。


「アッシュさんがゲイリーさんの暴力や浪費を止めていたんですね…」


 あの大バカ槍男の暴走を止めるなんて並大抵のことじゃない。


「あいつらの相手を毎日のように何年も続けていたら、胃に穴が空くわ…。あんなクラン、潰れて正解よ」


「他の方々も似たようなものだったみたいですね…。グラップさんはわいせつ行為を働いたところを現行犯で逮捕されています」


 盾男は一方的な性欲を抑えられなかったらしい。

 報告書にはしょうもない痴態が羅列されていた。


「防具屋の下働きの子に鎧のセッティングをしてもらうとき、下を履かずに行ったとか、握らせたとかってのがいくつもあったんでしょ?」


 本当にどうしようもないやつよね。


「最初は軽いボディタッチだったのがエスカレートしていき、最終的には胸を揉むなどの痴漢行為を働いていたようで…」


「文書で警告したのに、これはラブレターだ、合意のもとの愛情表現だって言い張ったらしいじゃない。怖すぎるわよ。言葉が通じてないのと同じだもん」


 被害者たちが集まって声をあげたことで過去のわいせつ事件も明らかとなったらしい。

 飲食物に体液を混ぜ込まれた話とか本当に気持ち悪い。

 食べ物を粗末にするんじゃないわよ。


「魔術師のメルティさんも実は被害にあっていたようで、現在は入院中です。アッシュさんに下着を盗まれたなどの被害届けを出していましたが、犯人がグラップさんだとは思ってなかったんでしょうね…」


 私もやられてたかもしれないわね。

 早めに抜ける判断ができてよかったわ。


「この報告書の中でひとつだけ良いことがありますね。以前《火竜の牙》に所属していたヒーラーの方が、今は新しい仲間を見つけて立ち直っていて、アッシュさんのためならということで、この訴えに参加されたそうです」


 グラップのわいせつ行為は何度も繰り返されているから、ひとつひとつは軽くても最終的な刑罰が重くなるだろうってことだった。

 あんなやつ一生鉱山から出てこなくていいわ。


「ディクシーさんは感染症の療養中に逃亡して行方不明。これは明確に治安部の失態ですね。逮捕の直前に逃げ出したので、誰かが情報を流したんだと思われます」


「バカな男が匿ってるんでしょ。いろんな男から金品巻き上げて騙していたってバレたら見放されるんじゃない? 病気だって治ってないんだし、そのうち出てくるわよ」


 槍男とカップルなのかと思っていたけど、裏では他にも色々手を出していたらしい。

 こういうのを好きな男もいるから困ったもんだわ。


「弓使いのブノワさんも、ディクシーさんに病気を移された中の一人だとか…。ゲイリーさんと乱闘しているところを確保されました。ゲイリーさんはそのまま逃走。行方がわかっていません」


「あー、うん…。なんかもう、ほんっとバカばっかね! なんでそんなんでバレないと思ってたのよ」


「なんででしょうね…?」


 さすがに受付嬢も調査報告書を読み進めていって呆れ返っている。

 私と同期で入った新人くんたちは、この報告書があがるよりも先に、盗品を売りさばきにきたところを捕まって逮捕されているのを見た。

 売りに来た品物は『アイテムボックス持ちの男に盗まれた』と申告していたはずの装備だった。

 槍男の指示でやったと自供も取れていて、これで盗難事件も詐欺だと確定した。


「古い装備だからってバレないと思ったのかしらね」


「やるとなったら冒険者ギルドは徹底していますからね」


 冒険者ギルドの調査によって過去に受けた火竜の牙の依頼を洗い出され、おおよその収入と溜め込んでいるであろう素材の価値が計算されたらしい。


「商店の協力も得て武器防具の購入履歴や修理履歴を集めて出費の額まで計算しつくしました。結果、アッシュ・グレイソンが持ち逃げできるような資金は最初からなかった、と明白になりました」


「おぉ~」


 受付嬢がなんだか誇らしげだったのでノリで拍手してしまった。

 冒険者ギルドに喧嘩を売るのは絶対にやめたほうがいいわね。


「クランハウスにあった資材ですがそのほとんどの換金作業が進んでいます。武器や鎧などの高価な商品も購入記録はアッシュさんなので、背負わされた借金の返済に当てられるそうです」


「冤罪も借金も消えるってこと? 何もしてないのにラッキーなやつね」


「アッシュさんは何も悪いことをしてないから当然の結果です」


「あれ…? そっか、そうよね。混乱しちゃったわ。こいつらと関わったせいでこっちまで頭おかしくなっちゃったわよ!」


 嬉しそうにしてる受付嬢が見られてよかったわ。

 ここ最近ずっと表情が死んでいたから心配だったのよね。

 私もクランやめちゃったから人の心配できるほど余裕がないんだけど…、まぁなんとかなるでしょ。

 本気で帝国に行ってみようかな。

 私はあいつらと違って実力があるもの!

 きっと上手くいくわ。



とりえあず1章はここまでです。

お読みいただきありがとうございました。

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