20.創造主の憂鬱(夜月視点)
「君たちがここへ来るだろう事は事前に聞いていたのでまあ、いいんだが…」
「…」
「…」
俺の目の前には今、ピンクの頭をした美少女と茶髪のありえん程の美女が肩を並べて座っている
うん。全然うれしくないのだが…
「なぜ、こんな面倒なことになっているか、一度整理しよう…まずはそれからだ」
俺は俺のあずかり知らぬ所で起きた問題の解決に今駆り出されている
正直…俺は知らんといってこの場から去りさっさと小説の続きを書きたいんだが、
さすがにそれがまかり通らない事はわかっている。
なぜならそれは、今目の前にいる茶髪の美女の中身が、俺が創造したキャラクターだからだ。
「…整理と申されましても、わたくしはアリスを追ってレスティア大聖堂に踏み入っただけでして、
気がついたらこちら側にいて、この身体の持ち主である東堂由梨さんになっていたのです」
茶髪の美女、東堂由梨の姿をしている彼女の精神は今、セイオーのユリアナシンフォニアが乗っ取っている状態なのだと数時間前にあっち側の俺から聞いたばかり、
とりあえず俺はそれを聞いて開いた口が塞がらなかったんだが、
そもそも、俺の創造した世界を基にそれを一つの世界としてすでに再現し、具現化した状態にある事すら俺はついさっき知ったくらいで、今回引き起こったトラブルに俺は関与していないわけで…
改めて目の前に自分が生み出したキャラクターが現れて話をしている状態を感慨深いとは思いつつも、
俺は、なんで俺が…と思うしかなかった
困り顔でも造形美の崩れのないこの東堂由梨という女性は俺が思い描いたユリアナのイメージをほぼ組み込んだような見た目で、違うとすれば、少し大人びている所と、髪の色と瞳の色が違うこと、肌が俺が思い描くユリアナより健康的な肌色である事くらいでユリアナだと言われてもすんなり受け入れられてしまう程にしっくりと言った感じだった
話し方が若干いいとこのお嬢さんっぽいのは中身がユリアナだからなのだろう
それよりも、今俺が気にするべきはこっちではない
この、ピンク髪の少女だ
「では君が、アリスなんだね…?」
俺のその問いかけに、目を伏せて少しピクリと肩を揺らした少女は視線をこちらへ合わせる事なく答えた
「アリス…そうですね、正確には私の名は横山有栖
と言います。元々はこちら側の人間なんです」
「…だが、その身体は君の本来の姿では無い、
今の君はユリアナが入っている女性の妹、東堂朱音に成り代わった状態なんだろう?」
ビクリと身を縮めてその顔を青ざめる彼女の様子から自分の行いが到底肯定できるものでないと理解していての行動なのが解る
(根っからの悪人では無いのだろうな…
もし、彼女が悪人であるならば、あの二人がどういった形であれ接触を試みるわけが無い)
だが、このような想定外のトラブルが起きていなかったら俺の預かり知らぬ所で、現状何ら問題なく生きていて、何の罪も無かった一人の少女が勝手に人生を捻じ曲げられ身体を取り替えられたまま異世界へ一生放置されていたのだと思うとゾッとした
「アリスというキャラクターを作ったのは俺だ。でもアリスにこちらの世界とのつながりがあるような設定なんてつけてはいないし、そもそも俺の考えたアリスに君のように他人を陥れても構わないというような自己中心的な人間性は取り入れて無い。アリスは清廉で真面目な優しい少女だ。
俺のキャラクターになりすまして俺の描くヒロインを穢すのは到底許せないな」
美少女を泣かせたいとかって趣味は俺には無いんだがキャラクターの生みの親としては物申さずにはいられない
唇を噛み締めてポロポロと大粒の涙を流す彼女にも良心があるのだとほっとしつつ、話しをさらに進めようともう一度口を開いたその時、
芯のある透き通るような綺麗な声に静かな怒りと威圧をにじませながらユリアナが俺の第一声を遮りしゃべりだした。
「それ程までに自身が創造したものに愛着があるのであればあなたは彼女に感謝はすれど暴言を吐くべきではありません。彼女が例え貴方の創造どおりのアリスと違えていたとしても、彼女が聖女であり、
レスティアの危機を、あの世界でいきる多くの人間の命を救った事に変わりは無いのです。
もし、彼女が私達の元へあの日、あの時降り立たなければレスティアの民、貴方の創造したもの達はその多くが死に絶えレスティア王国は滅びていたでしょう。貴方のつくった世界を救った彼女を、どうして貴方が責められましょうか」
「ユリアナ様…」
涙を流す少女の肩を後からそっと両手で支えユリアナが俺を見た
俺は真っ直ぐに射抜くような瞳を向ける彼女に創造通りのユリアナをみて歓喜で心を震わせた
(実にユリアナらしい返し方だ、その瞳も良い、一国の王妃になる女はこうでなければいけない)
「確かに、君からしたら彼女は歴とした聖女なんだろう。実際に二年もの歳月をレスティアで過ごし、君の国を救った。でもそれは全てシナリオ通りで彼女はどうすればよいかを知っていたし彼女は創造主…正確にはあちら側の俺と契約してそうする事を自ら選んだ、慈善では無く、打算でしか無いんだよ」
(さあ、それを既に知っているんだろう?
