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1.始まり







「由梨、お疲れ様」


 背後からポンと肩に手が置かれ振り返った。

「あっ、美園さん。お疲れ様です。

美園さんが残業していかないなんて珍しいですね」


「明日、夜月トオルと打ち合わせで朝早いからね、編集長が定時で帰れって」


「ああ、あの我が社のドル箱と期待されるシナリオライターですか?

美園さんが担当って私も聞きました。さすがですね」


 会社のエントランスから外へ出て先輩の美園さんと二人で並んで駅まで歩き出す。外は日が暮れ街灯は光を灯していた。


「…ねえ、由梨…そんな事よりあんた視線とか投げかけられる言葉とか気にならないの?」


 美園さんが言うのは、さっきから私達の周りを通り過ぎていく人達のこちらを見る視線や軽薄そうな男の安っぽい誘い文句の事か、それとも通りすがった若い女の子二人組の後ろから聞こえる色めきだった話声の事なんだろう。


「ああ、もう流石に慣れましたー。大衆の目につきやすい分何かあると助けてもらえるし、危ない目にはあった事無いから全然大丈夫ですよ、なんかすみません。せっかく声かけていただいたのに…こんな感じで。」


今の私はうまく笑えているかしら…


(…そっか、美園さんと外一緒に歩いたの今日が初めてだわ…)


 はじめて隣を歩く人には大抵同じような質問をされるけれど、ここ最近は無かった。


 (極力迷惑かけないように人と連れだって歩かないようにしてるしね…)


「なるほど、

これが物心つく頃からあんたの日常てわけね。

これで性格ねじ曲がらないとかヒロイン気質かもね、いいわね。実体験を仕事に行かせるじゃない

リアリティのあるネタを作家に提供できるなんて なんて生産的」


「自分ネタにとかふりませんて、

考えた事もなかったですよ…」


 嫌な顔一つ見せずにサバサバと分析モードに入る職場の先輩にこちらも自然に笑みがこぼれる



「美園さん、そうやって人をキャラ分析するの職業病だとおもいます。」


「言うね、新人」



 私は東堂由梨 日本に住む22才、コミック、ライトノベルを出版している会社のノベル小説の編集部に今年の春から勤めている、編集と言っても私はまだまだ見習いの身なのだけれど、仕事も起動に乗ってやりがいも感じ充実した日々を送っている。


 

私の容姿は幼い頃から『派手顔』と両親や周囲に言われるような目立つ顔をしているらしい。

その為一歩外を歩けばこの通りーー

普通一般の人より認識されやすい傾向にある為他者からの無遠慮な視線に苛まれる

 

 自意識過剰と謗られる事も稀にあるけれど大抵はひどく同情されるか距離をおかれるのどちらかだ。そのどちらであっても私としては好ましくない。

 そんな私が良好な関係を維持できる人間は中々に希少で、メンタル強者か鈍感力のある人、もしくは無干渉型の3種類の人種に限られる。

隣を歩く美園さんがその類の人種で良かった。


 

 別に自分の容姿は嫌いでは無いけれど 好きでも無いから周囲から褒められてもうまく喜べないし、反応にも困る… 大体、私に言わせれば妹のほうがずっと私より可愛らしい容姿なのだから…




 美園さんと駅で別れて電車に乗った。

電車の中でも視線を感じる。

揺れ動く電車の出入口の隅に立ちその窓に映る自分の顔をぼーっと見つめた。


(特別彫りが深いわけでも鼻が高いわけでもないと思うのだけど…総合的な組み合わせが目立つ理由だとでも?…解せないわ。

髪だってゆるくパーマはかけてるけど普通一般的な茶髪だし。もういっそ眼鏡でもかけてみようかしら)



 それにしても今の職場を就職先に選択したのは正しかった。

それなりに努力した結果であると言う自負もあるし、なによりつきたかった職種だ。

それに加えて私の職場である『(つむぎ)クリエイト』は純粋に良質な作品を世に出す事に没頭する同士ばかりの行き着く場所だ。

 

 職場では私の容姿なんて さして気にする人間もいないのだから、なんと居心地のよい事か…。



***



「ただいまー、はあ、疲れた」


 玄関でパンプスを脱ぎ、流れるように

リビングのドアノブを握る。


「はーーーっ 恋人になったレイル様尊い…」


 ドア越しになんか変なセリフ聞こえてきたけど、もう慣れた。



 ドアを開けリビングに入るとここ連日テレビゲームに明け暮れている妹がいつものようにテレビを占拠していた。


「またやってるの?ねえ、それテレビ画面でやる必要ある?

