魔法
長めの木の枝を加工して作った銛を手に持ち、時を見計らい、投げつけて魚を取る。
狩りも良いが、たまにはこう言った漁も良い。鬼族の漁はかなり独特だがコツを掴めばこの漁の仕方にも慣れる。
「やっぱりここにいた」
「おん?……何だ、少女か」
昼食代わりに魚を捌いて焼いて食べていると桃色髪の鬼族の娘が猪を背負ってやってくる。
あの日から数週間、母親から許可を貰って少女と『修行』を行ってい、その代価に魔法の知識を教えて貰っている。
魔法と言うのは僕が思っていた以上に奥が深かった事には驚きを隠せなかったのは良い思い出だ。
魔力を持って法則を歪め、詠唱によって形状や効果等の指向性を与えて魔力操る事で様々な効果を発生させる。
かなり簡略しているがこれが魔法の原理だ。それと、詠唱は強固なイメージがあれば使わなくても良いらしい。便利だなおい。
更に詠唱に使う言語によって威力も変化する。何がそんなに代わるのかは少女も分かっていない。
それにしても、少女がここに来るとはな。
「……来るな、と言った筈だが?」
「分かってるわ。けどね、ここでしか本気を出せないから仕方ないわ」
冷静な口調で荷物を下ろした少女を見ながら箸を進める。
未熟な僕に簡単にあしらわれてるのだから、こいつの実力は殆んど使い物にならない。魔法を使おうにも、鬼族は殆んどの者が魔力が魔法に出来る程持っていない。種族によって魔力の量も変化するが、鬼族はぶっちぎりの最下位だと母親は言っていた。
拳でも勝てない、魔法も使えない。そんな相手の全力何てそう高いものではないだろ
「っ!?」
何か嫌な気配を感じ取り避けた瞬間森の方から火の弾が川に着弾し水しぶきを上げる
。
あっぷな……あの軌道だと僕を目掛けて撃った攻撃だ。いや、それ以上に何故鬼族が魔法を使えるんだ!?
「鬼族にも、ごく稀に魔法を使えるだけの魔力を保有している者もいるのよ」
「マジかよ……!?」
心を見透かしたような回答をする少女が指を差した瞬間、背中から光線が屈折しながら放たれる。
驚きながら後ろに後退し水を蹴飛ばし水滴にぶつけ光の適当に屈折させて攻撃を剃らす。
「【LaLa―――】」
岸から凍っていくのを判断し一瞬で飛び上がり氷の上に乗る。
「【Lu―――】」
「ちっ―――!だが、甘い!」
凍った川から突きだされる杭を岸に移動する事で回避したと思ったら氷の槍が降ってくる。
それを鬼族特有の高い動体視力と反射神経を利用して拳、脚て粉砕し、軌道を剃らしながら笑う。
氷の槍が降ってくるのは予想外だったが、速度が遅い。これなら簡単に避けれるぞ……!
「【La―――】」
「え―――がっ!?」
氷の槍がいきなり無くなり、唖然としたところに空気の玉が腹に当たり数メートル後方に体を飛ばされる。
「【Li―――】」
止まったところで攻撃の手は一切終わらない。
光の弾丸が一斉に発射され流石に避けきれず何発か当たり更に後ろに飛ばされる。
ちっ……さっきの風の玉もそうだがなかなかの威力だ。人族相手なら骨をグシャグシャにしてしまうような、そんな火力だと言えば想像がしやすいか。
鬼族にとってはゴムボールにぶつかってる気分だがそれでも痛いものは痛い。これ以上ダメージが蓄積するのは好ましくない。
「【Le―――】」
地面から伸びる石の手を拳と蹴りで粉砕し一気に少女に近付く。
これ以上長引かせるのは危険だ。それだけの考えに至る程に少女は脅威として認識できる。それだけでも十分な強敵だ、出し惜しみ何てできるか。
「【LuLaLa―――】」
「ちっ……!」
僕と少女の間を隔てるかのように氷の壁が発生し、巻き込まれないように後ろに下がる。
攻撃だけでなく防御も魔法で出来るか。格闘の能力は同年代だと下の下だが、魔法を使えばここまで強くなるのか。
「魔法を使って『修行』すれば良いのに」
「それだと私が魔法を使えるのが分かっちゃうでしょ」
「成る程な」
氷の壁越しに光の弾を射ってくる少女の答えに納得しつつ弾を避けながら氷の壁に近付く。
鬼族で魔法が使える者は『神子』とされ敬われる事となる。『神子』となった者は一人、作られた社にて一生を過ごす事となる。それを回避するために魔力を隠しているのか。
僕は精神年齢が十七歳だから別に構わないが、少女は肉体も精神もどんなに大人びていても七歳だ。親離れはまだ遠い未来の事、自由を周りに強制されるのは嫌なのだろう。
「っせい!!」
「【LaLaLa―――】」
掌底で氷の壁を粉砕し接近しようと足を踏み込んだ瞬間少女の口から放たれた不可視の攻撃に吹き飛ばされる。
ちっ……!距離を詰めることも出来ないか……!