次はどうきりかえす?)
「…貴方は事の経緯に重きを置きたいようですが、
私達側からすればそんな事は些細な事でしかありません、事実、彼女がそれを選択してくれて無ければ私もどうなっていたかさえわからないほど、国は荒れていた」
「…」
ああそうだ、
セイオーゲームの始まりは世界的な旱魃が続き飢える民が国中に広がる中さらに感染力と致死率の高い疫病が流行りじわじわと国が衰退していこうとしていた時、突如レスティア大聖堂に高度な魔法の源となる精霊の祝を得た異世界の少女、アリスが降り立つ所から始まる
神官達が神や精霊に祈りを捧げている最中、
神々しいまでの光とともに未知の魔法紋を纏いアリスが現れる。
無から現れたその少女は精霊がよこした聖女様だと神官達が国王へ知らせ
衰退し始めた国のひとすじの光とみた
国王はアリスを救世主として国民へ知らしめた
それは初めこそ国の衰退が王侯貴族へのクーデターに発展しようとしていたのを目眩しする為だったが
アリスは次々と高度な魔法を習得しその力を衰退する国と民の為に使った
旱魃地帯に恵みの雨を降らせ、疫病に苦しむ民を一人一人癒していく。それは誰がみても聖女そのものだったんだろう、そして…
実際その行いは、ただシナリオで知ってるからできるなんて事はない、魔法を使う源はあっても、それを鍛錬して自由に使えるまでに努力しなければならないのは何も持たないで降り立った彼女で、
沢山の知らない多くの人間の期待を一身に受け天候を操ったのも彼女だ。ゲームで死なないとわかっていたって、致死率が高く目の前でバタバタと人が死んでいく様を見ながら、それでも疫病患者と向き合い地道に治癒させる事をやり遂げる事は容易な事では無かったはずだ
俺は自分の中で何気なく作ったシナリオと、
ゲームにも多少取り入れた惨状を想像して言葉を飲み込んだ
俺が作ったままの世界がそのまま反映されていたならば、俺は何人の見知らぬ人間の命を知らない
間に蝕んでいたのか…
ユリアナが言う通り、彼女がゲーム通りにその役をやり遂げてくれていなければ…
俺はもう一人の俺から『あの世界作ってみたけどダメだったわ』って軽く言われていたのかもしれない
それを聞いたなら、きっと軽く受け止める事など
出来なかったはずだ
そんな未来にならずに済んだのは…
「創造主たる貴方を責めたいわけでは無いのです。
貴方がいるからわたくしもこうやって今存在しているのですから、ただ、貴方の考えたシナリオの後始末をしたのは彼女である事を理解して彼女と会話をしてほしいのです。私にとってのアリスは、貴方が創造した通りの清廉で真面目な優しい少女です。
そして、わたくしの唯一のかけがえのない親友です」
自分より五つ以上も年下の少女であるユリアナに
諭され俺は肩を落とし、思わず溜息をついてしまった、そうしてそれが否定の意と捉えられなかったかと思いすぐに切り出した
「ああ、すまない。今の溜息は違うんだ。
その…アリス…君すまなかった、
君の良心を探るような真似をして傷つけた
ただ、俺がついた言葉を全て取り消すつもりは無い、君の決断が多くの異世界の人間の命を救ったと共に、君が君自身の願いの為に一人の少女を生贄にした事も否定出来ない事実だ。
でも、あっち…ああ面倒だな、もうあいつらは『神』でいいな、
でも、君の功績の対価として『神』がその少女の身体と成り代わる事を承諾した事も事実ならば俺がどうこう言う事じゃない、この世界も、新たに出来上がってるらしいsei-o世界も実際動かしているのは『神』でしかない、あいつらが決めたことが世界のルールでこの世界の理だ。
だから俺は傍観者として、また、君達と『神』の橋渡しとして君達と関わるよ、よろしく」
俺の差し出した手をおずおずと握り握手をすると
アリスは制服のスカートをキュッと握りこちらをみた
「あの!私があって約束をした方がその『神』様だったんですよね?」
「…あー、ちなみにどっちと会ったか知りたいな
どんな顔してた?」
「へ?ええっと、私くらいの年齢層の男の人で、白のパーカーのフードを被っていたので髪型はわからなかったんですけど、人の良さそうな柔らかい微笑み方をされて…」
