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転生した鬼は元クラスメイトを地獄へと誘う  作者: 月のウサギ
一章 復讐者の慟哭
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白光

「…………」


 昼休み、屋上で小さくフェンスに凭れ、座り込んで空を仰ぎ見る。


 ……数日前まで、ここには彼がいた。会ったときから既にボロボロだったのに、凄惨ないじめを受けながらも笑顔を見せれる、そんな彼が。傷つくのを恐れながらも、誰かのために盾になる事を躊躇わない、そんな彼が。


 ……彼はもう、この世にはいない。


「何で、死ん、じゃった、の……悠、人君……」


 顔を脚に埋め静かに涙を流す。


 私にとって最高の友達であり、理解者だった秋月悠人は……最後に会ったあの日、死んでしまった。


 彼が死んだ翌日、担任が事実を告げ、それを信じきれず私は気分が悪くなったと嘘をついて学校を早退し急いで悠人君の家に向かった。


 そこで待っていたのは……私の予想を越えた悲劇だった。


 悠人君の家には親戚と思われる人たちが詰め寄せ涙を流していた。その一人に話しかけたところで事態の深刻さを理解した。


 ……あの事故で死んだのは悠人君だけではなく、悠人君の祖父母もだったのだ。二人とも悠人君が交通事故で死んだと言うことを警察関係者に言われ、ショックのあまり持病の発作を起こし、どちらも死んでしまったそうだ。


 その後、目的もなく街を徘徊し夕方辺りに家に戻り、自室のベッドに寝転がった瞬間、今まで留めていた涙を流した。悔しさと悲しさの混じる涙は一晩中流す事となった。


「好き、と、言えな、かった……!」


 私は、悠人君が好きだった。


 悠人君と出会ったのは四年前の冬だった。


 当時の私は三年生の人気者の先輩の告白を振った事でただでさえいじめられていた環境をより悪化させてしまっていた。


 階段から何度も突き落とされた。耳が傷つきその傷を隠すために髪を伸ばす事になった。


 手を縛られライターの火で脇腹を炙られた。火傷の痕は今も残っている。


 鎖で椅子にくくりつけられ、熱したトングで太腿を挟まれ焼かれた。ライターの火傷よりも酷い傷が出来た。


 そして、部活の先輩に無理矢理いかがわしいホテルに連れられ先輩が斡旋した男性と援助交際を強要されそうになった時


『何やってんだ、お前ら』


 救世主(ヒーロー)が現れて私の手を取って連れ出してくれた。


 黒い髪に黒い瞳、程よくついた筋肉に大きくも小さくもない平均的な身長。それでいて優しそうな瞳をしており、穏やかな印象を与える顔立ちをしていた。助けを求めても誰も助けてくれなかった私を彼は助けてくれたのだ。


 この時、私は彼を好いてしまった。思いが抑えきれず、暇を見つけては彼を探し、名前や進路を聞き出す事にも成功した。


 そして中学から高校に上がるとき、『彼に感謝を伝えて、告白しよう』と誓った。


 だが、悠人君のあまりにも唐突過ぎる死のせいでそれすらも許されなかった。


「貴方と、もっと一緒、に……いた、かった……!」


 胸ポケットから折り畳んだ進路の紙を取り出して広げ、中を見る。


 私は、悠人君と同じ大学に進もうとしていた。悠人君が好きだからだけではなく、私も彼と同じく同じ境遇の人を助けたかったからである。


 そして、そこでいじめから解放され静かで平穏な日々を過ごす……それを何度も夢想していた。だけど、それすらももう出来ない。


「あれ?雪花じゃん。どうかしたの?」

「……何でも、ない」


 屋上に誰かが登ってきたことに気付き涙を拭う。


 こんな姿を見られるのは少しだけ、嫌だ。これを原因にいじめられたら……きっと、悠人君は怒ってしまうかもしれないから。


「雪花ちゃん、こんなところでご飯食べてたんだね」

「……うん。誰も、いなくて、静か、に食べ、れる」

「そっか。いやー眺めが良いよね、ここ」


 悲しい気持ちを抑え込み同級生と笑顔で会話しながら昼食を取る。


 ご飯を食べたらここを去ろう。今は一人でいたい気分だ。


「そう言えば、秋月……だったかな。あいつ、交通事故で死んだらしいね」

「……うん」

「けど、それは交通事故じゃなかった(・・・・・・・・・・)としたら、どうする?」

「え……?」


 私の隣に座る同級生の言葉に驚きのあまり箸を落としてしまう。


 事故じゃない……?それじゃあ、悠人君は……殺された?一体誰に、どうして……?


