鋼鉄竜誕生!
『竜をたった今、この場で作る』
――そんなオレの提案に驚いた竜騎士たちは口々に怒声を上げる。
「アァ、ここで竜をどう作るってんだよ!」
「だいたい何を使って作る気だ! ゴラァ!」
オラついた口調ながらも、混乱してる竜騎士たち――。
一方、オレはよゆうたっぷりの笑みを見せて告げる。
「もちろん、そこにある品を使って……ですよ」
オレが視線で示したのは、馬車につまれた鎧と武具――そして馬車そのものだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
というわけで教祖ヨシトさんの三分+アルファ工作で~す。
今回のお料理……じゃなかった工作はアウトドアにぴったりのお手軽な人工竜。
まず材料は十人分くらいの上質の鎧や武具、分解したての新鮮な馬車の部品。
これらの品をずらっと並べたら――あとは意識を失うだけで、すぐできあがり。
……ね? かんたんでしょ?
というボケはさておいて――オレはまずヘパイストスさんに意識を渡すことにする。
今日はさらに、ヘルメスさんも憑依する予定だ。
ヘパイストスさんが組み立てと加工を担当し、人間に錬金術を伝えたヘルメスさんが錬金技術を生かした部品製作で補佐するってことらしい。
(いやはや……楽しみだな。むかし青銅巨人をつくったときのことを思い出すよ)
(ええ、あれは傑作でしたね。わたしも興奮をおさえきれません)
――と、ガンプラでも組み立てるようなノリの神さま二人。
しかし工作担当のヘパイストスさんだけじゃなく、ヘルメスさんにまで手伝わせちゃって悪いですね。
けっこういそがしそうだったのに、こんなことしててホントだいじょうぶなんですか?
なんてたずねると――ヘルメスさんはため息ついて答える。
(……いえ。むしろ今は気晴らしがほしい心境です。先ごろから母国に経済危機が続いてまして、商業神として手を尽くしてますが……状況は悪化するばかり。どこまでも たのしい ひとたちだ これも いきものの サガ か……)
――と、だんだんおかしくなってくヘルメスさんにオレはあわてた。
いやいや! いけません!
神さまがその発言しちゃ、チェーンソーで切り刻まれるフラグですよ!
(おっと失礼しました。とにかくわたしのほうはだいじょうぶですから、お気になさらず)
……あ、はい。そうですか。よっぽど母国のことがこたえたんですね。
それじゃ、ま、短い時間でしょうけど、しっかりストレス発散してください。
(ええ、もちろん!)
と、ヘルメスさんの妙に気合の入った返事を聞いたとこで――オレは意識を手放す。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして、しばらくして――。
(おう、ヨシトくん、竜ができあがったぞ!)
(ええ、なんとか完成しました! 設計図のおかげで早くできあがりましたね)
(……おお! お二人ともおつかれさまです!)
神さまたちの合図でオレは意識を取りもどした。
だいぶ待たせちゃったはずだが――竜騎士から苦情は出ない。
「なんて……こった!」
「ホントに……おれたちの目の前で竜を作り上げやがった!」
「自分の目が……信じ……られねえ」
ほんで――。
あごが落ちそうなくらい口を開いてる竜騎士たちの前には――、
『金属製の竜』――とでもいうしかない物体が、どでんと鎮座していた。
鎧を加工して作った胴体部分は鈍く重い光を放って、実に力強い。
すらっとした脚部はいかにも速そうな外見――しかし付け根部分はパワーを感じさせる太さがある。設計図によれば中に鎖帷子を加工した人工筋肉が入ってるらしい。
さらに頭部から操縦者の手元まで大きく伸びた角――実はハンドルにあたるパーツは、神々しさと威厳を感じさせる。
ちなみにおでこについてる宝石は搭乗者の意志を読み取ってその通りに動くための思考回路……とのこと。
そこには――先ほど見せてもらった設計図そのままの人工の竜がいた。
(どうだ! 名付けて『鋼鉄機龍』――かつて男のロマンで作り上げた青銅巨人を完全改良し、新たにヘルメスの錬金技術を追加してみたものだ!)
(ええ! 我ながらすばらしいしあがりです。錬金術で重視される水銀にローマ神としての名を残すこのわたしが全力を尽くしたものですからね)
なんて神さま二人が自慢するだけのことはある。『鋼鉄機龍』は、たしかにすばらしい出来だった。
そして、なにより『鋼鉄機龍』って名前がカッコいいじゃないか!
――よし! それじゃさっそく乗ってみよう!
わくわくしつつ機龍に近寄ったオレだったが――ヘパイストスさんからストップがかかる。
(あ……すまんがヨシトくん。乗る前に一つすべきことがある。やはり馬車と武具だけでは部品が不足――やむをえず計画を変更して、動力源に螺旋式魔力収集装置を使うことになってな)
え? こんだけメカメカしい外見なのに動力ゼンマイですか?
