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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第八章
97/110

クセモノな酒神さま


 ど~も。ずいぶん長いことごぶさたな気も……ゲフンゴフン。

 


 ……ともかく、とにかく、異世界教祖の久世ヨシトです。



 美少女に転生メガテンなさった女神アテナさま――なんて天馬ペガサス幻想ファンタジーしそうな相棒さんと異世界でギリシャ神の教えを広めてます。

 はぐれエルフの里を拠点に動物けもの同盟者フレンズの獣人さん、北関東風味な竜騎士さんも仲間にくわえ、ここまではイイ感じ。


 賭博カジノ、エルフ巫女さんの完璧だったり究極な芸能アイドル、それに銀行業なんかの事業でしっかりもうけてーー、

 生活に困ってる人たちに食事や仕事を与えたり、無料の学校を作って恩を売っ……じゃなくて、感謝されて名前を覚えてもらい、信心を獲得するーーと、教団の活動はうまく回り出してます。

 


 でもって、さらに新たな神さまの力も借りようとしてるんですがーー、 


 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 


 里の長老屋敷、自室にてーー。



 部屋にもどるとすぐーーアテナさんは机に書類を広げ算盤アバカムをはじき出す。

 ……う〜ん。大事な時期の妊婦さんが、こんなに仕事中毒でだいじょぶなのか?

いや、だいじょばないから、アレコレ手伝おうとしてるワケだけど。


 一方、オレはーー、

 ディオニッソスさんだっけ? それともディオニュソスさんだっけ? 

とにかく舌をかみそうな名前の酒神さまから加護をもらうため瞑想に入る。

 


よしッ、それじゃリラックスして精神統一しよう。

 深ーく、深く、息を吸ってーー、




 ーー全部集中!!


 

ーー 楽な呼吸 一の型ッ 瞑想入り!! 




 と、鬼を滅しそうな感じで挑戦したけど……ダメだった。 

 たぶん、オレがビビっちゃってるせいだろう。今度会いに行く酒神さまーーあの辣腕女神アテナさんがクセモノとまでいう相手なんだし。

自分から手伝うと言ったクセに情けないと思うけど……はい。ヘタレ教祖ですいません。



 てなわけで、業務中のアテナさんチラ見しつつ、瞑想をためらっているとーー、

 こっちのようすに気づいたアテナさん、お仕事のお手手を止めてーー、



「……ふぅ。またいつものヘタレですか。しかたありませんね。ヨシトさん、こちらへ」


 

 やれやれって感じで肩をすくめ、手招きしてくる。

 え、なんでしょうかーーと、オレがフラフラよってくと、


 

 ーーうわっ!!? 何です、急に!?



 ぐいっと襟首のとこをつかまれて、引き寄せられた。

 うわっち!! 借り物の獅子の毛皮のびちゃう!!

 と、あわてた次の瞬間ーーほっぺに柔らかで滑らかで、ヒンヤリした極上の感触。

 それが女神さまの唇と気づいた瞬間には、もう唇は離されててーー、



 ーーいつの間にか、真正面、超至近距離に美少女神アテナさんのお顔があった。



「……まだフヌケたままですか? ふむ。あの程度では刺激が不足だったようですね?」



 オレの反応を検証してるような口ぶり。実験動物みたいなあつかいだ。

 でも……不思議そうに首をかしげてるアテナさんのしぐさはーームッチャかわいらしい。

 出会ったころはキッツいだけだった目つきも、今はほんのり丸みと優しさを帯びてるような……。

 こちらをじっと見つめる女神さまの視線を受けて、オレは頭にもやがかかったようになる。



 で、硬直してたオレの唇にーー、

 先ほどと同じ、なめらかで柔らかな感触ーー最初のうちはついばむような軽い接触。

 ささやかなふれあいを何回か続けたあと、女神の唇は離れなくなった。そのまま密着の度合いを強めていく。



 ーーむ、ぐッ!?


 

 突然のキスにぼうぜんとしてるオレ。そのほほに女神さまの指が触れた。

 唇は重ねたまま、先ほど口づけを与えてくれた場所を、冷たく細く滑らかな指がそっと……なぞる。



 瞬間ーー脳がスパークした。


 

 目の前の相手の正体を忘れる。ただ愛おしく思えて、心の底から相手を欲する。

 湧き上がった本能のままに目の前の美少女さんの肩をつかんで抱きしめた。

 以前より増した柔らかみ、命をふたつ抱えた重みを両手に感じつつ、そのまま押し倒しかけたとこでーー、



「……ダメ。ここまでです」



 オレの暴走は不発に終わる。

 戦女神でもあるアテナさんの体術で軽やかに振り払われたのだ。

 


