エピローグ
「せいりゃあ!」
『ブモォ!?』
スフィアが切り上げた剣でオークの肉を絶ち心臓を切り裂く。
返す刀で二体目のオークの棍棒を防ぎながら身を翻し左手に持った剣でオークの脚を切り動けなくなったところで右手に持った剣で首を切り落とす。
新しく出てきたシルバーウルフの群れに向けてスフィアは左の剣を逆手に持ち振るった瞬間、突風が吹く。
突風はシルバーウルフを巻き込みその体をズタズタに引き裂いていき、一つの群れを一掃する。
「良い感じに育ってきたな」
広間でスフィアを中心に広がる血の海を俺は少し離れた場所で感心しながら見る。
今日は予定通りスフィアをダンジョンで訓練させていた。魔物との戦いを経験させておけば俺が学ばせた最低限の剣技を上達させれる。
それに、冒険者がダンジョンに行かないと再び行われると踏んでいる兵士たちに疑われかねないからな。
「ま、こっちも働きますか」
背後から振り下ろされる棍棒を避けること無く受け止め握力を持って握りつぶす。
オークに驚く暇も与えずにその場でバク転し頭を蹴り潰す。
『モオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「へぇ……」
ミノタウロスの剛拳を平然と受け止めながら持ち上げ、スフィアのいる方に投げる。
投げられたミノタウロスをスフィアは二、三回切り裂いて絶命させる。
「調子は良さそうだな、スフィア」
「はい!この剣、本当に業物ですね。どこで手に入れたんですか?」
「まぁ、な……」
実はオークたちが持っていたものでしたー、何て言えない。
「それは言わなくても良いです。……そろそろですか?」
「まあ、な。明日にでもこの街を出る」
そういいながら俺はオークやミノタウロス、シルバーウルフらの魔石やドロップアイテムを袋にしまう。
もう数日が経過し、兵士たちも体力的な磨耗が起きている。タイミングとしてはベストだ。そんなベストなタイミングを逃すわけないだろ。
「おーす、ただい」
「「「「エインおじさん!!」」」」
「ゴベェ!?」
「エイン様ぁ!?」
ギルドで換金をし終え宿の扉を開けた瞬間、五人の少女が飛んでくる。
いってぇ……一体何が……。
「エリン、アイン、ラウラ、コリン、マーズ……!」
「「「「「痛ぁい!!」」」」」
少女五人を退かした瞬間体勢が不安定ながら拳骨を五人の額に軽く入れる。
巻き毛の赤髪赤眼の狼の獣人族がエリン、白い髪に青い瞳の人族がアイン、ストレートの金髪銀眼の蜥蜴人族がラウラ、ショートボブの青い髪に星の髪飾りを着けた植物人族のがコリン、紅めの茶髪に尖った耳が特徴の森人族のがマーズ。
全員が六歳から八歳あたりであり、この宿に引き取られた元奴隷たちだ。
こいつらは特殊な事情を持つ元奴隷たちであり、その事情故に犯罪組織に狙われやすい。
エリン、アイン、ラウラの三人は突然変異の超人的とも言える程の膨大な魔力を保有しており、儀式魔法と呼ばれる特殊な魔法への適性が高いらしい。その魔力量と触媒体質から犯罪組織に狙われやすいと判断した。
コリンは植物人族、別名ドルイドと呼ばれる鬼族に匹敵する稀少種族。見た目は変わらないように見えるが、一度ほどけば両足は根になり両肩から先は蔓に、背中からは自由に枝を伸ばせる。その稀少さから犯罪組織に狙われやすいと判断した。
マーズは森人族だが、その血筋は大陸の東側にある森人族の王家に繋がっている。その血筋故に犯罪組織に狙われやすいと判断した。
そんな複雑な事情を持つこいつらだが……何故か俺に懐いている。まあ、助けた後に面倒を見ていたからだろうか。
「五人とも、一応お客様であるエイン様に迷惑ですよ」
「一応って何だよ、一応って。……ああ、そうだ。明日、俺らはこの街を出る」
「「「「「えっ!?」」」」」
