瑠花の水晶玉クリオス
宝石の言葉は、囁くように、薄い音だー。♪♪リィンリィン♪♪と耳元で鈴が転がるような、涼やかな音色のような感覚だ。だから、話す時は、呼吸を潜めながら、その鈴の音に集中するー。『瑠花?瑠花っ、今日は身体、大丈夫?』ー窓辺から明るい光が遮光カーテンの端から漏れているー。その中でクルクル、クルクルと、淡い光を発しながら水晶玉の通称 ゛クリオス〝 が声を掛ける。うぅ~んっ、と伸びをしてから、モゾモゾ身体を起こすと、ゆっくり脚をベッドから垂らす。ー頭は少し重いが、起き上がっても、今日は、目眩はない…。「おはようっ、…。うんっ、クリオ今日は落ち着いてるっ…?。」ークリオスは言いにくいので短縮名で呼んでいる。何時ものようにラジオをつけて本日の気候情報やニュースを歯磨きしながら、耳に通すー。あっと…この時間は…っとー。暫くすると、臼ぼやけた空間の部屋の中に、全く似つかわしくない、感高い音楽が流れた。無理矢理強く、元気を絞り出したような声で「♪はいっ!ラジオ体操の時間ですー。♪」ーブツン!!ー。うっさいわっ~!。誰彼構わず、元気になんか、ならんわっ!!。身体が弱い私には、目眩せず覚醒なんか珍しい位なんだよっ!。それがなくても、頭が重いのは普通ー…。そんな脳を切り裂くような、高く乾いた声は、私の1日の開始には、苛つく程に邪魔ー!。ーあぁ、でも、朝に聴いても嫌悪感のない、人の声も、あったな~ぁ…。私の亡くなった母の妹。叔母のバニラみたいな可愛い挨拶には私も悪態付かなかったな~…。ぼぅ~っとした頭でラジオを見つめていたら『瑠花、瑠花っ?…。これ、嫌い?ならクリオ壊してあげようか?。簡単な波長だから直ぐ破壊出来るよ!?。』いやっ、なんて?ー破、壊っ?。「駄目っ駄目駄目!。これは叔母さんがプレゼントしてくれた大事な物なんだからっ…。」『大事?』「うんっ、大事、これ大事!。」『じゃ、壊さないねっ!?。』「うん壊しちゃ駄目っ。絶対ねっ!?。」『わかった!。』ーふぇっーあっぶなぁ~…。ビックリして目が覚めた~…。どんだけの力あるのよっ?クリオー…。なんて、純粋な、小悪魔だよっ~…。この箱形小型ラジオはデジタル時計機能付きで、片手に乗る位のコンパクトサイズ。テレビが嫌いな私にと、一緒に暮らし始めた年の最初のBIRTHDAYプレゼントだったー。ラジオだけじゃなく、このクリオも叔母さんからのプレゼント。叔母の母、つまり私には祖母から叔母に贈られた御守りだったそうだ。叔母も又、虚弱体質で産まれたが、私より酷く、命の危機も何度かあったと話していたー。そんな面影は、ついぞなく、笑顔いっぱいで、やや、ぽっちゃり型も可愛く、私は、こっそりと、人間キティと心の中で呼んでいた。何時も、周り全てを笑顔で明るくする叔母は、ギスギスしい私の心の中にも、仄かな優しさを灯した人だったー。天国だか地獄かに行ったあの夫婦が、普通一般の感覚を持っていた人間だったなら、母とは、こういう者だろうかと、思った。朝起きたら、二人共に仕事で居ないのは当たり前。顔を見るのも一年に数える程。そんな寒々しい親子関係だったから、事故で亡くなった後も、その前も、大して変化はなかった。しかし生活環境が変わったのは、正直疲れたー。スラリとした街のど真ん中から、カエルの合唱やカラスの声が五月蝿い山々に囲まれる、絵に描いたような長閑な世界ー。えーっ!何、此処~…。思春期真っ最中だった私は、突然の生活景色の切り替わりに、目を重く伏せたー。部屋から一歩も出ず、小さく響く時計の音だけの世界の毎日だったー。食事は毎度ワゴンで部屋の前に届けられ、バスもトイレも部屋に付いており、ただ沈黙して過ごしたー。そんな折り、銀の御盆の上に、食事の皿と共に赤い小箱が置かれていたー。昔、自分の御守りだった水晶玉ペンダントだが、貴女の御守りにもなれば嬉しいと小さなメモが添えられていたー。クリオと出逢った瞬間だったー。