「もう……十分でしょう? これ以上は、お腹の子に響きます。それにマリアさんにも……」



 あぅ……お腹に手を当てアテナさんがつぶやいた、その一言はオレに……効く。

 仕事中のオレたちのため、気を使って部屋から離れてくれたマリアさん。

 そんな慈愛あふれるエルフ娘さんを裏切り、影薄ヒロインにするわけにはーー、



 というか、そもそも大事な妊婦さんに負荷をかけないよう、手伝いすることにしたのにーー。   



 未練がましく伸ばしかけた手は引っこめざるをえない。

 おあずけをくらい、なごりおしさでボケっとしてたオレ。

 一方、アテナさん、今度はキンキンに冷えきった眼光と言葉でーー、



「ーーさあ、なにをグズグズしているのです。さっさと加護を得てきてください」 



 言い捨てると、あっさり作業にもどっちゃう知恵の女神さま。

 ……あう。ヒドいです。ちょっとデレてくれたかと思えば、この言いよう。

 でも、ちらっと見えた女神さまのほっぺたは、ほんのり薄く桃色に染まっていてーー、



  ーーうん、クーデレ女神さんのおかげで、めっちゃ勇気がもらえた。

 


 ということでーーオレは瞑想を再開。そして、あっさり成功。

 血みたいに特濃な紅色、淡く薄く透けたクリーム色――対照的な二つの宝石が組み合された指輪を意識しながらオレは酒神さまの神域へむかう。



 で、すっかり慣れた軽い浮遊感のあと――、




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 

 酒神の神域にてーー、

 待ちかまえてたのは予想外の暗闇だった。



 ひゃっ!!? なんで、ここ、こんな暗いの!?!?



 正直、『目がッ! 目がぁッ!!』とか、ムスカりたいほどの真っ暗闇じゃない。

 ただ、さっきまで明るいとこにいたから、かなり暗く感じる。

 他の神域じゃ、こんなことなかったし、ビビったけどーーなんとか目を闇に慣れさせていく。



 うん。よし……ああ。あっちの壁にロウソクがある。ダンジョンによくある謎の永久照明だな。

 ちょっと頼りない灯りでも利用して、あたりを見回していくーーと、



 ……ん? なんだ、あれ? 



 まず目に入ったのは、やたら大きな《タル》。つまり中央部がポコリンとふくれた木製液体貯蔵器。

 大人の哲学者さん一人が生活できそうな大きさ。あるいは某狩ゲーの飛竜さんも軽く爆殺できそうなサイズ。そんな超G級のデカブツが、たっぷりならべられてた。

 その数は……『実はここが初代ドン○ーコングの用具倉庫。名作レトロゲーの舞台裏には、こういう風景が広がっているんです』って言われても信じちゃいそうなほど。


 大量の巨大タルは、どれも古びてて……でも、しっかりきっちり使いこまれてる感じ。

 大タルの間からチラ見えする、まわりの建物も似たような雰囲気。レンガの壁、板張りの天井などなどーー全体的に黒ずんでて歴史を感じさせる。

 けど、廃屋とか廃墟ってわけでもない。落ち着きある建物だ。



 ーーま、アホみたいに大量のジャンボタルがならんでることをのぞけば、だけど。



 ほんで、そんなうす暗い空間は、なんか香ばしい。

発生源はーー当然、目の前のタル。


 

 ……えっと。中身は……たぶん、ワインかな? 



 古びた木の肌からにじみ出て周囲に広がるのはーー華やかで深みのある果実酒のニオイ。

 どうやら、ここはワインの製造所。たしかワイナリーというんだっけ? 

 生前ブラック企業で働いてたとき、取引先としてお付き合いがあった。



 ま、『酒神さま』の神域には、ふさわしい場所なんだろうけど……。


 

――しかし当の酒神ごほんにんはどちらに?

 


暗がりに慣れてきた目で見回したが、この神域ばしょ思ってたより広い。

 タルタルタルタルタルタル樽樽樽樽ーーと、タルという字がゲシュタルト崩壊しそうなくらい、延々と巨大タルが置かれてる。 

 で、その魔法的まじかるタルルートは細く、長く、遠く、はるか先の闇の中へ消えていた。



 そんな空間ワイナリーをオレは酒神さまを探して歩き回る。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「ディオニュソスさ〜ん、いらっしゃいますか~? いてもいなくても返事して下さ~い!」

 


 ムチャクチャな呼びかけをしながら、オレは酒神の神域を歩きまわる。

 だが、返事はない……ただのしかばねのような感じですね。はい。

 自分の足音だけ響く暗い空間は、オレの豆腐メンタルをジワジワむしばんでいく。

 左右に置かれた巨大タルもジ・オがなぜか動かなくなりそうな圧迫感プレッシャーを放ってた。



 うううぅ……なんてブキミな。今日は出なおしたほうがいいかも。

 最近、聞いた話じゃ、逃げたら一つ、進めば二つ、手に入るという。つまり後方に転進すれば三つ手に入るーーってことじゃね?