五人を退かして現れたスノーに予定を告げた瞬間、五人は驚きの眼差しを向けてくる。
いや、そんな悲しそうな、親を失うような眼差しを向けられても俺は出るからな。
「なーに、心配するな。俺はお前らの事を見捨てない。帰ってくるさ」
「「「「「!!」」」」」
「それまで、スノーの言うことを聞けよ」
「「「「「うん!エインおじさん!」」」」」
「だからおじさんではないって……」
満面の笑顔で抱きついてくる五人を俺は困った感じで抱き締める。
やれやれ、約束が増えてしまった。復讐が終わったら一度でもここに帰るか。復讐を遂げたら死ぬことも考えていたが……これじゃあ死ぬことは、もう許されないな。
「エイン様……先程の話は」
「事実だ。やれやれ、あいつらの為にも帰らないといけなくなったな」
「はい。……あの子たちにとってエイン様は親しい家族のようなものです」
「ああ。……俺らのような経験をさせたくないな」
部屋に戻りスフィアと話をしながら服と仮面を脱ぎ捨てベッドに横になりながら考える。
俺とスフィア。どちらも肉親を、愛した存在を失ったという共通点がある。特にスフィアは自分の手で愛した存在を殺した。
そんな俺らだからこそ、あいつらには俺と同じような経験をさせたくない。そう思えてしまうのだ。
「……準備の方はどうなっている」
「毛皮着きのコート、携帯食糧、長距離馬車のチケット、登山用のブーツ、携帯ランプ、携帯コンロ、予備魔石、補充魔石……全て出来ております」
「上出来だ」
大型のリュックサックに入れられた荷物を見ながらスフィアの説明を受け指で丸を作る。
あの領主が死に、新しく来た代官が予想していた以上に人族以外の行動にかけられていた制限を解除してくれた。
その上、兵士たちに治安維持を厳命。治安が少しずつながら良くなっていった。
その結果、まだ俺よりも実力が低いスフィアでも道具の調達がしやすくなったのだ。
まあ、金の方はいっぱいあるから問題がなかっただけで、人族よりも多く払わないといけないのは変わらなかったけどな。
「スフィア、今日は疲れてるだろうからさっさと寝ろよ」
「分かりました」
スフィアを早めにベッドに寝かすと洗濯物を持って部屋を少し歩く。
コンコンコン
「……洗濯物を持ってきて下さい」
「ああ、頼んだぞ」
黒装束の従業員の持ってきた籠に服を入れ部屋の扉を閉める。
そして、いつもの通りスフィアの隣に入る。
明日で三週間近くいた街とおさらばか……復讐を終えたら、あいつらとの約束ためにも戻ってくるが……それでも、辛いものがあるな。
「……エイン様」
「どうした、スフィア」
俺の隣で横になっているスフィアが話しかけてきたのでそちらを向く。
スフィアの顔は近く、顔と顔がくっつきそうな程だったが、俺の心は平静そのものだ。
こうやって近くから本当に端整で人形じみた美しさがある顔立ちをしているな……まあ、何日も隣で寝てれば自然と慣れるか。
「……この街で私を買ってくださり、ありがとうございました」
「別に。俺はお前を共犯者だと認めたからその議会を与えた。俺は約束と契約は絶対に守る。それだけだ」
「ふふっ……相変わらずですね」
鈴の音のような声で笑うスフィアに僅かながら赤面してしまう。
それは反則だろ……。
「……それと一つ警告させて貰います」
「何がだ?」
「……氷河世界の方で『凍結の魔女』と呼ばれる存在が暴れていると噂されております。お気をつけ下さい」
笑顔から一転、真剣な表情な告げてきた内容に僅かばかりの警戒心を抱く。
凍結の魔女……ね。スフィアの情報収集能力は案外高いし、覚えておこう。
「それでは」
「ああ、おやすみ」
反対方向に顔を向けたスフィアを微笑ましく見た後、俺も反対の方向に顔を向ける。
明日からは長旅になる。体力を少しでも回復させるためにも、さっさと意識を落とそう。