ひょうし抜けしたオレに、ヘパイストスさんは重々しくあいづちを打つ。
(うむ。で――鋼鉄機龍の起動にはゼンマイを巻く必要があるのだが……巻き数がかなり多くてな)
と、エラくすまなさそうに続けるヘパイストスさん。
むむむ、なんかメンドイですけど、しょうがないですよね――材料が材料だし。
それで――何回巻けばいんです? 百回? それとも二百回くらいでしょうか?
不安に思いながら、たずねたオレに今度はヘルメスさんが口ごもりつつ答える。
(いえ……色々詰めこんだらけっこう出力が必要になりまして…………ごにょごにょ……千……回)
――は?! 千回!? どんだけ回させる気ですか!?
さすがに驚いたオレ。
するとヘルメスさんは恐縮してしまったようだ。さらに聞き取りづらい声で訂正してくる。
(……いえ。そうではなく、もっと…………)
(ええい! はっきり言わんかヘルメス! ヨシトくん! 一万一千回転までしっかり回せ!)
――――は、ほえ?!
い、一万一千回転…………だと!?
まさか、ここでそのネタをぶちこんでくる……とは。
ヘパイストスさんの逆ギレ気味のムチャぶりに、オレは目の前が真っ白になった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その後、オレはガンコな職人さんの説得になんとか成功。
エアコン、パワステ、それにナビなど――走るだけなら不要な機能を全部はずしてもらった。
(なんでじゃ? 二十年ほど前におとずれた日本の乗物屋では、どの機能も重視されておったぞい?)
(いや。それは車屋さんですよね。機龍とは別の乗物じゃないですか? だいたい思考を読んで、その通り動いてくれる装置まで積んでるのにパワステなんていりません。むしろ、その分ゼンマイの巻き数を減らしてください!)
(……むう、そのようなものかのう?)
なんて感じで、説得にかなり苦労した。
――しかし、それでも三千回、ゼンマイをひいひい言いながら回すハメになる。
ていうか、走行以外に八千回ってどんだけ機能積みまくったんですか!?
「待ってろ! 鋼鉄機龍――今、お前に命をふきこんでやるからな! ぜえ、ぜえ……はあ……」
「…………なあ、あんた……信仰って大変なんだな」
ツッコミとゼンマイ回しで戦いの前に消耗させられ、息切れするオレ。
対戦相手の竜騎士フェリペから、憐れむような視線が飛んでくるのが、よけい腹立たしい。
……でも、とにかく巻き終えたぞ!
ていうか、巻き終わったあとで今さらですけど――。
雷神さんの力をこめた宝剣『ライキリー』があるんだから、電気を動力にすればよかったんじゃありません?
(…………………………あ)
(しまった! その手があったか!?)
神さま二人が見せた今、気づいたって反応にガックリくるオレ。
技術のためなら暴走する職人さんはともかく――まさか、しっかりもののヘルメスさんまで、こうなるとは思わなかった。
男のロマンで視野が狭くなってたのだろうか?
それとも母国の危機がかなりキツかったのだろうか?
どちらにしろ、完璧超人っぽかったヘルメスさんの意外な弱点だ。
――と、まあ、それともかく。
アレコレ準備を終え、鋼鉄の竜は産声をあげることになる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
(……さあ、立ちあがれ! 鋼鉄機龍!)
ブルルル、ブロロロォッ!
呼びかけに応じて、心臓部の水平対向ボクサーぜんまいがうなりを上げ――オレを乗せた鋼鉄機龍はその身を起こす。
「「「お……おぉーーっ!」」」
竜騎士にシメオンさん、アリアちゃん――みなの驚く声をバックに鋼鉄機龍はゆっくり歩きだした。
静かでなめらか――金属製とは思えないほど生き物らしい挙動だ。
そして威風堂々スタート地点にたどりつく鋼鉄機龍。
「く……見かけだおしじゃなきゃいいんだがな」
あまりにカッコいいその姿がそうとうくやしかったのだろう。
負けず嫌いっぽい竜騎士フェリペが、負けじと負け惜しみっぽいセリフをかけてくるが――、
……ふっふっふ。新装備に対する、その発言こそ負けフラグ。
そんな内心の想いを聖人スマイルに隠し、オレはやわらかく言った。
「――ええ。お手柔らかにお願いしますよ」
かくして――。
『峠バトル』という舞台設定に、オレの脳内BGMにユーロビートがガンガン鳴り響く中――、
横一線にならんだオレの鋼鉄機龍と竜騎士フェリペの愛竜ハーティロック。
二頭の竜と乗り手の最速を賭けた峠バトルが――今、始まろうとしていた!




