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転生した鬼は元クラスメイトを地獄へと誘う  作者: 月のウサギ
一章 復讐者の慟哭
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鬼の笑み

ドンドンドン!!


「ふわぁ……?誰だよたく……」

「誰ですかこんな朝から……」


俺とスフィアが何時ものように一つのベッドで寝ていると扉を勢いよくノックされ目が覚める。


まだ明朝も明朝だそ。最初の復讐を終えた後スフィアに血を与えたり荷物の整理や服の血を荒ぅたりしてからまだそこまで眠っていないぞ。


てか、またスフィアが布団の中に入ってるよ。しかも、下着姿で。前は全裸だったから少しはマシになってるとは言え、普通に恥ずかしくないのかよ。


「こんな朝っぱらから何の用だ……?」

「やっと起きた!速く来て!」

「わ、とと。その前に仮面を着けさせてくれ」


扉を開けると息を切らしたスノーに手を引っ張られながら仮面を装着して宿を出る。


ああ、あれを見たのか。別に構わないし俺らに繋がる証拠は残していないから見つかっても何の問題もない。


「どうしたんだ?」

「あれを見て!領主の屋敷の屋根の上!」


屋根に登り屋敷に一番近づけるところまで近づきスノーから借りた見てみると子安だったものが屋根にくくりつけられていた。


遠目から見た感じ、大層愉快なものが屋根に置かれていた。


手足はなく、粗いロープで腹を縛られてくくりつけられ全身には痛々しいほど腫れ上がっている。耳はなく、首を薄く切られ、鼻を削ぎ落とされ、口と瞼は糸で縫い付けられている。かすかに動いている胸を見なければ生きているのか怪しいほどの惨状だった。


予想していた以上に良い仕上がりだ。スフィアのやることは残虐そのものだが、あれはあれでとても良い。良い見せしめになる。


「何て……状況なのですか……」


双眼鏡を伏せているスノーに渡すとスノーは呆然と双眼鏡越しに見続ける。


そう言えば、スノーはあれを見ても問題ないのだろうか。俺らは兎も角、スノーは普通の宿の娘だと思うが。


「無理に見続けなくてもいいんだぞ」

「いえ、私たちは慣れてますので」

「……そうか」


ぶっきらぼうに尋ねてみるが笑顔で返されてしまう。


まあ、スノーもあの領主に拷問を受けていたし思うところはあるだろうけど違法に奴隷にされた人たちを助けていたら自然とあんな状況にも場馴れしてしまうだろう。


弱者が泣き、強者が嗤う。弱肉強食だと言えばそれだけだが俺はそれを認めない。弱者には弱者の牙や爪を持っている。


弱者たちの夢、希望、そして『幸せ』。


その全てを認めず踏みつけて傲慢な強者だけが嗤う世界。


弱者たちのささやかな暮らしを平然と壊し心も身体にも傷をつけても罰せられないある種前世よりも冷酷で残酷な世界。


ホント、クソくらえ、だ。


「スノー!ここにいたのか」

「あ、メリオリスさん。どうかしましたか?」


スノーと共に子安の状況を見ていると蜥蜴人族の男が屋根に登ってスノーに話しかけてくる。


話しかけられたスノーは目線を外し男の方を見て首をかしげて尋ねる。


肩で息をしているな。かなり走ってきたのがよく分かる。そこまでして伝えたいこと……ああ、あれか。


「領主が……!メリアス・シャルトニーニャが孤児院で殺されていやがった……!」

「……分かりました」


男の言葉でもスノーは笑顔を崩さずに情報を受けとる。


やはり、スノーの顔には笑顔が張り付いているんだな。


「あの屋敷の違法奴隷はどうするつもりだ?」

「一度保留所で待機することになりますのでそこのタイミングで流して貰いましょう」

「成功する目算はあるか?」

「保留所の人たちは私たちの賛同者です。『掴んだ手は離さない』、ですので」


この国では奴隷は相手にあげたりする事は平然と行われる。もし貴族が死に奴隷たちの主を失うと他の貴族や商人が無理矢理連れていっても良い状況になってしまう。


だが、それだとあまりにも危険すぎる。十数年前には気に入った奴隷が相手にいたため暗殺したり戦争を起こした貴族もいるとかいないとか。


兎も角、その際の混乱を統制するために保留所と呼ばれる場所があり奴隷たちは一時そちら行くことなる。


その後、オークションが行われる買われていくというシステムなのだ。彼らはそのシステムを逆に利用しているのだ。


「エイン様」

「おう、どうかしたかスフィア」

「いえ、あれを見てください!」

「あん……!?ちょっと貸せ!」


追い付いたスフィアが指差した方向に見えたものを見た瞬間スノーから双眼鏡を奪い取り見る。


おい……おいおいおい……!どういうことだ……!?