 そういうことなら……よし。帰ろう。アテナさんに罵倒されるかもしれないけど、それはそれでごほうび。

 そもそもさ。ご本人不在じゃ、しょうがなかろう?


 などと弱気な考えにまとまりかけたオレ。

 が、そのとき――。




 ーー鼻腔に、ふわっと、なつかしいにおいが届く。




「ん? あれ? この香りって……?」



 思わず、その香りのほうへ足を向ける。

 タルのすき間を抜けて、近づくたび、強くなる芳香ーー、

 さっきまで漂ってたワインの芳醇な香ばしさとは明らかにちがう。

 


ま、まちがいない! この、においだけで味の予想がつくケミカルさ――、 



「まさか……栄養エナジー……ドリンク?!」 



 徹夜仕事の頼れる相棒ーーブラック企業在籍中、どんだけ元気をお借りしたことか。

 おかげで栄養ドリンクソムリエを名乗れるくらい、あらゆる種類のドリンクを味わったんだが――、



 ……けど、そいつが、なんで酒神さまの神域に?

 

 

 オレは、ふらふらとーーファイトを一発ほど充電してくれそうな臭気に引き寄せられていく。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 葡萄酒工房ワイナリーには場ちがいなにおい。

 強烈にスウィートでケミカルな芳香のもとを探し、たどり着いた一角――暗がりにかかげられた看板に、かなりクセの強い筆跡でこう書かれていた。

 


神酒ネクタル保存庫やで!】



 えッ!? ね、神酒ネクタル?!?!

 たしか……異世界こっちに来てすぐに飲まされたアレだよな? 

 身体能力を上げたり、回復力を増強させたり、かなりチートアイテムだったはず。

 そんな超絶レアアイテムが、なんでこんな場所に?! 

 というか、その語尾はいったい?!


 首をかしげつつ、近くによってみる。

 と、そこには小ぶりで新品っぽいタルが、いくつかならべられてた。

 ま、小ぶりと言っても、さっきまでの大タルと比べればーーの話で通常サイズのタル。壊すとアイテム入ってそうなアレですね。


 で、タルにはそれぞれ札がぶら下がり、なにか書かれてる。



 ……む、なんだろ? 



 気になったオレは暗がりの中、確認しにいく。

 と、最初のタルには――、

 


『甘味と程よい酸味が見事に調和。他を寄せ付けない完璧な香り』



 ……ほ、ほう。

 さすがネクタル。《神の酒》というだけあって、えらくホメられてるじゃないですか。

 じゃ、お次のタルは? どんな感じなんでしょうかね?

 このにおいは海外製エナジードリンク。それもカフェイン特盛の本国仕様っぽいけどーー、



『華やかで濃厚な風味。近年にない出来栄え』



 ふむふむ。これまた心憎い評価レビュー。短くても魅力が伝わる良さがある。

 と、感心させられたオレ。

 だが、続けてタルと札を見てくうち、ふと疑問が湧いてくる。



『あっさりしているようで抜群な甘み。ここ十年で最高の出来』

『完璧な果実感。当たり年と言われた一昨年に等しい』

 


 ……あれ? これ、どっかで聞いたようなノリだな? 

 ○年に一度の逸材が毎年毎年出てくる高校球児みたいな。

 というか、栄養ドリンク風味の飲み物に当たり年と言われましても……。


 ええと、じゃ、ほかのタルは――?

 ふむ。こっちも海外メーカー製っぽい香り。さっきのより炭酸弱目であっさりしたヤツっぽいけど……、



『すっきりしたフレーバー。後味もさわやか。過去十年で最高と言われた昨年を上回る』



 ………次。いってみよう。

 お、こっちは国産か。昔ながらの薬っぽい風味があって、よく効く気がするドリンク。


 

『しっかりしたフレーバー、圧倒的なボディ。記憶に残るケタ外れの出来』


 

 ……やっぱ、そうか。ようやく気付いた。

 これって、毎年話題になる某新酒のキャッチコピーの真似コピーだよな?

 でも、なんで超絶レアアイテム『神酒ネクタル』に、こんな評価のフダがつけられてるんだ?



 と、首をかしげてると――、

 



 ーー背後から声がかかる。




「ああ、それな。ただのシャレやで。試しに信心の混ぜぐあい変えてネクタル作ってみたら、風味フレーバーもそれぞれ変わるんがエライおもしろくてな。悪ノリしてアレコレ実験してしもうてん」



 ふ〜む。なんだ、ただのシャレで悪ノリで実験ですか――、


 

 ーーって!! 



 今、声かけてきたの……だれ!?

  




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