1話「私=?」
「渚くん、計算問題だよ!」
私は今、目の前で眠たそうにしている渚に問題を出題している。
「私=何?」
「姉さん眠いから、パス」
「ふーん……」
私は渚に近づき耳元に息を吹きかける。
「ふー」
「なっ! なんだよ急に!」
渚はびっくりして顔が紅潮している。
大飴渚、私の親の再婚で出来た義理の弟にして私の彼氏……にする予定の男。
私の目的はこの弟を私の彼氏にしてある言葉をもう一度言ってもらう事だ。
そのために今、ダル絡みをしているが特に反応は無い……。
親が再婚して二年と半年、特に何の進展もないままこの休日を迎えてしまった……。
そう今日は私の誕生日の6月そして18歳になる。
つまり高校生最後の夏休みももうすぐなのだが、このまま何も起こらないと高校生として弟を彼氏にしてのデートは無理そうなので少し焦っている。
私達は昨日までは同い年だったが私の方が先に誕生日を迎える。
だからほんの少しの間だけ私が年上ということになっている。
つまりお姉ちゃんだ。
とても不本意なのだが……。
「お姉ちゃん今日、誕生日なんだよ? 主役だよ? ……少しくらい構ってよー」
「……おめでと姉さん……」
渚は恥ずかそうに顔を背けそう言う。
「なんですか、その恥ずかしそうな祝い方は?」
「別に!? まだ慣れてないんだ、未来と一緒に住んでることが……」
大飴未来、それが私の名前だ。
私的には可愛い名前だと思っているが、渚はどう思っているんだろうか?
「私の名前に対する感想を述べよ」
「さっきからなんなんだ……その教科書みたいなノリ」
「えぇ~これは私からキミへのテストなんだから教科書っぽくなるのは当たり前じゃん」
「何のテストだよ……」
「ふふん! 何のテストでしょうか?」
テスト……テストと言えば聞こえはいいが……。
ただもう一度あの言葉が聞きたい私の試し行動でしかないのだ。
「それにしても、誕生日なのに何にもやらなくていいの?」
「うん! だってお楽しみはちゃんとあるからね」
「お楽しみ……? まあ……ごめんな、誕生日なのに料理作ってもらって」
「別に大丈夫! それこそ私のお楽しみに繋がってるから!」
お楽しみ……そう今日は誕生日、なら私への誕生日プレゼントがなきゃね。
□ □ □
「はい、料理出来たよ! いっぱい食べてもいいし、少ししか食べなくてもいいけど絶対食べてね!」
「言われなくても作ってくれたんだから食べるよ」
料理を作り上げ、弟君に食べてもらう。ここまでは順調だ。
「どう? 美味しい?」
「うん、美味しいよ」
「……本当に?」
「本当だって……」
渚はあまり私の前では感情を出してくれないのでどこまで信じていいやら……。
そう考えると、さっきの耳フーは効果てきめんだったな。
まあ、今度のはもっと効果てきめんだけどね。
「そういえば、今日は別々におかず盛ってるんだな」
「……うん! 今日は気分転換的な……ね?」
「なんで疑問形……?」
「まぁ、いいから気にしないで食べちゃって!」
そうして渚と私がご飯を食べ終わり、弟君が、ソファに座る。
「ふぁーー……うーん……」
「どうしたの?」
「なんだか……急に眠気が……」
「じゃあ少し横になる?」
「……うん、洗い物は後でやって……おく……から……」
「別に私がやるからいいよ……? ……って効果が出たんだね……」
渚はソファで横になり寝てしまった。
「さてと……眠らせたけど……ベッドまで運べないしソファでいいか!」
そうして私は用意していた拘束具を部屋から持ち出す。
□ □ □
――最初に感じたのは手首と足首のひんやりとした感覚だった。
「……?」
目を開け体を起こす、否、起こせない。
体を起こそうとすると手首と足首が持ち上がらないことに気づき視線を向ける。
「なんだ……これ……」
目に入ってきたのは拘束具で拘束された自分の手足だった。
――その時階段から誰かが降りてくる。
「あ、起きたんだ、おはよー」
「姉さん……これは何かの冗談か?」
「何言ってんの、冗談じゃないよ、私への誕生日プレゼントだよ」
誕生日プレゼント……?
