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25.主(アルノート視点)

お読み下さりありがとうございます。

ユリアナの影、赤髪のアルノートをクライマックス入る前にもう一回出したかったから出しちゃいました。




僕の仕事は(あるじ)の身を護り主に刃を向く者を退ける事だ。時に陰で排除するのも仕事のうちだが、血生臭いことを嫌う僕の主は僕が手っ取り早く手を染めようとする事を良しとはしない、

それだけならばただのどこにでもいる優しいだけの御令嬢なんだが、うちのお嬢は少し違う。


はじめて出会った時の事を最近良く思い返す


**


『アルノート、あなたが他者の命を切り捨てようと考えた時、そこにまだ余裕があれば生かして頂戴。その命をどうするかの判断は(あるじ)であるわたくしが降たいの』



甘やかされて育った穢れを知らない御令嬢

それが第一印象だった


(なんとも生温くお可愛らしい脳みそしてるお嬢さんだ)


これは早々に鞍替えしたほうが良さそうだと思った

僕は僕を百パーセント使いこなせる(あるじ)をずっと探している。間違ってもこの令嬢では無い、この令嬢はその道の途中で偶然出会ったただの縁繋ぎだ。(早く次を繋いでくれよ)


そう思っていた…。

でも僕の判断は間違っていた

もし今この時に戻れるなら自分で自分をぶん殴りにいくと思う。お前の目は何処をみてるんだ、この節穴野郎と一言添えて。


それくらい、僕の主、ユリアナシンフォニアは完璧だった。


僕を僕が望む以上に使いこなすのだ


「貴方なら無血でやってのけるでしょう?」


「アルノート、流石ね、正直今回は殺さずになんて無理かと思っていたのだけどこれで諸悪の根源を根刮ぎ排除できる。ふふふ、わたくしの影って本当優秀」



「アルノート、あれはダメね。使い捨ての駒にすらならないわ。国に報告して後をまかせましょう。

あんな者の薄汚れた血でわたくしの右腕を汚すなんて嫌だもの」


お嬢は純真無垢なお嬢さんでも穢れを嫌い守りに徹するだけの弱いお姫様でも無かった。

全ての采配を自身で振り僕を完璧に使いこなし目的を遂行する。

その鮮やかさときたら一国の王にも値する程だというのに、さらに僕を自身の右腕とし、僕が血を浴びるのは自分が血で濡れるのと同義なのだと言ってのける


そして僕を深く信頼してどんな時でも決っして身を竦めない。護られる側の姿勢が僕の求める姿そのもの、僕が身を呈して護る時お嬢は僕の背中だけをしっかり見つめる、その一切の怯みも迷いも無い視線を背筋に感じ取るとゾクゾクしていつだって笑ってしまう


(やっと見つけた。僕の(あるじ)を)


崇拝、恋情、似ている様でもまるで違う。

影として生まれ、影に生きるものにしかわからない感情

そんな形には収まらない持て余す程の忠誠心をただ一人に捧げ命を燃やす。


(ああ、血が沸るな)


**


あの日、レスティア聖堂に足を踏み入れてからのお嬢は少し変わった。


レスティア聖堂で二人仲良く寄り添って深い眠りについていたあの時、僕は特に深く考える事なく二人をお家まで運んだ。

顔色も呼吸も何一つ不穏な要素が無かったし、悪意ある魔術や薬は聖堂内では無力化され作用しない。

たんに眠っているものだと考えていた。


でもその日を境にお嬢は人が変わった様に僕にしかみせなかった表情や、それ以上の感情を表に出すようになった


婚約者の王太子に向けてあきらかにお嬢は恋情を持ち始めたように見える

それは別に良い。僕はお嬢にそんな邪な感情を持ってはいないし、女として求めてもいない

僕をうまく使ってくれさえすれば僕以上に彼女に近い存在が出来たって構わないと思っている

主には誰より幸せになってほしいからね、


でも何か最近物足りない。

僕への信頼も変わらないし、お嬢は恋を知って幸せそうだ。変わらず賢く今まで通りに僕を使う。


でも何か足りない…

そうして僕は疑念を抱いた


(あれは本当に僕の主か?)


