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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第六章
76/110

竜騎士の試練

 馬車の前後左右を包囲され、竜騎士に強引に連行されるオレたち。

 山と森の中を行くことしばらくして、たどりついたのは――けっこう高い山の山頂。

 恐怖と疲労で馬がひぃひぃ言ってるが、たしかに揺れる山道はけっこうツラかった。一歩でもふみ外したら命が無さそうなけわしく細い道はマジでガクブルものだったし。



 でも――そんな苦労も報われるくらいの景色が、そこには広がってた。



「ほう!」 

「ふぁあ!」

「おお!」



 山頂から見下ろした先――薄緑のゴーディア平原が開けていた。その先にはオレたちが渡ってきた大河、さらにコルクの里のある深い森、そして城壁に囲まれたモーラが模型みたいに小さく見える。

 とんでもなく美麗なパノラマ――オレたちの口からは感嘆の声しか出ない。

 そんなリアクションに気分をよくしたのか、竜騎士フェリペは胸を張る。


「どうよ? これが有名なアクィーナ山の『四国展望(カトルビュー)』だ。晴れた日にはもっと先の国も見えるからな――なかなかのもんだろ?」


 ……おお。たしかに自慢するだけのことはありますな。

 ただし『絶景かな絶景かな』って感じの名所にも問題が一つ。 

 

 足もとをちら見すると、そこには断崖絶壁があるってこと。

 はるか真下をのぞきこむと吸いこまれそうになって、下腹部と内臓がひやっとする。


 ――で、いったい、こんなとこでなにをするんです?


 内心でビビりつつ、たずねたオレに、竜騎士フェリペはふんと鼻を鳴らしていう。



「もちろん竜で峠を攻めるのさ。この峠を騎竜で駆け下るのが、竜騎士(おれら)に伝わる試練でな」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「このアクィーナ最速のおれが相棒の竜ハーティロックと先駆けする。お前はそこの竜・シルフェイティに乗れ。おれたちの背中についてくるはずだ。ふもとまで無事にたどりつけたら、合格ってことにしといてやろう。ザンジ、そいつに(シルフィ)を貸してやってくれ」


 と、どんどん話をすすめてく竜騎士フェリペ。

 アクィーナ山にハーティロック? なんだかどこかで聞いたような響きだな――。

 ……って、イヤ! ツッコむべきはそこじゃなかった!



 ――ヒエッ! この崖を駆け下る!? ちょ、アブなすぎでしょ!


 そりゃ、ここまで登ってきた細い山道はありますけど……かなり急だし、振り落とされたら一巻の終わりなガケが仲良くならんでるわけで。

 そんなとこを竜で駆け下るなんて、とても正気とは思えないんですが……。


「な~に。ここらには野生の山羊(ヤギ)もいて崖で暮らしてる。『山羊も四足、竜も四足――なら駆け下れないわけがねえ!』って、オレの先輩竜騎士が昔、言ってたぜ?」


 いやいや! ダメでしょ! どう考えてもダメですって!

 源平合戦の悲運の名将みたいなセリフでごまかしても危険なものは危険です!


「……ん? まあ、たしかにその先輩、中腹のきついカーブを曲がりきれず、愛竜といっしょに風になっちまったけどな。あれはめずらしい事故だった。たいがい竜のほうは生き残るんだが……」 


 ――と、遠い目をしてるフェリペさんに、オレは気が遠くなる。


 ほら! やっぱ不運(ハードラック)(ダンス)っちまってるじゃないですか!

 だいたい竜が無事でも乗り手が死んだら意味ないでしょうに!


 なんて当然の抗議をしたオレに――竜騎士フェリペは、肩をすくめて答えた。

 

「――ま、アンタがどうしてもっていうなら、度胸試しはやめてもいいぜ。ただし、族長のとこに案内するって話はナシだ」


 ……う、うぅ。それはこまる。


「それに、ちょいとがっかりだな。竜をはじめて見てビビらなかったのは、たいしたもんだと思ってたが、やっぱり峠を攻める度胸はねえか?」


 ……いや。ビビらなかったのは軍神の加護のおかげなんですけどね。

 と、内心で言い返すオレ。


 一方、竜騎士フェリペはその間にも勝手に話を進めていて――、


「――だが、その後のナメた口はよくねえ。おれらをヘタレ呼ばわりしやがって! 度胸試しに付き合わねえなら、そいつをしっかりわびてもらうことになるぜ!」



 ――え? なんで同行してただけのオレがあやまることに!?

