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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第六章
78/110

度胸試しの結末

 アクィーナ山、山頂――、

 竜騎士たちの度胸試しのスタート地点にて――、

 オレと竜騎士フェリペが並んでレース開始の合図を待っていると――。



 フェリペくんとは別の竜騎士が徒歩でオレたちの前に立った。

 どうやら彼がスタートの合図を担当するらしい。



「五、四、三……」  

 


 山中に響く声――そして広げた手の指を折って、スタートまでの秒数(カウント)を教える合図役の竜騎士。

 レース開始まで残りわずか、ちら見するとお隣りの竜――ハーティロックの全身に力がこもっている。


 そして――、



「二、一………………勝負ッ!」


 

 竜騎士の腕が大きく振り下ろされた――スタートの合図だ!



(…………行けッ、機龍!)



 オレの願いと思いに即座に応え、機龍は動き出した!

 そして――ほぼ同時に駆けだす機龍とハーティロック。



 だが……さすがにあっちのほうがホームなだけはある。

 場馴れしているのかスタートダッシュを決められ、わずかにフェリペ竜騎士が先行していた。

 ななめ前方、しなやかな筋肉を躍動させて進む人竜一体の後ろ姿――オレは全力で追う。

 で、そんなオレの意志に反応したのだろうか?



 ギュル、ブロロロロォーッ! 



 ――手足のように思い通り動いてくれる機龍は心臓部(ゼンマイ)をうならせ、全力走行をはじめた!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 

 


(く……あのガラクタ、ちゃんと走ってるばかりか思ったより速いな。 なんなんだ、こいつらは!?) 

 


 背後から追走してくるヨシト――そして彼が作り出した機械仕掛けの竜の気配。

 先行しているはずの竜騎士フェリペは驚がくしていた。



(ここは『竜の臓腑(はらわた)』なんて呼ばれるほど曲がりくねったアクィーナの山道――しかも左右は崖だぞ?! 初見でここまで速く走れるもんなのか!? なんでアイツは平気な顔でついてきやがる!?)


 こわいもの知らず――自他ともに認めるフェリペの性格だったが、それでも、あの『ヨシト』という謎の来訪者が不気味でならない。

 妙な獣の毛皮をまとい、妙な剣を持ち――威圧的な外見かと思えば、そのくせ顔はいつもへらへらと笑っている。そんな(ヨシト)の正体がつかめず、フェリペの心は不安で満たされる。


(……絶対にただ者じゃねえ。いきなり竜を見せられてビビらないヤツなんて初めて見たぜ。どんなえらそうなゴーディア騎士だって、急に竜に会えば腰を抜かすっていうのに……)


 ふだんは気のいい竜騎士(なかま)たちが妙に好戦的だったのも、あのヨシトという男のえたいの知れなさにおびえたせいだろう。

 もちろんヨシトが平然と見えたのはアレスの加護なのだが、竜騎士たちは知るよしもない。


 そして、その(ヨシト)は自ら作り出した謎の物体――『機龍』とかいう鋼の竜でアクィーナ最速の自分(フェリペ)についてきている。

 機龍の存在だけでなく、これもかなり驚くべき事態だった。



(イヤな予感がするな。こいつはナメてかからねえほうがいい……全力走行で視界から消して一気に勝負をつける!)

 


 そう決意したフェリペは、愛竜ハーティロックに一声かける。  

 


「そろそろ体もあったまったろ? それじゃ一気に行くぜ! ハーティロック!」

「キュオオオオオオオオォォォォォォーーッ!」



 主に応える甲高い竜の鳴き声が山中に響き――、

 嶽竜ハーティロックは速度を上げ、峠を駆け下る!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 全力走行を開始したハーティロックは一度、大きくヨシトと機龍を引き離した。

 人竜一体の境地に達したフェリペと愛竜を相手に追いつけるものは――だれもいない。

 竜騎士フェリペは対戦相手(ヨシト)をあっさり置き去りにできるはずだった。



 しかし――、


 ジャキッ、ジャキッ、ジャキン!