「退きなさい。私の邪魔になります」


双眼鏡越しに見えたのは、純白で飾り気のない修道服を着た少女だった。


顔立ちは不細工ではないが美しくもない平凡。鼻の辺りにそばかすがあり身長は同年代よりも少し低め。手には分厚い本を持っていた。


それでいてその目には思慮深さがありどこか落ち着いた雰囲気がある。


間違いない。あいつは勇者だ。


「エイン様……」

「……降りて説明する。ありがとよ」

「どういたしまして」


こちらを心配そうに見つめるスフィアの頭を撫でた後、スノーに双眼鏡を渡し地面に降り立ち宿への帰路につく。


まさか、あの女が出てくるとは予想外だったな。子安が吐いた情報通りならあの女の聖具は同じく後方支援型だった筈だ。


いや、だからこそ出てくるか。あの女の狂気(・・)はこの世界で更に育まれているだろうか分からない。


「あの勇者は……」

「……波路鋤渚。聖具は『栄冠の書(グローリーレイ)』。ある意味一番厄介な聖具だ」


懐から取り出した紙の束に書かれた情報を見ながら整理する。


波路鋤渚。俺の元同級生でその中でも一番狂っていた女だ。バリバリの理系で特に生物の分野では大人すら舌を巻くほどの才能を保有している。


だが、それ以上にイカれてる。


人に自分が作った薬を飲ませて反応や効能を観察する。動物をバラバラにしてホルマリン漬けにして部屋に飾る。更には危険な薬物をヤクザに買わせ、皆殺しにした事もある。


俺も、かつてはあの女に薬を飲まされた事がある。結果としては、七日間の間酷い頭痛と熱に悩まされる事となった。かつての俺が殺意を抱いた程だからそれは凄まじいものだろう。


だが、それはどうとでもなる。子安の話ならそこまで高い実力を保有している訳でない。


厄介なのはその聖具『グローリーレイ』。栄冠の書とも呼ばれるその特性は『未来の予知』。正確に言えば『使用者にとってのターニングポイントの予知』を可能とするとんでもない聖具だ。


あの女がここに現れたと言うのならここがあの女にとってターニングポイント、岐路と言える訳か。それを予測して今、この街に現れたと言うことか。


「……襲いますか?」

「いや、あれの能力はかなり限定的だ今ここで襲う必要はない」


それに立て続けに殺られたら相手も警戒しまくるだろうからな、と俺は続けながら情報を更に読み取っていく。


欠点は『使用者にとっての運命の岐路しか見えないこと』と『写る人物の顔、声を知れない』こと。


自分本位で徹底的に他者をモルモットとしか見ていないあの女らしい、自分勝手を絵に描いたような能力だ。


「気にくわない女だが、優先順位は低い。次に向かう場所は決めてある」

「と、言いますと?」


そう言った後、国名にバツの印がつけられた地図を取り出して指を差す。


子安の話を確実に信じている訳ではないが、勇者たちの多くが東側に集中しているらしい。噂だと、東側には『朝廷』と呼ばれる島国があり、そこを休養地としている勇者も多いらしい。狙うにはちょうど良い。


だが、東の方には勇者を召喚した『メリアリリス神聖帝国』がある。多くの勇者がそこを拠点としているらしい。俺らを排斥している元凶を通るのは得策ではない。


あいつらの目から離れ、尚且つ狙いやすい場所と言えば……。



「大氷河世界。数千キロも伸びる巨大な氷河地帯を抜けていく」



「む、無茶ですよ!?あの場所は……!」

「あの場所には勇者が一人いる。そして、その厳しい環境から狙われにくい」

「た、確かにそうですが……」

「それとも、山岳地帯や大砂漠世界を抜けていくつもりか?若しくは航路か?あっちはあっちでお前が耐えきれないだろ」


俺が上げた三つの方法だと全てスフィアにダメージが入ってしまう方法だ。どちらにも勇者がいる以上いつかは行くしかないが、今でなくても問題ない。


「大砂漠、大氷河、山岳……これら三つは人族の数が少ない(・・・・・・・・)。その厳しい環境に耐えきれないからだ。なら、そこを突破するのが良い方法だ」

「……分かりました」


俺の説得に諦めた感じでスフィアは了承する。


厳しい環境を生き抜けれる程の能力は俺らにはあるからな。なら、それを十全に使わせて貰わないと割に合わないよな。


待ってろよ、クズども。俺はお前らを赦しはしないぞ。


次の復讐方法を考えながら、俺は仮面の裏側に笑みを浮かべるのだった。

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