「私の親父は雑誌の編集者でね、今回の事故を殺人だと思っているのよ」

「何で、私に……」

「そりゃあアンタがあいつの友人だったからに決まってるじゃん。仲良さそうだったし」

「…………」


 そういう風に取られていたの……。バレないようにしていた筈だけど……。


「あいつの巻き込まれた事故の概要は大体知ってるわよね」

「えっと……確か、車が歩道、に乗り上げ、て……」

「死者二十名の重大な事故になったと。そして、その中でたった一人二度轢かれたのが……あいつ」


 悠人君は多くの人たちを逃がしていた結果轢かれ、一度は立ち上がったが逃げようとした車両に再び轢かれ命を引き取ったのだ。


 普通なら我先にと助かろうとするが、悠人君は自分の命を犠牲に多くの人の命を救ったのだ。


「でも、それ、だけじゃあ」

「その際、同乗者が撮っていた映像がネットに流れてたの」

「……え?」


 見せられたスマホの液晶に流された映像を見て、唖然としてしまう。


 四人の男女が酒を飲んで談笑しながら車を運転し、運転手が悠人君を発見した事を告げて後部座席に言った後、全員が悠人君を殺そうと全員の意見が一致し、運転手がハンドルを切り車道に乗り上げた。


 多くの人を轢きながら悠人君を跳ね、何とか立ち上がったところで車を急発進させ再び跳ねた。その様子を四人は笑いながら楽しんでいた。


 何……これ……。こんなことが許されるの……!?多くの命を奪い、私が好きだった人を殺し、それを笑ってられるのは……狂ってる!絶対に許せない!


「誰が、これ、を流して、るの……?」

「さあ。私もそこら辺はさっぱり。でも、ろくな人間ではないわね。正真正銘のドクズよ」

「ありが、とう……」


 同級生にスマホを戻し屋内に入り真横の壁を殴り付ける。拳から伝わる痛みが私の怒りを物語るかのように響いていく。


 悠人君はただ生きたかった。ただ誰かを救いたかった。そんな当たり前を砕いたのは赦せない!



 午後の授業は殆んど右から左に流し、上の空だった。


 一体誰が悠人君を殺したの。それを笑っている人を私は許せない。犯人は今も逃走中らしいけど……何としてでも見つけないと。


「ん……?」


 内側のポケットにしまっていたスマホが振動したため先生に見られないように取り出す。


 こんな時間に何かあるのかな……。現実逃避のなめにしていたスマホゲームのスタミナが回復したのかな。でも、その時間より幾分か早い気が……。


「えっ……」


 スマホの画面に出したニュースを見た瞬間愕然のあまり僅かに声に漏らしてしまう。


 事故の……調査の打ちきりが決定……?理由は、犯人の推定が不可能と判断したため……?


 おかしい、あり得ない。あの事件は人通りの多い繁華街の帰宅ラッシュに発生したものだ。人の目もあるし、監視カメラだってある。それに、何人もの死者を出しているのだ、警察だって躍起になって捜査する筈だ。それを打ちきった……?警察のメンツを丸つぶれにしてでも……?


 まさか……警察上層部に強い圧力をかけられた?事故は圧力をかけれるだけの権力者……?まさか……!


「へへっ……!」


 手鏡で後ろの方を写すと卓也さんがスマホを隠しもせずに見て醜い笑顔を作っていた。


 やっぱり……!あの事故を引き起こしたのは卓也さんだ……!卓也さんの父親は教育委員会の会長だと悠人君が言っていた、権力者でありながら交遊関係が狭い悠人君の事を知っていたとなれば、卓也さん以外にはいない。


 決定的な証拠はない。あっても揉み消される。なら、いっそ彼を私の手で……!


「えっ……?」


 私が殺意を高ぶらせていると床が光始める。


 光は収束し一文字書きの円が幾つもの並ぶ奇妙な紋様が浮かび上がっていく。


 な、なに!?今度は何があるの!?


「み、皆さんは待機していてください!」


 担任は急いでドアを開けて外に出て、クラスメイトはどよめき出す。


 まずい……!これは何かまずい!速く逃げないと……!



 ―――逃がさないわ



「え―――」


 ドアに手を掛ける直前、背後から美しいソプラノ声が聞こえた瞬間、咄嗟に振り返ってしまう。


 その次の瞬間、紋様から光が放出され世界を白で塗りつぶし、意識を奪われる。



 ―――この日、私たちは世界から消えた。





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