リビングのテレビで恋愛ゲームって、普通 家族の共有スペースでやるゲームじゃ無いよね。」


「お姉ちゃんお帰りー…わかって無いなお姉ちゃんは、特別ストーリーを大画面、高音質でみるのが良いんじゃんか、別に身内にオタばれしたって全然平気、少しも恥ずかしくない。」


 そう言ってゲームのコントローラー片手に流し目気味にこちらを向き不敵に笑う朱音は17歳の女子高校生だ。モフモフした上下セットの部屋着を着てテレビの前であぐらをかいている。


ラベンダーピンクに染めた柔らかい髪を耳より高い位置でポニーテールにしていて

その髪が朱音が少し動く度にふわふわとしっぽのように揺れている。


(まるで猫ね…可愛いの要素、私全部母親のお腹に取り残してきて、それを吸収して爆誕したのが朱音だと思う…うん。絶対そうだ…)




 そんな妹の朱音は今爆発的な人気を誇る恋愛ゲーム『聖女と王子どっちになる?』にどハマりしている。


ここの所リビングのテレビは朱音が家にいる時は大抵このようにゲームプレイに使用され、私は録画のドラマを観る事も出来ない日が続いている。


(そろそろ一人暮らしでもはじめようか…)


私は耳につけていたピアスを外し2階の自分の部屋へ着替えをしに階段を登った。


ピアスをアクセサリーケースにしまい部屋のクローゼットの引き出しを開けて適当な部屋着に着替えリビングまで戻ると朱音はまだゲームを続けていた。


朱音の横を通りダイニングテーブルの上に自分のスマホを置いた。



「そのゲームすごい人気よね、

プレイキャラの性別を選べるから男女共に人気なんだってね。うちの会社も今度そのゲームのシナリオライターの新作ノベル出すのよ、知ってた?」


 キッチンの冷蔵庫を開け、いつものように朝作っておいたコーヒーと牛乳を良いあんばいにグラスにつぎカフェオレを作りながら朱音にそう話しかけるとキラキラした瞳をして話に食いついてきた。


「もちろん、知ってる。

夜月トオルの初小説でしょ?

いくつものゲームシナリオをやってるけど本当なんで今まで小説出した事無いのか不思議なくらいだよ。キャラクターの魅力もさることながら、この世界観が引き込まれるの‼︎

小説も絶対売れるの間違いないね。

お姉ちゃんも私がやり終わったら貸してあげるからやってみ、絶対どハマりするよ」


 カフェオレを一口飲みダイニングの椅子に腰かけ足をくみ一息ついた。


「ゲームなんかハマったら小説読む暇も無くなるわ、ただでさえ、仕事するようになってから読みたい本がたまってるのに…

最近朱音のせいでドラマの録画もたまってて、全然見れてないし」


 左手にグラスを持ち、右手でテーブルに置いておいたスマホをすくい上げ親指で画面をスクロールし今日のネットニュースに目を通しながら朱音との会話を続ける


「ごーめーんって。でも後ちょっとで推しの隣国王子レイル様攻略出来そうなの。

ほかはもうハピエンして攻略したから最後なのー、

全部クリアエンドしたらテレビも明け渡すし、このゲームもおまけに貸すから!

お姉ちゃんの会社がこのゲームの続編小説出すなら関係あるかもでしょ?」


「確かに…担当は先輩だけど、どんな内容か知らないと万が一話し振られた時ヤバイわね」


 そんな会話をしていると目の前を流れていくネットニュースのタイトルに夜月トオルの名前が飛び込んできてタイムリーなだけに、思わず声に出して読んでいた。


「、、、夜月トオル最新作がこの夏始動

 あの話題ゲーム『聖女と王子どっちになる?』、通称sei-o(セイオー)の続編とも言えるストーリーがライトノベルで楽しめる。実質第二幕となるストーリーのヒロインはまさかの公爵令嬢ユリアナ

だった…」



( あぁ…これうちの会社とコラボするやつ

ユリアナ?まさかのとか言われても…まったく分からないわ)


「なに?今なんて言ったのお姉ちゃん!

ユリアナ嬢が第二幕のヒロインなの?

えーっ、人気キャラだからこのままでは終わらないとは思ってたけど、まさかのヒロイン昇格てさすがユリアナ様。やっぱり王子プレイヤーにダントツ人気だったんだろうね。

ねっ、お姉ちゃん」


「いやいや、知らないわよ、何?

どんなキャラクターなの?」


「うそでしょ?もう忘れた?

この前ちょっと話してたじゃん。ゲーム内の国レスティア王国の第一王子の婚約者で筆頭公爵令嬢なんだけど、悪役令嬢じゃない正統派美女、

何をやらせても完璧にこなす令嬢達の憧れの存在。

「この公爵令嬢、お姉ちゃんに雰囲気似てない?」て話してたじゃん。ほらほら、思い出して」


 朱音が呆れた顔をしながら私に手帳サイズの

攻略本のようなものを読めと言わんばかりに差し出してきた。


「あー、なんか顔は覚えてる。

でもそうでもなくない?私の髪色銀髪とかじゃないし。髪型だけじゃない?ロングをまとめてる感じが良くしてるし、それだけでしょ」


「いやいや、実写でいけるんじゃ無い?てくらいには似てるから。

 いいよなぁ〜お姉ちゃんママ似だから、美人顔で、私はパパに似て地味顔だし」


「はぁ?地味顔て…彼氏コロコロ変わるモテ女が何いってんの?」


(てゆうか、うらやましいのはこっちのほうなんだけど…私はあんたの顔に生まれたかったわ)