「【Ki―――】」
空中で回転しながら体の体勢を整え川に着水したところで川の底が爆発し上空に吹き飛ばされる。
「がっ!?」
「【Ri―――】」
あまりにも唐突過ぎて受け身を取ることも出来ずに上空に飛ばされ、追撃と言わんばかりに火球を放ってくる。
まず……!避けきれね……!
「グアァァァァァァァァ!!」
「【Hi―――】」
火球に何度も直撃し絶叫を上げた瞬間空気の塊が真上から落ち、川の中に叩き込まれる。
「これで、お仕舞いにするわ!【La―――】!」
「ざっけんなぁ!!」
勝利を確信した声音で手を振り下ろしたのを目にした瞬間咆哮し地面を蹴り一気に加速する。
攻撃が当たるのが何だ、確実に潰す!ここで負けてたまるか!
「嘘でしょ!?」
放たれた光の弾を見るよりも速く避ける姿に驚く少女に肉薄し拳を叩き込む。
今までは鬼族の極めて高い動体視力と反射神経に頼り過ぎていた。だからそれ以上のものに対応できなかった。だから頼ることを止めた。その代わり、気配察知を応用している。
攻撃が来るである事を気配だけで察知し攻撃を避け、膜の薄い場所を強行突破する。たったそれだけでもバカみたいな火力の魔法を突破できる。
「ごほっ!?」
少女の身体はくの字に曲がり、木に打ち付けられる。
これで一応終わり、と言っていいか。にしても身体も攻撃で痛いし頭も慣れない動きをしたせいでオーバーヒートして頭が金槌で殴られたかのように痛い。謎の光も何時も以上に濃く深く見えてしまう。
慣れるためにも今度から人族相手に練習しよう。それにしても、謎の光も何時もは見えないのに、今回はどういう風の拭き回しだよ。見える見えないの条件も分からないし、使いにくいことありゃしない。
「大丈夫か?」
「全力で戦って負けた……」
「こっちも全力どころか限界越えたからな。勝ち負けよりもその過程ならお前の方が勝っていた。実際、途中はボコボコにされていた」
「それでも負けてたら意味がないよ……」
木に凭れかかる少女の手を取り持ち上げて起こす。
人族相手なら一方的に蹂躙しているだろうし、鬼族相手でも良い勝負出来ているだろう。
「そう言えば、何故僕に構う。僕以外にも友人くらいいるだろうに」
「……それ、聞いちゃう?」
「当たり前だ。僕には思い当たる節がない」
強いて言うなら、僕がぼっちだから気に掛ける程度しかない。ぼっち生活は前世で慣れてるから構わなくて良いのに。
「私は普通ではない人の隣で支えたい。傷の舐めあい、必要のない同情かもしれないけど……それでも、ひとりぼっちは悲しいと分かるから」
「……成る程な」
適当な大きさの石に座り話す少女の隣に座り、空を仰ぎ見る。
確かにそれは安っぽい。だが、だからこそ普通は実行することは出来ない。それは、自分が異端になる事、異端である事と同義だからだ。
人はコミュニティを作る。その中の大多数の意見が反映され少数の意見は潰される。それどころか、大多数の不満を解消するために少数を苦しめる実例は忌々しい話だがザラにある。
そんな苦しい立場と一緒にされては自分の命も危うい以上手を差し伸べる人間は現れない。
それでも、手を伸ばすと言うのなら……それは自分が異端である事を承知した上で助けようとする、よっぽどのバカでお人好しでしかない。
血で赤く汚れても目を背けたい事を背けれないそのあり方。言うなれば、精神的な同族と言うべきか。
「たく……今日はさっさと帰れ、チェイム」
「やっと……やっと名前で呼んでくれた」
「良いから速く帰れ。狩りの邪魔だ」
「うん……!」
頭を掻きながら心底嬉しそうな笑顔のチェイムを追い返しながら銛を持つ。
それにしても、何度かチェイムの事を名前で呼んだ記憶があるのだが……うん、どこか他人行儀と言うか一定の距離のあるイントネーションだった気がするな。
……そう言えば、雪花や爺さんらは元気で過ごしているだろうか。どこかで知れたら良いな。




