7.姉妹
悲鳴じみた叫び声をあげて騒ぐアリスの口を
手で塞ぐ。
(まったくヒロインらしからぬ声で
何言ってるかわかってるのか、
わかって無いな…朱音だしな。)
「あたりよ。
良いから落ち着け。いくら防音室でも声デカ過ぎだから」
朱音が自身の口を塞いでいる私の手と腕をキュッと掴みコクコクと頷いたので私もその手をひいた。
「まったく、あんたは、少しはヒロインらしく
しようとかバレたらまずいとか考えてるの?
まんまあんたのまま行動するのやめなさい」
(まあ、そのおかげでわかったんだけどね)
「あーんもう!その話し方完全にお姉ちゃんじゃんかぁ!ユリアナ様の中身がお姉ちゃんとか、ひどい!私のさっきまでの感動を返して!てゆうかマジ全然わからなかった」
「…ユリアナの記憶と身体をまんま保有した状態で人格だけ私が入ってる感じなのよ
だからスペックはユリアナそのもので
さっきみたいなダンスもお手のものてなわけなんだけど、朱音もなの?それと、あんたいつここ来たの?」
「えぇ?んーとね。私もアリスの身体と記憶、ついでにチートな聖女の力まで自由に使えるかんじ、こっちの世界にきたのは昨日の夜だよー」
「昨日って、よくそんなんでバレなかったよね」
「だてにsei-oやり込んでないからね。
ものの数分でゲームの中のアリスになっちゃってるなって悟って、もうテンションMAXだよね、気付いた時には側にレイル様いるし、私がゲームで進めてたあたりの攻略寸前状態まで親密度もシナリオも進んでて私はあれよあれよと流されるままにレイル様に身を任せちゃって…今にいたるって感じ?」
(…いま、なんていった?ーーーー)
「ええっ!?ちょっとまって、まさかゲームキャラと最後までしちゃったりしてないよね?」
「えっ?普通にチャンス目の前にあったらやるよね?だって、推しだよ?推しに迫られてイヤだ〜ってなる女いる?むしろ逆に聞くけど、あんなイケメン目の前にして拒める女いるわけないでしょ?あれが至近距離からガチ責めで攻略しようとしてくるんだよ?理性なんてティッシュペーパーの如く軽ーく飛んでったわ」
そう言って自身の手をひらひらとふり無理、無理、という表現なのか。ティッシュペーパーの飛んでいく様なのかは知らないけれど完全に開き直る妹に呆気に取られる。
「…いや、だって。いくらあのゲームにそっくり過ぎてても、私達は他人の身体に入ってしまってるて状態な訳じゃない?
本人の自己意識がどうなってて、私達とどう関わってるかもわからないのにそんな深い関係になるとかやばくない?」
「…だってどのみちそうなる運命じゃん?
もう恋人になってる以上早いか遅いかってだけでそうなるし。拒んで二人の関係が悪くなる方がずっと問題だって思ったんだもん。セイオーファンとしては推しには幸せになってほしいでしょ?ただでさえ身分差も育った世界すら違う二人なのに、男と女なんてちょっとのすれ違いで簡単に別れちゃうものでしょ?
それに、流石にアリスが純潔聖女とかだったら私も拒んだけど、ちゃんと経験あるみたいだったし。
なんか…レイル様にちょっと同情しちゃった…てのもあるかなぁ」
そう言って朱音の表情が僅かにくもる。
「同情…?」
「んー。アリスの記憶あるっていったじゃん?
