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魂の糸

隆は夢の中で目を覚ました。左腕を見るとロープが巻かれている。それはどう頑張っても解けそうにない。

「一体どうしたんだ?」

夢の中にいつも出てくる男性がやって来た。

「近づくな!」

隆はその人をも拒絶し、そのロープを解こうとしたが駄目だった。

「何故私を嫌がる?」

隆は背中を向け、頑なに目を閉じた。

「何が俺を苦しめてるんだよ?!」

隆は耳を塞いで、その人に耳を貸さなかった。

「もう…、苦しむのは嫌なんだ…」

「隆君……」

その人はいつの間にか消え、隆は夢から目を覚ました。



隆は夢と同じ格好で眠っていた。

「あっ……」

今朝は寝付きも目覚めも悪く、何か心に残っている。

隆は眠い目を擦り、一階へと下りていった。

隆は夢の事は紗佳や桜弥達に明かしたが、自分の苦しみについては誰にも明かしてなかった。それの反動のせいか狂気に陥ると、それが顕著に出てしまうのだ。

隆は今朝紗佳を見た時、自分はまだ夢を見ているのだと思った。

「紗佳…、昨日僕が殺してしまったじゃないか、どうしてこんな所に…」 

「うん、何とか助かったかな」

「どうしてる紗佳を助けたんだ…、俺は紗佳のせいで苦しんでるんじゃないのか?!」

「えっ?私はただ、隆君に記憶を思いだしてほしいだけで…」

「隆、紗佳!」

何かに気づいたように桜弥と真莉奈が慌てて追いかけて来た。

「二人とも…、どうして紗佳を…」

「隆、これはお前にとって大事な事なんだ、分かってくれ。」

「また僕に苦しめと言うのか?!」

「隆!」 

桜弥は隆の両肩を掴んでじっとその目を見つめた。

「良いから行こう、続きはまた聞く。思い出せない間は辛いと思う、だが、それを超えたら楽になれるから…」

「いい加減楽にさせてくれよ!」

桜弥は何も言わず、隆の手を引いて学校に連れて行った。

隆は授業中も集中出来なかった。自分の中のもやもやを何かにぶつけたくて、いつも持ってる万年筆を折ろうとしたが、何かが心に引っ掛かって出来なかった。

放課後、桜弥は隆を、誰も居ない公園に連れて行き、話す事にした。



桜弥は、荒ぶる隆の気持ちを鎮めるようにこう話しだした。

「俺は昔の隆を知っている。だが、俺からは何も言い出せない。」

「桜弥に何か分かるって言うんだよ?!」

「…分かってくれ、隆……」

「僕がこんなに苦しんでるのを見殺しにする気なのか?!」

隆の気持ちは落ち着かず、とうとう狂気に陥り、何処かから刃物を取り出した。

「桜弥も真莉奈ももう放っておいてくれ!」

「隆!」

隆は横で様子を見ていた紗佳に手を出そうとしたが、真莉奈に止められてしまった。

「もうやめて!」 

「やめたいのはこっちの方だよ!」

隆は真莉奈と刃向かい合わせたが、押し負けてしまった。その時、隆の刃物がロープに当たって掠れた。

その瞬間、隆は一瞬だけ正気に戻った。

「あっ…」

「隆君!その包丁でロープを切れない?!」

しかし、隆は再び狂気に陥ってしまった。

「駄目だ…、私の鎌じゃあのロープは斬れない、隆君の力で斬らないと…。」 

「隆君!」

隆は何かを思い出したかのように我にかえって紗佳を見た。

「あの人の、大切な人の声が聞こえた…」

「何か思い出せそうなの?」

隆は自分の腕のロープに刃物を当てた。

「自分の力で思い出さないと駄目なんだね…、だから、最後も自分の手で……」

隆は刃物を強く持ち、ロープを断ち切った。その瞬間、周囲の時が止まったように隆の視界が真っ白になり、紗佳と桜弥と真莉奈の姿も見えなくなった。



「あっ…」

隆が再び目を覚ますと、そこは夢の中の光景だった。あの人は側に居て、ずっと隆の事を見つめている。ぼやけてずっと見えなかったその顔が、やっとはっきりと見えた。

「どうした、隆君?」

「茂…、渡辺茂、あなたの、そして昔の僕の名前…」

茂は穏やかに微笑んだ。

「そうだよ、やっと思いだしてくれたんだね…」

「茂さん…」

隆は立ち上がって真っ直ぐ茂の方を見つめた。

「茂さん、僕は僕の道を行くよ。」

「隆君……、そうか、それで良いんだ。君は君のままで居てくれ。」

「はい…」

そして、茂の姿は光の粒となり、跡形もなく消えていった。

「紗佳……、君がそうだったんだね、」

隆の意識もだんだんと遠のいていった。 



隆が再び目を覚ました時、紗佳が目の前に居た。

「紗佳…、ごめん、それとありがとう…君が、僕がずっと探してた人だったんだね……」

「隆君……」

紗佳は隆の身体をそっと支えた。

「思いだしてくれて良かったよ…」

「紗佳、これからも一緒に居よう、昔の約束通りにね」

「うん…」

隆と紗佳は同じような顔で笑い合い、涙を流していた。

「なんか…良かったね。」

「ああ、これでやっと解決ってとこだな」

桜弥と真莉奈はそんな二人を温かい目で見守っていた。



しばらく経って、四人は渡辺邸に向かった。

「父さん、母さん、こんなにちっちゃくなって……」

優太は隆と紗佳を撫でながら涙を流していた。

「何か…、確かに変な感じではあるよね。」

「そう考えると私達って真莉奈ちゃんの曽祖父母にあたるって事だよね?」

「まぁ…、父さんと母さん、隆君と紗佳ちゃん、それぞれだよ。生まれ変わりと言ったって全く同じじゃないだろう?」

「本当に、そうですね…」

すると、玲奈がやって来てこんな事を言った。

「確かに…、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに似てるよね?」

「玲奈さん…」

「やっぱり、お祖父ちゃんって死出山の歴史を語る上で重要な存在なんじゃないかな?」

智と梨乃と勤も渡辺邸に来ていた。

「これで一件落着かな。」

「そうですね、」

「茂さんが遺してきたものを次の世代へ引き継ぐのが、俺達がするべき事なんですよね?」 

桜弥と真莉奈は、三人を見つめた。

「父さん、俺達も頑張っていくよ。どんな事があってもこの歴史は絶やす訳にはいかないんだ。次にどんな事が待ち受けてるかなんて分からない。それでも、俺達は突き進んでいく。」

桜弥の目は決意に満ち溢れていた。

「本当、桜弥は梨乃さんや卓さんに似てるよな」

「そうかな?」

一方の真莉奈は智に近づいたと思うと口を引っ張っていた。

「なっ、何するんだ?!」

「お父さんの歯って結構鋭いよね?猫みたい!」

「普段恥ずかしくて隠してるのに…何してくれるんだよ……」 

玲奈はそれを見てクスリと笑った。

「なんか、智さんがだんだんお祖父ちゃんに似てきたなって…」

「そうか?茂さんと俺が似てるって…」

「本人は亡くなったけど、なんだかんだで私達って茂さんに結構影響を受けてるのかもしれないわね」

梨乃のその一言で一同は笑った。渡辺邸は久々に人で賑わい、かつて茂が生きていた頃と同じように和やかだった。


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