身体は間違いなくお嬢であるのはわかっていた。

変わったのは中身だ

本質は同じなのか冷静な判断力は変わらない

強いて言うなら雰囲気が甘くなった

端的に恋をして変わったと言えばそうなのかも知れない、でも僕の影としての本能が何かがおかしいと感じずにはいられなかった


僕は昼下がりに王城の庭園で王太子と仲睦まじく過ごす自身の主を死角から観察しながら考えた


(もしあれが本当のお嬢では無いとすれば、僕が忠誠を誓う必要は無い。でもあの身は紛れもなく僕の主のものだ。)


僕の影としての最重要任務は主の身を護ることだ


(ならばこのまま様子を見てしっぽを掴み、元のお嬢がどうなったのかを探るべきか…

幸い現主となっている中身は悪人でもなくただお嬢になりすましているだけだ。僕の事をお嬢と同じように頼って信頼している、それだけは伝わる…)


ユリアナシンフォニアはちょっとやそっとで消えて無くなるような存在では無い、だって僕の認めた主だ。

あの強く凛とした美しい人は必ず何処かに存在していて、今はただ不在なだけなのだろうと思った


今はあのお嬢を護りぬく、主が帰ってくる時にその器が無ければ戻ってこれ無いのだから


そうして行く日かたったある日の朝

お嬢と伝心で繋がる魔道具であるピアスが

反応し俺の心に声が響いた


『起きてる?アルノート』


目覚めには極上の美しい声が僕の鼓膜、脳を刺激する


『今起きたよ、おはようお嬢』


『記憶はあるけどなんだか久しぶりね』


僕はハッとして一気にベッドから飛び起きた


『…お嬢なの?…本当の』


『ええそう。やっぱりアルノートは気づいていたのね?なんで由梨さんに気付いてる事隠してたの?』


『へー、あのお嬢はゆりっていうの?

色々考えたんだけどさ、僕の最重要任務はお嬢の身を護る事でしょ?正体を勘ぐってるのがもしバレたらあのお嬢は僕を信用出来なくなる。それは何よりお嬢の身を危険に晒す事だと思ってね、様子をみていたんだよ』



『そう。貴方の判断は正しかったわ。

よく彼女を、わたくしの身を護ってくれたわね、

やはり貴方はわたくしの自慢の右腕だわ』



そう言われて僕は嬉しくなった


『お帰り、僕のご主人様、さあ、どこで何をしていたのかを話してくれるかな?』


そうして聞いた話は信じられないような話の連続で

だけれど僕の主の言う事ならば全てそうなのだと受け止める事ができた



そうして帰ってきた僕の主は話の最後にこう言った


『それでね、アルノート。

わたくしその『神』様と賭けをする事になったのよ』


その先の話を聞いて僕は大爆笑した

僕生まれて今までこんなに笑った事ないって思うんだよ、

まったく僕の主は面白い

この主はきっと死ぬまで僕を楽しませてくれるんだろうなと思う


(あの妙に甘く男心をくすぐるお嬢も使えていて悪くは無かったけど、やっぱりこっちのが断然に良い


『お嬢、会いたいな。

八分、いや、俊足で三分部屋の窓開けて待っててよ』


『三分…ふふ、アルノートカップラーメンみたい』


『カップ?何?ああ、もう話は後で聞かせてよ〜』



『アルノート、そんな急がなくても、私は何処かに消えたりしないから、ゆっくり来なさい』


(どの口が…)


『一度何も言わずに僕の前から消えたくせに、

いや、もうそれは良いよ、ただ僕が今一秒でも早く君にあいたいんだ』


会話をしながら身支度をしていつもなら

髪を結うけど今はその数分さえ惜しい


金の髪留めを手に握り住処の屋根に飛び乗って

頭の中で詠唱を唱え自身の足にそっと触れた


足に魔法の力が宿り走れば風を斬り大きく踏み込めば宙を舞う軽さで長く高く飛べる


1分、2分、3分、


シンフォニア公爵家の屋根に足をつきそのまま駆けてお嬢の部屋のバルコニーに降り立った


僕は自分の髪を一束に纏めてさっきまで握りしめていた髪留めを指先に持ち直し頭の高い位置でカチリと固定した

その後すぐにお嬢が窓を開けてバルコニーに出てきた


「ただいま、アルノート」


僕は数歩かけよりそのままお嬢を包み込むように抱きしめた


「お帰り僕のお姫様」


「相変わらず、距離が近い」とお嬢がぽそりと呟き僕は笑った



この僕の大切な主もどうやら恋をしたらしい


それを聞いた時、幼い頃可愛がっていた飼い猫がするりと自分の膝の上から居なくなった時のようなほんの小さな寂しさを感じたけれど、この笑顔をみたらそんな些細な感情は一瞬で消え失せた


(君が笑っていられるなら何でも良い

どうかずっと君のままで、

自信たっぷりないつも通りの君で僕をうまく使ってよ)


僕はお嬢の耳に光る緑色のイヤリングをシャラリと指で揺らし

満足して従者としての正しい距離を取り直した



次話セナ王子視点、

後数話で完結したいと思っております。

最後までお付き合いいただけると幸いです。

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