 背後から機龍の足音は消えない。むしろカーブを曲がるたび、どんどん近づいてくる。

 後ろ脚を横滑(ドリフト)させる見たこともない走法で、スピードを落とさず迫ってくる鋼の竜の姿にフェリペは仰天した。


「……なッ!? 直線で離したのにカーブのたびに差が縮まってるだと!? くッ、竜騎士(はしりや)としちゃ最大の屈辱だぜ……もっと飛ばせ、ハーティロック!」

「キュキュ、キュオオオオオオオオオォォォッ!」

 

 あわてたフェリペは愛竜を加速させ、応えたハーティロックがまたも高い声を上げる。

 ちょっとでもミスしたら崖からまっさかさまという、さらなる限界まで速度を上げさせた。 


「これで……どうだッ!」


 しかし、それでも――、 

 背後の足音はあっさりついて来る。

 そればかりか足音に驚き、ふりかえると――対戦相手(ヨシト)は余裕たっぷりの笑みを向けてきたではないか。

 


 ――そして、またも機龍をフェリペの背後につけ、影のように寄りそって駆けつづける。

 


「ヤツら、化け物か! おれは……この峠で死んだ竜騎士(せんぱい)の亡霊でも見てるのか?!」



 こちらは全力だというのに、(ヨシト)は表情からすると、まだ余力がありそうだ。



 ――ここまで抜かれずにきたのは山道の狭さのせいだったのか?

 ――それとも初見の峠ゆえにフェリペに道案内をさせるつもりだったのか?



 どちらにしろ、ヨシトはフェリペとハーティロックをいつでも追い越せるように思える。  

   


「く、気持ち悪いくらいぴったり、おれの走行ラインをなぞってきやがる!」


 ちらちらと何度も後ろを振り返って、フェリペの集中が乱れた。

 そんな乗り手の心理を反映したのか。ここまで完璧な走りを見せていた竜がミスを犯す。

 

「――キュ、キュォッ!」

「お、おいッ!?」


 濡れた落ち葉を踏んで足を滑らせるハーティロック。

 道の大外にぶれた竜は転落しかけて…………なんとか踏みとどまる。

 ちらりと見えたはるか谷底の風景――フェリペは肝を冷やした。



 ――そして、フェリペのあせりは増していく。 



「勝てねえ……このままじゃ……抜かれて負けちまう」



 レースはまだ中盤、しかしすでに追いつめられた心境だ。

 先ほどの恐怖で、どっとあふれ出た冷汗をぬぐう間もなく全力走行でカーブを一つ一つ攻略していく。

 だが、それでも追走するヨシトを突き離すことはできない。

 ならば他に手は…………一つだけ。



「こうなったら……もうアレを使うしかねえ。『谷跳躍(ミゾとばし)』だ!」



 谷跳躍(ミゾとばし)――自分で口にした言葉にフェリペは震える。



「…………使えるのか? ラウスキ先輩が死んでから封印してた、あの技を……」 



 ダラダラと垂れるあぶら汗は、よゆうの勝負のつもりが決死の決断を迫られたせい。

 だが、ここはアクィーナ山、竜騎士の本拠地である――誇りにかけて絶対に負けられない勝負だ。

 フェリペには他に選べる手段はなかった。



(……しかける先はこの先の五連続ヘアピンカーブ! やれるはずだ! おれとハーティロックなら!)

 


 フェリペは覚悟を決め、曲がりくねった崖っぷちを全力で疾走しだす!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「カーブの手前だってのに、なんであんな暴走を!? フェリペの兄貴、死ぬつもりっすか!?」

「いや……あれはいけねえ! フェリペのヤツ! アレを……『谷跳躍(ミゾとばし)』をやるつもりだ!」

「ミゾとばし?! まさか!? あの……『おきて破りの地元走り』を……!?」

「ああ、しかし、さっきも足を滑らせてたし……そこまで追いつめられてんのかよ!? アイツは!?」



 ――山頂、勝負の行方を遠目に見ていた竜騎士たちがざわつく。

 


 最初は余裕をもって見ていた竜騎士たちも、すぐに蒼白になった。

 予想外のヨシトの健闘に驚く――どころか、追いつめらていく仲間(フェリペ)の姿に声も出ない。

 一方、ヨシトを応援するシメオンとアリアはといえば――。

 こちらも、峠レースのあまりの危険さに最初から顔色がない。

 それでもアリアは聞かざるをえなかった。


「な、なんなのよ……おきて破りの地元走りって!」

「そ、そうですな。教えていただきたい」


 シメオンとアリアがつめよると――、

 

「うちらの先輩――ラウスキって竜騎士が編み出した技さ。連続するカーブをいちいちぐにゃぐにゃ曲がるんじゃ遅くなる。だから、とちゅうの谷間をまとめて一気に飛び越えてしまおうって単純な考えだ」

「ただ……成功した人間がその先輩しかいなくてな。しかも成功したのは一度きり、二度目で失敗して……愛竜のサヴァンナといっしょにあの世に逝っちまった」

  