「……どういう意味だ姉さん?」
「もー! 分からない? 今からキミは、私の誕生日プレゼント、つまり私の所有物になるんだよ?」
「なに……言って……?」
「じゃあ始めよっか? お勉強をね?」
俺は一体これからどうなるのか気が気でなかった……。
□ □ □
「はーい……問題でーす……」
――自分の髪をかきあげ、耳元まで近づき、そう囁く。
「なッ! なんでこんな状況で……問題なんか出せるんだ……! 早く拘束を解けッ!」
「私=?」
「だから……なんなんだよ! 意味分からんって!」
「ふー」
「!?!?」
「早く答えないと、耳フーの刑だよ……?」
少し意地悪に、だけど甘やかすように耳元で囁き、答えを待つ。
「……姉?」
「はい、れーてん、ふー♡ ふー♡ ふー♡」
「きゃん!」
渚が可愛い声を上げ、少しだけ、びっくりしてしまう。
「そんな可愛い声だすんだね……?」
「うるさいッ! 拘束を解け!」
涙目になり顔を真っ赤にさせてジタバタ暴れ始める渚。
……問題も間違えたしこれは、罰を与えないとね?
「不正解だった罰として、今から私の言うことを全て受け入れてね?」
そうして私は彼をものにするために罰という名の、首輪をつける。
――。
「分かった? 渚くん?」
これが私が渚につける、首輪だ。
勿論こんな事受け入れられると思っていない。
そもそもこんな事をしても私の求める言葉とキミは手にはいらないのも分かっている。
ならなぜ私はこんな状況を作り出したのだろう……?
――焦り、焦りが、2年半たっても何も進展がない現状、彼と姉弟になってしまった絶望……。
そして、彼への抑え込んでいた愛が暴走した結果だろう……。
唐突に今自分がしている事に底知れない恐ろしさを感じ、自己嫌悪に陥る……。
彼に嫌われてしまっただろうか……?
今の関係が壊れるのはともかく私の求める関係にもうなれないのではないか?
いかに自分が愚かな事をしたのか、今更、何を……と感じるかもしれないが、私の求める関係になれず、離れ離れになるくらいなら姉弟の関係のままの方がマシだ、と思ってしまうが、もう引き返せない。
そんな事を考えている私の事を置き去りにしてキミと時間は進み、審判は下される。
「……分かった、だから拘束を解いてくれ」
「……え?」
困惑した……いや、自分で言い出したのだが、そんな簡単に了承されると頭が真っ白になる。
「……どうしたんだよ? 早く解いてくれ」
「自分で言うのもなんだけど……なんで?」
「なんでって言われても、姉さんを信じてるから、変な事しないって、問題ないと思ったからだけど……いや、今変な事してるけどね」
信じてる……? こんな事をした私を?
分からない、分からないけど……ここしか関係修復のチャンスはない。
「あははー、そうだよねごめんねー、私ヘンナコトシナイヨ……ウン」
「なんで……カタコト? ってか早く! 拘束!」
「あ、うん……今解くね」
急いで拘束を解きながらどう言い訳するか考える……。
まあ、何にせよ謝るか。
「よし、これで解いたよ……」
「……はぁー、なんでこんな事した?」
「冗談! 冗談だよ! 誕生日サプライズ的な……」
「サプライズって……姉さんの誕生日なんだからサプライズするなら俺からだし全然サプライズじゃないし……」
結局、誤魔化してしまった……。
自己嫌悪に陥りながらも気持ちを切り替える。
「あの、さ……」
「なんだよ?」
「ごめん!!!」
「……謝るくらいなら最初からやるなよな……まぁ怒ってないし、それに……」
「それに……?」
「何でもない! じゃあ洗い物して風呂入って寝るから!」
「うん……あっ! 待って!」
「何?」
「その……ラインは見極めるから、さっきの罰……受け入れてくれる?」
「……お前がそれで満足して今回みたく暴走しないなら……そして期限付きだ」
「……ありがとう! 大好き! 渚くん!」
「……」
渚は恥ずかしいのかまたもや顔を伏せる。
「あれー照れてるのー?」
「別に照れてねぇ! 先に風呂入って寝てろ!」
「はーい」
こうして私の誕生日は紆余曲折ありながらも何とか平穏に終わった。
……今日はごめんね、渚。