 子猫のような人好きのする容姿に小柄で女の子らしい見た目の朱音。

まるっと交換できるなら交換したい


「高嶺の花には野原の花の気持ちなんてわからないんだよねー可愛くても所詮は雑草レベルーみたいなね。ああーハイスペック彼氏欲しー、てゆうかなんでこんな話ししてるんだ?」



「…朱音がユリアナが私に似てるて言い出したからでしょ、てゆうかまた彼氏と別れたんかい」


 ーーて、朱音を見たらもうすっかりゲームに夢中だ。頬を赤らめているけれど、もうこっちの話しでは無くゲーム内のキャラクター、レイル王子とのやり取りでメロメロになっているようだ。

すっかり恋する乙女な顔でどっぷりハマってしまっているのがわかる。


(やれやれ、リアルより2次元かぁ…)


 私は朱音の邪魔をする気にもなれず渡されたゲーム本を開いていく。


 ゲームのシナリオは

レスティア王国を舞台に繰り広げられる壮大なラブストーリーだ。

キャラクターは王子、令嬢、執事や騎士、はたまた隠密や聖女なんでもござれな多数のキャラがいる中でプレイヤーが選べるキャラは第一王子と聖女のどちらかで性別で選ぶ事でラブストーリーが展開していく。

いわゆるBLやゆり設定は無いようだ。朱音はもちろん聖女キャラで一ヶ月程前からどんどん攻略対象の男性キャラ達を落とし抜き今最後の推しキャラである隣国の王子レイルと婚約パーティー前日までこぎつけたらしい…この攻略本をみるに今日中にでも全クリアしそう…



 ちなみ一番苦戦していたのはプレイキャラにもなっている第一王子の攻略だったそうな…

初期設定で、ユリアナという公爵令嬢が婚約者として存在していて、王子の公爵令嬢への思いが強く引き離すのに相当苦労したらしい。そして朱音は攻略に時間を割いている中段々とユリアナの魅力にあてられゲーム内で第一王子のセナ王子を奪った後も何とか友人に戻れ無いかと裏ワザを探す為にこのゲームの攻略本を買ってきたようだ。

 

私は序盤のシナリオやキャラクター紹介を見ながら段々と今までの朱音の話しを思い出していく。


 ユリアナの挿絵に目が留まりそれをそっと指でなぞった。


(ユリアナ シンフォニア公爵令嬢…)


由緒正しき家系の生まれで、品があり周りからの信頼も厚い聡明なお嬢様。

その横には整った顔にどこか愛嬌のあるもう一人の主人公、セナ王子が描かれている。


「レスティア王国の第一王子で王太子 セナ レスティア

文武両道、品行方正。クール属性をテンプレ装備、心を開くと色々な姿を見せる多属性キャラクター プレイキャラとしても攻略キャラとしても楽しめる」


 やはりプレイキャラは別枠なのか、多属性なのね、誰を攻略するかで性格が微妙に変わるとかかしら…


「ねえ、あかね、セナ王子てさ…」


 刹那ーー


 私は続く筈の言葉を飲み込んだ。

その瞬間そんな会話所では無くなっていた。



ズンッ


と急激に身体に異変が起きる。



全てを飲み込むような圧倒的な抗えないなにか

に身体を支配されている。


 私の身体は上から押し潰されたように自由がきかなくなりテーブルに頬をつけて横向の状態で動けなくなった。


(なにこれ、カラダが重い。全然起き上がれない…どうなってるの?)



(何が起きたの?)



 私はとっさにすぐ側にいるであろう朱音がどうなっているのか気になり朱音の方に視線を移す。


「あか、ね」


 私と同じ状態なのか、ぐしゃりと倒れた状態の朱音が視界に映った。


「お姉ちゃん‼︎ 何これ。」


 倒れた状態から起き上がれないのか

 助けを求めるように朱音が叫んだ。


 そんな朱音と私の間の空間には半透明の数字が羅列をくんで雨のように頭上から降り注ぐ、その数字は床に吸い込まれ消えて行くように気づけば視界に入る空間全てを数字の羅列がすごい速さで流れていた。


 理解出来ないこの異様な光景に思考は追いつかず、恐怖する。


 目の前では流れ続ける数字に透けてかろうじて朱音の姿を視界にとらえていたけれどすぐにその姿にも異変が起こりはじめた。

朱音の身体が透けたようになり、まるでテレビの砂嵐の様に見えない部分や手足の先は消えかかっていた。


「っ…」


(なんなのこれ。)


(やばい、これはやばい。)


 私の本能がそう告げるけど、身体はどれだけ力を入れても自分の意思に反してピクリとも動かない。

 それどころかさっきまであった抗えない重圧感さえも身体はまったく感じ無い麻痺したような何も感じれない状態になっていた。


 目の前で恐怖で泣きながら叫んでいるような朱音の声は聞こえない。姿はどんどん消えて見えなくなる。


(動け!うごけ!うごけ!)


 心でそう叫びながら朱音も自分もどうなったのかわからないまま次の瞬間、私の意識はプツッと消えた。


お読み下さりありがとうございます。

この先からやっとこ異世界スタートです。

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