「あ、そっちか。…なるほどね…」
(ふーん、これはまた…俺には内緒で上でなんかやってるな…あー頼むからこれ以上巻き込まんでほしいな)
「あの!」
「ああ、うん。そうだな、それも『神』だ。」
「それも…て事は『神』は一人ではないという事ね、そして、貴方は私達の創造主であり、この世界全体を創造する『神』の一部的な存在なのかしら?」
ユリアナが的確に核心をついてくる
自分の生み出したキャラなのにこんな状況下でも冷静過ぎる少女に達観してるなと感心してしまう
どこまで話して大丈夫だろうか、と考え
でも、まあどうせここまで深入りさせてしまっているならもうほぼ良いだろう、何か問題がおきればあちら側の『神』達で何とかするはずだ
と考え俺は自分の事を少し話してしまった
「そうだね、トップに創造主たる『神』がいて、
その神の創作を助ける者として俺は存在しているんだ、『神』てのは中々に多忙でね、自身で色々体験したり俺みたいに他事を沢山考えてシナリオを作っている暇はない、でも神にとって日々のスパイスも創造の軸となるシナリオも必要なものでね、
いくつもの世界に散り散りに俺みたいな存在を置いて人生を全うさせ、その記憶を集めて自分の中に取り入れてアップデートしてるんだよ、といっても
それも数ヶ月に一度の頻度でスマホやアプリみたいなもんだ」
「…スマホ、アプリ…この世界はわたくしの世界より遥かに色々なもので溢れているようですね…
由梨さんの記憶を拝見しましても、娯楽の幅といい、恋愛の自由度といい、何から何まで違う事ばかりで…」
「いや、マジごめん…確かに色々省いた、世界観を大事にしたくて、生活の利便性とか充足感とか実際そこに住む人間の事など考えてもいなかった…だって俺シナリオ専門だし」
「なるほど、だから、旱魃に疫病まで平気でぶっこんできたのですね、納得です。確かに実際細部までシナリオ通りの世界を『神』が作るとは誰も考えないでしょう」
俺はなんだか仕事のミスを上司に指摘されているような気持ちになりつつ、ユリアナからぶっ込んできたとかってセリフが出てきた事にも驚いていた
(この美人の由梨って女性はこんな成りして普段からこんな言葉を使ってるのか?だとしたら意外過ぎるんだが…ああ、でもラノベの編集なんだっけ、
ならいろんな言葉を知ってておかしくは無い…か)
俺の中での由梨って女性の好感度が若干下がった所でピンク髪のなりした横山アリスが声をあげた
「あ、あの!貴方が『神』様と連絡を取れるならば
伝えてくれませんか?ユリアナ様を元の世界へ帰してあげてほしいと」
「…あっちもユリアナがこちらに来てしまってる事は知ってるよ、だから俺に君達と会うように言ってきたんだ。でも『神』もちょっと手をこまねいていてね…それもあるけど、君は良いの?ユリアナと由梨さんが元通りになっても、ユリアナともう話しも出来なくなるし、それどころか由梨さんがこちら側に戻ってきたら君はうまくやっていけるの?
おそらくだけど、あっちの世界での記憶を持ったままに戻ってくるよ」
「うっ…そ、それは…」
また美少女の表情が曇る
(意地悪で言ってる訳ではないんだが…
困ったなー…)
「わたくしは今すぐで無くてもかまいません。
こちら側の世界も見てみたいですし、なにより
アリスともう話も出来なくなるなんて…気持ちが追いついていきません、少し切り替える猶予が欲しいです。それに、アリス、貴方がこちらで本当に幸せになったのかを見届けてからでないと、私は安心して帰れないわ、
あと…そう。わたくしも少し思う所があるの、
思いがけず…いいものを見つけた気分なのよ、だからわたくしの事はそんなに気にしないで頂戴」
美女のなりした、とゆうか大人版ユリアナみたいな
見た目でユリアナが妖艶な笑みで微笑んだ
一瞬チラリとこちらを見て外のないような、けれどどこか含みがあるような微笑を投げかけられた
(んんん?)何の笑顔だったのかわからなかったが
まあいいか、と軽く流して俺は『神』から託された伝言をアリスに伝える事にした