 主に竜騎士さんをバカにしたのはアリアちゃんとシメオンさんのような気がしますけど……。  


 つけられた理不尽な言いがかり。

 思わず当の張本人(シメオンさん)たちをちらっと見ると――さすがに二人とも青白い顔をしていた。



「……あきらめましょう。他にも話を聞いてもらう手はあるはずです」

「え、ええ。こんなのムリだわ」



 常識人シメオンさんはオレを止め、さすがのおてんばアリアちゃんもこの峠を竜で駆け下ると聞いて、腰が引けていた。


 しかし、オレは――、


 そんな二人の顔を見てるうち、気が変わってくる。

 アリアちゃんの無邪気な期待は裏切りたくないし、恩人(シメオンさん)をがっかりさせたくもない。

 それにベルガとの交渉には族長と会えたほうがいいわけだし、オラついてる竜騎士に理不尽にあやまらされるのもイヤだ。


 そしてなにより手ぶらでゴーディアに帰ったとき、あの腹黒(ウェルキン)公に『ほら無理だったでしょ』って得意そうな顔されるのが許せない。



 となると――。



 むっちゃ危険そうだけど――できないわけじゃないよな? 竜に乗っての『峠下り』。

 エアバッグがわりにできそうな防具『獅子の毛皮』だってあるんだし。


 ――なんだか、がぜんやる気になってきたオレ。


 ただ……う~ん。むこうのペースに乗せられたままってのは気に入らないな。

 ここはなにかもう一つ、状況をひっくり返すような手が欲しいんだが――オレのたりない頭じゃいくら考えても意味はない。


 ……うむ。それなら、また神さまたちに相談だ。

 オレは、ある意味もっとも信者らしい行動――つまり『神頼み』を発動することにした。

 

 もっとも――初対面の竜騎士さん相手だ。急に瞑想をはじめてあやしまれちゃこまる。

 オレは勝負を受けつつ、瞑想(かみへのれんらく)の許可を取ることにした。



「――わかりました。竜騎士のかたがた。わたしが度胸試しに付き合いましょう」

「……ほう。急にやる気になったな? 一度やるって言ったからには後戻りは聞かねえぜ?」

「ええ。ただ、その前に神に無事を祈祷させていただきたい」

「ふん……祈祷か。まあ早めにしろよ」


 オレの口実に微妙な苦笑いをする竜騎士フェリペ。


 よし。許可をとったとこで『神頼み』に行きますか。 

 ほんで、こういうときは――こまったときの万能型交渉神(ヘルメスさん)。 



 ――てことで、オレはさっそく商業と交渉の神の『神域』に飛ぶ。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「……あ、どうもヘルメスさん。お邪魔します」


 気の抜けたあいさつとともに高級事務所っぽい商業神の神域にたどりつく。

 そこでは、あいかわらずヘルメスさんがいそがしそうに事務仕事をこなしてた。


「おや、ようこそヨシトさん。ちょうど今休憩しようというところでした。お茶などいかがです?」

「――いえ。そうもいかない感じで……ちょっとピンチなんです。実はこういうわけで…………」


 ざっくり事情を説明すると――。

 作業中にもかかわらず、愛想よく受け入れてくれたヘルメスさんはいった。


「……ふむ。おそらく、それは竜騎士たちの『成人儀礼』のようなものでしょう。危険を冒して勇気を示すことが大人の条件というのは世界各地にある風習です――バンジージャンプも、元はどこぞの部族の成人儀礼だということですし」


 ……ほう。あの高いとこから、ヒモでびよーんって飛ぶアトラクションがですか?

 でも――今回の『峠下り』は競技とか遊びじゃなく、公開処刑っぽい感じなんですけどね。



「……ふむ。そういえばスキージャンプが処刑の方法だったという俗説もありましたね。ま、それはともかく――今回の件は利用できます。『峠最速』というのが竜騎士にとっての勇者の(ステータス)なら、その称号を得ることが交渉において役立ちますので」


 ――へ? どういうことでしょう?


「竜騎士たちの社会で一目置かれることができれば、精神的優位を得て発言に重みが増します――基本的に交渉とは精神的な優勢(マウント)の取り合いですからね」

  

 ……ふむ。なるほど。

 しかし峠バトルで一目おかれるようになるにはどうすればいいでしょうか?