それって、アリスがこの世界にくる前の世界の記憶もあったりするんだよね…まあアリスにも実は色々あったとか、ゲームでそんな裏話聞いてないよって思っりしたけど、昨日まではそーゆうのまあいいか、どうせ夢かなんかだし。
細かい事気にしないでこのゲーム世界をリアルに楽しんでやろう。レイル様完全攻略したら帰れるだろって思ってたんだけど
…ここにきて、まさかのお姉ちゃん登場とか、それも私と似た状態になってるとか…完全に当てが外れたわ。ああ…そっかぁ…そうかぁ」
朱音は笑っているが瞳の奥は薄暗く曇ったように光を宿していない。
そうして冷静なようでその目は何かを悟って
酷く焦っているようにも見て取れた。
なんだかいつもの朱音らしくない様子に不安が過ぎる。
「あかね?」
朱音は足から力が抜けたようにふらつきながらソファまで移動してストンと脱力したようにそこへ座り込んだ。ソファ一面にドレスの赤が広がる。
「夢だろうが、なんだろうが、私がプレイヤーなんだと思っていたの…
でもお姉ちゃんが同じような状態でユリアナ様になってるって事はだよ?この世界にプレイヤーが二人も存在してる事になる。
私が後少しでレイル様を攻略できたとして
そこで無事ゲームエンドで元に戻れたら良いけど。」
私は朱音の側へよりソファーに座り俯いたその顔を見ようと朱音の前に膝をつきしゃがんだ。
ふわりとドレスのスカートが円を作り床に広がる。いつになく朱音が真剣な表情で話すものだから
嫌な予感がしてならない。
「なんなの、戻れるんでしょ?シナリオ通りに進めばきっと…」
「この世界が単なるゲームを実体験化したようなものならね。お姉ちゃん忘れてない?第二章があるって事」
朱音に問いかけられ、要約私も朱音が何を言いたいのかに気づく
「まさか、第二章…ノベル小説の中かもしれないって事?」
「うん。お姉ちゃんがユリアナになって出てきた時点で…おそらくそっちが有力なのかなって思う。私は聖女アリス、元々別世界から来た設定だし、レイル様と結婚してこのストーリーからはサブキャラに、そしてお姉ちゃんはユリアナとして新しいヒロインとしてこっちの世界に来てるんじゃないかな?」
「うそでしょ…じゃあ今のこの状態は、序章にしか過ぎないって事?」
ライトノベルの編集をしていてわかっている事がある。
小説は人気があるほど、ストーリーは続きシリーズ化する。夜月トオルの人気は既に決まっている。
そして一冊にまとまる内容は異世界ものではニ、三年時が経過する話もある。
「小説一冊にまとまったとして、最低でも一年から三年…小説が完結するまで帰れない可能性大って事…?」
「そうかもねー」
(うそでしょー!?)
「まあ…お姉ちゃんは最終的に帰れると思うよ…アリスの記憶から察するにね」
(…ん?)
「お姉ちゃんは、て何?朱音も帰れるでしょ?まさかここに残るとか言わないよね?そんなラノベやネット小説でもあるまいし」
私の言葉に朱音の顔が困ったように苦笑する。
「あー、お姉ちゃんは素通りしないのか。
今の所は普通なら聞き流しちゃって後半フラグ回収される所だと思うんだけどなー、さすが編集」
「茶化さないで、はっきりいって。お姉ちゃんを誤魔化そうなんて百年早いよ」
私の言葉で朱音がやっと私と顔をあわせた。
その顔はひどく怯えたようでアリスの色白の肌が
より一層それを強調しているかのようで…
「……近いの」
「…は?」
朱音の突然の予期せぬ言葉に耳を疑う。
(近いって言った?なにが?…)
「近いんだよ、アリスの住んでる所が」
「ど…どこと?」
「私達の住んでる×××とだよ。それも電車で30分も満たない距離なんだよ。
普通に同じ電車使ったりしてたし、記憶にある建物も場所も同じ。極め付けには…」
私の喉がゴクリと鳴るのと朱音が言い詰まるのとがほぼ同じだった。
「アリス…横山有栖の兄が私の学校と同じ最寄り駅の男子校だったりす…る」
「な…なにそれ!?ゲームや小説でそんな細かい設定あるわけ…しかもそんな偶然にしても…」
(こわすぎる…)
「やっぱりそう思うよね?