 と、対立していたことを忘れ、口々に教える竜騎士たち。

 つまりそれは――争いを忘れてしまうような緊急事態が発生したということ。


「……な、なんでそんな危ないことすんのよ……!」


 事態の深刻さが身に染みたアリアは焦る。

 そんな限界領域での競争(レース)なら、ヨシトの身も危ないにちがいない。

 一気に不安が押し寄せてきて、アリアはシメオンに泣きつく。

 

「どう……しよう? わたしのせいだ! こんな危ないことになるなんて思わなくて……アイツになんかあったら、お姉ちゃんが……」

「信じましょう、アリアちゃん――我々にはそれしかできません」

 

 泣きじゃくるエルフ幼女を、やさしくなでるシメオン。

 しかし、その顔も不安にくもっていた。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 おきて破りの地元走り『谷跳躍(ミゾとばし)』の発想は単純だ――曲がりくねった山道と谷間をまとめて飛び越え、近道(ショートカット)するだけ。 

 その成功の秘訣は度胸と速度。おびえて速度を落とせば、かえって谷底に落ちる。

 だからとにかく全力で加速、あとは崖っぷちぎりぎりで一気に飛ぶだけだ。

 

 必要なものは最高に足の速い竜と、その速度を最大まで引き出し、跳躍のタイミングを決める乗り手。 

 両者に信頼が必要な最高難度の技――そんな難関に立ち向かおうとする竜騎士と竜がいた。



 ――フェリペとハーティロックである。



「……まだだ! まだ早い! もっとギリギリまで!」



 逃げ出したくなる恐怖を押さえつつ、フェリペは竜を駆る。

 谷跳躍の成功には崖の端スレスレまで全速力で突っこまねばならない。そうでなければ加速と飛距離が足りず、対岸にまでたどりつけないのだ。

 それは一歩間違えれば、そのまま死のダイブにつながる危険な判断でもある。

 全身に氷のように冷たい汗をかきつつ――しかし、それでもフェリペは崖に突っこんで行った。



「見てろよ、先輩! おれはあんたを超える! うおおおおおおおおおおぉぉッ!」

「きゅおおおおおおおおおおぉぉッ!」


 

 フェリペとハーティロックは崖から全力で…………跳ぶ!

 跳躍した竜の真下――通り過ぎていくのは目もくらむような断崖絶壁と山道、谷底が織りなす風景。


 落ちたら確実に命はない――かつて目にした先輩騎士の死にざまが脳裏をよぎる。

 死の恐怖に内臓が凍え、時間がゆっくり流れるような感覚が生まれた。

 心臓が大きく早鐘のようなリズムで動き、フェリペのあばらを内側からズクズクと叩く。 



 ――そんな状況で、フェリペは心から願う。

 


(…………届け! 頼む、届いてくれ!)



 必死の願いとともにハーティロックは一つ、二つ、三つ、真下の道と谷間を飛び越えていき――、

 谷跳躍(ミゾとばし)の着地地点まで、残すはあと数歩分――、



 …………この時点でも、ハーティロックに速度と高度は残されていた。



(……よし! 行ける!)



 空中で成功を確信したフェリペは、安堵がじわりと体中に広がるのを感じた。 

 そして胸にこみあげてくる達成感。



(ようやくたどりつけた。ラウスキ先輩の領域に……!)

 


 なしとげた偉業で熱い涙が湧いてくる――、

 その刹那、フェリペはヨシトとの勝負のことなど忘れていた。



 だが――、



 次の瞬間、歓びにひたっていたフェリペの、ななめ後方から影が差す。




「……ん?」


 

 その影は……フェリペたちを、はるかに勝る速さで空中を駆け抜けていく。  

 谷間を渡る風の化身のようなその姿は――、



 ――鋼鉄の竜と、それを駆るヨシトのものだった!

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆




「な、まさか!? おれたちより速く高く跳んだってのか……おきて破りの地元走りのさらに上を……!?」


 驚きに顔をゆがめ、ヨシトと鋼鉄竜を見送るしかないフェリペ。 

 一方、ヨシトと機龍はフェリペの目の前で対岸に華麗に着地。

 いまだ空中にあるフェリペとハーティロックを置き去りに、あっという間に駆け下っていく。 



「く、待てッ! 急げハーティロック! やつらに追いつけ!」



 必死で後を追ったフェリペだが、ゴール地点の巨岩まで、その姿を捉えられぬまま。

 かくして――勝負は、あっけない幕切れを迎えた。





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