 たずねたオレにヘルメスさんは、さらっととんでもないことを答えた。



「かんたんです。今回の度胸試し――峠バトルで、あなたがそのフェリペという男を打ち負かせばいい」



 ――え? オレがフェリペさんを負かす?! 

 ちょ、ムリですって! 竜どころか馬とかバイクに乗ったこともないオレが、どうやって!?


 ヘルメスさんのめずらしくしいムチャぶりに驚くオレ。 

 すると、交渉の神さまはにっこり笑っていった。



「もちろん。方法はありますよ。ただ……それにはヘパイストスの協力が必要ですけどね」



 ……む、なんで竜騎士との騎竜競争『峠バトル』に、ヘパイストスさんがからんでくるんだろう?



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「あの……ヘルメスさん。今回の件にヘパイストスさんがどうからんでくるんです?」

「――それはついてからのお楽しみですよ」


 てな会話をしつつ、オレとヘルメスさんはヘパイストスさんの神域――というより工房に向かう。

 ちなみにドワーフ的ずんぐりむっくり体型を作業服で包んだ工業神(ヘパイストス)さんは遮光マスク着用で溶接中のごようす。

 そこにはパチパチと火花を飛ばしながら、汗水たらして働くお父ちゃんの姿が……。 



 ……うん。こりゃギリシャ神話というより、下町鉄工所の風景ですな。


 と、そこでようやくオレたちに気づいたヘパイストスさんが声をかけてきた。



「――おう、めずらしいなヘルメス。それにヨシトくん。急にどうしたんだ?」



 作業を止め、油まみれの手を作業服でぬぐいながら工業神が問う。

 するとヘルメスさん、うれしそうな笑みを浮かべて、こう告げる。


「ヘパイストス、この前、話してた『例のアレ』――どうやらさっそく出番が来たようですよ!」

「ほう。というと――まさか『例のアレ』がか?!」

 

 ……ん? 『例のアレ』?

 オレが謎の会話に首をかしげると――。


「ああ。こんなこともあろうかと設計しておいたものがある。――いや、まさかこんなに早く使うことになろうとは……たしか、アレの設計図はここらへんに……」


 なんていかにも技術者っぽい感じのセリフで説明しつつ、こっちもうれしそうに設計図を取り出して見せてくる工業神さま。

 で、設計図(それ)をのぞきこんだオレは――、



 うお! マジですか……こ、こんなもの、できるんですか?!



 設計図に書かれてた『とあるモノ』にビックリさせられた。



「ええ。さいわい材料はあるようですし」

「……うむ。山奥ということで不安だったが、なんとかなりそうだ」



 一方、楽しそうに顔を見合わせて神さま二名は笑う。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 かくして――、 

 神さまたちと打ち合わせをすませたオレは神域からもどる。

 神域では時間の流れがゆっくりだから、瞑想開始から、それほどたっていなかった。 


「……お? ずいぶん早かったな?」

「覚悟は決まったのか?」

 

 と、おどすように言う竜騎士たち。

 だが、オレはそんな見え透いた挑発には乗らない。

 そこらへんは、なんとなく勝ち目が見えてきたよゆうがあるからね。



 ――そして、できるだけ落ちついた態度で竜騎士たちに告げる。

 


「ええ。度胸試しに挑戦することに異存はありません。しかし一つ問題があります。やはり他人の竜を借りるのはよくないと思うのですよ」


「……む。だが、お前は自分の竜を持ってないだろう?」

「さては……うまいことを言って、度胸試しから逃げるつもりか?!」

 

 オレの言葉に首をかしげ、疑う竜騎士たち。

 そんな彼らに、オレは一歩も引かず堂々と言う。



「いいえ。峠下りはやります――そして、その上でフェリペさんに勝たせてもらいます」



「な?!」

「フェリペ(にい)に勝つだって!?」

「てめえ、竜もなしにどうやって?!」



 挑発したオレに怒るより先に驚く竜騎士たち――そして予想通りの質問が飛んできた。

 狙い通りの会話ができたことに内心ニンマリしつつ、オレはさらっという。




「……はい。ですから――この場で竜を作り出したいと思います」




「「な?!」」

「竜を……!?」

「この場で……作るだと!?」



 ――さらに放ったオレの一言で、竜騎士たちは目を丸くする!



 




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