私もはじめアリスの記憶みた時に自分の記憶とごちゃまじってるなーこりゃ夢だなーて思ったんだけど。なんか深く考えると…色々繋がってカチリってパズルのピースがはまってくみたいに不気味なくらいしっくり出来上がってくからさ…」
「アリスの記憶で何かに気づいたのね?」
私はフルフルと怯えたように震える朱音の腕を掴み問いただした、すると朱音の瞳からぶわりと涙が溢れだす。
「私の身体…多分。ううん。絶対、アリスに乗っ取られてる。私は…もうきっと…帰れない。
お姉ちゃん、わ…わたし」
「どうしてそう思うの?
確かに家が近いとかそんな裏設定怖すぎるけど、悪く考え過ぎよ大体、朱音がそうなら私の身体にはユリアナが入ってるて事になるし、ユリアナの記憶と私にはなんの接点もないわよ?」
目の前のアリスの姿で涙する妹を宥めようと少しでも不安が取り除けられないかとそういえば朱音はぼろぼろと大粒の涙を流し私を見つめた。
「もしかしたらお姉ちゃんはただ私に巻き込まれただけなのかもしれない。私はアリスの第二の人生の器として選ばれてハピエン間近のアリスとなりかわった。
そう考えると、なんかどんどん辻褄があっていくの…」
そうして朱音はゆっくりとアリスの記憶からそう思うに至った経緯を話しはじめた。
アリスには二つ違いの兄がいた。
その兄とは血をわけた正真正銘の兄妹。
自分にいつだって優しくて甘い兄にアリスは多分禁断の恋心を抱いていたと朱音はいう。
でも一方の兄はアリスにそのような感情をみせる事は一度もなかったのだと記憶を辿る朱音がもらす。
(まあ普通一般に考えて日本で近親で両思いなんてかなり低い確率なんじゃないだろうか…)
そうしてアリスは兄をあきらめようと考えたのだろう。恋人を作り、でもやはり兄を忘れられない。別れては、また別の恋人をつくる。
そうして疲れてしまったアリスは記憶の中で誰かと会話していたというのだ。その記憶には黒霧がかかり話の内容は途切れてまるで辿れない。だけどこの言葉だけははっきりと記憶にあったのだと朱音は言う。
「私を兄が好きになってくれるようなべつの女にしてほしい。そうして兄の側にいられるようにして下さい。叶えてくれるのなら…」
そこまでの記憶。
そうしてその後、普段の日常の中私達がこちらに来る切っ掛けになったあの怪現象と同じような事に見舞われついた先はセイオーゲームスタート時聖女アリスが降り立った場所、レスティア大聖殿だった。
アリスはこちら側に来てから二年、色々ある中でレイル王子に見染められ恋人となり今に至る。
そこまで話して朱音はアリスの綺麗な長い黒髪を
バサリと後へ払い首の後の変を触りだした。
そうしてまた話し出す。
「…だけど、アリスはこっちの世界に来てからもずっと兄から誕生日に貰ったネックレスを外さなかったの。恋人のレイル王子に別のネックレスをプレゼントされても頑なにこれは大切なものだからと首につける装飾品だけは絶対にこれをつけていたの」
そうして首元まで隠れたドレスの首元のボタンを取ると朱音がシャラリとそのネックレスを取り出した。
宝石一つすら付いていない。ごくごくシンプルなシルバーのチャームネックレスだ。
「…昨日レイル王子に「一度で良いから、このネックレスを私に外させてくれないか」て不安そうな声で言われて、そうしてその時私が頷いたから今日というシナリオを迎えられているのだと思う。つまり。あの瞬間私じゃなくて、本当のアリスだったなら、きっとバッドエンドで終わってた。
そう思えば、アリスが攻略対象にレイル王子を選んだのさえ、私の最推しだったからかもって思えてしまうし…最後のアリスの記憶に残っている記憶が
レスティア聖殿の前で…その後の記憶がないの」
(…同じだ。ユリアナも…)
「ユリアナの記憶も、最後の記憶がレスティア聖殿だった。」
それなのに私が気が付いた時にはベッドの上だったのがずっと不思議で、思い出そうとしてもアリスの記憶みたいにそこだけ黒霧がかっている。
「…最期の記憶部分に関しては私もユリアナの記憶から何か抜けてる部分がある気がする」
「…そうなんだ、じゃあやっぱりこの仮説がしっくりくる。おそらく、アリスは神様的な何かと契約したんだよ、こっちの世界で決められた時まで聖女アリスとして行動するなら、その後は願いを叶えてもらえるって契約を。
そしてアリスの願いが別の人になって兄のもとに行く事だったから私の意識とアリスの意識を入れ替えたんじゃないかって…そして、そのタイミングでたまたまお姉ちゃんとユリアナ様が対象である私達の側にいたから巻き込まれたんじゃないかと思う」
「…そんな、神様って…」
(流石に飛躍しすぎてる。
いや…そもそも今のこの状態が十分に奇想天外摩訶不思議なんだけども。
これで神様とか関係してたらもうそんなの私達なんてどうする事もできないじゃないか)
「だから…お姉ちゃん達の入れ替わりが予定とは違うハプニングなら、ユリアナ様がこっちに戻りたいと願えば、アリスは何とかするんじゃ無いかと思うの、ほぼ同じタイミングで入れ替わって、姉妹で同じ場所にいるなら絶対に気付くはず。
アリスはユリアナ様の事をきっと友人だと思っていたはずだから、ユリアナ様もお姉ちゃんも神様的なあれとはなんの約束も接触すらないでしょ?だから最悪第二章が終わるまでには帰れると思うのよ、第三とかなければーだけどね」
そう言って泣きながら笑う朱音にきっと大丈夫だよ、これは長い夢だって。とか言ってあげたいのに。うまい言葉がでてこない…。
でも一つ。
これだけは絶対と言える事があった。
「あかね…聞いて。
不安な時に無理に笑わなくてもいいの。
少なくとも、お姉ちゃんの前では、やめてほしい」
私はドレスの隠しからハンカチを取り出しそっとありすの涙を拭き取った、それを続けながら話しを続ける。
「……。」
「それからね、朱音がもし、このまま元の世界に帰れなかったとしたら、私もこの世界に残るわ」
「えっ…う、うそ」
私は片方の手で安心させるように朱音にいつもそうするようにアリスのキレイな髪に指を通して髪を梳く朱音のふわふわで可愛らしいピンクの髪とは違うけれど、さらさらで艶やかな黒髪も梳かしやすくて良い。姿形が変わったって、中身は可愛い妹なのに変わりはない。
「うそじゃないよ。逆にどうしてあんた一人残して自分だけ帰ろうとするって思うかな?私てそんな薄情な姉だった?」
「うっ…お姉ちゃんは、いつだって、やさじぃぃ」
朱音が嗚咽をもらしながらまたボロボロと泣き出すものだからハンカチが涙でぐしょぐしょだ。
「そうでしょう?だったら信じて。
仮に私だけあっちに引き戻されたとしても、絶対アリスを説得するか、その神様?的な人物を探して朱音も帰れるようにしてみせる。
朱音はこっちで私と会う前みたいにゲームの続きでレイル王子の番外編リアルプレイしてる気でいたらいいよ、ほら。もう泣きやんで、宮女に変に思われたらダメだから、私がある程度メイク直しするわ」
そう言って私が立ち上がると幾分か安心させる事ができたのか朱音は泣くのをやめた。
「あっ、私、アリスだから回復魔法使える。メイク前に目にこうしてー…《ヒール》」
アリスが自身の掌を目元にあて魔法を使えばアリスの真っ赤な目元は一瞬で元に戻り
私は(魔法すごいな、チートスキルいいなー)
なんて思った。




